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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第3章 予言の街

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35/50

35 一人だけ、会ってみたい人

「聖女様、どうぞここへお掛けください」


 山道をしばらく歩いて少し休憩をしようとなった時、エイブラムが私に声をかけてきた。見ると、近くにあった、腰掛けるのにちょうど良さそうな大きさの岩の上に、ハンカチのような布が敷いてある。私は、たぶんちょっと困ったような顔に見えるだろうな、という感じの笑顔を浮かべて、これで何回目かになるセリフを口にした。


「あ、おおきに。でもな。わざわざこんなことしてくれんでもええんやで。うちらはもう、一緒に戦う仲間になったんやから」

「でも、ぼく自身の気持ちとして、聖女様には少しでも楽に旅をしていただきたい、と思っていてですね」

「エイブラム。何回も注意したと思うが」


 ジークが口をはさんできた。


「マリーのことを『聖女』とは呼ぶんじゃない。我々のこの旅は、極秘の旅だ。聖女や王子が魔王国の都を目指していると敵に知られたら、旅の目的自体が失われる恐れがある。それを避けるためにも、行動はできるだけ、隠密を心掛けなければならない」

「でも、ぼくの言う聖女様と、あなたたちの呼ぶ聖女様では、意味が違います。あなたたちのは、教会が決めた聖女様でしょう? ぼくは、ぼく自身が聖女様とお慕いしているから、そうお呼びしているんです。マーサ様を、聖女様とお呼びしたように」

「それでも、聞いている方には同じに聞こえるんだ」


 これもまた、何度か繰り返されてきたやり取りだった。けれどエイブラムは、自分の行動を変えようとしない。ジークは、どうにも頭が痛い、といった表情になった。


 同行を許した際、エイブラムには私たちの事情を説明していた。

 私が聖女と知った時には、やっぱりそうでしたか、という感じだったけど、ジークが実は王子様だと教えたら、エイブラムはひどく驚いていた。しばらくの間は、どこにいても絶対にジークの前に出ようとはせず、ジークが話しかけても満足に答えることができないありさまで、ジークにあきれられていたほどだった。

 けれど、「聖女」呼びの件に関してだけは、まったく引こうとはしないんだ。どうやらエイブラムにとっては、王子よりも聖女の方がはるかに大事な存在らしい。

 でもなあ。私って、彼の言う「教会が決めた聖女様」そのものなんだけどなあ。なんだかエイブラムは、私にマーサ様を重ね合わせてるような気がする。そんなのを期待されても、ちょっと困るんだけど。実際のところは、私は「聖女様」なんかでは、全然ないんで。


 そんなわけで彼は、過保護すぎるくらいに私の世話をしようとしてくる。さっきはハンカチだったけど、汗をかいたら風魔法で風を送ってくれたり(それも、私だけに)、座った途端にコップと水を出してくれたり(これも私だけ)、揚げ句の果てにはちょっと首を左右にコキコキとやっていたら、肩をももうとしたりした。

 脂ぎった中年課長が若手女子社員にするのとは違って、セクハラな感じはなかったけど、やっぱりその時は、ちょっと引いてしまった。でも、その時にふと気がついて、


「もしかしてこれ、マーサ様にやってあげてたの?」


ときいたら、エイブラムはうなずいていた。まあ、彼女はけっこうな高齢だったらしいから、わからないでもないのか。けど、私はまだ、うら若き女子大生なので。


 聖女呼びの件はともかくとして、エイブラムが仲間になってくれたおかげで、私たちの旅はずいぶん楽になった。


 魔物とかと戦う時の戦力が増えたのもそうなんだけど、一番大きかったのは、なんと言ってもマジックバッグだ。あれのおかげで、背にする荷物が大幅に減って、移動も戦闘も格段に楽になった。

 あ、マジックバッグを持ってるんじゃないかと怪しまれないために、リュックには軽くて体積の大きいものを入れて、かさ増ししてあります。そう。買っておいた大量の女性用下着は、実は伏線だったのだ! それまでは、リュックの中にぎゅうぎゅうに押し込んであったから、取り出すのが大変だったよ。


 このマジックバッグがかなりの高性能な代物で、中に入れた物は、バッグの中ではほとんど時間が停止しているらしい。完全に、というわけではないけど、実用的には無視できるレベルなんだとか。だから、生の肉を入れておけば傷むのを心配する必要が無くなるし、屋台や食堂で買ったものをすぐに入れておけば、旅の道中でも温かい食事を食べることができる。

 容量的にもけっこうな量が入るらしくて、以前に大きなレッドベア3匹分の死体を入れてみたところ、問題なく入ったんだそう。もちろん、無限ではないらしいけどね。実際に、エイブラムはこのバッグから、大きくて真っ黒い馬の魔物(「魔馬」と呼ばれるらしい)の死体を取り出して見せたりした。

