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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第5章 魔族の街

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59 ゾンビ再び

 ヘリータウンを出た私たちは、再び北へと続く道を進んでいった。


 周囲に見える風景は、これまでとそんなに違っているわけではない。けれども私は、ちょっと緊張を感じながら歩いていた。なにしろ、ここはもう魔王国の領土。カーペンタリア王国との戦争宙で、そこの王様の命を私たちが奪おうとしている、そんな国の中なんだ。そう思うと、さすがにこれまでとまったく同じ心持ちではいられなかった。

 緩い坂道を歩いているのは、私と、ジークと、トライデンとエイブラム。ハイラインはいないけど、いないのも含めて、まあいつもどおりの顔ぶれだった。周囲の風景と同じく、彼らの姿もそんなには違っていない……はずだったけど、私の目に入ってくる姿は、実はちょっとだけ違っていた。


 何が違うかというと、ジークたちの髪の毛が黒くなっているんだ。


 良く見ると、瞳の色も黒くなっている。もちろん染めたわけではなくて、こういうカラーリングというか、変装ができる魔道具があるんだ。魔族に金髪や銀髪の人がいないわけではないらしいけど、数は少ない。そこで、できるだけ目立たないようにという配慮から、この魔道具を使っていた。

 あ、私は元々が黒目黒髪だから、そういう変装はしてません。でも、目や髪の色が簡単に変えられるんなら、その魔道具、元の世界に戻る時に持って帰ってみたいかも。魔力のない世界でも使えるのかどうかは、知らないけど。


 やがて道はちょっと険しめの上り坂になり、また緩い坂になって、丘の上に出た。眼下には、小さな街が見えた。そんなに大きな街ではない。けど、大きさのわりには頑丈そうな城壁で囲まれていた。

 午後も遅めの時間になっているので、今からこの先に進んでも、次の街まではたどり着けそうにない。私は手にした地図──といっても、元の世界のそれとは全然違って、子供のいたずら書きにしか見えない、本当に大雑把な地図──を見ながら、


「あそこに見えるのが、アイトイっていう街やな。今の時刻からすると、あそこに寄っときたいとこなんやけどねえ。ほんまなら」

「そうだな。だが、魔道具で簡単な変装はしているものの、国境の街に見知らぬ冒険者が訪れたとなれば、警戒される可能性もある。念のためあの街は通り過ぎて、宿泊するのは次の街にしよう。しばらくは野宿が続くが、辛抱してほしい」

「ま、しゃあないなあ。もう一踏ん張りといこうか」


 私たちは北西の方を向いて、再び歩き出そうとした。このまま南へ行って山を下りるとアイトイに着いてしまうので、街を囲む山々の稜線沿いをぐるりと大回りして、北へ抜けようというわけだ。

 けどその時、私の後ろを歩いていたエイブラムが声を上げた。


「ちょっと待って。あれ、なんだろう?」


 振り返ると、アイトイの南にある、うっそうと茂った森の中から、何かが出てきた。一見するとベアやウルフといった魔物なんだけど、違う種類の魔物が一緒にいるのが、既におかしい。それに、動き方もちょっとおかしかった。魔物にしてはゆっくりと、そしてちょっとふらつき気味に、街の方に向かっている。

 あの動き、どっかで見たことがあるな……。そうだ、ゾンビだ。どうやら、現れたのは魔物のゾンビらしい。

 アイトイの人たちも異変に気づいたようで、兵士や冒険者の格好をした人たちが数人、門の外に出てきて、魔物の方を指さしながら何か話している。


「そういえば、ここに来る途中の道でも、魔物のゾンビが襲ってきた時があったなあ。魔族の国って、アンデッドが多かったりするん?」

「いや、そんな話は聞いたことがない。山間地が多い分、山の中で自然死する魔物や動物の数は多いだろうが、それはカーペンタリア側でも条件は同じだ。通常であれば、死体はアンデッド化する前に、他の魔物などに食べられてしまうはずなんだが……」


