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剣と魔法の隙間産業的勇者生活  作者: 田丸環
第3章 初依頼とその顛末
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第19話 勇者のための店売り品

「この店のマスターは腕がいいって、ボク達の間では評判なんだよ」

 そう口にしたブリジットが、ソーマに先んじて扉をくぐる。

「マスター。お客さん連れてきたよ」

「……らっしゃい」

 椅子に座っていても、巨漢だとわかる男が無愛想に応じた。髭を生やしてることもあって、背丈を無視すれば、ドワーフにも見える。

『鍛冶師ビルドの店』という店名から察するに、彼がビルドなのだろう。

 壁には、彼の作品と思われる武器が所狭しと並んでる。ほぼ、鋼鉄製の刀剣類だ。

 凝った装飾や奇抜な形状は無く、多種多様とも言えず、刀身の長さや厚みを変えたバージョン違いが多い。実用性を重視し、使い手の要望に添うのがポリシーなのだろう。


 鑑定眼のないソーマが、見ただけで武器の善し悪しが分かるはずもなく、剣を取り上げて刀身に手を添えた。

性能走査スキャン

 全体に触れる事で、道具の性能を読みとる魔法だった。

 人間相手でも可能と言われているが、全身を撫で回すのが前提となるため、実質的には不可能と言える。モンスターについても同様だ。

「……驚いたな。今でも土神の洗礼を許される人間がいたのか」

 ドワーフは人間よりも古い種族で、製鉄技術をもたらしたのも彼等だと言われている。その後、勢力を拡大させた人間は増長し、互いの交流も薄れていった。

 現代の鍛冶は、ドワーフ達の技の再現を試みた成果なのだ。

「それも、ドワーフの魔法なんだ?」

 感心する二人に、ソーマは一言だけ添えておいた。

「詳しい事は黙秘するけど、俺が使える地属性魔法の一つだな」


『トラフロ』における武器の評価は、攻撃力、重量、耐久度、発展性、恩恵で行われる。

 ソーマが手に取った片手剣は、前の3項目こそ平凡だが、発展性の数値が高い。

 ゲーム的な表現をするなら、発展性とは『加工の余地』を示し、これを消費して他の性能値を上昇させる。教会の儀式で属性剣にする場合も、この発展性が必要になるのだ。

 恩恵というのは、持ち主の能力上昇や、敵への状態異常や、発生する特殊効果で、これらは強力な反面、付与の成功確率がきわめて低い。

「質は良さそうだ」

「そいつは、ありがとよ」

 ソーマの本音を明かすなら、品質に比べて割高と考えていた。

 しかし、『トラフロ』ほど高性能武器が出回っていないこの世界で、相対的に高く感じるのは仕方のないことだろう。

 これまでに回った店の品揃えでは落胆することが多く、ビルドの製品は一番マシ・・と言えた。


「ちょっと、見て欲しい物がある」

 ポーチから長剣を抜き出したソーマを見て、マスターが驚きの表情を見せる。

 もともと、マジックポーチは直径30cmの球をいれたら一杯になるようなサイズだ。腰で頼りなく揺れていると、他人の目には空っぽとしか映らない。

「その袋……いや、それより先にその剣を見せろ」

 ぶんどるように受け取って、様々な角度から刀身を眺めた。

「ソーマは両手剣も使ってるんだね」

「ブリジットの前で見せたてなかったか? 俺は二刀流だけでなく両手剣も使うよ。あと、短剣も」

「こいつはまさか……、ミスリルなのか? どこでこれを?」

「ちょっとした偶然で手に入った」

「そんな偶然があるか。王都なら金貨10枚でも売れるだろうよ」

「意外に高いな」

 金属としては意外な軽量だが、最大の売りは、重さに反比例する耐久度の高さだ。しかし、それだけが売りで、恩恵も存在しないため、『トラフロ』で値段交渉すると金貨2枚がいいところだ。


