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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第4章 課税の街

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56 これでハッピーエンド……なわけないやろ!

 結局、メルヒオールの斬首は見送られることになった。


 あんな姿になってしまった彼に対して、さらに首を落とす、なんてことをするのが気後れしたのもあると思う。

 それに、後で調べたところ、メルヒオールは初歩の魔法さえ、満足に使うことはできなくなっていた。体の老化のためだろう。これでは、何かしようとしても何もできないだろうと、牢に放り込んで裁きを待つことになった。もしかしたらだけど、断罪よりもそっちの方が、残酷かもしれないけどね……。


 領主のオーガストも、とりあえずは斬首は免れて、蟄居(ちっきょ)謹慎の処分になった。もちろんこちらも、裁きの結果待ち。領主としての仕事は、官吏の中から任命された、領主の臨時代行が行うらしい。ジークは臨時代行に、税率を以前の水準に戻すよう依頼して、応諾してもらったそうだ。

 それから、ジークが王子であることがばれてしまった件については、一応、関係者に口止めをして回った。あの場にいたダンにも、絶対にまわりの人には話さないよう、念を押しておいた。どこまで守ってくれるか、ちょっと不安はあるけどね。でもまあ、この件については、これ以上はやりようがない。


 こうした一連のゴタゴタが片付くのに、一週間もかかってしまった。臨時代行が決まり、ダンたち逮捕されていた若者が釈放され、とりあえずの片がついたところで、私たちはようやく、ヘリータウンを出発することになった。

 出発の当日、街の北門には、ダン夫妻とルーカスが見送りに来てくれた。臨時代行とかの役人の人たちには、絶対に来ないでくれ、と予め頼んである。これはお忍びの旅だからね。一介の冒険者を役人総出でお見送りする、なんてされたら目立ってしょうがないもの。

 ダンとハンナ(ダンの奥さんの名前ね)は、腰が直角になるくらい深いお辞儀を、何度も何度も繰り返していた。


「ジーク様、このたびは助けていただき、ありがとうございました。私がこうして、この姿のままで生きていられるのは、あなた様のおかげです。その上、聞くところによると、私たちを苦しめていた税金も、元の額に戻るんだとか。街のみんなも、これでようやくひもじい思いをしなくてすむ、と喜んでいます。

 本当に、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「助かって良かったなあ、ダンさん、ハンナさん。けどな、言われたやろ。うちらは一介の冒険者なんや。うちらのおかげで助かったとか、その上に『様』付きで呼ぶ、なんてのはやめといて。ルーカスのおっさんも、なんか変な顔で見とるで」

「あっ、そうでした。……じゃなくて、そうだったな。すまん」

「言うまでもないことやけど、例の件は、誰にも内緒やで。ルーカスとかの親しい人にも、しゃべったらあかん。わかっとるな?」

「ええ、そりゃあもう」


 ダンは真剣な顔でうなずいた。けどなあ。ダンってちょっと口が軽いというか、考えなしにしゃべるところがありそうだからなあ。何の気なしに、ぽろっとこぼしてしまいそうな気もする。ちょっと心配かも。私はハンナさんにも、「しゃべったらダメだからね」と、繰り返し念を押しておいた。

 北門から出発し、しばらく歩いてから振り返ると、ダン夫妻はまだ門のところに残って、こちらの方を見ていた。トライデンが苦笑いしながら、


「ダンのやつ、またお辞儀してるぞ」

「しかたがないですよ。私たちが彼の命を助けたのは、間違いないんですから。一応、冒険者仕事で顔なじみだった役人に頼み込んで、ダンを釈放してもらった……くらいの話にしてありますから、そこまで変には思われないんじゃないですか?」

「だといいんだがなあ。ちょっと心配だ」


 トライデンが、私が思っていたのとまったく同じ感想を述べた。

 そんな二人の会話を聞きながら、私は北門から視線を上げて、青く晴れた空を見上げた。


「これで、ハッピーエンド! ……というわけか?」


 私が口を開こうとすると、横からジークが口をはさんできた。彼には珍しく、皮肉な口調だった。私はジークの方を振り向いて、こう答えた。


「そうやな。これで、ハッピーエンド……なわけないやろ!」


 ◇


 私の言葉に、ジークたちはちょっとびっくりしたような顔になった。


「といっても、ダンさん以前にたくさんの人が犠牲になってたからハッピーエンドやない、ってゆうのとは違うで。確かにその人らは気の毒やったけど、それはうちらがここに来る前の話や。うちらにはどうしょうもない。うちらはうちらにできる限りのことをした、っちゅうことで、ハッピーエンドってゆうてもええかもしれん。

 けど、うちらの中には、ジークがおるからな。だったら、これでハッピーエンド、なんて喜んどる場合やないやろ」

「……」


 ジークは黙ったまま、何も反論してこしなかった。けど、トライデンたちにはピンとこなかったらしい。エイブラムは首をかしげて、


「どうしてジークさんがいたら、ハッピーエンドにならないんです?」

「それは、ジークがこの国の王子様だからや」


 私は即座に答えた。


「考えてもみい。うちらが旅してるのは、たった一本の道や。その先々で事件にぶつかって、そのたびに不正を正したとしても、助けられるのは道沿いの人たちだけ。そこから少しでも外れてしまったら、もうお手上げやな。なんもできん。実際のところ、うちらが寄らなかった街道近くの街々では、本当にそんなことが起きてたかもしれん。


