『最初の傍観』
入学式を無事に終えた僕は、第二の人生を後悔のないように過ごしたかったが、今日もまた憂鬱な目覚めに舌打ちをついていた。
姉「リンネ〜、ご飯できたってよ〜!食べるぞ〜!!」
リンネ「…はーい…。」
今朝も元気な姉、愛咲ミズハに呼ばれ、だるい体を無理やり起こす。
リンネ「……」
あの日、小学の入学式の日から、ずっと同じ夢を見る。
いや、夢と言うにはあまりにも現実的で、子供である僕には刺激が強すぎるものだ。
それに…、今日は特に嫌な気が漂っている。
リンネ「…記憶、やっぱり無くならないんだ…」
僕はいつものように肩を落とし、階段を降りリビングへ向かう。
リビングについた僕に、ミズハは「遅いよリンネくん。」と、某サングラスのおじさんのように手を組み、僕を見る。
リンネ「ごめんなさい。ちょっと、嫌な夢を…」
ミズハ「今日もなの〜?
仕方ないな〜!今夜だけは、お姉ちゃんが一緒に寝てあげよう!」
リンネ「あ、全然大丈夫です。」
ミズハ「ガーンッ!?…オネェチャンサビシイ…」
変なことを言うミズハが悪いのだろうと思いつつ、僕は用意された朝食を前に、合掌して食べ始めた。
母「いっぱい食べるのよ、リンネ。」
黙々と食べ始めた僕に、優しく声をかけてくれた母は、大盛りのサラダを僕の前に置いた。
それを見た父は飲んでいたコーヒーを吹き、むせた。
父「おいおい!流石に多すぎるだろ!リンネが緑になっちまうよ!」
母「緑になっても、私たちの可愛いリンネよ?」
父「それはそう!だけど流石にこれは多すぎるって…!」
朝から仲のよい場面を見せつけられた僕ら姉弟は、目を背けご飯を食べた。
父「放置は流石に酷くない??」
なぜか寂しそうに僕らを見る父と母に微笑みかけ、僕と姉は「どうぞ、続けて」と言うのだった。
ー…
学校へ向かっている僕は、徐々にざわついていく気持ちに気付き、その原因を探るため記憶を漁る。
しかし、小学生の時の事を完璧に覚えることはできるはずはなく、断片的な記憶しか呼び起こせない。
ミズハ「大丈夫?…最近変だよリンネ。」
頭を悩ませていた僕に、ミズハは心配そうに尋ねてきた。
リンネ「…うん、全然平気だよ。」
僕は心配をかけてしまったことに申し訳なさを感じながら、返事を返した。
彼女は何か言いたげだったが、口を閉ざした。
リンネ「…」(…心配かけてばっかだな…)
僕は心のなかで謝罪を述べ、とりあえず、学校へ行くことにした。
学校に着いた僕は、教室が少し騒がしいことに気がついた。
何事かと思い、少しだけ早足で教室に向かう。
リンネ「…!!」
僕の目に写った光景は、僕がなぜか忘れていたいじめの光景だった。
リンネ「…太一っ…!」
太一「おい、書け書け!!」
ギャハハと笑いながら、最初のいじめっ子である太一が、か弱そうな生徒たちに落書きを強要していた。
教室の入り口にいた僕に気づいた太一は、嫌な笑みを浮かべながら近づいてくる。
太一「おい!そこで突っ立ってねぇでこっち来い!」
リンネ「…ん」
太一は僕の服をつかむと、シュウの机の前まで連れてきた。
太一「お前も書けよ!楽しいぜ!」
リンネ「……」
鋭い眼光で睨見つけてくる太一は、「それとも…」と続け、再び僕に、あの質問を投げかけてきた。
太一「お前もしかして、カンナギのこと好きなんだろ…?」
ニタァと笑い、一回目の人生とは違い、僕にだけ聞こえる声でそう言ってきた。
リンネ「……」
僕は太一の取り巻きからペンを受け取り、キャップを外す。
太一「…さぁ、書けよ!愛咲!」
リンネ「……」
僕はペンをしっかり握りしめると、取り巻きの一人に向け投げた。
取り巻きA「おい!何すんだよ!?」
太一「…お前…」
僕が反抗するのが意外だったのか、太一は動揺を隠しきれていなかった。
リンネ「…畑野、僕はね…。こんなしょうもないことはしないよ。」
