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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第4章 課税の街

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50 引っかかっていたこと

「お久しぶりです、聖女様。私が身も心も──」

「わーっ! えーとそのー、なんて言うかやな……あんさんも、一緒に食べへん?」


 ハイラインがいつもどおりの口上を並べようとするのを、私はあわててさえぎった。私はちょっと聞き慣れてきてたけど、あんなセリフ、他の人に聞かれたら恥ずかしくてしかたがない。

 けど、かといって特に言うことがあったわけでもないので、とりあえず、一緒に食べない? なんて口にしてしまったんだ。すると、ハイラインは平然とした顔で、


「よろしいのですか? それではお言葉に甘えて、ご一緒させていただきましょう」


と、うなずいた。

 その後でジークたちにも了承をとり、五人分の昼定食を頼んで、テーブルに着いた。メニューが一種類しかないせいか、料理はすぐに出てきた。ちなみに、定食というのは焼き肉定食で、その量も質も、ちょっと残念な感じのものだった。

 まあ、食材が入らないんだから、しかたがないね……と思って食べていたら、肉を口に入れたエイブラムが


「これ、ジャイアントラットだね」


とつぶやいた。えー、ラットって、ネズミのことだよね。これって、ネズミの肉なの?

 まあ、こっちのネズミと元の世界のネズミが同じかどうかなんてわからないし、こっちの世界では、肉屋さんでラットの肉を売ってるのはときどき見る。庶民の間では、わりと一般的な食材なのかもしれない。けどさあ、やっぱりその前に、覚悟のための時間が必要でしょうが。できれば私が食べる前に言ってくれるか、そうでなければ、黙っていてほしかったなあ……。

 そのネズミ肉を、手にしたフォークとナイフで上品に切り分けながら、ハイラインが話し出した。


「既に聖女様もご存じのようですが、この街では少々、問題が起きております」


 そんな彼の手つきを見ながら、私は考えていた。この肉、ネズミにしては結構大きい。捌いて焼いて、それでこの大きさなんだから、元々はもっと大きかったはずだよね。そうだ、やっぱり、こっちのネズミは向こうのとは違うんだ。同じ名前でも、まったくの別物。そうに違いない。たとえば、カピバラみたいなやつとか。

 もしもそうだとすれば……それでもあれを食べよう、とはやっぱり思わないけど、口に入ったと知ってしまった時の感想というか後悔の大きさが、けっこう違ってくるだろう。


「……聖女様? 聞こえておりますか?」

「ハイラインさん、聖女様はまだお食事中ですので、ぼくからお話させていただいてもいいでしょうか?」


 かなりの早食いで、すでにお皿の上をあらかた片付けてしまっていたエイブラムが、代わりに答えてくれた。


「ああ、そうですね。それは失礼いたしました」

「ただ、その前にですね。ここでそういう話をしても、だいじょうぶなんでしょうか? 私たちが役人に目をつけられたり、捕まりそうになるのはまだいいとしても、そのとばっちりで、たとえばこの店の人に迷惑がかかったりするのは、避けたいんですが」

「ついでにやけど、その『聖女様』って言い方も、できるだけ無しのほうが……」

「ああ、ここでの話が漏れることについては、心配無用です」


 途中で私が口をはさんだけど、まるでそんな言葉なんてなかったかのように、エイブラムにもハインラインにも、さらっと無視されてしまった。


「前にもお話ししたと思いますが、私は隠密関連のスキルを持っておりましてね。このスキルは自分だけでなく、近くにいる人にもかけることができます。効果としては、多少弱くなりますがね。それを今、このテーブルの周辺に隠密をかけてあるのです。

 ただ、いきなり私たちの姿が消えてしまうのも不自然ですので、私たちや私たちの会話に『注意が向きにくい』程度にしております。今回は、この程度でも十分でしょう」

「ああ、なるほど。わかりました。

 それで、この街で起きている問題についてなんですけど、ある程度はわかっています。領主が高い税金をかけていて、それが実は自分の縁談のためで、この税金のために人々の生活がかなり苦しくなっている、といった話ですよね?

 ただ、まだ噂で聞いただけ、といった内容も多いので、どこまで本当なのかどうかはわかりません。それから他にもちょっと、引っかかるところはあるんですけど」


 ひっかかるところ、か。そう。実は私も、今までの話の中で、ちょっと引っかかることがあったんだ。思いついた時、口に出さないでいる間に忘れちゃったんだけど。あれって、何を言おうとしてたんだったかなあ……。


「その噂は、かなり正確なもののようですね。税金の直接の使い道は領主宅の改築ですが、その改築の目的は、領主の縁談のためだったのですから。また、領民の生活については……私が説明するより、この食堂のメニューを見れば、自ずとおわかりでしょう」

「やはり、そうですか」


 エイブラムはうなずいた。でも考えてみれば、ハインラインの話だって、「ハイラインから聞いた伝聞」レベルのはずなんだけどね。エイブラムたちは、彼の話を信頼しているみたいだ。

 マイカウンドの街ではアルマン副支部長の同行を正確につかんでいて、それがタマラさんを助けるのにつながった、という事があったからなあ。あの実績が大きいんだろう。


「では、これはルーカスという人が言っていたのですが、最近になって領主のところに魔術師が逗留している、というのは本当ですか? その人が街に来てから、さらに税金が上がったとの話でしたが、その魔術師と税金とは、何か関係があるんでしょうか」

「それは──」

「あ、そうか。それや!」


 私はようやく、「引っかかっていた」ことを思い出した。

 門の外で噂話をしていたのは、ダンだけじゃない。ルーカスも一緒に話していたんだ。どっちかというと、ルーカスの方がきわどそうなネタを口にしていたと思う。なのに、捕まったのはダンだけだった。なぜ、ルーカスは逮捕されなかったのか?

 さらに、ダンは噂話を理由に逮捕されたんだけど、その逮捕が正当かどうかはともかくとして、噂話をしたことそれ自体は、事実だった。とすると「ダンがそんな話をしていた」ことを、お役人に知らせた人がいなければならない。あの時、周囲には何人かの人がいたけど、こちらに注意を向けてるような人はいなかったと思う。

 と、言うことは……。


 その密告者は、ルーカスだったんだろう。


 圧政を敷く支配者が市民の反発を抑えるため、市民の間にスパイを放ったり、市民同士の密告を奨励したりする。どこかで聞いたような話だ。こういうシステムって、どんな世界でも、それなりに有効なんだろうね。とりあえず、後先の事なんて考えなければ。

 私はハイラインに人指し指を突きつけて、言葉を続けた。


「どうしてダンは捕まったのに、ルーカスは無事だったのか。そこが鍵やったんやね!」

「ほう。もうお気づきでしたか。さすがは聖女様です」


 ハイラインは感心した顔でうなずいて、


「なぜダンだけが逮捕され、ルーカスは見逃されたのか。理由は単純です。ダンは若く、ルーカスはそうではなかったからですよ。

 この街の領主は、ヒト族の若い男を使って、『若返りの魔術』を行おうとしているのです」




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