 ジークが首をかしげた。

 そうしている間にも、アンデッドたちは街に近づいていく。街の側も、数十人程度の兵力がそろったようで、隊列を組んでアンデッドに向かっていく。あれだけいれば、あの程度の魔物なら、たぶんだいじょうぶだろう。

 なんて思ったその時、またしても森の中で動きがあった。


「おいおい、あいつもしかして……」


 それを見たトライデンが、眉をしかめた。

 森から出てきたのは、ゆうに5mはありそうな、巨大な魔物だった。その全身にはほとんど体毛はなく、頭のてっぺんに一本の角が生えている。トロールだ。体のところどころの肉は腐り落ちていて、どうやらあのトロールも、ゾンビらしい。

 強力な魔物が出てきただけでもやっかいな話なんだけど、その上にその姿は、どこかで見た覚えのあるものだった。


「なあ、あれって俺たち、一度会ったことがないか?」

「うむ。トロールは強力な魔物だが、数の上では少ない。そのアンデッドともなれば、さらに珍しいものとなる。あれは、私たちがサウロールで遭遇した個体に、まず間違いないだろう」


 ジーンがうなずいて答えた。

 うん、私もそう思う。サウロールの街を襲ったアンデッドの集団、その中にはトロールのゾンビもいた。けどそいつらは、アンデッドを操っていたらしいリッチを倒すと、逃げ去ってしまっていた。あの時は、街を襲わないなら追撃の必要もないかと思って、そのまま放っておいたんだけど、そいつがまさかこんなところに現れるなんて。


「もしかしたらトロール以外のゾンビも、あの時あそこにいたものかもしれませんね。で、どうしますか。アイトイの冒険者や兵士がどの程度のレベルなのかはわかりませんが、単純に兵の数だけで考えれば、あのトロール相手だと、かなりきつそうですよ」

「うむ。そうだな」


 エイブラムの問いに、ジーンは困ったように口を少し曲げた。

 さっきのベアやウルフだけだったら、アイトイの人たちだけでも十分に対処できただろう。けど、トロールが出てきたとなれば話は別だ。ここよりはるかに大きなサウロイールの街の騎士団長でさえ、あのトロールには一撃で倒されていたくらいだからね。たぶんだけど、この街の戦力では、太刀打ちできないんじゃないだろうか。


 でも、私たちが助太刀すれば、またまた話は別になる。


 特に、私が光魔法を使えば、おそらくは一撃で倒すことができるだろう。あのトロールは私の光魔法を見て、あわてて逃げていったんだから。

 問題は、こんなところで光魔法を使ったりしたら目立つことこの上ない、ってことだ。光魔法の使い手は、ヒト族でも多くはないけど、魔族ではさらに少ない。正確には、素質がある人は同じくらいいるんだけど、使いこなせるようになる人が少ないらしいんだ。そのあたりは、種族による得意不得意があるんだろう。

 そこに、あの大きさのトロールゾンビを一撃でやっつけるような術者が、よりによってヒト族との戦争をしているこんな時に国境の街に現れたとなれば、奇妙な目で見られて当然だろう。


 助けるか、スルーするか。


 街の防衛は、基本的には街の領主やそこに住む領民の責任で、私たちが負うべきものじゃない。しかもこの場合、助ける相手は自国の民ではなく、それどころかヒト族でもない魔族なんだ。ジークのそのあたりで迷っているんだろう。

 けど、そうこうしているうちに、ゾンビ集団の先頭は街の外壁近くまでたどり着いて、兵士との戦闘が始まった。トロールもその後ろから、ゆっくりと街に近づいていく。それを見たジークはとうとう、こう言った。


「ここは、助太刀することにしよう。

 あの時、やつらにとどめをささなかったことが、今回の事態に影響したとも言えるからな。こちらに責任があるとまでは考えないが、魔物討伐に協力する程度のことは、してもいいだろう。

 ただし、マリーの光魔法は、使用しないこととする。

 いざとなればその限りではないが、今回はそこまでする必要はあるまい。光魔法抜きであの魔物たちと戦い、退けてやろう」




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