63 バレバレの行動
次の朝。というか、ゾンビ騒ぎから数時間後の朝。目を覚ますと、昨日の騒ぎが嘘のように、部屋の中は明るさで満ちていた。
窓の木戸を開けてみると、空はきれいに晴れ渡っていた。ちょっと気分良く起きあがり、一階にある宿の食堂に降りていく。ジークとエイブラムはもう、朝食の席についていた。私も彼らに並んで、食事を取った。少し遅れて起きてきたトライデンは、体の節々が痛い、と顔をしかめていたけど、とりあえずヒールをかけてあげたら、だいぶ楽になったみたいだった。
ただ、彼の体がちょっと匂っていたのは、魔法ではどうにもならなかった。ゾンビ軍団に突っ込んで肉弾戦を挑んでいったんだから、当たり前だけどね。一応、あの後は体を洗ってからベッドに入ったはずなんだけど、それくらいでは追いつかなかったみたい。
それにしても昨日は驚いたなあ。一日に二回もアンデッドが襲ってきて、それと戦う羽目になるとは……。どうしてこんなことが起きたんだろう。エイブラムに訊いてみたけど、やっぱり彼にも、見当はつかないようだった。
食事を終えて部屋に戻り、今日はどうしよう、すぐに出発するか、それとも昨日の二度の騒ぎがあるから、一日休んでから街を出ようか……とみんなで相談していたら、宿のご主人がやってきて、街長が来ている、と教えてくれた。
再び食堂に降りると、私たちを見たホロイズが丁寧にお辞儀をした。
「昨日は、二度までもアンデッド討伐にご協力をいただき、どうもありがとうございました。おかげさまで、街の皆も安心して眠ることができたでしょう」
「ええってええって。昨日も言うたけど、こういうのはもちつもたれつや。それに、ああいうのって、後始末の方がけっこう大変なんやろ? がんばってな」
「はは、ありがとうございます」
ホロイズが苦笑混じりに答えた。街や街道の近くに現れたアンデッドって、倒して終わりじゃないんだよね。なにしろ、もともとが腐った死体なので。臭いとか、もしかしたらヤバい菌とか寄生虫とかを持っているかもしれないから、ちゃんと処分をしておかなければいけない。私たちもさすがに、そのあたりを手伝いうつもりはないからね。
討伐の報酬については、まあ昼間のやつとコミってことで気を使わなくていいよ、とこっちから言ってあげた。そうしないと、気を使われそうだったから。けど、そう言われたホロイズは、ちょっと決まり悪げな顔つきになって、
「ありがとうございます。実はですね……今日こちらにうかがったのは、少々ご相談があったからなのです。あなたがたの腕を見込んで、依頼したい件がありまして」
「依頼したいこと……って、やっぱりアンデッドがらみのことなんか?」
「はい。ここから南に行ったところにあると言われる『汚れの森』、その調査に同行していただけないでしょうか」
◇
そうして、ホロイズが説明したところによると──。
『汚れの森』というのは正式名称ではない。それどころか、昔はそんなものは無くて、かなり最近になってからそう呼ばれ始めたものらしい。そのきっかけは、名前からも想像できるとおり、アンデッドがらみだった。
魔物や獣を狩るために南の森に入った冒険者が、その付近を徘徊するアンデッドの姿を目撃することが、たびたび起きていたんだ。そのため、冒険者の間で「あのあたりには気をつけろ」という意味合いで、「汚れの森」と呼ばれるようになったんだそう。
ただし、そのころは街を襲ってくるようなことはなくて、森の中をたださまよっているだけだった。目撃されたのもほとんどが1体だけだったので、ゾンビの群れがいるとは思わなかったという。
「そのあたりって、何か謂われみたいなもんがあるんか? 例えば、その昔に戦があってたくさんの遺体が眠ってるとか、魔物の大きな巣があって、それを討伐した時の死体が放ってあるとか」
「いえ。そのような話は聞いておりません。アンデッドが現れたのは、最近になってのことなのです。それまでは、せいぜいオーク程度の魔物が現れるだけの、ごく普通の森でした。昔、何か事件があった、ということはなかったはずです」
「あ、そやった。それって最近の話やったっけ。
ともかく、どういうわけかそのあたりからアンデッドが湧くようになったみたいやから、その森が実際にはどうなっているのか調べてほしい。っちゅうことやね」
