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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第2章 死霊の街

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30 アンデッドの襲来

 その夜。


 エイブラム家のベッドで眠っていた私は、夜中に変な音でたたき起こされた。気がつくと、それは遠くから聞こえてくる、鐘の音だった。なんだろう、と上半身を起こしたものの、まだうつらうつらしていた私は、いきなりえづきそうになってしまった。なんだか気持ちの悪い魔力が、あたりを漂っていたんだ。

 学園都市でも魔力の濁りを感じたけど、あれとはちょっと違う。だけど、その規模もレベルも、あの時よりもはるかに大きい。そんな何かが、家の外にあるように感じた。たぶんだけど、音のする方向に……。この時、部屋のドアを連続でノックする音が響いて、私はようやく完全に目を覚ました。


「マリー、起きているか!」

「ジークか、なんかあったん? 外から、変な音が聞こえてるんやけど」

「あれは緊急事態を知らせる警報だ。悪いが、急いで出てきてくれ。サウロイールの街に何かあったらしい」


 私は大急ぎで着替えを済ませて、部屋から飛び出した。家の外に出ると、ジーク、トライデン、エイブラムが、既に装備を調えて立っていた。三人とも、街の方を向いている。真夜中だけど、今日はほぼ満月だったので、月の光があたりを煌々(こうこう)と照らし出していた。街の方向に見えたのは、おぞましい光景だった。


 サウロイールの街を守って立つ外壁と、その外に広がっていた一面の畑。あの穏やかな景色が、大量のアンデッドによって埋め尽くされていた。


 そこにいたのは、数え切れないほどのゾンビやスケルトンたち。ゾンビと言っても、人の死体だけではない。様々な魔物の死体らしきものがうごめいていた。その中にはオークやオーガと言った、かなり強力な魔物のアンデッドも混じっているようだ。その魔物たちは、そろって街へ顔を向け、街の外壁にとりつこうとしていた。

 彼らから漂ってくる強烈な腐臭、そして濁った魔力。さっきから感じていた、いびつな魔力の正体はこれだったのか。いや、それだけではない。アンデッドの周囲には、何か霧のようなものが漂っているように、私には感じられた。形容が難しいんだけど、なんて言うか「真っ黒い霧」みたいなもの。その霧自体が、まがまがしい魔力をまとっているように思えたんだ。


「なあ、ちょっと気になるんやけど、この妙な、黒い霧みたいなもんは、なんなんや?」

「黒い霧? いや、そんなもんは見えねえが──お、あのオッサン、なかなかやるじゃねえか」


 トライデンはそう言って、感心したように鼻を鳴らした。彼の視線の先を見ると、アンデッド迎撃のために出撃したらしい、騎士と兵士の姿があった。その中には、領主の家で偉そうにしていた、マルニクス騎士団長の姿も見える。騎士団長は、


「どっせーーーエエエェェ!」


と変なかけ声を上げながら長い槍を振り回して、周囲にいるゾンビをなぎ倒していた。

 団長だけではなく、他の騎士や兵士も、奮戦しているように思えた。そこかしこで剣や槍が振るわれ、ゾンビが倒されている。けど、敵の大軍に比べると、明らかに数が足りていない。局地的にはよく戦っているんだけど、全体的には、次第に押し込まれているんだ。

 そのうちに、兵士の一人が後ろからゾンビにしがみつかれ、倒された。見る間に大量のゾンビが群がって、アンデッドの山が築かれる。しばらくしてその山がほどかれると、そこにはさっきの兵士が、体のそこら中を食いちぎられて、地面に横たわっていた。もちろん、その体はぴくりとも動こうとはしなかった。

 それに加えて、森の方から大きな魔物が現れた。

 ゆうに5mはありそうな巨体。その全身にはほとんど体毛がなく、はげた頭のてっぺんには、鬼のような角が一本生えている。トロールだ。大きな右手に、身長ほどの大きさのある槌のような武器を持っている。体のところどころの肉は腐り落ちているけど、残っている筋肉だけでも、とんでもないパワーがありそうだ。

