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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第5章 魔族の街

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64 しばらくの暇乞い

 こうして私たちは、その日のうちに『汚れの森』の調査へ行くことになった。


 予定外の行程だったので、まずはアイトイの街で食料などの物資を補充。それから、ホロイズから報酬の地図も受け取った。まだ依頼を達成したわけではないんだけど、私たちを信頼してますよという、ホロイズなりのサインなんだろう。

 その地図には『汚れの森』の位置も書いてあった。それによると、この森はヘリータウンとアイトイのちょうど真ん中あたり、王国と魔王国との国境線付近にあるらしい。二つの街の間は三日から四日程度の距離があるんだけど、これは道が大きく曲がっているためで、直線距離だと二日程度になるみたい。その直線の真ん中に、問題の森があるんだ。

 それから、これも予定外だったんだけど、依頼人のホロイズ自身が、私たちについてくることになった。


「森の位置は地図でおおよそわかると思いますが、周辺が元々どうなっていたかを知る者が、ついていったほうが良いでしょう。私は、あそこが『汚れの森』と呼ばれていなかった頃には、何回か訪れたことがあります」

「でも、だいじょうぶなん? 魔物や、もしかしたらアンデッドが襲ってくるかもしれんで?」

「こう見えても、昔はよく、魔物などと戦っていましたからな。特に火属性と土属性の魔法の腕は、なかなかのものと自負しております。あなたがたのお荷物にはならないと思いますよ」


 私としては、戦う力もそうだけど、単純に歩いたり逃げたりするスピードや体力の方が心配だった。どうしても、足が悪かったおじいちゃんのことを思いだしてしまうんだよね。そんな人を連れて魔物のいる山の中を歩くなんて、ちょっと怖かったんだ。

 けど実際に歩き出してみると、ホロイズは意外と健脚だった。また、戦いの腕も本人の申告通りたいしたもので、たまに襲ってくる魔物に対して、サンドアロー等の魔法を放っていた。エイブラムが「一流の術者というのは、本当みたいですね」とほめていたほどだ。


 とはいえ、途中の道中では出てくる魔物はさほど多くはなかったし、アンデッドも見かけなかった。アンデッドと『汚れの森』は関係がないのか、それとも既に二回もアンデッドが街に攻め込んだので、弾切れになっているのか。いずれにしろ、一日目の旅程は特に問題もなく終わった。

 テントを張ったのは問題の森ではなく、そこから小さな山を一つはさんだ手前の場所。問題のありそうな場所で夜を過ごすのは、さすがに危ないからね。ホロイズの出発準備のため、朝一には街を出られなかったので、時間的にもちょうど良かった。それぞれにテントを張り、夜の見張りの順番を決めてから、各自眠りについた。

 私の夜番が終わってトライデンに引き継いだ後、私はすぐにテントには戻ろうとはせず、テントとは反対の方向へ歩き出した。


「あれ、どこに行くんだ?」

「ちょっと、お花を摘みに」

「こんな夜中に花なんて……あ、いや、そうか。気をつけてな」


 トライデンは途中で意味に気づいたらしく、ドギマギしながらこう声をかけてくれた。「お花を摘む」という言い回しはこの世界にもあるらしいんだけど、けっこう上の方の階級での習慣らしくて、トライデンは最初、知らなかった。これまでに何回か使ってきたので、彼も覚えてくれたようだ。

 まあ、相手がトライデンで良かったかも。これがエイブラムだと、「夜は危ないので近くまで一緒に行きます」、なんて言いかねないからね。


 私はテントから少し離れたところまで来て、立ち止まった。ちょっとだけ時間をおいて、ぱっと振り向くと、そこに一人の男が現れた。クセ毛の黒髪が特徴的な魔族の男、ハイラインだった。


