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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第5章 魔族の街

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62 三度目のゾンビ

 その夜。


 宿のベッドで眠っていた私は、夜中に変な音でたたき起こされた。気がつくと、それは家の外から聞こえてくる、鐘の音だった。私はうつらうつらししながら、あれ? と思った。これって、なんだか前に、似たようなことがあった気がするんだけど……。

 この時、部屋のドアを連続でノックする音が響いて、私はようやく完全に目を覚ました。


「マリー、起きているか!」

「その声は、ジーク? 外から変な音が聞こえてるんやけど、あれってもしかして……」

「うむ、緊急事態を知らせる警報だ。悪いが、急いで出てきてくれ。アイトイの街に何かあったらしい」


 私は大急ぎで着替えを済ませて、ジークたちと一緒に宿を飛び出した。外に出ても、街に灯りはない。これは別に異常事態なわけではなくて、灯りが貴重なこの世界では、これが普通のことなんだ。ただ、細めの三日月だけど月は出ていたので、真っ暗というわけではなかった。薄暗い道を、私たちは鐘の音のする方向へ走って行った。

 鐘が鳴っていたのは、街の南門近くだった。外壁の上には物見のための台がつけられていて、そこには見張りの兵士が一人、乗っている。その人が、台に備え付けられた鐘を打ち鳴らしていたんだ。物見台の下には、既に数人の人が集まっていて、その中には街長のホロイズもいた。


「おお、ジークさん、マリーさん、あなたがたも来ていただけましたか。どうもご苦労さまです」

「ホロイズさんも、お疲れさまやで。早速やけど、いったい何があったん?」

「どうやら南の森から、またもやアンデッドの一団が現れたようなのです」


 ホロイズが答えた。彼の話によると、森の中から十数頭のオークのゾンビが出てきて、街の外壁のまわりをうろついているんだそうだ。

 オークというのは、身長2メートルほどのブタ顔の魔物。顔の印象のとおりにお腹も出てたりして、あんまり筋肉質といった感じの体つきではない。その強さも、初心者や一般人ならともかく、ベテラン冒険者ならそれほどは苦労はしないだろう、その程度の魔物だ。もちろん、不意打ちされたり、取り囲まれたりしたら別だけどね。

 エイブラムはそこがひっかかったらしく、


「オークですか? でもオークって、警報を鳴らすほど強い魔物でもありませんよね」

「本来であれば、そのとおりです。ですが今日に限っては、こちらの戦力が不足しておりまして……」

「ああ。たしかに」


 エイブラムはうなずいて、トライデンの方をちらっと見た。トライデンの顔色は、明らかに二日酔いで調子が悪い人のそれだった。ここまで駆けてくる時も、私よりも遅れて一番後ろを走っていたし、今もまだ、しんどそうに顔をしかめている。

 しかもそれは、トライデンだけでなかった。ホロイズの横にいる数人の兵士たちも同じだったし、ジークだって、顔には出さないようにしてるけど、体調自体はあまりよくはなさそう。まさかとは思うけど、こんなところで吐かないでよ。


「油断しましたな。まさか二日連続でアンデッドが襲ってくるなどとは、思っておりませんでした」

「改めて確認しますが、このあたりってアンデッドが多いんですか?」

「……いえ。以前までは、こんなことはありませんでした」


 ホロイズは首を振った。答えるまでにちょっと間が開いたのが気になるけど、やっぱりこれは異様な事態らしい。


「この外壁がありますから、すぐに侵入されることはないとは思います。ただ、オークのアンデッドというものが、どの程度の知能を持っているのかがわかりません。アンデッドではない通常のオークであれば、なんとか足場を作って壁を乗り越えようとするでしょう。それを考えると、ただ放っておくのも危険と判断して、警鐘を鳴らしたのです」

「確かにそうやな。オークって顔はブタやけど、知能はそれなりに高い、って聞くもんな」


 まあ、ふらふらとさまよい歩くゾンビを見ている限りでは、ほとんど知性っぽいものを感じない。けど、たとえば瞬間的に理性を取り戻して壁を登ろうとする、なんてこともないとは言えないだろう。私もそこまで、ゾンビに詳しいわけでもないし。


「しゃーないなあ。ここにいる人だけでも、酔いを覚ましとくか。あれくらいの数のオークなら、これだけの人数がいれば、なんとかなるやろ」

「そんなことが可能なのですか?」

「今までやったことはないんで、たぶん、やけどな。まずは、一番ひどそうなトライデンからや」


 私はトライデンに近づいて、呪文の詠唱を始めた。


「<差異はおのれの概念を見いだす

  そしておのれの直感を見いだす

  初期条件と特異性は失われ

  時間の深さが空間領域の代替となり

  差異は自ずから消え去る>


  ……<キュア>!」


 使ったのは、キュアの呪文だ。酒酔いとか二日酔いって、アルコールという毒物の中毒症状みたいなものだよね。それなら、状態異常を治す魔法でいいだろうと思ったんだ。

 魔法をかけてみると、トライデンの顔はだんだんと赤味が引いていき、アルコールの解毒はうまく行ったような感じがする。ただその表情は、ちょっと戸惑っているような感じで、シャキッとはしていない。これで魔物と戦わせるのもちょっと不安なので、元気づけの魔法もやっておきましょうか。


