32 後始末と、ハッピー・エンド!
その翌日、サウロイールの北門近くは大騒ぎになっていた。
まあ、あれだけの大事件があったんだから、騒ぎになるのは当たり前だよね。
まずは、魔物たちに壊された外壁の修理。外壁は、完全に破壊されはしなかったものの、かなり壊れていたらしい。トロールは大きかったし、トロールが持っていた槌も大きかったから、ある程度は傷んでいても当然かな。まだ修理そのものは始まっていないみたいだけど、修理用の足場の組み立ては、もう既に始まっていた。
その現場には、見知った人の顔もあった。以前に領主宅で会ったヨーゼフ領主代行だ。彼は足場の近くに立って、近くの職人らしき人たちに、しきりに指示を出していた。
それから、戦いで倒したアンデッドの残骸、それの後始末もしなければならなかった。なにしろ、奇声を発する騎士団長たちが、けっこうがんばっていたからね。北門の前には、魔物の腐肉や腐敗した体液が、そこら中にばらまかれたはずだ。今もまだ、ちょっとくさい臭いが漂っている。
しかもここ、畑なんだよね。植えてあった作物はどうするんだろう。まあ、アンデッドになったとは言え、もとは普通の動物だったんだ。自然の循環というやつで、土にでも混ぜ込めば、もしかしたらいい肥料になるのかもしれない。けど私だったら、当分はここでできた物、食べたくはないなあ。
そんな騒ぎを横目に見ながら、私たち四人はサウロイールの門の前を通り過ぎて、北へと続いく道を進んでいった。
私たち、四人。
そう、エイブラムも、私たちと一緒に旅をすることになったんだ。
◇
アンデッド騒ぎが一段落したあと。朝、私たちと顔を合わせたエイブラムは、開口一番にこう言った。
「聖女様、お願いがあります。ぼくを、あなたの旅のお供に加えてください」
「聖女様?」
「ええ。あなたはリッチを一撃で倒すほどの、浄化魔法の使い手です。『聖女様』以外に、お呼びするお名前が見つかりません」
私はぎこちなく笑った。今度こそ、ばれてしまったらしい。ちょっと『聖女』の意味は違う(マーサさんと違って、私はただの官製聖女だ)けど、間違っているわけでももない。
「それにぼく、マーサ様から聞いたことがあるんです。聖女の魔法はアンデッドを浄化するだけでなく、浄化の直前、邪に染まった意識を取り除き、生前の意識を取り戻させることができる。そして、地に縛られた霊を、天に帰してくれるんだ、って」
「え、そうなん?」
「はい。ぼくがマーサ様と話すことができ、マーサ様が天に昇ることができたのは、あなたのおかげです。ですからぜひとも、あなたに恩返しをさせてほしいんです」
こう言って、エイブラムは深く頭を下げた。
ジークとトライデンに相談した結果、私たちは彼の申し出を受けることにした。
これまでも、三人というのはパーティーとしては、ちょっと少ないと感じていたからね。それにエイブラムの戦闘力は(死霊術師の腕というのはよくわからないけど、普通の魔術師として)かなりの実力がありそう。これまで街を守ってきた実績や、マーサさんとの別れの様子を見ても、人間的にも問題なさそうだ。
それに、なんとなくの感じなんだけど、マーサさんの霊体が消える時に、彼女に頼まれたような気もしていたんだよね。これから、この子を頼みます、って。
「ええで。っちゅうか、こっちからお願いしたいくらいや。そしたら、これからよろしゅうな」
「よろしくお願いします」
出発する前に、私たちとエイブラムは、サウロイールの領主宅を訪ねた。昨夜の出来事を報告すると共に、エイブラムが旅立つことも知らせるためだ。これからは街の人たちだけで、魔物と戦ってもらうことになるんだから。
ちなみに、リッチを倒した浄化魔法は、「復活した聖女マーサが使った」ことにしておいた。
私が聖女であることは、隠しておきたいからね。浄化魔法を使ったのは石碑のあたりからだったから位置的にもつじつまが合うし、聖女が起こした最後の奇跡としても、けっこうよさそうなお話じゃないだろうか。ヨーゼフに説明した際にも、彼は特に疑うような素振りはなかった。
◇
「おい、見ろよ」
トライデンが、ふいに声を上げた。声の方を見ると、トライデンは私たちの後ろ、街の北門の方を指さしている。足を止めて振り返ったら、ヨーゼフ代行の顔がこっちを向いていた。私たちが振り返ったのを見た彼は、つと居住まいを正し、私たちに向かって、深く一礼をした。
「なんやあれ。もしかして、うちが聖女で、魔物を倒したのがうちだってことが、ばれてたん?」
「どうだろうな。彼が礼をした相手は君ではなく、エイブラムかもしれないぞ。エイブラムが、今まで彼の街にしてくれたことを思い返したのかもしれない。そして、今までの自分たちの誤りを、認めたのかもしれない」
「あ、そうやな。きっとそうや」
ジークの言葉が聞こえたんだろう。エイブラムは、まだ礼をしたままのヨーゼフの姿を見て、少しうれしそうな顔になった。私は、街の上に広がる青空を仰ぎ見て、大きくうなずいた。
「これで、ハッピー・エンドや!」
「……いや、前にも言ったけどよ。まだ旅は序盤も序盤で、『エンド』っていうには早すぎ──」
「こういうのを、テンドン、って言うんやで」