 ◇


 私の前に現れたハイラインは、手を胸に当てて、うやうやしく一礼をした。


「とうとう私の行動までも、予測されるようになりましたか。さすがは、聖女様です。私はあなたに、この身も心も捧げ──」

「いや、今のは単なるヤマカンやで。そろそろ出てくる頃かな、と思っただけや」


 私はハイラインのいつもの賛辞を軽く流して、


「で、さっそくで悪いんやけど、汚れの森っちゅうところで何が起きてるか、あんた知っとる?」


 この質問に、ハイラインは申し訳なさそうに首を振った。


「残念ながら今回は、たいした情報はつかめておりません。わかっているのは、そこにアンデッドがたむろしていること、そしてどうやら、それらのアンデッドがそこで生まれているらしい、と言うことだけです」

「いや、そこまでわかれば十分やで。そこに何か問題があるのは、間違いなさそうやから。いつもありがとうな」


 私はお礼を言ってから、


「ところでやな。こっちから聞いといてなんなんやけど、どうしてそんなことまで知っとるん? まさか、この大陸のすべての場所のことを知っとるわけでもないんやろ?」

「まさか、違いますよ。予め、調査していたのです。聖女様が、次に訪ねる場所なのですからね。調べておくのは当然です。ただ、さきほどの街については、聖女様が進まれる道の途中にありますから、ある程度は調べていたのですが、『汚れの森』なるところへ行かれるのは、私も予想外でした。ですので、調査はしていなかったのです。

 そのため、今日になってから急ぎ子供たちを向かわることになり、十分な調査結果が出るまではいかなったのです」

「あー、そういうことか。それはすまんかったなあ……けど、これも今さらの質問かもしれんけど、どうしてうちらのことを、そんなにかまってくれるんや? 考えてみたら、うちがしたのはせいぜい、あんたの趣味に文句をいわん、その程度のことやったやろ? 

 その後からうちのことをいろいろと調べたのかもしれんけど、最初はほんとに、それだけの話やった。なのに最初から、うちに身も心も捧げる、なんて言うてた。あれはどうしてなんや?」


 この質問をすると、ハイラインは私から視線を外した。


「どうやら聖女様は、わかっておられないようです。いえ、あなたのような心優しい方には、理解できないことなのかもしれません。かつての魔王国で、私のような趣向を持つ者が、どんな扱いをされてきたのか、など」


 そして、どこか遠くを見るような目つきになって、


「異性ではなく、同性に対して性的な興味を抱く。ただそれだけの理由で、私は投獄され、財産を没収されました。やっと牢を出た後も、友人や家族からは絶縁され、もちろん仕事も失いました。

 性的な興味と言っても、私は別に、肉体的な関係を結んだわけではないのですよ。同性に異性の格好をさせたり、空想上の関係を楽しんでいただけなのです。

 ですが、当時の魔国王ジョザイアは、そうした面には非常に厳しい人間でした。そして、彼の価値観・信念に反する者を排除し、迫害しました。まわりの上層部もそれに付き従うものばかりとなり、迫害は苛烈なものになっていきました。

 そのために、私は魔王国を脱出し、カーペンタリア王国へ渡らざるをえなくなりました」


 私は思い出していた。そういえば元の世界でも、そんな話を聞いたことがある。日本では昔、公家や僧侶や武士の間で、「衆道」は当たり前のように行われていたらしい。仏教や神道が男色を禁じていなかったからかもしれないけど、これって、考えてみるとけっこうすごいことだよね。

 けど西洋では、話が違った。キリスト教が男色を罪としていたから、社会的にも罪とされていたんだ。この罪ってのは道徳的にダメという意味じゃなくて、刑法的にアウトってこと。

 アラン・チューリングという、初期のコンピュータ開発で業績を残したり、第二次大戦でナチスドイツの暗号を解読するのに貢献したすごい学者さんがいるんだけど、この人も同性愛の罪で逮捕されてたな。中世じゃなくて、20世紀も後半のこと。彼は有罪になり、投獄の代わりに女性ホルモンを注射する、というわけのわからない措置をされ、しばらくして自殺してしまった。

