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ぼくはいじめっこ  作者: 文記佐輝
一章『最初の壁』
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『足音』

シュウの背中を擦りながら、恐怖で震える体を優しく抱きしめる。

幸輝「こういう場所ではしゃぐなよ。俺がいなかったら、落ちてたんだからな。」

彼は語気を強めて注意した。

シュウ「…ご、ごめん…なさい…。」

彼女は震える手で、僕の服をつかむ。

僕はシュウが落ち着くまで、「大丈夫。」と言い続けた。

幸輝は呆れたように寝転がる。

リンネ「ありがとう、七瀬くん。」

幸輝「…ん?」

シュウ「…私を…、助けてくれて、ありが…とう。」

僕から少しだけ離れ、彼女は幸輝に礼をいう。

そしてすぐに、僕にくっつく。

幸輝「…いいさ、怪我が無くてよかったよ。」

優しく微笑んだ。

僕はその顔を見て、シュウを抱く手に力が入ってしまう。

リンネ(幸輝…、お前は、やっぱりいい奴だよ。

…なのに、僕は君を巻き込んで…)


休憩時間が半分を過ぎた頃、ようやく落ち着いたシュウが幸輝と同じように寝転がった。

僕もそれを真似て、寝転がる。

シュウ「…風が気持ちいいね。」

さっきまで震えていたとは思えないほど落ち着いた声で言った。

幸輝「…へぇ、高いところが好きなんだな。」

それを聞き、意外そうに言った。

シュウ「うん!高いところって、なんだか心が落ち着くんだよね〜!」

リンネ「…それ、初めて知ったかも。」

僕は素早くポケットからメモ帳を取り出し、彼女の初情報を『神凪シュウ帳』にメモする。

その時、グラウンドの方から鋭い視線を感じた。

僕は咄嗟に構えたが、その犯人を見つけることができなかった。

リンネ(今の視線は…よく知っている気が…、気のせいか…?)

警戒している僕の服を何かに引っ張られる。

そちらに目を向けると、僕の腕を優しくつつみ、心配そうな目でシュウが見ていた。

シュウ「…大丈夫?」

どうやら気付かないうちに、険しい表情をしていたようだった。

リンネ「…大丈夫だよ。ありがとう。」

彼女にそう伝え、再び寝転がる。

ジャングルジムの頂上で、僕とシュウ、そして今知り合った七瀬ななせ幸輝こうきの三人で、昼休憩が終わるまでゆっくりと過ごすこの時間が、無性に嬉しく感じてしまう。


チャイムが鳴り、あっという間に学校が終わってしまった。

リンネ(あまり情報を集められなかったな…。)

鞄に荷物を詰めながら、今日の振り返りをする。

そこへ、一人の男子生徒が近づいてくる。

男子生徒「愛咲くんですか?」

目の前に来たそいつは、おどおどとしており、やたらと背後を気にしていた。

僕は頷き、彼の次の動きを観察した。

男子生徒「じ、実は、学年主任のあきら先生が職員室に来いって言ってたよ。」

手元は震え、落ち着きなくどもりながら、そんな事を言ってきた。

僕は軽くため息をつき、「伝えてくれてありがとう」と彼に言った。

彼は小さな声で「…う、うん。」と言っていた。

そして、男子生徒が目を背け「ごめん…愛咲くん」と言ったことも、聞き逃さなかった。

リンネ(…こういう事もしてくるんだな…。太一…!)

