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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
終章 決戦と祝宴

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71 祝宴

「おお、聖女様! このたびの魔王討伐、おめでとうございます」

「え? あ、それはどうも、おおきにやで」

「魔王討伐に続き、我が軍がとうとう、魔王国の王都を占領したとの報もあったそうです。これで我がカーペンタリア王国のますますの繁栄は、約束されたも同然ですな!」

「お、おう。そやな。たぶんな」

「実は我が家の息子も、本来であれば聖女様の行軍に参加するつもりだったのですがなあ。聖女様のご出発があまりに急だったため、間に合わなかったのです。当時、息子は家領で政務にあたっておりましたので。

 息子からは、同行がかなわずにたいへん申し訳なかった、とことづかっております。つきましては、そのおわびも兼ねまして、聖女様にはぜひとも一度我が家においでいただき、戦いの疲れを癒やしていただければと考えております。その際には、息子も同席させていただきますので、ごゆっくりと──」

「聖女様! このたびの凱旋、おめでとうございます!」


 長話をする男性に、別の男性が割り込んできた。二人とも四十代くらいで、ところどころに金色の装飾のついた、タキシード風の黒い服を着ている。手にはお酒の入った、上が平べったい形のグラスを持っていた。かくいう私も、おんなじグラスを手にしていたし、服装はこれまでの人生で一度も着たことのない、真っ白なドレスだったりする。

 二人はそのまま、何だか言い争うような感じになっていったので、私はこれ幸いと、その場を離れることにした。


 私たち──正確には、私とジーク、トライデンの三人は、カーペンタリア王国の王城で盛大に開催された「対魔王国戦の戦勝祝賀パーティー」に参加して──正確には、参加させられていた。


 ◇


 魔王との戦いの後、私たちは王都に戻った。


 あの変な言葉を最後に、魔王は息を引き取った。そして魔王を倒した私たちは、魔王国の王都には向かわず、来た道をそのまま引き返した。そもそも、奇襲に気づかれないようにってことで、あんなに少ない人数にしたんだからね。敵の王都に行けばそれなりの数の軍が待ってるだろうから、この人数で戦いを挑むなんて、無理というものだ。

 それでも、私の魔法を使えば、もしかしたら大ダメージを与えることができるかもしれない。だけど、なんだかこれ以上、人を殺す気にはなれなかった。「不殺」なんてことを気取っているわけでもないんだけど、実際に魔王のあのむごたらしい姿を見たら、なかなかねえ。

 それに、私たちは命令されたことをこなしたんだ。これ以上を要求される筋合いなんて、ないだろう。

 私が「もう帰ろうよ」と言うと、ジークたちも特に異論無く、同意してくれた。


 ただ、討伐の証は必要と言うことで、魔王の遺体の首の部分だけは、持って帰ることにした。今回も、エイブラムのマジックバッグが役に立ってくれました。このバッグ、生きた物はダメだけど、遺体は入るからね。鎧の方は、そのままにしておいた。なにしろ、中にはぐちゃぐちゃのミンチみたいなのが、いっぱい詰まってたし。

 それに、あの時あそこにいた魔王軍は全滅してしまっていたから、魔王軍向けに、魔王が敗れたことを示すものを何か残しておいた方がいいだろう、って話になったんだ。


 帰りの道は、とっても順調だった。行きの時のような事件に出会うこともなく、マイカウンドやヘリータウンでは、関わりのあった人たちに、ちょっとした歓迎みたいなこともしてもらったりもした。ジークが早く戻りたがってたから、長居はできなかったけどね。

 そうして王都モレーンに戻ってみたら、このパーティーが計画されていたんだ。


 どうやら、今回の戦争はカーペンタリア王国の勝利で終わったらしい。


 一時は魔王軍が盛り返す兆しがあったものの(噂で聞いた魔王軍の反撃というのは、実際にあったことらしい)、魔王が倒れたあとは、魔王軍は総崩れ状態になった。そしてとうとう、カーペンタリア軍が王都アムダリヤまで攻め込んで、都を占領。魔王国は降伏したんだそうだ。

 実際に戦闘に参加した軍の人たちは、まだアムダリヤに駐留している。けど、その知らせだけは、いち早くモレーンにまでもたらされた。そこで祝いの宴が開かれることになった、と言うわけだった。


