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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第3章 予言の街

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43 断罪の日

 予言騒ぎがあった翌々日。街の人々は再び、教会前の広場に集まっていた。けれどもこの日に起きるのは、滅びでも、救済でもなかった。


 この日は、断罪の日だった。


 教会前のお立ち台の上に乗っているのは、数人の男女だ。その真ん中に、年齢四十代くらいの禿げ頭の小男がいた。この街の正式な領主代行である、ルーサーだ。彼は監禁されていたと聞いたけど、そこまでひどい扱いはされていなかったみたいで、顔色も悪くはない。けどその両隣には、彼を守るように、完全武装の騎士が立ち並んでいた。

 ルーサーは両手を後ろ手に組み、厳しい顔つきで言葉を発しながら、彼の前に並ぶ男女をにらみつけていた。


「……ここにいるマリアーノは、オルティナ聖教会大司教、そして聖教会マイカウンド支部の支部長という地位にありながら、怪しげな予言なるものを神から預けられたと称し、善良なる領民たちの心を惑わした。

 そればかりでなく、領主様から統治の代行を任せられた私を監禁するという暴挙に出たうえ、代行職の僭称まで行った。このマイカウンドの街を、我が物にしようと画策したのだ!」


 ルーサーの前には、三人の男女がいた。皆、手を後ろ手に縛られ、ルーサーに向かってひざまずかされている。

 そこに並んでいたのは、どれも見たことのある顔だった。予言の当事者だったマリアーノ大司教。昨日まで領主代行をしていたはずの、バージル司教。そしてもう一人、五十代くらいの、小柄で小太りで、顔つきからしても服装からしても、いかにもそのへんにいるおばさん、といった感じの女の人がいた。人のよさそうな顔が、今は恐怖とおびえに染まっている。タマラさんだ。


 おととい、予言が外れて、街が救われるどころか魔物に襲われるという騒ぎがあったんだけど、その後で、もう一つの騒ぎが起きていた。ルーサーの、領主代行への復帰だ。

 どうやら、この街の官僚や騎士の中には、教会の専横とも言える状態に批判的な人もいたらしい。予言がはずれ、マリアーノ、ルーサーに対する人々の支持が急落した隙を突いて、彼らが行動を起こした。バージルらによって監禁されていたルーサーを救い出し、代行に復帰させたんだ。

 それと同時に、マリアーノたちを捕縛した。予言の件はともかくとしても、代行の監禁とか、代行への違法な就任とか、罪状はいくらでもあったからね。そんな行為も、おとといまでなら黙認されていたんだろう。でも、予言が外れてしまった今となっては、マリアーノたち助けようとするものはいなかった。

 結果、たったの一日で、マリアーノとルーサーの立場は完全に逆転することになったんだ。


 そして今日、今回の騒動に関する裁きが、広場の中、公衆の面前で行われることになった。


「……だが、予言なるものが指定したその日、世界は破滅などしなかった。我が街マイカウンドは、祝福を受けるどころか、魔物に襲われ、その侵入を許すことになった。

 この一事だけをとってみても、ここに並ぶ罪人どもが神の恩寵など受けていないことは、明白である!」


 ルーサーの演説は、まだ続いていた。彼の声に応じて、お立ち台を取り囲む群衆から、声が上がった。それは、おとといまでのような、感謝と祈りの言葉ではなかった。


「この、嘘つきども!」

「詐欺師野郎!」

「俺たちから盗んでいった金を、返しやがれ!」


 方々から罵声が浴びせられ、そのたびにタマラさんの体が、びくっ、と震えるのがわかった。その姿を見て、トライデンがつぶやいた。


「なんでおばさんが、あんな目にあわなきゃいけねえんだ……」

「タマラさんは信者代表として、教会が集めていた献金のとりまとめをしていたらしい。今回の騒ぎでは、ルーサー代行の監禁とは別に、領民たちから集めていた多額の献金の所在がわからなくなるという事件が起きている。彼女はその責任者として、捕らえられているんだ」

「でも、その金はおばさんが盗んだわけじゃないんだろ?」

「そうだ。教会の副支部長だったアルマンという司教が、用心棒役をしていた冒険者と共に、姿を消した。彼は事務方の責任者で、経理部門も取り仕切っていた。教会の大金庫の鍵の保管者でもあった。アルマンが大金庫の金を盗んで、昨日の騒ぎに乗じて、街から逃げ出したんだ。

 昨日、兵たちに酒をふるまい、門番や衛兵に休みを与えたのも、アルマンの発案だったそうだ。最初から逃げるつもりで、逃亡が容易になるようにとの下準備だったのかもししれないな」

「たぶん、そうやろね。予言の日が近づいてきたら急いで金をかき集め始めたってのは、もう逃げるのが前提って感じやし。まあ、おととい魔物が街を襲ったのは、さすがに偶然なんやろうけど」

「じゃあ、やっぱり金のことは、おばさんのせいじゃねえじゃねえか」

「アルマンの行方が知れないとなれば、責任の追及はその下にいた者に対してなされることになる。今回、献金の管理は、アルマンとタマラさんの二人によってなされていたらしい。アルマンとしては、持ち逃げを容易にするために、教会の人間にはできるだけ関わらせたくなかったのだろう。

 だがそのために、責任追及がタマラさんに向くことになってしまったんだ」

「なんとなく、わかります。貴族の人って、何かまずいことが起きると、だれかに責任をとらせようとするんですよね。その人がそのことをどうにかできたのか、なんてことは無視して、とにかく責任をとらせたって形をつけたがるんです」

「ちっくしょう、なんだよそれ。おれ、こんなの見てらんねえよ……」


 エイブラムの、これも彼の経験からきたと思われる言葉に、トライデンがうめいた。

 この世界には、公正な裁判みたいな仕組みはないそうなので、このまま行けば間違いなく、タマラさんは有罪にされるだろう。量刑の基準みたいなのもよくわからないけど、まあ日本よりも優しいってことはなさそう。下手をすると、問答無用で死刑になってしまっても、おかしくはない。

 けれど、私は笑みを浮かべて、トライデンに言った。


「ま、ええから見とき。そろそろ、終わりも近そうやから」


 私の言葉のとおり、ルーサー代行の演説は、いよいよ結論部分にさしかかっていた。


「……神の言葉を騙って領民の心を迷わし、結果として魔物の侵入を許して騎士・兵士たちに犠牲を出し、善良なる領民たちから寄付金を搾取してそれを横領した。さらには、領主様から統治の代行の任されたこの私を監禁し、領主様の承諾も得ずに、自ら代行の地位を詐称した。

 いずれも罪状は明白であり、どの一つをとっても、許されざる大罪である。したがって──」


 ルーサーは、ここでいったん言葉を切った。そして少しの間を置いた後、こう続けた。


「──大司教マリアーノ、司教バージル、信者代表タマラの三名に与えるべき罰は、死罪以外にありえない」




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