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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第4章 課税の街

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51 若返りの術

「この街の領主は、ヒト族の若い男を使って、『若返りの魔術』を行おうとしているのです」


 ハイラインの言葉に、私たちは一様にあっけにとられてしまった。私も、偉そうに自分の推理を言わなくてよかった~、なんて感想はどこかにすっ飛んでしまっていた。少したって、ようやくジークが口を開いた。


「若返りの魔術だって? そのような術など聞いたこともないが、本当に存在するのか?」

「存在するかどうかと問われると、私にはわからない、としか答えようがありません。ですが、領主であるオーガストは、存在すると思っているのです。

 彼にこれを売り込んだのは、メルヒオールという魔術師です。半年ほど前にこの街に流れ着いてきた彼は、自身が開発中であるという若返りの魔術を、オーガストに売り込みました。もしかしたらメルヒオールは、オーガストの婚約に関する噂話を聞きつけて、ここにやってきたのかもしれません。

 もしも魔術が完成したら、真っ先にオーガストを若返らせる。その代わりに、領主の権限で魔術の開発に協力してほしい。メルヒオールが持ちかけたこの取引に、オーガストは応じました。そして、メルヒオールに物的、金銭的な援助を始めたのです」


 そういえばオーガストは、最初に縁談を断られた時、「都会育ちなので」「近くに魔物がいるのが怖い」と言われたために、自分の家を都会風に改築し、外壁を作り直していたっけ。そして二度目の断りの理由は、「老けているから」だった。今度はそれを、魔法で何とかしようとしたのか。

 実年齢はまだ若いんだから、ダイエットして適度に運動でもすれば、それだけでけっこう違ってくるだろうに……でもこの世界には、そういう知識や健康情報って、無いのかもしれない。だからそんな、怪しげな「魔法」にすがってしまうんだろう。


 いや。考えてみれば、元の世界もそんなに違わなかったような気もする。


 ネットもテレビも本屋でも、「若返るために」「若さを保つために」といった情報や商品の紹介であふれかえって。怪しさで言えば、似たようなものだ。もちろん、本当に効果があるのならいいんだけど、エビデンスの無いもの、宣伝文句が怪しすぎるものばっかりなんだよね。

 これは美容じゃなくて健康関連の「若さ」を保つという商品のCMだったと思うけど、おばあさんが歩いたり、庭仕事をしている映像を流してから、


「○○(商品名)のおかげで、95才になった今も、この元気です!」


とおばあさんにしゃべらせてるのがあったなあ。いやいや、あなたが元気なのは、それのおかげじゃないと思うよ。だってその○○、おばあさんの人生の大半、たぶんだけど90才を越えるくらいになるまでは、この世に存在もしてなかっただろうから……。

 そんなことを考えている間も、ジークとハイラインの問答は続いていた。


「しかし、その魔術師が来てから、既に半年が建っているのだろう? オーガストの容姿に、何か変化はあったのか?」

「残念ながら、大きな変化は見られないようですな。肥満も薄毛も、以前のままのようです」

「ということは、メルヒオールという男は、魔術師ではなく詐欺師なのだろうか」

「そのあたりは微妙なところです。メルヒオールは、彼の魔術は完成間近ではあるが研究途上のものであり、まだ限定的な効果しかもたない、としています。だからオーガストも、まだ効果のでていない魔術に対して、援助を継続しているのです。またメルヒオール自身も、自分の魔術の効果というか可能性を、信じているようにも思えます。

 ただし、彼が自称している五十五歳という年齢、あれは嘘ですね。実際には三十歳です。オーガストに自分を売り込むにあたって、魔術の効果に説得力を持たせるため、そのように詐称したのでしょう」

「なるほど。それから、ここが最も気になる点なのだが……魔法の使用に際し、ヒト族の若い男を使う、とはどういう意味なんだ?」

「言葉の通りですよ。メルヒオールの魔術には、その材料として、若い肉体が必要らしいのです」


 ハイラインはこともなげに言った。


「私は魔術開発の専門家ではありませんから、詳しい動作原理などはわかりませんがね。若い肉体に彼の魔術をかけ、『若さ』を抽出して、それによって一種のポーションのようなものを作っているようですな。そのポーションを飲めば、飲んだ者の若さが回復する、というわけです」

「術にかけられた者はどうなるのだ?」

「あなたのご想像のとおり、とだけ言っておきましょう。なにしろ、若さを抽出されるのですからね。後に残るのは、その抜け殻です。

 ただ、いくら領主と言っても、そんな『材料』を簡単に用意することはできません。当初は、処刑の決まった犯罪者や、奴隷商から購入した若い奴隷を使っていたようですが、最近はそれでは足りなくなったらしい。そこで、なんとか若い犯罪者を作り出して、それに()てようとしています。

 今回、ダンが逮捕されてルーカスが放っておかれたのは、そういうわけだったのです」

「ちょっと待って。だとすると、ダンさんは……?」


 エイブラムの問いかけに、ハイラインはハンカチを取り出し、口のあたりを拭いてから答えた。いつの間にか、彼のお皿のお肉はきれいに無くなっていた。


「その答も、あなたのご想像通りでしょう。

 念のため申し添えますと、オーガストもメルヒオールも、魔術研究の遅れに業を煮やしているようでしてね。『材料』が調達されると、時間をおかずに、魔術の実験に取りかかることが多いようです。

 ですから、もしも今回、何らかの対応策をとられるのだとしたら、お早めになされるのをおすすめします」


 私たちはいっせいに、ジークの顔を見た。

 昨日も思ったことだけど、今回の騒ぎは魔物退治とは違う。領主に対する異議申し立て、いや正確には、領主に対する反抗、という形になってしまうだろう。そしてオーガストは、やってることは悪辣だけど、一応は正当な領主なんだ。やるとしたら、反乱騒ぎみたいな大事にならざるをえない。

 けど、ジークが自分の身分を開かしたら、話はずいぶん簡単になる。

 第一王子の権限があれば、田舎の地方領主に対する調査とか、情報開示の命令くらいはできるだろう。相手がそれに応じず、争いになったとしても、例えばオーガストの身柄を押さえた後で王子の身分を使って命令を下す、とかをすれば、最小限の実力行使で事を収めることはできそうだ。

 ただし、ここは魔族領のすぐ近くの街。こんな場所で自分の身分を開かしたりしたら、今までのお忍びの旅の意味がなくなってしまう可能性もある。いくら口止めをしても、情報というのは結局は漏れてしまうものだからね。しかもここは国境の街なんだから、魔族側のスパイがいたって全然おかしくはない。

 でも、だからといってダンさんやこの街の住民を見捨てて、先を急ぐのも……。


 みんなの視線を受けたジークは、少し考えた後、


「オーガストは、どこで魔術の実験を行っているのだ?」

「領主宅です。あそこには地下室がありまして、そこで行っています。

 ただ、地下牢などの設備はないらしく、被検体はその都度、外から運び込んでいるようですな。ちなみに、実験で出た犠牲者を置いておくスペースもありませんので、こちらもその都度、街の外の森に捨てにいっているようです」


 犠牲者という言葉に、ジークは少し顔を歪ませた。そして再び、ハイラインに尋ねた。


「ではハイライン。君がさっき使ってみせた隠密のスキルで、私たちがその場に忍び込むことは可能だろうか?」




 今回の投稿分とは関係がありませんが、魔王軍幹部の名前を一部修正しました。



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