 祝勝会だけあって、パーティーの席はにぎやかだった。私たちも、魔王を倒した一行として、大歓迎された。魔王の首という証拠を持って帰ったこともあって、討伐の実績が認められたみたい。ジークもトライデンもなんだか大人気で、そこら中で引っ張りだこになっている。

 ただ、正直な話をすると、私個人としてはパーティーを楽しむことはできていなかった。なんていうかね。年上の、酔っ払った知らない男の人から上機嫌で話してこられても、うれしくはないよね。気を使うばっかりで。相手の人は間違いなく、貴族かお偉いさんだろうし。


 そこで私は、短時間のうちにちょこちょこと場所を移動して、たいていの話をうやむやで終わらせることにした。そして、できるだけ目立たない場所を探して、「壁の花」ってやつですか、それになることをめざした。


 パーティーが始まって三十分くらいも経つと、向こうもおべんちゃらを並べるのに飽きたのか、それともこっちが嫌がっているのを察してくれたのか、ほとんど話しかけられなくなった。それでようやく、少しだけ落ち着いて、食べ物や飲み物を楽しめるようになってきた。

 人心地ついた私は、さっきボーイさんが渡してくれたグラスを手に、壁に背をついて、周囲の喧噪を眺めていた。けれども頭に浮かんでくるのは、あのとき魔王が残した、最後の言葉だった。


「『フトンガフットンダ』、か……」


 この言葉は、魔族の祖先がマレビトであることの証拠として、魔王が持ちだしたものだった。マレビトっていうか、おそらくは日本人だろうね。

 このことについてジークたちに尋ねてみたけど、彼らは何も知らなかったようで、頭をひねるばかりだった。けれどもそう言われてみれば、思い当たることはある。

 まず、魔族の特徴とされる黒髪と黒目。あれはまさしく、日本人の特徴そのものだ。顔つきは西洋人風だけど、これは召喚の後、この世界の人たちとの混血が進んだと考えれば、わからないではない。

 それから、魔族の方言にある、特徴的なアルファベットの読み方もそう。あれも、元の世界のフランス語そのものだった。「au」を「オ」と読むくらいなら偶然の一致かもしれないけれど、「oi」が「オワ」とか、頭の「h」を発音しないとかとなると、フランス語をよく知っている人が伝えた、と言われる方がしっくりくる。

 まあ、普通の日本人なら英語風の読み方をするだろうから、例えばフランスに住んでたとか留学したとか、あるいはフランス語専攻の大学生とか、そんな人だったのかもしれないな。

 では、魔族のもう一つの特徴とされる、魔力の強さはどうだろう? これも、ありえないではない。もちろん、普通の日本人には魔力なんてなかったけれど、ここで問題にされているのは日本から来た『マレビト』だからだ。

 マレビト、つまり召喚される人というのは、なにかしらの魔術スキルと強い魔力を持つ、という特徴がある。というより、そういう人でないと、召喚されないらしいんだ。そんな人たちの子孫なら、強い魔力を持つようになったとしても、おかしくはない。



 そしてなによりも、魔王の言ったあの言葉自体が、強力な証拠になっていた。


 ジークたちにはわからなかったと思うけど、あの言葉は、そこまでとは聞こえ方がちょっと違っていた。翻訳スキルを通して聞こえたのではない、久しぶりに聞く「日本語」そのものの発音が、聞こえていたんだ。

 それに、内容からしても間違いなく日本語だ。「フトンガフットンダ」。あまりにもベタすぎて、スベり笑い目的以外では口にされることはないだろう、そんなダジャレ。でも、日本語を知らなければ、意味をなさない言葉なのも確かだった。

 酒を飲んで上機嫌になった時に口にしていたっていうのも、なんともオッサンっぽくって、いかにもそれらしい。


 そっか。魔族は、日本人の子孫なのか。


 その昔、この世界の人々は、異世界から日本人を召喚した。なんの目的かはわからない。もしかしたら目的なんて無くて、魔法の実験的なものだったのかもしれない。ともかくもその召喚によって、黒髪と黒い瞳を持ち、強い魔力を持つ日本人が、この世界に現れた。

 ではなぜ、彼らはヒト族の国から追放され、忌み嫌われるようになったんだろう。それはたぶん、ヒト族は召喚した者を、自分たちの仲間とは認めていないからじゃないかな。もちろんこれは人にもよるんだろうけれど、一般的な、あるいは身分が上の層にいる人の傾向として。