拳を握り、職員室へと向かった


職員室についた僕は、デスクワークをしていた他の先生に、明先生に呼ばれた旨を伝える。

それから、三分ほどが経ってから、明先生は姿を現した。

明「ごめんね〜!待たせちゃって!」

飄々とした態度を見せる。

この先生について少し触れておこう。

簡単に言えば、「怠け者先生」だ。

授業にはいつも遅れてくるし、テスト中は寝てるし、おまけに何の連絡もなしで学校をサボったりする。いわゆるヤバい人だ。

なんでこんな人が学年主任なんかになっているのかは知らないが、きっと実績があるのだろう。知らんけど…

リンネ「用事ってなんですか?」

ぶっきらぼうに尋ねた

明先生は僕を別室へ来るようにジェスチャーする。

僕はため息をつき苛立ちながら、彼に付いていく。


別室に入った僕は、明先生に椅子へ座るように指示された。

薄暗い部屋。

カーテンは空いているのに、まるで外の光が入っていないように薄暗い。

散らばったゴミのせいか。それとも、高く積み上げられた資料たちのせいか。空気は重く、なぜか僕の鼓動は早くなる。

そこは初めて入る部屋だったが、部屋の散らばり具合を見て、ここが彼専用の部屋であることはすぐに分かった。

明「リンネくん。単刀直入に聞かれるか、遠回しで聞かれるか。

…君はどっちがいい?」

不気味な薄ら笑いを見せながら、僕の返答をじっと待つ。

いつもなら単刀直入と即答する僕だが、なぜかここに来てから、どうも気が重たい。

僕は何度目かもしらないため息をつく。

リンネ「…単刀直入でお願いします。」

呆れながら答える。

明「オッケー!じゃあ遠慮なく…」

妙に明るく、まるで友達のように振る舞う先生に、僕は軽い恐怖心を抱えた。

鼓動はさらに早まり、額から汗がにじむ。

リンネ(…いったい何を聞かれるんだ?)

警戒を解かず、僕はその言葉を待ち構える。


ー…【神凪シュウ視点】

私は下駄箱で彼が来るのを待っていた。

シュウ「まだかなぁ〜、ま〜だっかなぁ〜。」

彼のことを考えていると、いつもより明るくなれる。

シュウ「リンネくん。…ふふ、やっぱりかわいい名前。」

このまま、ずっと彼のことだけを見ていたいと、そう思ってしまう。


私という人間は、どうやら不幸体質みたい。

両親から聞いたことがある。

幼稚園に入った時のことはあまり覚えていないけれど、それでも、今よりも多くの友達と、普通に遊んでいたらしい。

普通…、私には普通がなんなのか、理解することはできないけれど、今が普通の生活じゃないということは、子どもだけど理解はできている。

常にいじめと隣り合わせの生活なんて、…こんなの、普通なはずがない。


空を見上げる。

落ち込んでいるときは、いつも空を眺めていた。

シュウ「…綺麗〜。」

だけど、今はそれだけじゃない。

ただ美しいから眺める。見たいと思ったから見る。

それができるようになったのも、全てリンネくんのおかげ。

あの日、私の事を無視せず、声をかけてくれたリンネくん。

彼がいたから、私はもっと学校を楽しもうと思えた。

彼が言ってくれた…

『…シュウ、君のことは、僕が守るからね。』

その言葉が、どうしょうもなく嬉しかった。

今まで聞いてきたどんな慰めよりも、リンネくんが言ってくれたその言葉だけは、特別に感じた。

シュウ「…リンネくん…、まだかなぁ…」

「一緒に帰りたい」、なんて思える日が来るとは、思ってもみなかった。


そんな事を思っていると、下駄箱の方から足音が聞こえてきた。

私は「リンネくんが来た」と思い、そちらに目を向けながら。

シュウ「リンネくん!一緒に帰ろ!」

と言った。

しかし、その返事は返ってくることはなく、私は頭に衝撃を受けた。

シュウ「…ぁ…ぅ…」

(頭が痛い…、それに、なんだか…熱い…?)

私は手についた液体を見る。

シュウ「ぁっ…!ぅぁっ…!!」

(…これって…血…?)

声がうまく出せない。徐々に熱は冷たく感じ始め、睡魔のようなものに襲われる。

私は、最後の力を振り絞り、その人物を見ようとした。

シュウ「…!!」

その人物は、よく知る生徒で、見慣れた眼光で私を見る。

(…りんね…くん…?)

薄れゆく意識の中、彼の名前を唱える。

そんな私に、彼は容赦のない一撃を、もう一度頭に加える。

そして、私は意識を失った………

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