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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第5章 魔族の街

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60 歓迎の宴

 結果だけ書いてしまうと、私たちは無事、アンデッドの群れを退治することができた。


 意外と、苦戦はしなかった。トライデンのシールドバッシュで敵の攻撃を防ぎ、ジークの魔法剣とエイブラムの火魔法で敵にダメージを与えるという必勝パターン。それがゾンビ相手にはうまくはまったというのもある。けど、それだけじゃないような気もした。

 私たちを見た途端、トロールを初めとした全部のアンデッドがおののいたというか、なんだか腰が引けたような感じになったんだ。もしかしたら、以前に光魔法を使った術者たちの顔を、覚えていたのかもしれない。ゾンビにそこまでの記憶力がないとしたら、記憶ではなく本能的に、恐怖を感じたのかも。

 原因がなんだったにしろ、そうして浮き足だった相手というのは、戦いやすいものだ。そいつらを倒して回るのは、そこまで難しい作業じゃなかった。


 ただ、私たちはケガなんてしなかったけど、街の兵士や冒険者たちは、傷を負っている人がかなりいた。あれだけの数のベアやトロール、しかも私たちが現れるまでは本気で襲いかかってきていたやつらを、相手にしてたんだからね。ある程度のけが人が出るのはやむを得ない。

 中にはけっこう重傷の人もいたので、私は戦いが終わった後、治療魔法をかけて回った。一応、ジークの了承をもらった上で。ここでも、強めの光魔法を使うのはまずそうだったので、使ったのは初歩のヒールだけ。この程度なら、魔族でも使える人はいるだろう、

 そんなことをしていたら、街の中からちょっと腰の曲がったおじいさんが出てきた。おじいさんは私たち、というか、光魔法で治療をしていた私に近づいてきて、丁寧に一礼した。


「このたびは、この街を危機から救っていただき、ありがとうございました。国境(くにざかい)の街ですので、ある程度の備えはしていたのですが、あんな大きさのトロールが出てくるとは予想外でした。もしもあの魔物に襲われていたら、危なかったでしょう。

 ですが、あなたがたのご助力のおかげで、一人の犠牲者も出さずにすみました。その上、負傷者の治療までしていただき、感謝に堪えません。つきましては、些少さしょうでございますが、心ばかりのお礼を──」

「お気遣い、おおきに。けど、そういうのは別にええんやで。さっきのはこっちが勝手に手を出したんやし、こういうのはなんちゅうか、もちつもたれつなんやから」


 おじいさんが袋に入ったお金らしきものを差し出してきたので、私は笑いながら断った。私たち、お金にはあんまり困っていないんだよね。当たり前だけど、王都を出る際、魔族の国のお金も持たされてるから。

 断られるとは思っていなかったのか、おじいさんは眉を少し上げた。あ、こういうのって、もらっておいた方が変に注目を集めないのか。ちょっとしくじったかな。私はあわてて、


「えーと、そ、それにしてもやな。えらく強いアンデッドやったけど、アイトイって、アンデッドが出ることが多いんか? もしかして、街の外壁がこんなに厚いのは、そのせいだったりするん?」

「……いえ、この街の外壁が強固に作られているのは、ここがカーペンタリア王国との国境に近いからです。国境となると、(いさか)いも多くなりますからな。アンデッド対策のためではありません。

 それはともかく、弱りましたな。これだけのことをしていただいたのですから、当方としては、感謝の意を示しておきたいのです。冒険者の方々に、この街の住人は恩知らずだ、などと思われては困りますからな。

 では、いかがでしょう。今宵、討伐に協力していただいた冒険者の方々への感謝の意を込めて、宴を開きます。その宴に、あなたがたにも加わっていただくというのは? もちろん、宿の方も、当方で手配いたしますので」

「どうする?」


 私はジークを振り返った。ジークは少し考える風だったけど、


「それでは、お言葉に甘えることにしようか。あまりお断りするのも、かえって失礼かもしれないからな」

「ありがとうございます。ああ、自己紹介がまだでしたな。私はこの街の長をしております、ホロイズと申す者です」

「うちはマーサ、っちゅうもんや。よろしくやで」


 私が名乗ると、おじいさんはちょっとだけ目を大きく開いてから、改めて一礼した。


 ◇


「意外と、悪くなかったなあ」


 私がそうつぶやくと、エイブラムもうなずいた。


「そうですね。本当に歓待してくれてる、という感じでした」


 私たちがいたのは、ホロイズにあてがわれた宿の部屋だった。

 さっきまで、ホロイズたちが開いてくれた宴会に参加していたんだけど、早めに抜けて部屋に戻っていたんだ。やっぱり宴会となると、お酒になるでしょ。私もつきあいで少しだけ飲んでみたんだけど、やっぱりねえ。あんまりおいしい飲み物とは思えなかった。

 で、まわりが酔っ払ってくると、さすがにちょっと雰囲気についていけなくなってきて、途中で抜けてきたんだ。私が帰るというと、エイブラムもついてきてしまった。私は一人でもだいじょうぶだから、ゆっくりしていって、と言ったんだけど、


「いえ、ぼくがいるべき場所は、常に聖じ──もごもごもご」


なんて言いかけたので、私が彼の口を押さえる羽目になってしまった。ここまで来ると、さすがに「聖女様」呼びはまずいからね。


 とはいえ、べつに嫌な空気だったわけじゃない。


 ここは大都会ではなく、山の中の小さな街だ。歓待とはいっても、豪華な食事も、高級なお酒も並んではいなかった。こう言ったら悪いけど、ごく普通の料理とごく普通の飲み物が並べられてるだけ。でもそれでも、雰囲気は暖かだった。みんな素直に、魔物を退治できたのを喜び、仲間が無事だったことを喜んでいる、そんな感じがした。

 宴会に参加していたのは、この街の兵士や冒険者、二十人ほど。ゾンビと戦っていた人はもっと多かったんだけど、この街にはそれほど大きな店がないので、何カ所かに分けて、宴会が開かれているらしい。

 当然だけど、私たち以外は全員が魔族だったけど、そんなことはまったく意識にも上らないくらい、ごく普通に話がはずみ、笑い合っていた。


「おーい、いるかー。今、帰ったどー」


 ドアの外から、トライデンの野太い声がした。




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