第16話 火属性の面々
「俺の方が強いってわかっただろ」
「そいつは違うんじゃねぇ?」
ソーマの言葉に、異議申し立てがあった。
「ボンバスさんに勝てたのは認めるよ。だけど、俺たち3人より強いって証明しないと、ゴーレムに関する疑いは晴れないよな?」
長身の青年・ロッシュの言葉を、ソーマは内心では歓迎していた。
相手が敵意を見せているのなら、戦いになっても正当性を訴えやすい。残る二人が態度を改めないのに、ソーマ側から譲歩する理由は無いのだ。
「続けたいって言うなら、俺も受けるよ。3人程度ならなんとかなる。あんた達が相手ならなおさらだ」
「なんですって!? どこまで思い上がるつもりかしら!?」
挑発にあっさり乗るのは女性騎士のオードリーだ。
武器を身構えた二人を見て、ソーマも臨戦態勢に入る。
「中級・氷結魔法。中級・氷結魔法」
装備する2刀へどちらも同じ魔法をかける。
「なにっ!? 水属性? あのときは、光属性だったはず」
「今のは何なの!? 剣に魔法を付与するなんてありえない……」
それぞれに驚きを示すロッシュとオードリーに、ボンバスが声をかける。
「私も参加しよう。水属性相手に二人では厳しいだろうからな」
大剣を失ったボンバスでは戦力として心許ないが、さすがの二人も指摘は避けた。
どちらも装備しているのは火属性武器で、ロッシュが戦斧。オードリーが細剣だ。
ソーマは片手だけで、ボンバスの大剣と互角にやり合ったのだから、二人が警戒するのは当然だ。水属性まで付与されてはなおさらである。
「正直言って、勝ち目があると思われてるのにびっくりなんだけど」
「あんまり、舐めないでもらいたいね」
うなりを上げて振り回される戦斧が、ソーマの至近距離を走り抜ける。得物の長さと持ち主の腕の長さが、意外な間合いを生み出していた。
「なるほど。多少は、気をつけるよ」
細剣と戦斧を、剣で受け流すようにして応戦するソーマ。
属性の優位が働き、軽い力でも対処が可能となっていた。
「そらそら。全力でいくぞ」
柄の中心を握って、ロッシュが戦斧を振り回す。
その合間に、オードリーは半身となって細剣を突き出してくる。
かわし、受け止め、飛び込むタイミングを計るソーマ。
そこへ……。
「火炎魔法」
横合いのボンバスが、視界をふさぐ位置に魔法を発動させた。
反射的に身を竦ませたソーマの頭部へ、うなりを上げたバトルアックスが命中する。
さらに細剣の切っ先が襲い、ソーマはまともに後ろへ退いてしまう。
突き出されたバトルアックスを、受け止めるライトソード。
その時、巨大な刃が繊細な動きを見せ、ソーマの右手からライトソードが失われていた。
「……なっ!?」
驚きを見せたのは、珍しくソーマの方だ。
剣道で言う巻き技に似ていた。剣よりも複雑な形状をしている点を活かし、戦斧が片手剣を引っかけたのだ。
体術と呼ばれるスキルは、熟練度が増すと『天啓』という形で習得する。ソーマ本人にその経験はないが、『この世界』に生まれた者はそのような形で成長していく。
しかし、今のは体術ではない。
ロッシュは磨き上げた自らの技量で、ソーマの剣を奪い取って見せたのだ。
宙を飛んだライトソードが、くるくると回転して石畳に落ちた。
「全開・三段連撃」
武器を失った右側から、オードリーの細剣が突き込まれ、受け損ねた2発が身体に食い込んだ。
次の武器を取り出す余裕もなく、利き手ではない左のレフトソードで応戦する。
ロッシュが腕を畳み、戦斧を抱え込んだ。
「全開・強振殴打」
その場で一回転しながら、腕を伸ばして戦斧を振り回す。長柄武器の専用スキルだ。
遠心力ののった刃が、ソーマの剣をくぐって左脇腹に激突する。
斬るというより、殴りつけるような一撃だった。