 このパーティーで、今、私が放っておかれているのは、その証拠かもしれない。だって私は聖女で、魔王討伐の功労者なんだよ? 普通ならちやほやされたり、賞賛されるものじゃないのかなあ。

 べつに、そうされたいと思ってるわけじゃない。けど、そんな功労者がたった三十分で放置されるっていうのは、頭の奥にそういう意識があって、しゃべったり接触するのを嫌がっているからじゃないか。そんな気がする。

 ともかくも、その結果、日本人たちは迫害され追放されて、北に逃れることになった。そしてそこで独自の集団を作り、やがて魔族と呼ばれるようになったのでは……。

 ここまで考えたところで、私はふう、と息をついた。


 まあ、どうでもいいか。


 そもそもの話、今の話にはかなりの想像が入っている。それに、事実がこのとおりだったとしても、今の私には、あんまり関係のないことに思えた。確かに理不尽な出来事だし、悲劇的なストーリーだ。この国に対して、怒りだって感じる。けどそれは、第三者としてそう感じる、といったレベルのものだった。

 だって、その人たちと私との共通点は、「召喚された日本人」という立場だけなんだもの。

 私は彼ら(もしかしたら「彼女」かもだけど)と、直接に関わったことがない。それでは、怒りも共感もせいぜい第三者レベルに留まってしまうのは、しかたがないだろう。それより強い共感をもつことがあるとすれば、それは私がこの世界で、実際に関わってきた人たちにかんすることだ。


 私は改めて、パーティー会場の中を見まわした。いつもとは違って華やかに着飾った、ジークとトライデンの姿が見えた。


 この会場にいるのは、私以外にはジークとトライデンだけ。エイブラムは、モレーンの前までは一緒に来たんだけど、王宮には入ってこようとしなかったんだ。

 彼のジョブは、死霊術師だ。王宮くらいになると、鑑定のスキルを持った人もいるし、入場の時に鑑定能力のある法具が使われることがあるらしい。それで彼のジョブが明らかになったら、騒ぎになってしまう可能性が高い。そのため彼は、モレーンに入る直前から、別行動をとっていたんだ。

 それどころか、「聖女パーティー」の名を汚さないよう、自分が一緒に行動していたことも隠しておいて欲しい、なんてことまで言いだした。そこまでしなくても、と私は言ったんだけど、エイブラムは


「でも、たぶんですけど、その方がいいと思うんです。ジークさんのためにも」


と首を振った。ジークはこの先、王位継承の争いに加わることになる。その際、死霊術師と行動を共にしていたなんて知られたら、それだけでダメージになってしまうだろう、って。

 この国での死霊術師の扱いって、ひどいらしいもんね。宗教や地域によって違うとは言え、死霊術師を毛嫌いしているオルティナ聖教は、それなりに力を持つ宗教だ。相手陣営にその点を利用されたら、確かにダメージになりかねない。

 それでも、こんなにがんばってきたのに……と私が言うと、エイブラムは笑って答えてた。


「ぼくが思う聖女様とは、この国の言う『聖女』のことではありません。聖教会が決めた聖女ではなく、マーサ様やマリー様のように、その行いで聖女と認められる方。そんな方こそ、ぼくがお慕いする聖女様なんです。

 ですから、この国の『聖女パーティー』に名前が載らなくても、ぼくは全然平気です」


 あ、それからハイラインも、しばらく前からいなくなっていた。最後に姿を現したのは、アイトイの街だったっけ。国が気になるので一度戻るかもしれない、なんて言ってたあの時から、顔を見ていない。

 まああいつのことだから、とんでもない時にとんでもない場所で、ひょっこり現れるような気もするけどね。


 ──突然、ガラスの割れる音が響いた。


 音のした方向に目をやると、そこにいたのはトライデンだった。あ、あいつ、持っていたグラスを落として、割ってしまったみたい。そして、砕けたガラスを拾おうとしてまわりの人に止められ、改めてボーイを呼んでいた。立ち上がった彼は、ちょっと苦笑いをしている。少しふらついているところを見ると、調子に乗って、飲み過ぎたんだろう。

 トライデンは、まわりと同じく黒のタキシードを着ていた。けど、その礼服姿はあんまり似合っていない。筋肉の盛り上がりで、上等な服の生地が張りつめてしまっているからだ。学園都市で始めて会った時も、学園の制服を着ていた彼を見て、そう思ったっけ。なんだか、ちょっと懐かしい。


