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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第3章 予言の街

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41 歓声と悲鳴

 静かだった広場が、次第にざわつき始めた。


 視線をお立ち台に戻すと、マリアーノともう一人のおじいさん(後で聞いたところ、彼が領主代行のバージルらしい)が顔を突き合わせて、何か相談していた。やがてマリアーノが、なにやら詠唱を始めた。そして顔を上げ、手を空に向けると、彼の手から白く輝く光の矢が放たれた。

 群衆から、小さなどよめきが上がる。どうやら、光魔法のホーリー・ランスを、空に向けて放ったらしい。バージルが叫んだ。


「皆さん、安心してください! たった今、魔王は倒されました! 魔に属するものは倒れたのです!

 これをもちまして、本日のミサは終了といたします。これから先は、新しい世界に向けての、あなたたちの戦いになります。それぞれの家に戻り、明日からの戦いに備えて、日々の生活に戻ってください!」


 群衆の一部から、歓声が上がった。

 けれど大多数の人々は、今のバージルの言葉には納得しなかったようだ。その場から立ち去ろうとはせず、不満げな顔つきで大司教たちを見やっている。ざわめきは、次第に大きくなっていった。やがて、ざわめきの中に罵声が混じり始めた頃、北門につながる通りから、一人の兵士がかけ込んできた。

 酒を飲んでいたんだろうか、顔を真っ赤にしている。けれど、兵士には酔っ払いの能天気さなどは微塵もなく、焦燥した様子で叫んだ。


「大変だ! 北門の外に、魔物の群れが現れた。かなりの数で、たまたまそこにいた兵士たちが応戦しているが、一部が既に街に侵入している。大至急、応援の手配を!」

「魔物が侵入しただと? 門番のやつらは、何をしていたんだ!」

「今日は祝いの日で、魔物なんていなくなるから門を開けといてもいいし、酒を飲んでいてもいいと言ってたのは、おまえらだろうが!」

「いや、だけどよ、今さっき大司教様が、魔に属するやつらは倒れた、っておっしゃってたんだが……」

「そんなことは知らねえよ! とにかく、兵士と騎士を、北門の方に回すよう、上に伝えてくれ!」


 兵士が話していた相手は、こちらも顔を赤くした、仲間の兵士らしい男だった。だけど、その会話はほとんど怒鳴り声でなされていたので、内容はまわりに丸聞こえだった。広場にはどよめきが広がっていき、お立ち台の上の大司教たちの顔に、おびえの色が走った。


 ◇


 さっきの司教の言葉には動こうとしなかった群衆が、急に動き出した。

 兵士たちの話を聞いて、とりあえずこの場から逃げようとしたんだろう。それは整然とした動きではなかったため、中には他の人とぶつかって、転んでしまう人の姿も見えた。その混乱は、人が詰めかけていたお立ち台の周りで特にひどく、教会の司教たちも、台の上から逃げられなくなっていた。

 この光景を見て、ジークがつぶやいた。


「本当に、こうするしかなかったのだろうか……」

「なら、他に手があったんか?」


 私の反問に、ジークからの答はなかった。昨日、「いったいどうすればいいのか」と彼に聞かれた時なんだけど、私はこう答えていたんだ。


「うちらはなんもせんでええ。なんもせんで、待ってたらええんや」


 これを聞いたジークは、不満そうな顔をしていた。けど、彼はまだ知らないんだろうけど、私は元の世界での経験で、よく知ってるんだ。こういうのって、言葉で言って変わるものじゃないんだよね。

 ノストラダムスにしても、このあいだの地震の予言にしても、世の中の人全員が信じていたわけじゃない。予言を批判をする人だっていた。けど、そんな人がいくら批判をしても、信じてる人には通じないんだ。まあ、もしかしたら中には通じる人もいたのかもしれないけど、大勢が変わるほどの数ではなかった。

 私のまわりにも、ネタではなくマジで信じている子がいてね。あまりにマジすぎるので、あんまり信じすぎない方がいいよ、ってその子に忠告してあげてる人もいたんだ。けど、その子が考えを変えることはなかった。それどころか、予言の日が過ぎても何も起きず、明らかにはずれた後になっても、


「予言は外れたんじゃない、形を変えて、実現してたんだ」

「ほら、あの日に○○というところで、地震があったでしょ。それで、1mくらいの津波が起きて……」


とか言ってたなあ。いやいや、忘れたの? あなたはあの日、大震災の数倍の高さの津波が日本を襲う、とか言ってなかったっけ。

 というわけで。そういう人たちを言葉で説得するなんて、できるはずがないのよ。


 ジークだって、このことはもう、あるていど実感していたはずだ。

 実を言うと、彼は昨晩、トライデンと一緒にもう一度タマラさんのところに出かけていって、こんな騒ぎは止めるように説得していたんだって。エイブラムがこっそり、教えてくれた。それで昨日の晩は、二人とも外に出てたんだね。この際だからとタダ酒を飲みに行ってたわけではなかったらしい。

 結果はもちろん、失敗。それどころかタマラさんは、自分たちだけが神に選ばれ、救われることになった栄誉を繰り返し語ったうえ、ジークたちに向かって、あなたがたが今日この日にこの街に来たということは神に選ばれたということなのだから、あなたも改心しなさい……と説得されたんだそう。

 あきらめきれなかったジークは、タマラさんに信者副代表の人を紹介してもらって、そちらも訪ねたそうだ。けど、そっちではほとんど話を聞いてもらうこともできず、予言を信じるなと言ったところで、この不敬者! と怒鳴られて、追い出されてしまったそうだ。


 信じる人に、それは違うよって言っても、変わることはない。それを変えるには……予言が外れるのを、待つしかないんだ。

 私の知り合いみたいに、予言が外れた後でも考えを変えない人もいる。けど、さすがに多くの人は考えを改めるか、少なくとも自分の考えに疑いを持つようになるだろう。何かをするなら、その後だ。

 問題は、その「何か」が何であるか、なんだけどね。この街の場合は……。


 北門から来た兵士たちは、まだ何かを話し合っていた。けれど二人の声は、彼の後ろからかけてきたもう一人の兵士の叫びによって、かき消された。


「魔物に守りを突破された! 今、こっちに向かってきている。至急援軍を、いやそれよりも、みんなそこから逃げ──」


 その言葉は途中で途切れた。

 彼の体は、ゆっくりと地面から浮き上がっていった。胸からは、槍の先端が突き出ていた。槍を持っていたのは、大きさ2メートルほどの、ブタ顔で筋肉質の大男──この街に来る途中で何度も遭遇していた魔物、オークだった。


 広場に悲鳴が響き渡り、人々は今度こそパニック状態になって、我先にと駆け出した。




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