一度ふらついたソーマは、二人への警戒など忘れて、一直線にライトソードへ走る。これが功を奏し、追撃を受けるよりも早く、右手の剣を取り戻した。
「飛燕連撃」
追ってきたオードリーの細剣を、ライトソードで払った直後に斬りつける。
ソーマの優先目標は、その次に迫るロッシュの方だった。
やられた分を、やり返そうと逸るソーマ。
出鼻をくじくように、再びボンバスが炎を放った。
先ほどの経験で、ボンバスの魔法が弱いのはわかっており、構わずにソーマは踏み込んで行く。
両腕を交差させたソーマの構えを見て、ロッシュはとっさに戦斧を突き出し、身体ごと押し込んできた。
「孤狼双牙」
間合いが崩されたことで、十分な剣速に達しなかった双剣は、戦斧の柄を滑って流れてしまう。
武器破壊だけを目的としたこの技は、攻撃力そのものが低く、タイミングが狂えば不発もありうるのだ。
刃とは反対の石突きで腰を殴られ、ソーマが一歩退いた。
双剣を右肩に担ぎ上げ、異なる二刀流スキルを発動させる。
「全開・十文字斬」
戦斧を払いのけたレフトソードが腹部を横断し、ロッシュの全身を断ち割るようにライトソードが縦断する。
直角に交わる二つの軌跡が、巨大な十字架を描き出した。
多量に生じた血の霧が、負ったダメージの深刻さを物語っている。
「嘘だろ……?」
斬られた当人は、苦痛よりも、怒りよりも、驚きが大きい。
苦手な水属性というだけでは納得できない。
この一撃で、ロッシュは残っていた体力をごっそりと失った。同じ攻撃をもう一度食らえば、あっさりと仮死状態に達してしまうだろう。
駆け寄ったボンバスが聖火回復でロッシュの治療を行う。
驚愕しているオードリーの喉元に、ソーマのレフトソードが突きつけられる。
「女だから手加減してもいいけど、どっちがいい?」
「だ、誰が、貴方なんかに負けを……」
トン!
腕の力だけで軽く突いた。
「えぐっ! ぉえ……」
うずくまったオードリーが、地面に這いつくばってえづいている。
女が相手でも、当人が望むのならば、ソーマは手加減などする気がなかった。
「さすがに勝負はついてると思うよ」
知人の声が、戦いの仲裁に入ってくる。
「……あ、貴女にはっ、関係ないでしょう! 口を挟まないで!」
噛みつくオードリーに、ブリジットは不満そうに応じた。
「そうもいかないよ。友人が濡れ衣で糾弾されているんだからね」
「光属性の貴女は黙ってなさい! 如何に虚言を弄して欺こうとも、私たちは決して許しません」
「なるほど、光属性……ね」
左手で腰のサンダーソードに触れたブリジットが、自分の顔の前に右手をかざす。
「火炎魔法」
ボオッ、っと全員の前で、瞬間的に炎が燃え上がった。
「光属性の剣を持ってるけど、ボクはフレア様の洗礼を受けた火属性なんだよね。同じ火属性として言わせてもらうと、あんまりみっともない真似はしないでほしいな」
「そ、そんな……、そ、それなら、なぜ私達に口添えしないのですか! そんな男の肩を持つなど恥を知りなさい!」
「そうは言ってもね。ボクは彼が正しいと知ってるんだ。それに、どれだけ意地を張っても、君たちじゃ勝てっこないと思うよ」
今の会話を聞いていて、ソーマはふと思いついた。
ライトソードを左手に渡し、空となった右手を頭上に向ける。
「中級・火炎魔法」
付与目的ではない発動魔法が、頭上の空間で燃え上がる。
居合わせた一同が度肝を抜かれて、炎の消えた虚空を見つめていた。
「この通り、俺は火炎魔法も使えるんだ。火炎魔法の使い手同士、仲間内で話を進めようか。俺の方が強いって、認めてもらえるよな?」
「2属性などと、そんな!? フレア様への裏切りです! フレア様のお力を侮辱するような行為、貴方を火属性などとは絶対に認めません!」
