理想と現実、幽霊OL爆誕
幽霊になって最初に連れて行かれた場所は役所だった。
「……役所」
思わず声に出してしまう。
「はい、役所です。」
案内役の幽霊女性はさも当然のように言った。
目の前にあるのは普通の市役所。
「え、あの…ここって生きてる人が使ってる普通の役所ですよね?」
「そうですよ?」
さらっと言われた。
「もっとおどろおどろしい場所にあるのかと…」
彼女は笑いながら答えた。
「役所配属なのに役所で働かないでどうするんですか」
――幽霊に正論で殴られるとは思わなかった…
玄関を通ると、スーツ姿の人たちが普通に歩いている。
番号札を取るおばあちゃん。
窓口で説明を受けている会社員。
――全員、生きてる。
「では案内しますね。」
「ちょ、ちょっと待ってください!私たちめちゃくちゃ場違いじゃないですか?」
「大丈夫です。生きてる人には見えてませんから。」
案内されたのはロビーの隅。
「こちらが待合スペースですね。あとはこの先に…」
『関係者以外立入禁止』の札のさらに奥。
「幽霊受付って書いてありますけど…」
手書きだった。
しかも付箋。
「勝手に作ったんですか?」
「はい」
即答だった。
「ここ空いてたので」
「空いてたからって…」
簡易机。
折りたたみの椅子。
段ボール製の書類棚。
完全に間借りである。
「怒られないんですか?」
「んー、付箋見てぶつぶつ怒ってる人はいましたね。」
「ダメじゃん!」
「でも普通の人には見えませんし、直接怒られてるわけでもないですからねぇ。
まぁ片付けられずに放置でしたのでそのままです。」
強い。
受付の奥には会議室という名の使われていない倉庫があった。
中にはすでに数名の幽霊が集まっている。
全員が疲れた顔。
「はい、それではオリエンテーションを始めまーす。」
前に立ったのはいかにも公務員という雰囲気の男性幽霊だった。
「まず、ここは死後の世界ではありません。」
開口一番それだった。
「我々は現世に留まっています。
ここにいる皆さんは例外なく未練があるということです。」
全員が顔を見合わす。
「すぐにでも成仏して転生したい方はあちらの窓口で受付をお願いします。
また、ここで留まって生活したい方々は幽霊社会のルールを守っていただきます。」
ホワイトボードが出てくる。
これはどこから持ってきた…?
「まず、壁や物は…」
彼はチョークを走らせる。
「意識しないとすり抜けません。」
男性幽霊が私を見る。
「すみません…」
「しょうがないです。初めての事で混乱してたのでしょう。」
即フォローが入った。
「慣れると逆にぶつかります。」
「幽霊なのに?」
「幽霊だから、です。」
――なんだその理屈。
「無駄にすり抜けたり飛び回ったりすると…」
男性幽霊は一拍置いた。
「消えます。」
参加している全員がざわつく。
「正確には成仏ですね。」
――軽い…
「体は粒子みたいなもの……まぁそんな感じでできてます。
やり過ぎると強制的に成仏しちゃいますので気を付けてくださいね。」
――怖い言葉を怖くない声で言うのやめてほしい。
「ではこのまま我々は消えていくばっかなのかというと違います。
消えないようにする方法は墓石や仏壇、縁のある場所で休むことで回復できます。」
――ゲームのセーブポイントみたいだな。
「あとは、食事でもいいですよ。」
「……幽霊もご飯食べるんですね。」
「食べないと午後もたないです。」
――幽霊に空腹という概念はあるのか…?
「話が長くなりましたが、そろそろ配属先を発表していきます。」
男性幽霊が資料をめくる。
「驚衣 零さん」
「は、はい!」
「あなたは…」
間が無駄に長い。
「役所の総務課です。」
「……はい!?」
――新人なのにいきなり総務課!?幽霊の社会も人手不s…いや幽霊不足なの!?
「えー、主な仕事は幽霊関連書類の整理、未練相談の一次対応などなど」
「未練相談……」
「『まだ告白してない』とか『猫にエサをあげ忘れた』とか」
軽いのか重いのか分からない。
「あなたは真面目そうなので大丈夫ですよ。」
満面の笑みで言われた。
オリエンテーションが終わり、私は待合スペースに戻された。
「今日は見学だけなのでこれで終わりです。
お疲れさまでした。」
「……明日も来ないとダメですか?」
「はい。明日から初勤務です。
もし来なかったら幽霊警察に捜索届を出します。」
――警察もいるんだ…
私は天井を見上げた。
その下で生きている人たちが普通に生活している。
数時間前まで私もあちら側だった。
「天国って、あるんでしょうか…」
ぽつりと呟くと、案内役の女性は肩をすくめた。
「さあ?でも少なくとも…」
幽霊受付の付箋を見る。
「ここではないですね。」
笑っているのに冗談に聞こえなかった。
こうして私は、
死後も幽霊OLとして働くことになった。
ご愛読ありがとうございます。
探り探りで作品を書いていますので、読みにくいなどありましたら遠慮なく感想をいただけるとすごく嬉しいです!
ゆっくりと更新していきますので、たまにの暇つぶし程度に読んでいただけたらなと思います。