 けどそんなのは、本当はどうでもいいことのはずなんや。本来であれば。なぜかって、不正をただしたり事件を解決したりするのは、お国の役割のはずなんやからな。国の、そういう仕事をしてる人がちゃんと働いてさえいれば、うちらが何にもしなくたって、そこら中でハッピー・エンドになるはずなんや」


 水戸黄門では、行く先々で事件が起こり、それはたいていは土地の役人とかの腐敗が原因で、黄門一行が役人を成敗して、万々歳で終わる。けど、考えてみればこれって、ダメなやつじゃん。水戸黄門は徳川家の偉いさんなんだから。幕府として、そういう腐敗を察知し、防止する仕組みというかシステムを作るのが本筋なはずだ。

 確か、江戸幕府にはそういう仕組みもあったはず(目付や巡見使とかいう)なんだけどね。それがうまく機能していないのなら、機能するようがんばる。そうするほうが、はるかに多くの人を救えていたはずなんだ。


「ハイファンの薬物騒ぎはほとんど誰も知らんかったし、サウロイールで死霊術師が嫌われていたのも、上から口出しはしにくい分野やろう。マイカウンドの予言騒ぎは、できれば防いでほしかったけど、それでも人が何を信じるかなんて、国がどうこう言うことやないのかもしれん。

 けど、今度の騒ぎは、国として対応すべき話だったと思うなあ」

「でも、ここは王国の直轄領ではなく、クライトン家の所領ですよ」

「ジークもゆうてたやん。ひどい政治をしたら所領を召し上げることはできるし、今回の事件はそれにあたる、って。国にはそういう力がある、ってことは、国の責任にもなる、ってことやろ。

 そんな不祥事とか不正とかがそもそも起きないような仕組みを作る。そこが一番に、大切なところなんやで」


 水戸黄門は、「プロジェ○トX」だ。あの番組で取り上げるのは、何らかの原因で頓挫しそうになったプロジェクトを、担当者の熱意とか絆とかで奇跡的に成功に導く、という物語。けど本来なら、そんな失敗の危険なんて経験しない方がいいに決まっている。

 平々凡々に、なんのドラマも感動もなく、目標としたプロジェクトを完成させる。そういう仕事をするのが、本当に優れたリーダーなんよね、きっと。テレビには、取り上げられないかもだけど。


 私たちの話を聞いても、ジークはまだ、何も言おうとはしなかった。しばらく黙りこんだ後で、ようやく口を開いた。


「なるほど。君の言いたいことはわかった。

 だが、一言だけ反論させてほしい。君は、私に国の体制やシステムを作る力がある、したがって責任もある、と思っているようだが、それは正しくない。君はこの世界の人ではないから知らないのも当然だが、第一王子だからといって、大きな権力があるとは限らないし、次期国王になるとも限らないんだ」


 ジークはいきなり、けっこうぶっちゃけた話を始めた。

 えーと、それって要するに、後継者争いがある、ってこと? そういえば、私が聖女の出立の儀式とかいうのに出た時、王様の席には誰もいなかったな。王様の体調が悪くて、そのため後継者争いが激化してるんだろうか。

 で、権力があるとは限らないってことは、ジークはその争いでは劣勢ってことで。あっそうか。だから私たちは、王子と聖女の二人だけで、まるで王都から追い出されるように、旅に出されたのかも……?

 私がこんなことを考えている間も、ジークは言葉を続けていた。


「私は、それでも構わなかった。元々、王位争いになど興味はなかったし、国の内部で争うくらいなら、私が身を引いた方がいい。そう思っていたんだ。母は、同意してはくれなかったがね。

 だから今回の旅に出るよう命じられた時も、特に抵抗はしなかったし、護衛の兵をつけないと聞いた時も、文句は言わなかった。そのために、君を危険な戦いに立ち会わせるようなことになったのかもしれない。本当にすまなかった」


 ジークはいきなり、私に向かって頭を下げてきた。私はドギマギしてしまった。この王子様が正面からあやまるなんて、珍しいことだったから。


「だが、この街の現状を見て、考えが変わった。

 君の言うとおりだ。この国は、不正や悪政を防ぐための機構が、しっかりと整備されていない。そのような仕組みが必要だという認識さえ、ないのかもしれない。このままでは、この街で起きたのと同じような悲劇が、至る所で繰り返されるだろう。政治機構の改革が必要なんだ。

 だが、この国にそのような機構をつくり、国政の改革を進めることができるのは、王位にある者だけだ。

 私はここに宣言しよう。私は、この国の王位を目指す。王位を目指すための戦いを始める。この戦いは、私や母の個人的な利益のための戦いなどではない。この国に住まう民、すべてのための戦いなんだ。

 この目的のためにも、今回の魔王討伐は絶対に成功させなければならない」


 ジークは私の顔をじっと見つめて、私に手を差し出してきた。


「今、改めてお願いします。聖女様、私の戦いに協力していただけませんか?」




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