「納得できないのは解ったけど、じゃあ、どうするつもりだ? 戦うのか、戦わないのか? どうしてもって言うなら、最後まで相手するけど?」
「……くっ」
勝敗がついたことは、さすがの彼女も理解しているようだ。
無謀な戦いを挑むのは堪えて、なんとか、言い返そうと頭を巡らせている。
しかし、答えが出るより早く、ソーマがだめ押しをする。
「あんた達の言い分は、『俺にはストーンゴーレムを倒せるはずがない。だから、俺が持っている魔石は、自分たちの物』だよな?」
「ええ。その通りよ。ストーンゴーレムは近くにいたのに、これまで魔石は流通していなかったのだもの! 私たちが行った当日に入手できたという点で、疑惑の目が向けられるのは当然です!」
「そもそも、あんた達は前提条件から間違ってる」
ソーマがマジックポーチから、魔石を取り出す。
「これが問題の魔石なわけだけど……」
「貴方、そんな高価な者を平気で持ち歩いているの?」
「……ひとつじゃないんだ。ちょっと持ってて」
ブリジットに手渡した。
「二つ目。これで三つ目」
次々と現れた魔石に、3騎士の目が見開かれる。
『……なっ!?』
全て売り払うつもりはなかったので、張り紙には個数を明記しなかった。
現場にいたブリジットは事情を知っていたが、売却方法はソーマに一任しており、所有分もソーマに預けたままだ。
「あんた達の介入があろうと無かろうと、俺は個人でストーンゴーレムを倒せるんだよ。1体も倒せなかったあんた達に、言いがかりを受ける覚えはない」
オードリーの顔から血の気が引き、屈辱に唇を噛みしめる。
「それならどうして初めから言わないのですか! こんな、私たちを弄ぶような真似をっ……!」
「俺は騙したわけでもないし、誘導してもいないし、罠にはめてもいない。あんた達が身勝手な言いがかりを着けなければ、何も起きずに済んでたんだ。それを自覚しろよ」
ソーマの認識では、売られたケンカを買った。それだけのことにすぎない。
腹を立ていたせいで、対話による解決を放棄していたのは確かだが。
「…………」
血走らせた目で睨まれて、さすがにバツが悪く、ソーマが視線を泳がせる。
「貴様の言い分はわかった。魔石は諦めるとしよう」
ボンバスの言葉で、反射的にオードリーが口を開く。
「ですが……!」
「これ以上、争っても無意味だからな。貴様が強いことも理解した。だからと言って、聖火教会を侮るような真似はしないことだ」
すでに身に付いた態度なのか、ボンバスの見下すような物言いは変わっていない。
「貴方も、貴女も、火属性として聖火教会の庇護を受けたいのなら、態度を改めることですね!」
オードリーの、せめてもの捨てゼリフ。
聖火回復を受けたロッシュも連れて、三人がちらちらとこちらを睨みつつ、立ち去っていった。
剣呑な見せ物も終わり、いつものごとく大道芸人が場所取りを始めている。
「……君はずいぶんと面白い人間みたいだね」
ゴーレム狩りで、偶然遭遇しただけのブリジットは、ソーマの持ついくつもの技能に強い関心を抱いた。
「地、水、火、……光もなのかな? それでいて、単純な剣技でも……いや、二刀流で圧倒してたね」
探るようにソーマの顔を覗き込む。
「どう考えても普通じゃないよね。詳しい話をぜひ聞きたいな」
魔法剣士という職は、剣でも魔法でも最強には届かない。
そのため、ある程度で強化に見切りをつけたソーマは、低レベルで妥協しながら多種のスキルをそろえていた。
器用貧乏を極めるような成長を辿った彼は、ブリジットが想像した以上に、まだまだ多彩な芸を備えている。
しかし、それを彼女に説明するのは無理なのだ。
「俺自身にも説明できない。俺みたいな人間がいたら、どういう条件で得られたのか、俺からも尋ねてみたいところだ」