総務課の仕事と心霊スポット部署という地獄
幽霊になって初出勤。
場所は相変わらず現世の市役所の隅っこである。
「じゃあ驚衣さん、今日は総務課の仕事説明からね。」
そう言って渡されたのは明らかに多すぎる紙の束だった。
「……これ全部ですか?」
「全部です。」
即答だった。
机も椅子も現世から借りパク。
誰にも許可は取っていない。
「総務課の仕事は大きく分けて三つ」
先輩幽霊が指を一本立てる。
「一つ目。幽霊関連書類の整理。
具体的には未練届や滞在申請、勝手にポルターガイスト起こした件の報告書。」
「勝手に……」
「だいたい『うっかり』です。」
――私と同じ感じか…
「二つ目。未練相談の一次対応」
別の指が立つ。
「『成仏したいけど怖い』とか『まだ帰りたい場所がある』などなど…」
「重くないですか?」
「もちろん重いものは専門部署に投げます。」
「軽いのは?」
「総務で受け止めます。」
その言い方が一番怖かった。
「三つ目。」
三本目の指が立つ。
「他部署へのヘルプと管理」
「…管理?」
「ちゃんと仕事してるか見に行くだけです。」
その“だけ”が一番信用ならない。
「特に重要なのが……」
先輩幽霊は声を潜めた。
「心霊スポット部署」
終わった。
ビビりな私が管理できるわけない。
「心霊スポットで脅かすのって仕事なんですか?」
その瞬間。
「仕事です!!」
先輩幽霊が息継ぎなしの早口モードに入った。
「観光需要はもちろん、生者の指名手配犯が居座らないようにするため、肝試しに来た人が危険区域に入らないよう誘導するため、未登録の幽霊が勝手に溜まってたら警察に通報して捕まえてもらうため、ついでに事故防止と治安維持も兼ねててですね!」
一気にまくし立てる。
「それだけじゃありません!」
まだあった。
「脅かすことで生まれる恐怖とか不安によって負の感情などが心霊スポットに溜まります!」
急に出てきたホワイトボードに謎の矢印を書く。
「それをいったん回収して!」
別の矢印。
「近くの幽霊用農場に流す!」
さらに矢印。
「するとあら不思議!食材が育つんです!!」
「……え?」
「つまり!」
ドン、とボードを叩く。
「治安維持!観光促進!事故防止!未登録幽霊の摘発!食料生産!
一石二鳥どころか一石五鳥くらいあるんです!ハァ、ハァ」
――息切れしてるしなんかすごいキメ顔だ…
「めちゃくちゃ合理的ですね。」
「でしょ?」
でしょ?じゃない。
「というわけで今日は」
先輩幽霊が資料を出す。
「心霊スポット部署の管理兼ヘルプね。」
「……はい?」
***
到着したのは有名な廃病院だった。
「む、無理無理無理無理……」
入口に立った瞬間足が震える。
「ここ、昼でも怖いですよね!?」
先輩幽霊がニコッと笑う。
「夜はもっといい感じです」
「なにが!?」
中に入ると床がきしむ音。
風で揺れるカーテン。
『ガタッ』
「……今、音しましたよね?」
「しましたね。」
「今の幽霊ですか!?」
「たぶんネズミです。」
「それはそれで嫌です!!」
心臓が忙しい。
幽霊に心臓ないけど。
「心霊スポット部署の皆さーん、出てきてくださーい」
先輩幽霊が声をかけると、
壁、天井、床――
あらゆる方向から幽霊が出てきた。
「うわあああああああ!!」
思わず悲鳴を上げて
私はその場にしゃがみ込んだ。
「ムリィ!お化け嫌だ!怖いですぅ!」
「あなたも同じお化けでしょうに…」
部署の幽霊たちはやたら元気だ。
「今日は管理だけ?」
「はい」
「脅かしていい?」
「ダメ」
「えーつまんねえ」
――子どもか。
「あのー…」
私は震えながら聞いた。
「ここで書類仕事するんですか?」
「しますよ?」
「ここで!?」
「手っ取り早いので現場対応です。
心スポ部署の皆さーん、未登録の幽霊とか来てないですか?」
「来てはないけどそこにいるで。」
すると奥から一人の幽霊が出てきた。
「すみません……未練届を……」
「心スポで未練…?」
「恥ずかしい話、肝試しに来て怖すぎて心臓止まりました。」
現地で即死。
「便利でしょ?現地受付」
――便利よりも恐怖が勝つ。
背後でガタンッと音がした。
「ひゃっ!?」
「あ、わりぃわりぃ」
心スポ部署の悪ふざけだった。
「心臓ないのに止まりそうです!!」
震える手で書類を書く。
「お名前…お願いします」
気づけば仕事はちゃんとしていた。
怖がりなのに。
泣きそうなのに。
先輩幽霊がぽつりと言う。
「総務課、やっぱり向いてるね」
私は心の中で叫んだ。
――向いてるのとやりたいのは別です!!
ご愛読ありがとうございます。
現実で起きる心霊現象はもしかしたら幽霊たちがシフト制でわざわざ働いているかもって思うと結構面白いですよね!
これから驚衣さんはどんなアクシデントに巻き込まれるのか…?




