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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第4章 課税の街

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52 三つの柱

 高い壁で囲まれた中に建つ、石造りの建物。まだ真新しいその建物の外では、夜も遅い時間だというのに所々に魔道具の灯りが灯され、兵士らしいいでたちの男たちが立っていた。ここが領主の邸宅であることを考えても、ものものしい警戒振りだ。

 建物の中に入ると、邸内に住む使用人たちは、さすがに寝静まっているようだった。けれど、そこには例外もあった。


 領主の自室の奥側にある寝室、そのさらに奥にあるクローゼットの壁には、一つのドアが隠されていた。そのドアを開け、下へ降りる階段を行くと、小さめの部屋に出る。そこには、兵士など数人の男が控えていた。

 この控え室を抜けた先にあるのは、かなりの広さがある部屋だった。その中には、様々な魔道具や実験道具が置かれたテーブルや、魔術関係の書物やメモやノートの類が乱雑に散らばっているデスクが並んでいる。さながら実験室といった趣の部屋だ。

 ただしその隅の方には、拘束用と思われる金属製のチェーンや首輪といった、実験室には似つかわしくないものも転がっていた。

 その実験室に、二人の男がいた。

 一人は、魔術師用のマントを羽織った、三十代くらいのひげ面の男。その横に立つのは、ぶくぶくと太り、髪の毛がかなり薄くなって、一見すると四十代後半くらいに見える男だ。マントを羽織っているのは魔術師のメルヒオール、そして太った男が、この館の当主であり、ヘリータウンの領主であるオーガスト・クライトンその人だった。

 今、メルヒオールは得意げな表情で、オーガストを相手に弁舌を振るい始めたところだった。


「領主様、本日は大変な吉報がございます。

 たいへん長らくお待たせしておりましたが、領主様よりご依頼を受けておりました『若返りの魔術』の開発、これがいよいよ、完成いたしました。

 魔法名として、『ユースフル・ドレイン』とでも名付けましょうか。この魔術が、どのような魔術的原理で働き、またどのような開発過程を経て完成に至ったかについて、まずはご説明いたしたく──」

「そのような説明はいい。完成したというのなら、早く使って見せてくれ」


 オーガストが口をはさんだ。だけどメルヒオールは、気を持たせるようにゆっくりと首を振って、


「いえいえ。領主様は魔術師ではありませんから、真の意味ではご理解いただけないかもしれませんが、本日お披露目させていただく魔術は、実に画期的なものなのです。本来であれば、東西の魔術研究者を集めた場で、盛大な発表会を行うべきものなのですよ。

 ですが、領主様のかねてからのご意向で、この魔術の完成は秘匿することと決まっております。ですので、せめてもの代わりとして、依頼者である領主様に向け、原理面での解説をさせていただきたいと考えております。

 さて。この魔術は、三つの主な要素によって構成されております。うち一つは、ドレインの魔法です。ドレイン魔法は非常に一般的なものであり、多くの魔術師によって日常的に使用されております。この術は、術を受けた被験者から力を奪い、それを施術者が吸収する、という効果を持ちます。

 もちろん、ドレイン魔法の対象となる力とは体力や魔力のことであり、若さそのものではありません。が、被験者からの吸収が可能であるということを示しているという意味では、この魔術の存在は、開発における重要な起点となってくれました。

 また、『相手の持っている何かを吸収する』というその仕組み自体も、ユースフル・ドレインの開発に大いに参考となりました」


 形の上では、解説させて「いただきたい」と言っているものの、メルヒオールは相手の承諾も待たずに、自分の話を続けた。オーガストも、魔術師のこうした態度には、ある程度慣れているのだろう。あきらめたような表情で、おとなしく話を聞いていた。


「そしてもう一つの柱が、『生命力を燃焼させる魔法』です。これは、被験者が持っている生命力を、一時(いっとき)に大量に、いわば圧縮して燃焼させて、通常以上の力を発揮させる、と言う効果を持ちます。

 この魔法には、一般的な名称がつけられておりません。それはこの魔法が秘伝のものであり、一般には公開されていないからです。ただ、この魔法を使った例として、かなり有名な逸話が伝えられています。

 それは、ある貴族のメイドとして仕えていた老女が、高齢と病気によって満足に動けなくなった際に、この魔術を自らにかけ、一日だけ若き日の、元気だった頃の姿に戻った、という話です。与えられた一日という時間を使って彼女が何をしたかというと、それはいつもどおりの、自分の主人に対する奉公でした。

 つまり彼女は、自分が若き日に行っていた『理想の奉仕』を、彼女の後継者である若い奉公人たちに見せ、奉公のなんたるかの手本を示したのです。翌日、彼女は急速に年老いて亡くなりましたが、彼女の手本を見た奉公人たちは、その後も生涯主人に尽くし、主家の繁栄の礎となったと言われております。

 さて、この魔術の直接的な効果は、逸話の老女が示したとおり、生命力の圧縮と燃焼です。が、注目すべきはその副次的な効果にあります。術をかけられた老女は一時的に『若返った』のです。

 ただ、その後では若返った以上の老化が進んで、死に至ってしまっております。これは肉体的な時間遡行という奇跡的な現象に対する当然の代償、反動なのかもしれません。が、ここで一つの疑問が生じます。代償が生じるのはやむを得ないとしても、それが生じる主体を、最初の主体から変えることはできないだろうか?」


 メルヒオールは大げさな動作で両手を開いて、オーガストの顔をのぞき込んだ。


「つまりです。若返りが起きる者と老化が起きる者を、切り離すことができないだろうか? もしもそれが可能ならば、それは前者にとっては、紛れもない『若返りの魔法』となるわけです。そしてその切り離しをになうのが、第一の柱であるドレイン魔法、というわけです。

 ただ、ドレイン魔法の場合、その効果が生じるのは施術者に限られます。これではせっかく若返りの術を作っても、若返ることができるのは、その術を実行したものだけになってしまう。ここで第三の柱が登場します。『若さ』を直接に取り込むのではなく、そこに何らかの変換を施して、ポーションなどの物体に封じ込めるのです。

 それができれば、術者以外の第三者にも、『若返り』の恩恵を与えることができるでしょう。この三つの柱がそろって初めて、ユースフル・ドレインの魔法は完成となるのです」


 こう言いながら、メルヒオールは左手に持っていた、ポーションを入れるガラス製の容器を示して見せた。




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