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剣と魔法の隙間産業的勇者生活  作者: 田丸環
第2章 仕事探し、仕事始め
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第16話 火属性の面々

「俺の方が強いってわかっただろ」

「そいつは違うんじゃねぇ?」

 ソーマの言葉に、異議申し立てがあった。

「ボンバスさんに勝てたのは認めるよ。だけど、俺たち3人より強いって証明しないと、ゴーレムに関する疑いは晴れないよな?」

 長身の青年・ロッシュの言葉を、ソーマは内心では歓迎していた。

 相手が敵意を見せているのなら、戦いになっても正当性を訴えやすい。残る二人が態度を改めないのに、ソーマ側から譲歩する理由は無いのだ。

「続けたいって言うなら、俺も受けるよ。3人程度ならなんとかなる。あんた達が相手ならなおさらだ」

「なんですって!? どこまで思い上がるつもりかしら!?」

 挑発にあっさり乗るのは女性騎士のオードリーだ。


 武器を身構えた二人を見て、ソーマも臨戦態勢に入る。

中級メガ氷結魔法フリーズ中級メガ氷結魔法フリーズ

 装備する2刀へどちらも同じ魔法をかける。

「なにっ!? 水属性? あのときは、光属性だったはず」

「今のは何なの!? 剣に魔法を付与するなんてありえない……」

 それぞれに驚きを示すロッシュとオードリーに、ボンバスが声をかける。

「私も参加しよう。水属性相手に二人では厳しいだろうからな」

 大剣を失ったボンバスでは戦力として心許ないが、さすがの二人も指摘は避けた。

 どちらも装備しているのは火属性武器で、ロッシュが戦斧。オードリーが細剣だ。

 ソーマは片手だけで、ボンバスの大剣と互角にやり合ったのだから、二人が警戒するのは当然だ。水属性まで付与されてはなおさらである。


「正直言って、勝ち目があると思われてるのにびっくりなんだけど」

「あんまり、舐めないでもらいたいね」

 うなりを上げて振り回される戦斧が、ソーマの至近距離を走り抜ける。得物の長さと持ち主の腕の長さが、意外な間合いを生み出していた。

「なるほど。多少は、気をつけるよ」

 細剣と戦斧を、剣で受け流すようにして応戦するソーマ。

 属性の優位が働き、軽い力でも対処が可能となっていた。

「そらそら。全力でいくぞ」

 柄の中心を握って、ロッシュが戦斧を振り回す。

 その合間に、オードリーは半身となって細剣を突き出してくる。

 かわし、受け止め、飛び込むタイミングを計るソーマ。

 そこへ……。

火炎魔法ファイア

 横合いのボンバスが、視界をふさぐ位置に魔法を発動させた。

 反射的に身を竦ませたソーマの頭部へ、うなりを上げたバトルアックスが命中する。

 さらに細剣の切っ先が襲い、ソーマはまともに後ろへ退いてしまう。


 突き出されたバトルアックスを、受け止めるライトソード。

 その時、巨大な刃が繊細な動きを見せ、ソーマの右手からライトソードが失われていた。

