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剣と魔法の隙間産業的勇者生活  作者: 田丸環
第2章 仕事探し、仕事始め
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第14話 魔石売り始めました

 事前に承諾を得ていた食堂へ、仕事探し以外の目的で、ソーマは告知を張り出した。

 対象の店は、食堂が5件、酒場が1件。

 文面は以下のようなものだ。

『魔法剣士ソーマより。ストーンゴーレムの魔石を入手。金貨5枚で売却予定だが、応相談。購入希望者は聖水教会までご連絡を』

 魔石は、アイテム合成の触媒に使われる。合成品が非常に高額商品なため、必然的に使用される魔石も高値なのだ。

 現状において、この魔石はこの街の市場に出回っておらず、思いっきりふっかけてみた。前述のとおり、王都では銀貨80枚程度の品であった。

 この値段設定のせいで、張り紙に応じた店から報酬の増額を希望され、売買成立報酬として銀貨1枚を支払う約束になってしまった。

 張り出した甲斐はあったようで、その日のうちに、さっそく一人の商人が訪れていた。



 ○



「ストーンゴーレムの魔石を所有しているというのは本当でしょうか?」

 ハンザと名乗った商人が尋ねてくる。

「もちろん」

「見せてもらえますか?」

「いいですよ。替わりに、そちらも財布を出してください」

「え?」

「所持金を明らかにしてほしいんです。買い取るつもりがあるなら、それなりのお金を持参していますよね?」

「……失礼ですが、こういう商談で、自分の手札を晒すような事は普通しませんよ。それを要求するのも、相手に失礼です」

「言ってる事はわかるつもりです。俺もこんな高額商品の売買は初めてなんで、常識的な手順や慣習を知らないんです」

 愛想笑いを浮かべつつも、ソーマは要求を撤回しなかった。

「だけど、冷やかしへの対応は減らしたいですし、初対面の相手に対する誠意を見せてもらいたいんです。日を改めてと言うなら応じますよ」

 持ち逃げを本気で心配しているわけではないが、警戒を見せることで自粛を促す効果はあると考えていた。


「所持金を明かすのは構いませんが……。今日は魔石の真贋を確かめるのが目的だったため、持ち合わせが少ないんです。銀貨30枚程度では、見せてもらえないのでしょうか?」

「この場で言い出した話ですし、今回はそれで十分です」

 ハンザが取り出した財布を開くと、銀貨31枚と、銅貨72枚が出てきた。

 商人の前でマジックポーチの使用を避けるため、ソーマは入室時に持ち込んだ箱を開いて、魔石を取り出して見せる。

「やはり、大きいものですね」

 直径15センチ程度。片手で軽く持ち歩ける程度の重さだ。

「普通はもっと小さいんですか?」

「ええ。ゴーレムの身体に見合ったサイズなんでしょう。それに、他のモンスターに比べると、魔力そのものが澄んでいるようです。……触ってもよろしいですか?」

「どうぞ」

 両手で大事そうに持ち上げたハンザは、あらゆる方向から眺め、光に透かしたりする。

「私が見た魔石の中では、上等の品だと思います」

「それは良かった」


「欲しいのは確かなんですが……、いくらなんでも金貨5枚は高すぎるのでは?」

「そうでしょうね。ですけど、場所によって相場は変るでしょう? すぐ近くにストーンゴーレムは存在するけど、これまで魔石が出回ってないということは、強すぎて採算が合わないからだと思います。難易度が上がる以上、金額も見合ったものになるのでは?」

「確かに、そういう一面もあるんですが……。街での需要が低いというのも事実なんです。魔石の用途はご存じでしょう?」

「違う属性を掛け合わせる、合成用の触媒ですよね」

「その通りです。王都ならば、優秀な鍛冶師も多く、頻繁に売買されているのですが、……それでもせいぜい金貨1枚程度です。この街で売るとなると、なかなか難しいと思いますよ」

「状況次第では王都へ売りに行こうと考えてます」

「……値引きについては、どの程度まで応じられるのでしょうか?」

「それは条件によりますね。ただ、ハンザさんが初めての客だったので、需要についてはまだ把握できていないんです。相場がもっと安いとわかればぐんと値段を下げる可能性もあるし、継続的な購入を望む相手と独占契約を結ぶかもしれません」