 私はなんとなく、ジークの姿を探した。ジークは、トライデンからは少し離れたところにいた。こちらは着飾った女の子たちに囲まれ、優雅な微笑みを浮かべながら、何やら話をしていた。

 あの野郎、女の子に囲まれたからって、浮かれてんじゃねえよ──とは思わなかった。彼は今も、戦っているのかもしれない。ジークは魔王との戦いが終わったら、王位継承というもう一つの戦いに本気で挑む、と語っていた。このパーティーも、自身への支持を広げるための、大事な社交の場なんだろう。


 そういえば、王都に戻ってから、ずっと私につきまとってきた人がいたっけ。たしか、ユージンとかいう貴族の人で、「聖女様のご活躍を記録して、後世に残したい」とか言って、この旅での出来事をずっと聞かれていた。面倒くさかったけど、これも仕事のうちなのかと思って、かなり細かいところまで、正直にお話しした。

 ところがその人、話がだいたい終わったところで、後から入ってきた警備の人につまみ出されちゃったんだ。どうやらあの聞き取りは国から正式に依頼を受けた物ではなくて、なんて言うのかな、功績を挙げた聖女と王子に取り入ろうという、思惑があっての行動だったらしい。

 あれにはちょっとびっくりしたけど、王族としてのジークの力が、そのくらい回復している、ってことなんだろう。


 あ。そういえば。

 さっきジークから、パーティーが終わったら相談ししたいことがある、なんて言われてたんだよね。相談って、何のこと? と聞いたら、これからのことについて、とだけ言われた。あの時は、これからどうやって元の世界に戻してくれるのか、を説明してくれるんだと思って、ふんふんうなずいてたんだけど……。もしかしたら、違うのかも。


 たとえばだけど……「これからもパートナーとして、私を支えてほしい」、なんて言われたりして……。


 いや、パートナーって言っても、そういう意味じゃないよ。ほら、仕事上のパートナーという言い方もあるでしょ。そういうこと。この国では、聖女というのはそれなりの権威があるんだそうだ。そんな聖女が彼の近くにいれば、彼の王位継承にもプラスになるはず。だからこれからも、近くにいてほしいと、そういうこと。いや、近くにって、そういう意味じゃなくてね……。


 でも、もしも本当にそんなことを言われたら、どうしよう。


 元の世界に帰りたいという気持ちは、もちろんある。こっちは基本的に文明が進んでいないから、何をするにも本当に不便。その上、元の世界には、家族も友人もいる。まだ一ヶ月ちょっとしか味わえていなかった大学生活にも、すっごい未練がある。

 けど、ジークやトライデンやエイブラム、それにまあハイラインも入れてあげてもいいけど、この人たちと一緒にいたい、という思いがあるのも確かだった。彼らは、決して短くはない旅路を共に旅して、魔王なんてとんでもない敵を相手に共に戦ってきた、仲間なんだ。

 これほど濃密な時間を共に過ごした人って、元の世界ではいなかったと思う。そんな人たちと、この先も一緒に頑張っていけたら……。


 ──また、ガラスの割れる音が響いた。


 あれ、今度はジークだ。ジークもトライデンと同じように、グラスを落っことしたよ。彼があんなミスをするのは珍しいな。よっぽどお酒を飲んだんだろうか。彼自身、割れてしまったグラスを見て、呆然としているみたい。

 そんなジークの姿を眺めているうちに、私はなんだか、笑いがこみ上げてきた。


 まあ、どうでもいいか。


 さっきとおんなじ感想みたいだけど、中身は全然違った。こっちのどうでもいいは、「どちらも素敵で、素晴らしい」ってこと。どっちの道も魅力的で、選びぶことなんてできない、という意味だ。どちらを選んだとしても、たぶん私は、後悔なんてしないと思う。

 だったら、これからどうするかを、無理に決めなくてもいい。どっちになっても、ハッピー・エンドは決まっているんだから。

 私は上を見上げた。そこには青空はなく、石造りの天井と豪華そうなシャンデリアが目に入るだけだったけど、まあここでいいや。私は肩まで伸びた髪を掻き上げてから、ちょっと気取った感じの動作で、グラスの中身を飲み干した。そしてグラスを掲げて、


「これで、ハッピー──」


 言葉が、途中で途切れた。


 手にしたグラスが滑り落ち、床に落ちていくのが見えた。そしてまたまた、ガラスの割れる音が響いた。





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