44 領主代行とのお話
「大司教マリアーノ、司教バージル、信者代表タマラに与えるべき罰は、死罪以外にはありえない」
ルーサー代行の言葉に、お立ち台のタマラの体が大きく震えた。トライデンも大きく目を見開き、はっとした顔で私の方を見た。
だけど、ルーサーは一呼吸置いた後で、言葉を継いだ。
「……と、本来であれば、すべきところである。
が、今回の騒動の解決に貢献したとある冒険者から、タマラに関する減刑の嘆願がなされている。その冒険者は、街を襲った魔物をほぼ単独で討伐しただけではない。教会の資金を盗んで逃亡したアルマン司教を捕縛し、さらにはアルマンが所持していた資金も回収した、との報告も上がっている。
我が街を魔物から守っただけでなく、今回の事件の首謀者ともいえるアルマンを捕らえた功績は、非常に大きい。また、被害にあった資金が回収されたのであれば、金銭被害の責任者として罪を問われた者に関しては、減刑を考慮してもよいであろう。
よって、信者代表タマラに関しては、特に罪を減じ、十万ゴールドの罰金刑を科すこととする!」
こう演説をしながら、ルーサーは顔を上げて、私たちのいる広場の隅の方を見た。なんとなくだけど、私たちに目配せをしたような気がした。私はうなずきを返しながら、トライデンに言った。
「な、言うたやろ? もう、話はついとるって」
◇
この前の日、つまり予言の日の翌日、私とエイブラムはルーサーのもとを訪ねていた。そのころにはもう、ルーサーは領主代行に復帰していて、今度の騒ぎの事後処理に当たっているとのことだったので、ちょっと頼み事に行ったんだ。
聖女としてではなく、ただの冒険者として面会を申しこんだんだけど、私たちが魔物を退治して多くの人を守ったことは、騎士や兵士の間で知れ渡っていたらしい。すぐに、代行の執務室に通された。ルーサーは忙しそうに机で仕事をしていたけど、私たちを見ると笑顔で立ち上がった。
「エイブラム殿、それからマリー殿でしたか? お二人の活躍は、私の耳にも届いています。このたびはよくぞ、マイカウンドを魔物の手から救ってくださいました。まさしく、我が街の英雄ですな」
「いやいや、うちらは自分たちができることをしただけやから」
「ささ、こちらへどうぞ」
そう言って、私たちをソファーに招いた。ルーサーは私たちの対面に座ると、
「それで、本日どのような用件でしょうか。やはり、今回の報酬に関してですかな?
むろん、当方としても、礼金をお支払いすることを検討はしております。ただですな。今回の騒ぎの影響で、この街の財政はかなり悪化しておりましてな。これはこの政庁だけでなく、領民も、また教会の方も同じなのです。
実は、領民から寄付を搾り取ってきた教会の関係者が、集めた金を持ち逃げしてしまったらしいです。このため、教会側に責任をとらせようとしても、少なくとも金銭面については、なかなか難しいようなのですよ。
また、厳密に言えば、今回は当方からお二方に依頼を行ったわけではありません。ですので、礼金の額については──」
「あ、その責任というやつなんやけどな。今回の事件、誰がどんな処分になる予定なんや?」
私が言葉をはさんだ。ルーサーは少しだけ、こいつどうしてそんなことを聞くんだ、といった顔になったけど、すぐに笑顔に戻って、マリアーノ、バージル、タマラの三人が死罪になるだろう、と答えた。
「タマラ、って信者代表をしてたおばさんやったよね。なんでその人が? その人、魔物騒ぎや監禁騒ぎとは関係なさそうやけど」
「先ほども触れましたが、金銭的な損害が出ているからです。そして、教会側の担当者は行方不明になっている。残る関係者が、タマラ以外に見当たらないのですよ。虚言を信じて寄付をしたのは、それをした領民たちにも責任はあるでしょうが、だからといって、無罪放免とは行きません。誰かが責任をとらなければならない
「っちゅうことは、タマラさんの責任は、信者の人をだましたとか、魔物が街に入ったとかは関係なくて、お金の話だけ?」
「まあ、そのとおりですな」
「なら、もしもそれを取り戻したら、どうなるんや?」
「なんですと?!」
驚いた顔になるルーサー。私はソファーから少し身を乗り出して顔を近づけ、小さめの声で、
「実はやな。うちらのパーティーには、隠密系統のスキルが得意なやつがおって……変な予言で変な騒ぎになってたんで、いろいろと調べたらしいんや。うちらがお願いしたわけでもないんやけど、ま、そいつの趣味みたいなもんやな。
で、アルマンとかいうやつがお金を持って逃げそう、ってことがわかったんで、そいつに後をつけてもらって、街から逃げ出したところで、捕まえといてもらってたんよ。
と言っても、護衛が何人かおったんで、実際に捕まえたのは、相手が隙を見せる夜になってからやった。街からはある程度距離が離れてしまっているし、一人では運びきれないんで、今、うちらの仲間に迎えに行ってもらってるとこや」
トライデンとジークがここにいないのは、そう言うわけだった。こういう席では、エイブラムよりジークの方が頼りになりそうだけど、領主代行と直接話したりしたら、ジークが王子とばれてしまう危険性もあるからね。ジークには向こうに行ってもらいました。あ、「隠密が得意なやつ」というのは、もちろんハイラインのことです。
予言がらみで信者からお金を巻き上げるくらいに目端の利く人なら、予言の日が来てその予言が実現しなかった場合にどうなるかくらい、簡単に想像できただろう。おそらくは教会が責任を取らされ、副支部長である自分も罰せられることになる。それなら、お金を持って逃げよう、となる可能性もありそう。だからハインラインに、彼の動向を見張ってもらっていたわけです。
それでも、予言当日までアルマンが逃げ出さなかったのは、彼の心の隅の方に、もしかしたら本当に予言が実現するかも……なんて思いがあったからかもしれない。
ルーサーは少し考え込んでいたけど、
「なるほど。アルマンの名をご存じと言うことは、ただの嘘ではなさそうですな……。
いいでしょう。ですが、あの者を単純に無罪とするわけにもいきません。あれだけの騒ぎを起こした中心人物の一人であるのは、間違いないのですから。いったん罪を下し、その上でお上の慈悲によって減刑する、という手順を踏ませていただきますが、それでよろしいですか?」
「それでええよ。その方が、本人にとってもいいお灸になるやろうし」
私とルーサーは立ち上がって、握手を交わした。
「助かったわ。ほな、よろしく頼むで」
「こちらこそ、助かりました。
教会上層部とは既に話をつけているのですが、政庁の内部でマリアーノ一派に加担した者たちの処分については、実はこれからでしてね。事務官だけならまだよかったのですが、騎士の一部も対象となりそうで、これがなかなかに頭が痛い話で……。
面倒な話が一つでも片付いてくれるのは、大いに助かります」
別れ際に、ルーサーはこう言って、苦笑いのような表情を浮かべた。あー、そうだよね。この街で起きたのは、事実上の反乱みたいなものだものね。後処理って大変そう。そういうのは、私たちが力を貸せるようなものじゃないんで、がんばって下さい。