「ミスリルそのものが、人間社会じゃほとんど出回らんしな」

「ミスリルがあれば作れるか?」

「やってみたいとは思うが、確約はできん。本職のドワーフでなければ難しいだろう」

『トラフロ』で武器製造を望むプレイヤーは、ドワーフか地属性の取得が条件となる。さすがの魔法剣士も、製造に関するスキルは入手不可の仕様だった。

「手入れも難しいのか?」

 武器の耐久度を回復させるのも、鍛冶師のスキル頼りなのだ。

「……悔しいが断る。下手な扱いをして、劣化させてしまっては、鍛冶屋の恥だからな」

「そうか……」

 ソーマは強力な武器を所有しているが、『この世界』での再入手は不可能だろう。そのため、メンテナンスを任せられる人間を捜していたのに、こちらも諦めるほかなさそうだ。

 ソーマは考えを改める。

 いざと言う時に備えて武器を温存するには、メンテナンスのし易い武器を『この世界』で新調するべきだ。


「ちょっと、見せてもらってもらうよ」

 目についた諸刃の両手剣を手に取って、ソーマが素振りを行った。

 重いのは我慢するとしても、振った感触が違いすぎた。

 首をひねるソーマに、ビルドが助言する。

「その右の、二つ下の剣を使ってみな。少し短いが、重心のバランスは似てるはずだ」

 ビルドの言葉に従い、異なる両手剣を握ったソーマが、一振り、二振り。

「さすが。これを買うよ」

 両手剣をカウンターに置いたソーマは、ついでに『比翼の剣』もビルドに差し出した。

「これの替わりに使うなら、どれがいい?」

「こいつの素材は骨か? 見慣れない材料だが」

「ソードバードというモンスターの骨を削って、骨の隙間にミスリルの芯を入れてるらしい」

「なるほどな。この骨が手に入ったら、俺にやらせてみてくれないか?」

「うまく手に入ればね」

 応じたソーマが、いい機会だと話を振ってみる。


「アイテム素材を持ってきたら、製造費を割引きしてもらえるか?」

「物によるな」

「ストーンゴーレムの魔石なんかは?」

「材料費が浮けば、値引きはする。まあ、魔石を扱う以上、それに見合った質がなけりゃあ無駄になる。対象は高い装備に限定しなきゃならん」

「商人ギルドとか、職人ギルドを介入させないことで、いろいろと安く済ませたいんだ」

「……もしかして、魔石の買い手を捜してた、魔法剣士のソーマってのはお前さんか?」

「そうだよ」

「正直言って、俺はギルドとの仲が良くない。それでも、必要なアイテムが揃わねぇから、うまくつきあって行かなきゃならん。機嫌を損ねるのは避けたいんだがな」

「客側で全て調達しても難しいか? 物々交換ならそっちの手間賃だけで済むと思うんだ」

「無理……ではないだろう」

「一応、考えておいてくれ」

「マスターの武器は玄人向けだしね。優れた武器が増えれば、もっと街の外からお客が来ると思うよ。ボクも宣伝するし」

 とブリジットも口を挟む。

「それは持ち込まれた素材次第だ。……まあ、頑張んな」


 立ち上がったビルドが、壁にかかっていた一振りの片手剣をソーマに渡す。

「こいつを振ってみな」

 先ほど同様、使い心地を確かめたソーマが問いかける。

「同じ剣がもう1本あるか?」

「今から予備も……いや、二刀流だったな。悪いが、新しく作るには5日はかかる」

 そう告げたところで、ビルドが眉をひそめた。

「どうせ製造するなら、両方とも注文する気はないか?」

「なんでだ?」

「お前の剣は、左右の握りが変えてある。右手用、左手用と、使用する手は限定されるが、その方が扱いやすいのは確かだからな。なにより、お前はこれで慣れているんだろう?」


「マスターが望ましいと考えて、出来ると思うなら、ぜひやってくれ。俺からの要望としては、耐久度だけを上げられるだけ上げて欲しい。両手剣もそうだけど、発展性は残さなくていい」

「このままの強度じゃ不安か?」

「攻撃力については、自分の腕でカバーできると思ってる。だから、長く保たせられるようにしてくれ。いざとなれば、手持ちの剣を使うけど、替えが効かないから温存するつもりなんだ」

「まあ、悔しいが、その剣と比べられちまうとな……」

 鍛冶師らしい不満もあるだろうが、ソーマの主張は彼にも理解できた。

「加工費込みで、両手剣は銀貨43枚。片手剣が2本で銀貨70枚。言っとくが、値引きしてこの値段だからな」

「その値段で不満はないよ。ついでに、投げナイフも見ておきたい。あそこに並んでる奴だろ?」

「愛用品があるなら、そいつも出してみな」

「これはもう使い切ってて、手持ちがまったくないんだ」

「なら、適当に見繕ってみろ。店の奥に的があるんで、試してみるといい」


 言われたソーマは、目についたスローイングナイフを数種類拾い上げる。片刃のナイフ。刃幅が広いタイプ。柄に革が巻いてある物。持ち手の地金が剥き出しになっている品。

 彼が投擲用のナイフに求めるのは、見た目や頑丈さである。

 剣ならば体術抜きでの使用もあり得たが、投げナイフはスキルの使用が大前提だ。少なくとも、『トラフロ』において、スキル未使用で投げる技術を磨くプレイヤーなんて存在しなかった。


 ビルドに案内されたのは、彼の作業場だった。

 壁には作りつけの道具棚が並んでおり、その手前が縦長の空きスペースになっている。

 15mほど離れた突き当たりの壁には、何重にも丸印の描かれた的が掛かっていた。これまでにも使用されている証として、いくつものナイフ痕が残っている。

武器投擲スリング

 的の中心にナイフが突き立った。

 一般的に魔法の射程はそれほど長くはない。遠距離用に特別な調整を行った場合や、単純に広範囲を目的とした上級魔法は、特殊な事例だ。

 個人戦闘で限定すれば、1番が弓で、2番が投擲武器、3番目が魔法となる。

武器投擲スリング武器投擲スリング武器投擲スリング

 刺さったナイフに隣接させて、何本もナイフが投げ込まれていく。

「ほんと、多芸だよね」

 感心するブリジットに、ソーマは軽く応じた。

「体術のおかげだけどな」

 視界に捉えた一点へ、一直線で飛ばすスキル。全力を込めても外れないが、追尾まではしないので、かわされたらそれで終わりだ。

「これを買ってくよ」

 柄に握りのついていない、金属から削りだしたようなナイフを選んだ。

 1本の投げナイフが銀貨8枚。店に残っていた7本全部をソーマが購入した。


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