太一「…はぁ?」
プライドを傷つけられたのか、太一は顔を真っ赤にして胸ぐらをつかんできた。
それでも僕は、いたって冷静に、太一の睨みに睨み返す。
リンネ「汚い手を離してくれるかな?」
太一「…っ!?」
彼は大人しく言う事を聞いてくれた。
どうやら彼のなかで僕は、親と同等もしくは、それ以上の脅威だと感じたらしい。
僕は乱れた服を整え、一旦廊下へ出た。
リンネ「……」
正直、恐怖心は無いわけではない。ただ、僕は僕に腹が立っていたから、先のように反抗ができたのだ。
なぜ一回目で、彼を止めることが出来なかったのか、自問する。
確かに、一回目での僕は、自身の身の保証のために立ち回っていたことは違いない。しかし、反抗出来なかったのかというと、きっと出来ないわけではなかったはずだ。
リンネ「…忌々しい…」
シュウ「何が忌々しいの?」
僕が自問していると、いつの間にか隣に来ていたシュウに声をかけられた。
少しだけ驚いたが、僕は「おはよう、シュウ」と挨拶だけした。
シュウは軽く笑い、「おはよう、リンネくん。」と返してくれた。
とても純粋で、無垢な笑顔。
こんなにも愛おしい女の子を、僕は第一の人生で、見捨ててしまった。
リンネ「…ごめんね、シュウ。」
僕は無意識に、彼女に謝罪を述べていた。
彼女は頭の上にハテナを浮かべながらも、「大丈夫だよ」と返した。本当の、愛おしい。
今なら、まだ彼女の心が汚されていない。
今なら、彼女が悲しむことはない。
今度は、僕はが助けることができる。
リンネ「…シュウ、君のことは、僕が守るからね。」
彼女の頬に手を当て、僕はそう誓う。
くすぐったそうに笑いながらも、彼女は僕の手を優しく包み、
シュウ「うん。じゃあ、リンネくんに守ってもらうね。」
と、愛くるしい笑顔で言うのだった。
ー…
畑野太一。
彼の親は大手企業に勤め、その地位は幹部レベルだとか。
プライドが高く、その影響から太一は、自身よりも身分の低い、立場の弱い者たちを虐げるガキ大将へとなった。そして、親のプライドの高さも持ち合わせる人間になっていた。
リンネ「…僕一人で彼を止めるのは難しい、か。」
昼休憩になったので、僕は第一のいじめっ子である、太一の対策を考えていた。
シュウ「リンネくん〜!私も、そこに行っていい??」
リンネ「ん?…高いとこは平気なの?」
シュウ「平気だよぉ!私、お父さんからお猿さんって言われてるから!」
リンネ「…へぇ。じゃあ、僕が手伝わなくても大丈夫だね。」
元気いっぱいな彼女に癒されつつ、メモ帳を閉じ、上着のポケットに隠す。
ほとんどの小学校ではあまり見ないジャングルジムに、ひょいひょいっといとも容易く上がってくるシュウに感心しつつ、頂上まで来る彼女を見守った。
リンネ「そこ、濡れてるから気をつけて。」
シュウ「ん!わかっ…」
彼女が返事を返そうとした時、足が滑ったのか、体勢を崩した。
リンネ「…シュウ!!!」
全身から血の気が引くのを感じ、僕はすぐに動いたが、彼女の手を掴むことができなかった。
シュウは、恐怖をその目に宿し、真っ逆さまで落ちようとしていた。
リンネ「シュウーー!!!」
手を伸ばすが、やはり届かず、僕は彼女が落ちていくのを見ることしかできなかった。
落ちていくシュウを見ていたはずだったが、彼女は不思議な体勢で落ちずにいた。
リンネ「…ぇ?」
シュウ「…ぁっ?」
戸惑う僕とシュウに、声をかける者がいた。
???「…は、早く登ってくれるかな…?」
苦しそうな声を聞き、彼女は体を全力で起こし、縄につかまる。
僕はシュウを引き上げると、彼女の下にいた者を見た。
リンネ「…幸輝くん?」
そこにいたのは、第一の人生で世話になった男子だった。
幸輝「…あんまり急いで登るなよ…。俺がいなかったら、落ちてたんだからな。」