「……なっ!?」

 驚きを見せたのは、珍しくソーマの方だ。

 剣道で言う巻き技に似ていた。剣よりも複雑な形状をしている点を活かし、戦斧が片手剣を引っかけたのだ。

 体術と呼ばれるスキルは、熟練度が増すと『天啓』という形で習得する。ソーマ本人にその経験はないが、『この世界』に生まれた者はそのような形で成長していく。

 しかし、今のは体術ではない。

 ロッシュは磨き上げた自らの技量で、ソーマの剣を奪い取って見せたのだ。

 宙を飛んだライトソードが、くるくると回転して石畳に落ちた。

全開フル三段連撃トリプル

 武器を失った右側から、オードリーの細剣が突き込まれ、受け損ねた2発が身体に食い込んだ。

 次の武器を取り出す余裕もなく、利き手ではない左のレフトソードで応戦する。

 ロッシュが腕を畳み、戦斧を抱え込んだ。

全開フル強振殴打スイング

 その場で一回転しながら、腕を伸ばして戦斧を振り回す。長柄武器の専用スキルだ。

 遠心力ののった刃が、ソーマの剣をくぐって左脇腹に激突する。

 斬るというより、殴りつけるような一撃だった。


 一度ふらついたソーマは、二人への警戒など忘れて、一直線にライトソードへ走る。これが功を奏し、追撃を受けるよりも早く、右手の剣を取り戻した。

飛燕連撃スワロー

 追ってきたオードリーの細剣を、ライトソードで払った直後に斬りつける。

 ソーマの優先目標は、その次に迫るロッシュの方だった。

 やられた分を、やり返そうと逸るソーマ。

 出鼻をくじくように、再びボンバスが炎を放った。

 先ほどの経験で、ボンバスの魔法が弱いのはわかっており、構わずにソーマは踏み込んで行く。

 両腕を交差させたソーマの構えを見て、ロッシュはとっさに戦斧を突き出し、身体ごと押し込んできた。

孤狼双牙ファング

 間合いが崩されたことで、十分な剣速に達しなかった双剣は、戦斧の柄を滑って流れてしまう。

 武器破壊だけを目的としたこの技は、攻撃力そのものが低く、タイミングが狂えば不発もありうるのだ。


 刃とは反対の石突きで腰を殴られ、ソーマが一歩退いた。

 双剣を右肩に担ぎ上げ、異なる二刀流スキルを発動させる。

全開フル十文字斬クロイツ

 戦斧を払いのけたレフトソードが腹部を横断し、ロッシュの全身を断ち割るようにライトソードが縦断する。

 直角に交わる二つの軌跡が、巨大な十字架を描き出した。

 多量に生じた血の霧が、負ったダメージの深刻さを物語っている。

「嘘だろ……?」

 斬られた当人は、苦痛よりも、怒りよりも、驚きが大きい。

 苦手な水属性というだけでは納得できない。

 この一撃で、ロッシュは残っていた体力をごっそりと失った。同じ攻撃をもう一度食らえば、あっさりと仮死状態に達してしまうだろう。

 駆け寄ったボンバスが聖火回復でロッシュの治療を行う。


 驚愕しているオードリーの喉元に、ソーマのレフトソードが突きつけられる。

「女だから手加減してもいいけど、どっちがいい?」

「だ、誰が、貴方なんかに負けを……」

 トン!

