『遡る』
「…終わったか?」
廃校の屋上にいた僕に、よく知った男がやって来た。
彼のことを見ず、僕は月を見続ける。
「…まだ終わりじゃないよ、まだ、一人残ってる…」
「アレが最後じゃなかったのか…。後は誰が残ってんだ?」
彼はため息をつきながら、僕の隣に座る。
「…安心して、後は僕一人で出来るから…」
「そうか?…なら、そろそろ俺も行くか…」
「死なないよね…?」
「死ぬかよバァーカ…。そんな勇気がありゃ、楽なんだろうけどよ…」
軽く笑った彼は、スマホでとある場所へ電話を始めた。
僕はそれを聞きながら、最後の一人を、どう殺ろうかと考えていた。
しばらくして、電話を終えた彼は、スッと立ち上がると背伸びをした。
「…まぁ、なんだ…。…あんまり無理すんなよ…」
「……」
僕はそれに応えず、登りきった月を眺めた。
彼はそれ以上何も言わず、その場を去った。
屋上にのこった僕は、しばらくしてから立ち上がり、太一の倒れるグラウンドに目を向ける。
「…あの世で待っていてよ…、僕もそっちに行くからさ…」
そう告げ、僕は最後の目標を見るため、家へと帰った。
ー…
「…やぁ、…最後はオマエだよ…」
「……」
ソイツは何も言わない。僕のナイフを見ても、なんの動揺もない。
僕は、手に握られたナイフを見つめ、もう一度ソイツを見つめる。
「…なぁ、オマエはなんで助けなかったの…?」
「……さぁ?」
問いかけには答えるソイツは、特に悪びれる様子はない。
「…いつも見るだけで、助けにもはいらなかったのは、怖かったからか…?」
「…そうだ…」
しっかりと僕の目を見据え、全てを諦めるような眼光を僕に見せる。
「…傍観者は楽だったか?」
「…どうだろう…、僕は楽じゃなかったかな…」
「…どうして?」
「…僕は、助けることで僕が狙われるんじゃないかって…、怖くて動けなかったんだ…。
…ずっと罪悪感がすごかったよ…、押し潰されてしまいそうだった…」
ソイツは、そう言うと、手に持っていたナイフを手首に構えた。
「…リストカット…、うまくいけばいいね…」
「…うまくいかなくても、僕は構わないよ…」
………
「…けど、ここでするのは止めようかな…。大家さんに迷惑が掛かっちゃう…」
僕はナイフを下ろし、綺麗に掃除をした部屋を最後に見納め、最低限の荷物で近くの山に向かった。
「…ここなら、警察に発見されなくても、熊のエサぐらいにはなれるかな…?」
僕は微笑すると、ナイフを取り出し、ゆっくりと手首に押し当てた。
血がよく巡る血管に刃を立てる。
「…そろそろ、いくか…」
そう言い、僕はナイフを突き刺し、痛みに耐えながら肉を切り裂き血が流れ出るのをその目で見た。
痛みはかなりの時間続いたが、それも意識が途切れるよりも早く失せ、綺麗な夜空を眺めながら、その命を終えた…。
…そのはずだった…。
ー…
???「ー?リンネ?リンネ〜?」
懐かしいその声は僕に、死んだということを十分に証明してくれるものだった。
リンネ「…姉さん…」
僕が中学生の時、姉さんは修学旅行へ行く道中に、事故に遭いその人生を終えてしまった。
まさか、自分を迎えに来るのが姉さんだとは思ってもみなかった僕は、ゆっくりと目を開く。
???「リンネ〜?昨日はちゃんと寝た?くまひどいよ〜」
久しぶりに見た姉さんは、どこか若々しく見えた。
リンネ「…姉さん?」
姉さんは高校生で亡くなったのに、今目の前にいる彼女は、それよりもはるかに若い、まるで小学生の時の姉さんに見えた。
僕は辺りを見渡し、一体ここがどこなのかを確認する。
リンネ「…え…?」
そこでようやく、ここがかつての活気あふれる南勇石小学校だった。
リンネ「これって…、どういう…」
姉「いつまで寝ぼけてるの?
そろそろ入場なんだから、もっとシャキッとしなさい!」
姉さんは僕の背中を叩く。
ジンジンと痛む背中を、成長途中の腕でさする。
リンネ「入場?なんの…」
姉「何のって…、今日はリンネの入学式でしょ?!」
そう言われ、ようやく僕は思い出した。
ー…
入学式を無事に終えた僕は、二度目となる自分のクラスで、生前にも見た担任の挨拶とこれからの流れを聞いた。
アズマ「ーということで、今日はこれで終わりだから、気をつけて帰るんだぞ〜」
クラスメイト達「はぁーい!」
本当にあの時のままだった。
僕はクラスメイトがはしゃぐ姿を見ながら、次々と教室から出ていくのを見守った。
そして、あの日のように、この教室に残った僕と…
???「…帰らないの…?」
リンネ「…君こそ、帰らないの?」
そんな僕に話しかけてきた、心の優しい少女。
???「…私の家族は…、今日来てないから…」
彼女は寂しげにそう言い、背負っていたランドセルの肩紐をキュッと握りながら、可愛らしく笑った。
その顔を見ると、僕の心は締め付けられた。
???「…ねぇ、君の名前は?」
リンネ「…僕は…」
彼女の問いかけに応じようとした時、教室の入り口から顔を覗かせた姉さんが僕を呼んだ。
姉「リンネ〜、そろそろ帰るわよ〜」
姉さんは彼女の顔を見ると、少しだけ目を細めた。
彼女は姉さんの視線に気づき、お辞儀を素早く済ませると、急ぎ足で教室を出て行った。
それを見た僕の足は、あの時とは違い、瞬時に動いていた。
教室を勢いよく飛び出し、彼女を呼びとめる。
周りの目など気にせず…
リンネ「僕の名前はリンネ!愛咲 リンネ!
君の名前は…!!」
きっと変な奴だったろう。
まだ一日しか、いや、まだ数分しか話していないのに、こんなに必死に叫んで。
らしく無いことは僕が一番よく理解していたが、もう後悔はしたくなかった。だから僕は、彼女を止めた。
???「…リンネ君…、良い名前だね!」
彼女は僕に、勿体ないほどの笑顔を見せながら、応えた。
「私はシュウ!神凪 シュウだよ!リンネくん!」
今回のメイン
愛咲 リンネ
神凪 シュウ