 その大きさにはびっくりしたけど、どうして馬? 馬の肉でも食べるの? と尋ねると、どうやらアンデッドにして乗るために持ち歩いているらしい。


「こいつなら、このあたりの山道でも、休み無しに走り続けることができます。モレーンからアムダリヤへ行くのにも、おそらくは数日程度しかかからないでしょう。もっともそんな使い方をしたら、こいつはつぶれてしまって、二度と使えなくなるでしょうけど」


 この話を聞いたジークは、魔馬の利用を真剣に考えていたみたいだった。けど、今持っているのは一頭だけで、このあたりでは他に魔馬を見かけることはないと聞いて、あきらめていた。いくら魔馬でも、一頭で四人を乗せるのは、さすがに無理だからね。

 それに実を言うと、あきらめてくれて助かった。アンデッドの馬に乗るっていうのは、やっぱりちょっと、気が進まない。ちょっとだけ腐敗臭もしていたし。それに私としては、この旅の道、できるだけゆっくりと進んでくれた方がいいんだよね。


 ちなみにだけど、なら私たち三人をバッグに入れて、残り一人で馬に乗る、なんてことはできないの? と聞くと、やっぱり無理だそうだ。生きているもの、正確には「魔力の動きがあるもの」は、バッグからはじき出されてしまうんだって。

 ただ、植物とか、動物でもごく小さいものなら、魔力を持っていないか動かすことがないから、入れることができる。そりゃそうだよね。動物の死体だって、中にはウィルスやら寄生虫やら、「生きているもの」がたくさんいるんだから。

 というわけで、「マジックバッグにいろんなものを入れて、お手軽にノミ・シラミを退治してウィルス・細菌も除去」は、夢物語なのでした。残念。


 以前にも聞いた覚えのあるような会話のキャッチボールを続けているエイブラムとジークの横で、トライデンは黙っていた。顔は、北の方に向いている。これから進む、道のずっと先のほうを見ているようだった。


「ここまで来ると、マイカウンドまでは、もうちょっとかな? トライデンはマイカウンドの出身やったね。やっぱ、懐かしい?」

「……そうだな。懐かしいことは懐かしいんだが」


 トライデンが私の方を向いた。その顔は、「帰省」という言葉から連想されるほどには、喜んでいないみたいだった。


「出身と言われると、ちょっと違うのかな。正確には、あそこは俺の生まれ故郷ではないんだ」

「あ、そうなん? ってことは、生まれてしばらくしてから、そこに引っ越したんか?」


 トライデンはうなずいた。


「ああ。生まれたのはマイカウンドから少し離れた、ルーウィンという村だ。両親と一緒に暮らしていたんだが、俺が三歳の頃、両親が魔物に襲われてな。亡くなってしまったんだ。小さな村で、孤児院なんてないし引き取ってくれる身よりもなかったから、マイカウンドまで連れていかれて、そこの孤児院に預けられた」

「そ、そうやったんか」


 エイブラムに続いて、またもや重ための身の上話になってしまったので、私の返事もあんまりノリの良くないものになってしまった。トライデンはそんな私を見て、ちょっと苦笑いしながら、


「まあ、孤児院に行けただけ幸運だったんだろう。そんなものがないところでは、エイブラムみたいに森に捨てられるとかで、遠回しに殺されていただろうから。

 とは言え、いい暮らしではなかったことは確かだ。孤児院ってのは、領主が金を出して運営は聖教会が関わる、ってところが多くて、俺がいたところもシスターが子供の世話をしてた。で、シスターがいい人かどうかは院によって違うんだが、どこでも同じなのは、金がない、ってところだな。

 おれんところも、シスターはまあ悪い人じゃなかったんだが、そのぶん金がなくてなあ。建物はぼろぼろだったし、本っ当に一年中、腹を空かしてた。食い物めぐってケンカばかりしてたから、子供同士の仲も、あんまり良くはなかった。

 それで、たまーに食事に出てくる、肉ってやつをもっと食べたい! と思った俺は、黙って院を抜け出して、冒険者の真似事を始めたんだよ。もちろん、最初に相手にしたのはラットとかラビットとかの、小物ばかりだったけど」

「そうなんや。あんたも苦労したんやねえ」

「すぐにシスターにばれて、こっぴどく怒られたけどな。けど、シスターにお願いして正式に冒険者に登録してもらい、それで剣の腕が認められて、サウロイールの学園へ通わせてもらえることになったんだから、後になって考えてみれば、俺はめちゃくちゃ運が良かったんだろう。

 とはいっても、あの街にはそこまでいい思い出があるわけでもないのかなあ」


 トライデンはこう言って、改めて彼の故郷の方向を向いた。そして、ふと思いついた、といった調子で付け加えた。


「あ、そうだ。一人だけ、会ってみたい人がいるな。 

 あの街には一人、かなり遠い親戚になるらしい──具体的にどういう血縁なのかは良く覚えていないけど、とにかく遠い親戚になる人がいてな。その人にだけは、いっつも親切にしてもらってたんだ。

 その人も楽な暮らしをしていたわけではなかったから、俺を引き取ってはくれなかったけど、ときどき訪ねると、食事を分けたりしてくれてな。人のいいおばさんだった。あの人、今はどうしてるのかなあ」




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