 腕の力だけで軽く突いた。

「えぐっ! ぉえ……」

 うずくまったオードリーが、地面に這いつくばってえづいている。

 女が相手でも、当人が望むのならば、ソーマは手加減などする気がなかった。


「さすがに勝負はついてると思うよ」

 知人の声が、戦いの仲裁に入ってくる。

「……あ、貴女にはっ、関係ないでしょう! 口を挟まないで!」

 噛みつくオードリーに、ブリジットは不満そうに応じた。

「そうもいかないよ。友人が濡れ衣で糾弾されているんだからね」

「光属性の貴女は黙ってなさい! 如何に虚言を弄して欺こうとも、私たちは決して許しません」

「なるほど、光属性……ね」

 左手で腰のサンダーソードに触れたブリジットが、自分の顔の前に右手をかざす。

火炎魔法ファイア

 ボオッ、っと全員の前で、瞬間的に炎が燃え上がった。

「光属性の剣を持ってるけど、ボクはフレア様の洗礼を受けた火属性なんだよね。同じ火属性として言わせてもらうと、あんまりみっともない真似はしないでほしいな」

「そ、そんな……、そ、それなら、なぜ私達に口添えしないのですか! そんな男の肩を持つなど恥を知りなさい!」

「そうは言ってもね。ボクは彼が正しいと知ってるんだ。それに、どれだけ意地を張っても、君たちじゃ勝てっこないと思うよ」


 今の会話を聞いていて、ソーマはふと思いついた。

 ライトソードを左手に渡し、空となった右手を頭上に向ける。

中級メガ火炎魔法ファイア

 付与目的ではない発動魔法が、頭上の空間で燃え上がる。

 居合わせた一同が度肝を抜かれて、炎の消えた虚空を見つめていた。

「この通り、俺は火炎魔法も使えるんだ。火炎魔法の使い手同士、仲間内で話を進めようか。俺の方が強いって、認めてもらえるよな?」

「2属性などと、そんな!? フレア様への裏切りです! フレア様のお力を侮辱するような行為、貴方を火属性などとは絶対に認めません!」

「納得できないのは解ったけど、じゃあ、どうするつもりだ? 戦うのか、戦わないのか? どうしてもって言うなら、最後まで相手するけど?」

「……くっ」

 勝敗がついたことは、さすがの彼女も理解しているようだ。

 無謀な戦いを挑むのは堪えて、なんとか、言い返そうと頭を巡らせている。


 しかし、答えが出るより早く、ソーマがだめ押しをする。

「あんた達の言い分は、『俺にはストーンゴーレムを倒せるはずがない。だから、俺が持っている魔石は、自分たちの物』だよな?」

「ええ。その通りよ。ストーンゴーレムは近くにいたのに、これまで魔石は流通していなかったのだもの! 私たちが行った当日に入手できたという点で、疑惑の目が向けられるのは当然です!」

「そもそも、あんた達は前提条件から間違ってる」

 ソーマがマジックポーチから、魔石を取り出す。

「これが問題の魔石なわけだけど……」

「貴方、そんな高価な者を平気で持ち歩いているの?」

「……ひとつじゃないんだ。ちょっと持ってて」

 ブリジットに手渡した。

「二つ目。これで三つ目」

 次々と現れた魔石に、3騎士の目が見開かれる。

『……なっ!?』


 全て売り払うつもりはなかったので、張り紙には個数を明記しなかった。

 現場にいたブリジットは事情を知っていたが、売却方法はソーマに一任しており、所有分もソーマに預けたままだ。

「あんた達の介入があろうと無かろうと、俺は個人でストーンゴーレムを倒せるんだよ。1体も倒せなかったあんた達に、言いがかりを受ける覚えはない」

 オードリーの顔から血の気が引き、屈辱に唇を噛みしめる。

「それならどうして初めから言わないのですか! こんな、私たちを弄ぶような真似をっ……!」

「俺は騙したわけでもないし、誘導してもいないし、罠にはめてもいない。あんた達が身勝手な言いがかりを着けなければ、何も起きずに済んでたんだ。それを自覚しろよ」

 ソーマの認識では、売られたケンカを買った。それだけのことにすぎない。

 腹を立ていたせいで、対話による解決を放棄していたのは確かだが。


「…………」

 血走らせた目で睨まれて、さすがにバツが悪く、ソーマが視線を泳がせる。

「貴様の言い分はわかった。魔石は諦めるとしよう」

 ボンバスの言葉で、反射的にオードリーが口を開く。

「ですが……!」

「これ以上、争っても無意味だからな。貴様が強いことも理解した。だからと言って、聖火教会を侮るような真似はしないことだ」

 すでに身に付いた態度なのか、ボンバスの見下すような物言いは変わっていない。

「貴方も、貴女も、火属性として聖火教会の庇護を受けたいのなら、態度を改めることですね!」

 オードリーの、せめてもの捨てゼリフ。

 聖火回復を受けたロッシュも連れて、三人がちらちらとこちらを睨みつつ、立ち去っていった。


 剣呑な見せ物も終わり、いつものごとく大道芸人が場所取りを始めている。

「……君はずいぶんと面白い人間みたいだね」

 ゴーレム狩りで、偶然遭遇しただけのブリジットは、ソーマの持ついくつもの技能に強い関心を抱いた。

「地、水、火、……光もなのかな? それでいて、単純な剣技でも……いや、二刀流で圧倒してたね」

 探るようにソーマの顔を覗き込む。

「どう考えても普通じゃないよね。詳しい話をぜひ聞きたいな」

 魔法剣士という職は、剣でも魔法でも最強には届かない。

 そのため、ある程度で強化に見切りをつけたソーマは、低レベルで妥協しながら多種のスキルをそろえていた。

 器用貧乏を極めるような成長を辿った彼は、ブリジットが想像した以上に、まだまだ多彩な芸を備えている。

 しかし、それを彼女に説明するのは無理なのだ。

「俺自身にも説明できない。俺みたいな人間がいたら、どういう条件で得られたのか、俺からも尋ねてみたいところだ」


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