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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第3章 予言の街

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40/50

40 予言の時

 その翌日、世界の滅亡と新生を記念するという、教会主宰の式典が開かれる日。私たちは朝から、教会前の広場に来ていた。


 そこにいたのは、私たちだけではなかった。目の前の広場には、既に数多くの人が集まり、ひしめき合っていた。たぶん、この街のほとんどすべての住民が、ここに来ているんじゃないだろうか。広場の奥、教会の建物のすぐ前には、仮設のお立ち台のようなものが作られている。熱心な信者らしき人は、その台の前でひざまずいて、祈りを捧げていた。

 と、どこかで何かを朗読するような声が上がり、それが次第に、広場中に広がっていった。「聖句」の詠唱だ。

 聖句とは、聖教の経典に書かれているありがたい言葉、なのだそうだけど、たくさんの人が少しずつタイミングをずらして唱えているので、なんて言っているのかうまく聞き取れない。信者でもなく、経典なんて読んだことのない私には、まったく意味がわからなかった。

 空はあいにくの曇り空。私たちは教会の反対側、お立ち台からは離れた場所に立って、この騒ぎを遠くから見守っていた。


「そういえば、滅亡するのが今日ってことは聞いたんやけど、時間の指定もあるんか?」

「朝の九時だそうだ。その時間に合わせて、大司教がここでミサを行うらしい。こいつらはそれを聞くために、集まってきたんだろう」


 私のつぶやきに、トライデンが答えてくれた。

 この世界では、時計はあまり普及していない。けれど、教会や領主の邸宅にはわりと正確な機械式の時計が置かれていて、それを使って鐘で時を知らせる、という仕組みが一般的だ。その時計を塔の上に設置し、壁に大きな長針・短針をつけて時計塔にしているところもある。ここの教会の尖塔も、そんな外観だった。

 その針によると、今は八時五十分をすぎたあたり。そろそろ、式典が始まる時間だ。ここに来ている人の数はさっきよりもさらに増えて、お立ち台の周囲は、ほとんどぎゅうぎゅう詰めの状態になっていた。


「しっかし、予め離れたところにいて良かったな。あんな人込みの中には、俺は入りたくねえぞ。っていうか、俺たちはどうして、こんなところに来てるんだよ」

「しかたあるまい。教会がおかしな動きを起こさないか、念のため見張っておく必要があったからな。どうやら表立っては、妙な動きは見せなかったようだが」

「そうらしいな。お、そろそろ、なんか始まるみたいだぞ」


 トライデンの言葉通り、お立ち台のあたりで動きがあった。教会のドアが開いて、白一色の服装を着たおじいさんが数人、姿を現したんだ。

 たぶん、司教とか大司教とかいう、教会の聖職者なんだろう。王都で見た枢機卿は、白地に金色の豪華な刺繍が入った服を着ていたけど、こっちのおじいさんのそれは、そこまで派手な飾りはついていない。おじいさんたちはお立ち台に上って、台の後ろの方に、横一列に並んだ。

 少し間を開けて、もう一度、教会のドアが開いた。出てきたのは、やっぱり白い服を着た、背が高くてやせ型のおじいさんだった。頭は見事にはげ上がっていて、少し頬がこけているように見える。それを見た群衆の間に、ざわめきが広がっていった。おじいさんがお立ち台に上ると、ざわめきは歓声へと変わった。

 あの人が、予言の言い出しっぺの、マリアーノ大司教だ。マリアーノはお立ち台の前の方に進み、軽く片手を上げて、自分を取り巻く信者たちの歓声に応えた。歓声が大きくなり、人々が台の近くへと寄せ集まろうとする。台の下では、教会側の関係者らしい人が数人出てきて、信者たちに鎮まるよう呼びかけていた。


 しばらくして、周囲の声が少し静かになったところで、マリアーノが口を開いた。


「皆さん。時は、来ました」


 マリアーノは後ろを振り返って、時計を仰ぎ見た。その針は、今まさに九時ちょうどを指そうとしていた。


「時、ここに至っては、我々が為せることは、もはやほとんど残っておりません。ですから、多くを語るのは控えることにしましょう。

 これから、この世界には大きな変動が起きます。私たちも、大きな影響を受けることになります。そこには数多くの苦難が待ち受けていることでしょう。ですが、心配することはありません。あなたたちが心から神を信じ、真摯に神に祈り続ける限り、神は必ずそれに応えてくれることでしょう。

 あなたたちであれば、必ずや神の期待に応えて、新しい、輝かしき世界を作っていくことができる。私はそう、信じています。


 ……それでは。皆さん、祈りましょう」


 マリアーノはその場で膝をつき、両手を組んで、神に祈るポーズをした。それにあわせて、人々もいっせいに膝をつき、天に祈った。少しの間を置き、教会の時計塔が、九時を知らせる鐘の音を響き渡らせた。


 鐘の音が終わり、広場を静寂が包んだ。


 そのまま、静かな時間が流れていった。だけどいくら待っても、何かが起きる様子はなかった。

 何も起きない。私は空を見上げてみた。そこにあるのはどんよりとした曇り空だけで、光り輝く流星や大きな彗星などは、どこにも見当たらなかった。



 静かだった広場に、次第にざわつきが広がり始めた。




 BGMはトムフスキー「ヨゲンはハズレタ」でどうぞ。



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