「後日、改めて交渉させてもらっていいでしょうか?」

「いいですよ」

「その……、誰かへ売却した場合には、私へも連絡を頂きたいのですが……」

「いいですよ」

「ありがとうございます」

「一つ教えてください。張り紙はどこの店で見ましたか?」

「え? たまたま食事した『のどかな山彦亭』ですが、なにか?」

「交渉が成立したら礼金を払うと約束してるんです。日が経つとお互い忘れるかもしれませんし、いまのうちに聞いておこうと思いまして」

 契約成立にまで至らなくても、どの店にどれだけの宣伝効果があるか。多少の目安にはなる。

「そういう取り決めなんですか……。面白いやり方ですね」

「順調にいけば、もっと多くの店と交渉するつもりです。まだ、効果は薄いと思いみたいですが」



 ○



 ソーマの所有している魔石は14個もあるため、最終的な値段はもっと下がるはずだ。

 秘密にしたまま売りつけては信用を失いそうなので、値段の目安がついたら自分の口から明かすつもりでいる。

 全ては、『魔法剣士ソーマ』の名に箔付けするためだ。

 ブリジットにも主旨は説明しており、彼女の分もソーマが交渉を一任されていた。魔石を持ち歩くのも宿に残すのも危険なため、現物はソーマが預かっている。

 もともとソーマの助力で手に入った品なので、ソーマなら持ち逃げされても諦めがつく。そんな風に彼女は冗談交じりに語っていた。

 訪れた人間の内訳は、商人4名、商人ギルド1名、鍛冶師ギルド1名、その他5名。

 交渉の流れは、どれも似たようなものだ。

 商人の一人は、値引きがうまくいかずに、偽物呼ばわりしてうるさかったので、教会の名を盾にとって追い出してしまった。

 その他に含まれたのは、どれも問題のある人物だった。

 男爵家の使いは、無理矢理値切ろうとするので、同上。

 薄汚れた服装で所持金も見せなかった男は、非常にうさんくさかったため早々に追い払った。

 そして、その他に含まれる、最後の3名について。



 ○



 客の訪問を告げられたソーマが呼ばれたのは、聖水教会の正門だった。これまでの事例と違い、応接室に呼ばれなかった事に抱いた疑問は、当人達を目にして解消された。

「やはりな」

 ソーマの顔を確認して、中年男が顔をしかめている。

 訪問客とは、荒野で遭遇した聖火騎士の3名だった。

「……何か用?」

「張り紙を見た。あの後で、ストーンゴーレムを倒したようだな」

「まあね。魔石が欲しいんなら交渉に応じるよ」

 彼らがゴーレム狙いで荒れ地へ向かった事はすでにわかっている。

「なんですって!? 意地汚いとわかっていたけど、よくもそんな厚かましいことが言えるわね!」

 女性が途端に柳眉を逆立てた。

「あんたももうちょっと立場を考えてよ。お金の交渉なんかより、謝るのが先なんじゃないの?」

 青年は、二人に比べると冷静そうだが、ソーマを非難する口調は変らない。

「話が見えないんだけど……」

「貴方が手に入れた魔石は、本来私達の物です! それを横からかすめ取ろうなんて、恥を知りなさい!」

 ヒステリックな金切り声が響く。


「……はあっ!?」

 思わずこちらも声が跳ね上がった。

「言いがかりも甚だしいだろ! あんた達が勝手に逃げ帰ったくせに、他人の上前を跳ねようとしてるのはそっちじゃないか! 恥知らずってのはそっちのことだ!」

 三人とゴーレムの戦いにソーマが乱入していれば、そんな見方も可能だろう。

 しかし、戦いを切り上げて立ち去った人間の主張としては、非常にたちの悪い言いがかりだった。

「語るに落ちたな。私たちがゴーレムと戦っていたことを、なぜ知ってるんだ?」

「それは……」

 ブリジットのことを話そうかと思ったが、これは彼女に迷惑がかかりそうだ。彼女は今もこの街に残って宿を取っているのだ。

「君一人でストーンゴーレムを倒せるとは到底思えん。君自身も客観的に判断すれば、理解できるはずだ。私たちは正当な報酬を求めてるに過ぎない」

「どこがだよ。高い魔石を手に入れ損ねて悔しいから、巻き上げに来たって正直に言えよ」

 ソーマがいつになく刺々しい口調で告げる。

「貴方は私達をゴロツキ呼ばわりするつもりですか! どこまで身の程知らずですの!」

 聖火騎士達は妥当性がある主張だと思っているのだろうが、少なくともソーマにとっては受け入れがたい話である。

「つまり、俺が弱いと決めつけてるわけだ。俺にはゴーレムなんか倒せるはずがないって。言っておくけど、俺はあんた達3人より強いよ」

 ソーマが指摘した事実を、3人は鼻で笑った。

「そう言い張るのなら、その力を示せばいい。その方がこちらとしても気が楽だ。弱い相手を嬲るような趣味ではないのでな」

 あくまでも、ソーマが弱いという前提で話を進めている。


 後で聞いた話なのだが、こんな事を言い出した原因は、彼らの置かれた状況にあった。

 何が発端なのか不明だが、3人は魔石の入手を思い立ち、出発前から吹聴していたらしい。その結果が、力及ばず、戦略的撤退の憂き目にあう。

 そこで終わっていればまだ自制できたのだろうが、ストーンゴーレムの魔石が売り出されたことで、彼らの面子が潰される形となった。

 なんとかして、自分たちの力を誇示しようと動いたのが、この状況であった。

「……ああ。そういうことか」

 ソーマは別の事に思い至る。彼らは、ソーマがサボテニアンと戦った状況から、光属性だと思いこんだままなのだ。

「どうかしたのか?」

「いいえ。なんでも」

 ならば、勘違いさせておこうと、ソーマは考えた。

 向こうから売ってきたケンカなのだから、全力で思い知らせてやればいい。

「どうしても納得できないって言うなら、実力を見せてやるよ」


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