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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第3章 予言の街

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38 話は聞かせてもらった!

「神様はこうおっしゃっられたそうだ。近々、この世界が滅びる、って」


 話は聞かせてもらった。人類は滅亡する!


 ……だったっけ。

 それにしてもこのセリフ、Xとかで1コマだけの画像が流れてたりするから、私も聞いたことがあるんだけどさ。元ネタの方は、読んだことないんだよね。どんな流れで、こう言ってるんだろう。「話を聞いた」と「人類は滅亡する」って、セリフとして微妙につながってないよね?


 まあそれはともかく。


 タマラの言葉に、ジークもトライデンもエイブラムも、何も言わなかった。あっけにとられてしまって、何の反応もできないみたい。けど、元の世界の経験から、私はこの手の話には、多少の免疫があった。

 一瞬だけ、もしかしたらこっちの世界ではこう言う予言もありうるのかも、と思ったりもしたよ。「魔王が蘇る」なんて神託が出されるくらいだから。でも、やっぱりそれはなさそう。王都ではそんなこと、何にも言われなかったし。世界が滅びるんだとしたら、魔王どうこうよりもそっちを先に神託するはずだ。

 私はごほん、とひとつ咳払いをしてから、


「世界が滅びるって……それ、いつの話? どうやって滅ぶん?」

「実はねえ……滅びるのは、明日なんだよ!」


 私の質問に、タマラはまたしても爆弾発言をした。


「明日の朝、空に大きな光が現れる。その光はだんだんと大きくなり、やがて幾千もの流れ星に変わって、大地に降り注ぐんだそうだ。流れ星は大地に落ちると大爆発を起こして、周囲一帯を焼き尽くす。そんなことが世界のあらゆるところで起きて、世界は滅びるそうなんだ」

「ほんまに大司教さんが、そんなこと言うてるん?」

「嘘なんてついてないよ。他のみんなに聞いてごらん。この街の人なら、誰でも知ってることだから」


 ジークは、言っていることがよく理解できない、といった顔で、


「しかし、あした世界が滅びるんだとしたら、どうして皆、こんなに陽気にしているんです?」

「それはね。世界は滅びるけれど、この街だけは救われるからだよ。この街だけは、大司教様と、大司教様を信じる私たち信者がいるから、神様も救って下さるんだ。

 それ以外の街はみんな、滅んでしまうんだって。悲しいけど、神様が決められたことだからねえ。それに、他の街や国は滅んでしまうけど、魔族や魔物、街の外をねぐらにしている山賊なんかは根絶やしにされるから、その後には平和な世界が訪れるんだ。

 明日はいよいよ、滅亡の日だ。けれどそれは、新しい誕生の日でもあるんだよ」

「誕生の日?」

「そうとも。残された私たちが、新しい世界を作っていくんだよ。私たち以外に、誰ができると言うんだい? 私たちには、その使命が下されたんだ。

 トライデン、あんたほんとに、よく帰ってきてくれた。あんたは記念すべき日、記念すべき場所に、立ち会うことができたんだよ……」


 タマラさんは答えた。彼女の顔には、恍惚とした表情が混じりこんでいた。

 あ、そうか。だから私たちがこの街に来た時、「運のいいやつ」なんて言われたのか。だからみんな、あんなお祭り騒ぎをしているのか。街の外が滅んで敵がいなくなるのなら、兵士の仕事もいらなくなる。だから兵士たちも、酒を飲んでいたんだね。

 トライデンは心配そうな顔で、タマラに言った。


「おばさん、あんたそんなこと、本気で信じてるのか?……」

「あたりまえだろ! 妙なこと言い出すんじゃないよ、この子は。

 それよりもトライデン。あんた、あたしの手伝いをしてくれないかい? 明日、教会主催の式典があるんだけど、その準備で忙しくてねえ。

 手伝いが無理なら、献金だけでもいいよ。あたしは信者の代表を任された関係で、献金の責任者にもなっていてさ。こういのって、あんまりやったことないんだけど、教会の司祭さんの方から、もう少し何とかならないか、って頼まれてて。

 あんたたちも、今日この日にこの街に来たってことは、神様を信じてるんだろ? だから、神様が助けてくれたんだ。そのお礼ってことで、献金をお願いできないかねえ……」


 ◇


 私たちはほうほうの体で、タマラの家を退散した。一目散に宿屋に戻り部屋に入ると、トライデンは苦虫をかみつぶしたような渋い顔で言った。


「しっかし、参ったなあ。おばさんは元々、わりと熱心な聖教の信者だったんだけど、まさかあんな風になってるとは……」

「世界が滅亡するって話、トライデンは信じてないみたいやね」

「あったりまえだろ。神を信じているから助ける、なんて言われてもよ。それならどうして、俺の親父やお袋を助けてくれなかったんだよ。二人とも村では一番の信者で、教会の司祭さんが村に来た時には、家に泊めてあげたりしてたのに」


 トライデンは吐き捨てるように言った。なるほど。以前、彼は「あんまり信心深い方じゃない」って言ってたけど、信仰心の篤い人がそんな目にあうのを見ていたら、そうなってもしかたがないよね。


「エイブラムはどうなんや?」

「ぼくも、世界の滅亡なんて話は信じられませんね。確かに、神が恩寵や罰をお与えになることはあるでしょうが、一つの街だけ救って他は全部滅ぼすなんて乱暴なことは、されないと思います。少なくとも、マーサ様から教えていただいた神であれば、絶対にそんなことはなされません」

「ジークは?」


 私が尋ねると、ジークはようやくのことで、この非常識な状況に理解が追いついたらしい。急に憤然とした表情になって、


「……信じられん。まさかこんな馬鹿げたことが、現実に起きているとは。そしてあんな話を、多くの領民たちが信じてしまっているとは。いや待て。この事態に対して、ここの領主は何をしているんだ?」

「おまえ、聞いてなかったのか? おばさんが言ってただろ。

 領主、っていうか領主代行は、予言騒ぎが起きた後で交替させられたらしいぜ。今の代行は、聖教会マイカウンド支部の、元副支部長だってよ」

「教会支部の元副支部長? なんてことだ。ということは、今の代行もこの騒ぎを起こした一員なのか……」

「そう言う言い方をするってことは、ジークもやっぱり、信じてへんみたいやね」

「当然だろう。そんなことよりも、だ。予言の日は明日なんだぞ? この騒ぎから領民たちを救うには、いったいどうすればいい。どうすれば、紛い物の予言から、皆の目を覚まさせることができるんだ?」

「あ、それは簡単やで」

「簡単? この事態に対処する手段があるというのか?」

「うん。とっても単純な話や。っていうか、ああするしか手はないと思うなあ」


 珍しく驚いた表情をみせるジークに、私はうなずいてみせた。



 その後、ジークとトライデンは連れだって外に出ていった。私は彼らについていかずに、そのまま部屋に下がった。

 夜が更けた頃、部屋を出て宿の一階にある食堂に降りてみると、中は閑散としていた。お祭り騒ぎをする人たちは、どうやらこういう食堂ではなくて、飲み屋の方へ行っているらしい。ここの主人の姿もなかったから、もしかしたら彼も、その一人になっているのかもしれなかった。

 外の騒ぎがわずかに響くせいで、逆に物寂しく感じられるような、がらんとした空間。そこに立っていると、なにかの気配を感じた気がした。私は後ろを振り向きながら、こんな言葉を口にした。


「やっぱ、近くにおったんか。待っとったで」

「お見通しとは、恐れ入ります」


 私の後ろに立って、うやうやしく一礼をしていたのは、クセ毛の黒髪が目立つ魔族の男、ハイラインだった。




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