 亡くなってかなり経ってから、恩赦みたいな事をされてたらしいけど、死んでからそんなのをされても、意味はないよね。

 この世界が、LGBTQ的なことにどんな価値観を持っているのか、私は知らない。けど、地球よりも理解があるとは、ちょっと思えなかった。もしも、元の世界で言う中世ヨーロッパに近いものだとしたら……ハイラインの境遇は、かなり厳しいものだったんだろう。


「そっかあ。いつものあれは、上っ面だけの軽い褒め言葉と思ってたけど、そうでもなかったんやね」

「わかっていただけたようで何よりです。実は、ここの街長のホロイズも、私と似たような境遇なのですよ。彼もかつては、魔王国で要職についていた身なのです。

 ただし、彼がそこから追放された理由は、私のような趣味を持っていたからではありませんがね。王に向かって諫言を繰り返したため、それを嫌った王とその側近が、適当な理由をこじつけて、政府内から追放したのです」


 ああ、そういえばホロイズも、自分でそんなことを言ってたっけ。

 少しの間、沈黙が続いた。やがて、ハイラインは私に視線を戻すと、わずかに姿勢を正して、こんなことを言い出した。


「……まあ、それはそれとして。

 今回私が参上しましたのは、『汚れの森』の情報のためだけではありません。聖女様に、お伝えしておきたいことがあったのです。

 あの森で起きていることの詳細は不明ですが、敵がアンデッドのたぐいだとすれば、聖女様の敵ではないでしょう。それがどのようなものであっても、あなた様の光魔法の前には無力なはずです。

 ですので私は、ここでしばらく、お(いとま)をいただければと思っております」

「え? お暇言うても、うちは別に、おたくのご主人様ってわけやないんやけど……それはともかく、何かあったん?」

「はい。これから魔王国の王都アムダリヤに向かい、その内情を探ってこようと思います」

「アムダリヤ? でも、アムダリヤに行くのなら、うちらと同じやんか。一緒に行けばいいのに」

「いえ。私が向かいたいのは、魔王との戦いの場ではありません。魔王国の政権内部や有力な地方領主、そして市井の市民たち。彼らの動向や内部事情を、探っておきたいと思っているのです。

 聖女様、あなたはこれから、魔王と戦うことになるでしょう。そしてあなたなら、間違いなく魔王を倒せると、私は信じております。が、魔王が倒れたら、これも間違いなく、魔王国内は大混乱になるはずです。

 魔王を失った時に、魔王国の内部はどう動くのか。それを予め、つかんでおきたいのです。そしてできるなら、少しでも良い方向に動かすことができれば、と」


 ハイラインは、自分は魔王国で迫害され、追い出された身だと言っていた。けど、そうなったのはそのころの国王の影響が強かったせい、とも付け加えた。ということは、彼は魔族全体に恨みがある、というわけでもないんだろう。

 私が本当に魔王と戦うことになるか、そして勝てるかなんてまだわからないけど、魔王国がカーペンタリア王国との戦いによって重大な岐路に立っているのは、たぶん間違いない。いざそうなってみると、彼も自分の故国のことが、心配になってきたのかな。


「そっか。ちょっと寂しくなるけど、そんな理由ならしゃあないなあ。気いつけて行ってきてや」

「ありがとうございます。私は

「ありがとうございます。聖女様も、お気をつけて。

 この先どのような戦いがあるかはわかりませんが、必ずまた、どこかでお会いしましょう」

そして、必ずまた、お会いしましょう」

「そやな。絶対やで」


 ハイラインはうなずくと、改めて片手を背中に回して、大げさな礼のポーズをとった。その瞬間、彼の姿はかき消え、同時に一切の気配も消え去った。




 作者より、ちょっとだけお知らせです。

 このところ、水・金・日の週3回のペースで更新してきましたが、次回からは毎日更新に戻る予定です(もしかしたら、金曜でなく土曜からになるかも)。そんなに長い期間にはならないと思いますが、引き続きよろしくお願いします。



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