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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第5章 魔族の街

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61 ヒト族と魔族

「今、帰ったどー」


 こんな声を上げながら、飲み会上がりのジークとトライデンが帰ってきた。


 トライデンのやつ、かなり酔っ払ってるな。上機嫌で鼻歌を歌いながら、ジークと肩を組んでる。っていうか、ほとんどジークに支えてもらってるぞ。王子様相手にあんなことするなんて、たいしたやつだね。まあそれだけ、お互いに気心が知れてきた、ってことなんだろう。

 ただ、さすがにジークの方は、ちょっと苦笑いをしていみたい。庶民の酔っ払いってこんな感じになるんだ、なんて思ってるのかもしれない。


 トライデンをベッドのところまで連れていったあと、ジークは私たちが座っている小さなテーブルの方に向かってきた。

 あ、ちなみにだけど、部屋はちゃんと男女別にとってくれてたよ。今いるのは男性用の部屋で、そこで私はエイブラムと話してたんだ。これまでの街でも、男女別で取ってました。基本、旅の経費は王国持ちで、お金のほうはそんなに困ってはいないので。

 ジークが私の前の椅子に座ったので、私はテーブルに置かれていた水差しの水を木製コップに注いで、ジークに勧めた。


「お疲れさん。宴会の方は、どうやった?」


 ジークはコップを受け取ると、ベッドのトライデンに視線をやった。


「どうもこうもない、みんなあんな感じだ。飲んで、騒いで、大声で歌って……実に楽しげだったよ。その中で一番騒いでいたのは、トライデンだったかもしれないがね」


 ジークは、コップの中身を一気に飲み干した。そして、空になったコップを見つめながら、こう言った。


「魔族というものも、意外と、ヒト族と変わらないんだな」

「そりゃそうやろ。魔族いうても、おんなじ『人間』なんやから」


 前にも言ったと思うけど、魔族とヒト族の違いは、髪と目の色くらい。だからこそ、こうして目と髪の色を変える魔道具だけで、魔族の中に入り込むことができているんだ。生物としての(しゅ)が違うわけではなくて、元の世界で言えば、せいぜい人種レベル、もしかしたら民族レベルの違いしかないんだろう。

 実際、カーペンタリア王国と魔王国の国境付近の街では、魔族とヒト族の混血の人もいるらしいし。


「もちろん、私もそのことを知ってはいた。が、知っているのと、実際に接して感じるのとでは、やはり違うようだ。歓迎のされ方、距離の詰め方、酔っ払い方、酔っ払いの笑い方、愚痴の言い方……魔族は、私が思っていたよりも、『人』だった」


 ジークはかすかに笑みを浮かべた。そして今度は私に視線を移して、


「君がいた世界ではどうなんだ? 魔族のような者はいないのか?」

「魔族、って呼ばれる人はおらんね。向こうにはそもそも、『魔力』なんてものはないんやから。けど、肌や目や髪の色、顔つきとかが違う『人種』はおる。暮らし方や考え方、宗教なんかも違うから、仲が良かったり、悪かったもするなあ」

「戦争はなかったのか?」

「あったなあ。いっぱいあった。けどまあ、一般的な常識っていうか、これが正しいっていわれる考え方としては、人種が違うそのことだけで、その人たちを悪と決めつけてはあかん。そんな感じに、思われてるんやないかな」

「……そうか」

「まあ、そうは言うても、実際にはいろいろとあるんやけどね」


 私は最後に、ちょっと言葉を濁してしまった。実際、こっちの世界と元の世界のどちらの戦争が悲惨かと言われたら、たぶんだけど、元の世界の方だろう。総力戦とか、民族浄化とか、核とか。だからあんまり人のことは言えないな、と思ったんだ。

 だけどジークは、濁す前の私の言葉に、考え込んでしまったようだった。再びコップを見つめて、しばらく沈黙した後、絞り出すような声でこう言った


「……だが、今はすでに、戦争が起きてしまっているのが現実だ。私にできるのは、最も少ない犠牲で戦いを終わらせること、それくらいだろう」


 ここでジークはがらりと口調を変えて、


「ところで、先ほど戦ったゾンビについてなのだがね。私は、トロールだけでなく他のゾンビどもも、その多くは以前サウロイールの街を襲った個体ではないか、と判断した。君たちはどう思った?」

「ぼくもそう思いました。ゾンビの群れなんて、そんなに見ることはありません。特にトロールのゾンビは、単独でも滅多にいませんから」

「うちも同じやな。やっぱあの時、ついでにとどめをさしといたほうが良かったんかねえ」

「当時の判断の是非については、今はおいておこう。ただ、少し気になることがあるんだ。あのゾンビたちは、なぜこの街を襲ったのだろう?」

「へ? でもゾンビって、そういうもんなんやろ?」


 私の反問に、ジークは首を振った。


「いや、街を襲ったこと自体が不思議だと言っているのではない。生ける者を襲って食らおうとするのは、アンデッドの通常の行動だからな。しかし、サウロイールからここまでは、マイカウンドやヘリータウンなど、いくつかの街があった。が、どの街でもそのような話はまったく聞かなかったし、そんな気配さえなかった。

 ゾンビたちはそこを素通りして、わざわざこの街まで来ているんだ。これはどうしてだと思う?」


 ジークの視線は、エイブラムに向かった。この中では、彼が一番、死霊に詳しそうだものね。けど、エイブラムは首をかしげて、


「うーん。トロール以外の下位のゾンビについては、上位のゾンビについていっただけかもしれません。アンデッドの群れがたまに見つかることがあるのは、そういう習性があるためだ、と考えられていますので。

 けど、ではそのトロールがなぜこの街に来たのかと言われると、ちょっとわかりませんね。サウロイールを襲った時は、死霊術を使うリッチがいましたから、そいつに指示されていたんでしょう。けど、今はそのリッチもいないわけですし……」

「指示していた死霊術師がいなくなったら、普通はどうなるんや?」

「トロールについてはよくわかりませんが、人のゾンビの場合だと、生前の記憶に影響されることがあるみたいですね。例えば、自分が生前、住んでいた場所に戻ろうとするとか。そのころ愛していた、あるいは憎んでいた相手の元に行こうとするとか。

 住んでいた場所ではなくて、自分が死んだ場所、つまりゾンビになった場所に戻ることもあるようです。この場合は生前の記憶というより、ゾンビとしての記憶というか本能的な何かが、影響しているのかもしれません」

「ふむ。するとあのトロールは、このあたりで生活していた、あるいはゾンビになった可能性もあるのかもしれないな」


 ジークはうなずいた。

 けれど、さすがにエイブラムも、これ以上のことはわからないらしかった。もうしばらく話したところで、今夜はお開きとなり、私は自分の部屋に戻ることにした。部屋を出る前に、ちらっとトライデンのベッドに目をやった。

 トライデンはすっかり眠りに落ちていて、大きく口を開けながら、ベッドの上でいびきをかいていた。




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