「<近くと遠く 内と外 問いと答え

  それは潜在的な極性を再生させ

  排中律の論理から脱出させる

  内部と外部の接触は常に自らに回帰し

  距離とは無関係に

  自らの立場を強化する>


  ……<ブレイブ>! これでどうや?」


 今度は、ブレイブの魔法を使ってみた。ブレイブというのは、戦いの時などに味方の兵士にかけて、士気を鼓舞する魔法なんだそうだ。王都にいるころに習ったんだけど、今までは使う機会がなかった。だから、この際ちょっと試してみようかな、という考えもあった。

 今度の魔法の効果は、一目瞭然だった。トライデンはかっと目を見開くと、いきなり門に向かって駆け出した。そして、どんどんと門を叩いて、


「おおおお! ここを開けろ! 今から俺が外に出て、魔物たちを成敗してやる!」

「あ、ちょい待ち! これからみんなの状態異常も治すから、外に出るのはみんなそろった後で──」


 私はあわてて止めようとしたけど、トライデンは叫び続け、ドアを叩き続けた。その勢いに押されたのか、兵士の一人が門の脇にある、小さな出入り口の扉を開けた。それを見たトライデンは再び駆け出して、扉の外に出てしまった。


「ちょい待ち! ちょい待ちって!」


 私、エイブラム、ジークは、あわてて彼の後に続いた。けど、私たちが扉の外に出た時には、それはもう始まっていた。

 トライデンはすさまじい勢いでゾンビの群れに飛びかかると、力任せに切りつけて、数体のゾンビを一太刀で両断した。生者の動きに反応したのか、他のオークゾンビがトライデンの方に寄っていくけど、近づかれるよりも早く、トライデンはゾンビたちに次々に一撃を与えていく。そして文字どおり、ばったばったと切り倒していった。

 それを見たエイブラムがつぶやいた。


「すごいですねえ。相手がオークとは言え、あっという間です」

「そうやなあ。あのブレイブって魔法、戦意を高揚させるだけ、って聞いてたはずなんやけど」

「同じ魔法でも、聖女様が唱えると違う効果が加わるのではありませんか?」


 いやそれはないでしょ、と答えたかったけど、目の前の光景を見ていると、そうとも言い切れない気がしてくる。それにしても、あれだけ暴れ回って、だいじょうぶかな。なんていうか、肉体的なリミッターが外れたような状態にも見える。もしかして、魔法が切れた後でダメージが来たりしないかなあ。

 その上彼は、飛び散る腐肉や腐敗液もまったく気にしていない。服や装備にあれがかかると、清掃や洗濯が面倒なんだよねえ。正気に戻ったら、いろいろな面でダメージがありそう。うん、次からは、使う時は気をつけよう。

 と、私が反省していると、トライデンの動きを感心して見ていたジークがつぶやいた。


「おや? あの個体は……」


 ジークの視線を追ってみると、トライデンが肉弾戦を演じている場所から少し離れたところに、一体のオークが立っていた。もちろん、こいつもゾンビなんだけど、何やらこいつからは、魔力の高まりのようなものを感じる。トライデンの動きに気を取られていて気がつかなかったけど、どうやら魔法を詠唱しているみたいだった。


「どうやら、オークメイジのようだな。それらしい装備をつけていないので、気がつかなかった」

「トライデン、気いつけて!」


 オークメイジの前に、炎が浮かび上がった。もう詠唱は完了間近らしく、リフレクトの魔法は間に合いそうにない。私は注意の声を上げるしかなかった。その直後、オークメイジの魔法が発射された。炎が一本の槍のような形にまとまり、標的目がけて飛んで行く。標的はやはり、一番目立っていたトライデンだった。

 そのトライデンは、ちょうど近くにいたゾンビの最後の一体を切り捨てたところだった。すぐに魔法に気づいたけど、もう炎の槍は発射されて、彼の目の前まで迫っている。トライデンは手にしていた盾を構えて、着弾に備えた。かに見えた。けど、ブレイブの効果が体に染み渡っているらしい彼がしたのは、それだけではなかった。


「うおおおおー!、シールド、バッシュー!」


 魔法の炎に向けて、トライデンは自身の体ごと、盾を突き出した。炎と盾が、ほんの一瞬だけ拮抗する。そしてなんと、炎の方がはじきかえされ、術者であるオークメイジに向かって走っていった。魔法が命中した魔物の体は炎に包まれ、オークメイジはボオォ、と奇妙な鳴き声を上げ、体をねじりながら地に倒れた。


「やった、やったぞ! とうとう、シールドバッシュで魔法をはね返すことができた!」


 これまではできなかった、魔法をはね返すシールドバッシュ。今回初めて、それができるようになったらしい。トライデンは大はしゃぎで、何度も自分の盾を突き上げ、ダンスのステップを踏むように、小さなジャンプを繰り返した。


 後からトライデンに聞いてみたところ、最初のキュアの魔法だけで、二日酔いは治っていたらしい。ちょっとぼうっとしていたのは、睡眠不足でそもそも眠たかったのと、体調が急に変わって、何が起きたのか戸惑っていたから、だそうだ。やっぱり、ブレイブは余分だったみたい。ちなみにやっぱりというか、魔法が切れた後、けっこうきつめの筋肉痛になってしまったそうだ。

 それから、魔法をはね返すシールドバッシュのほうだけど、あの後、練習用に軽めの攻撃魔法で試してみたところ、できなくなっていた。こっちは、もしかしたらブレイブのおかげで成功したのかもしれない。うーん、良かったのか悪かったのか。

 まあ、結果良ければすべて良し、かな。そうしとこう。




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