「そのとおりです。出てくる相手がオーク程度であれば、この街の者でも十分対応できるでしょう。酔っ払ってさえいなければ、ですが。しかし、もしもトロールなどに出てこられたら、ここの者ではとても太刀打ちできません。あの周辺がどうなっているのか、今のところ想像もつかないため、できればご協力をお願いしたいのです」
「なるほどなあ……どうする?」
最後の言葉は、ジークたちに向けてのものだった。
断るという選択肢も、もちろんあった。私たちの目的は、魔王と戦って倒すことだ。行く先々での面倒ごとを解決することじゃない。そもそも最初の予定では、こんな街に寄るつもりはなかったんだし。
とは言え、そこに苦しんでいる人がいるのなら、そして私たちにそれを解決できる力があるのならば、力を貸してあげたい。たとえここに住んでいるのがヒト族ではなく、魔族だったとしても。私はそう思ったし、たぶんみんなも、同じように考えてるんじゃないか。そんな感じがしたんだ。
渋い表情を見せながらも、ジークはホロイズに尋ねた。
「その森までは、どの程度の距離があるのだね?」
「そうですね。普通に歩いて、一日程度かと思います」
「所要日数は往復だけで二日、プラス調査にかかる日数、か。何日かかるかわからないのでは、こちらとしても引き受けかねるな」
「いえ、すべての原因を究明していただきたい、とは申しません。例えば、一日だけ現地調査の時間を取っていただき、その調査結果を持ち帰っていただく、だけでもけっこうです。当方としては、とにかく少しでも、現状を把握したいので」
「すると、合計で三日か。うむ……。割けない日数ではないが……」
「あ、そうや。別口での依頼ってなると、さすがに報酬をもらわんとな。そのあたりは、どうするつもりなんや?」
「そうですね。ここから魔王国の王都アムダリヤまでの詳細な地図、というのはいかがでしょう。脇道、抜け道なども載せておりますので、そこを通れば、余計な兵や門番などに見つかる恐れは少なくなるかと思います」
ホロイズの一言に、ジークたちの顔に緊張が走った。この人、いきなり何を言い出すんだ? 兵士から逃れるための道を勧めるなんて、まるで私たちがこれからしようとすることを、知っているかのような……。
ジークは威圧するように、ホロイズをにらみつけた。
「……なぜそんなものが、報酬になると思うのだ?」
ホロイズは平気な顔で答えた。
「私の勘違いでしたら、申し訳ありません。ですが、昨日のあなたがたの行動を見て、もしかしたらあれが役立つのでは、と思ったのです。
昨日、トロールゾンビとの戦いで助けに入ってくださった際、あなたがたは南の方角から駆けつけてこられました。この街を通って南へ行き、引き返されたのではありません。しばらく前から、我々は南門の前で、アンデッドの動きを監視していたのですからね。つまりあなたがたは、南のカーペンタリア王国の方角から来られたのです。
また、アンデッド退治が終わり、ここに泊まっていったらどうかとお誘いした時も、迷っておられるようでした。あの時刻であれば、街で一泊するのが普通でしょう。何かそうしたくない理由、例えば街の役人や兵士などに顔を合わせたくなくて、ここを素通りしたかったのでは。そう考えたのですよ」
ホロイズは微笑んで、こう続けた。
「念のため申し上げておきますが、私はあなたがたの事情を伺おうなどとは思っていません。こういう辺鄙な街ともなると、いろいろな事情をお持ちの方が訪れるのですよ。例えばですが、王都での混乱を嫌って、ここへ逃れてきた者も多い。実は私も、そうしたうちの一人でした。まあ、混乱を嫌ったというより、混乱の末に追い出された、が正しいのですがね。
もちろん、それが単なる犯罪者やならず者なら、私も便宜を図ったりはいたしません。ですが、昨日と昨晩の行動を見れば、あなたがたがならず者などではないことは、誰にでもわかるでしょう」
私は思わずうなってしまった。そうかあ。言われてみれば、私たちの行動って、意図がバレバレだったのかもしれない。もっと気をつけないと。
ジークはしばらく考えていたけど、目線とうなずきで私たちに確認をした後、こう答えた。
「わかった。あなたの依頼を、受けることにしよう」