 マルニクスはトロールが近づくのを見ると、「ナアアアァァ!」と声を上げ、怪物目がけて突進していった。そして彼の槍は、見事に怪物の体を捉えた。が、その直後、トロールの振り回した槌が、マルニクスの体を直撃した。マルニクスはものの見事にふっとばされて、ごろごろと数メートルも転がった。

 その体はもぞもぞと動いているから、死んではいないらしい。けれど、立ち上がって戦うことは、とてもできそうになかった。トロールは体に刺さった槍を抜くと、倒れた騎士団長には見向きもせずに、街の方へ向かって進んでいく。そして外壁に向かって、槌を振り上げた。


「まずいな」


 ジークがつぶやいた。


「立派な外壁があるのに自分から打って出るなど下策だと思っていたが、あんな化物がいたのか。あの大きさでは壁など乗り越えてしまうだろうし、壁自体も破壊されかねない。あいつを倒すために、打って出たというわけだ。

 だが、頼みの騎士団長は、倒されてしまったようだ。こちらからも援護した方が良さそうだな」

「お、お願いします。あなたたちが部外者なのは承知していますが、あの街を守るために、できればジークさんたちにも協力してもらえれば──」

「ちょい待ち。あそこを見てみい」


 今にも打って出そうなジークたちを制して、私は戦場の一角を指さした。そこはさっき、一人の兵士が倒され、そこへアンデッドが山のように群がっていた場所だ。今は、その兵士の死体があるだけ──だったんだけど、いつの間にか、そうではなくなっていた。倒れていた兵士が、起き上がったんだ。

 残念ながら、彼が助かったわけではない。動き出した兵士は、そばに落ちていた自分の剣を拾おうとはしなかった。両手を力なく前に突き出し、あんぐりと口を開けて、よろめくような足取りでふらつきだしたんだ。まわりのアンデッドは、彼に見向きもしない。トライデンが驚いて、


「まさか、アンデッドになったのか? いくらなんでも早すぎる。あいつ、ついさっきまで生きてたんだぞ」

「ちょっと言いかけたことなんやけどな。うち、このあたりに変なもんが漂ってるように感じるねん。なんちゅうか、黒い霧、みたいなもんが。そいつは妙な魔力を持っとって、さっきの兵隊さんがアンデッドになった時、その霧が兵隊さんの中に入ってった気がするんや」

「あ……」


 私の説明に、エイブラムは声を上げた。


「確かに、ぼくも感じます。いびつな、魔力のようなものを。それが霧のような状態になっているのかどうかはぼくにはわかりませんが、あたり一帯に広がっているのは感じ取れます」

「だが、それが死体に入ってアンデッドになった、ってのはどういうことだ?」

「要するに、死霊術みたいなもんやないかな」


 トライデンの疑問に、私が答えた。


「うちはほんまもんの死霊術っちゅうのは見たことないから、まったく同じもんかどうかは知らんで。けど、だいたいの仕組みがおんなじだとすれば、兵隊さんがアンデッドになったのも、こんなにたくさんのアンデッドがまとまって動いてるのも、説明がつくんと違うかなあ」

「なるほど。そういうことか」


 私の言葉に、ジークがうなずいた。


「言われてみれば、アンデッドがこれほどに大きな集団をなして一つの街を襲うなど、あまり聞いたことがない。だが、何者かがアンデッドを作り、その者が街を襲うよう命じているのであれば、話はわかる。

 だとすると、その対処方法は──」

「その命令してるやつを倒せばいい、っちゅうわけや。それでアンデッドの連中も一緒に倒れてくれるかどうかはわからんけど、少なくとも、まとまって行動することはなくなるやろ。倒すのもやりやすくなるやろうし、その前に、勝手にどこかに行ってくれるかもしれん。

 となると問題は、そいつが今どこにいてるか、なんやけど……」


 私はアンデッドの群れの後方、街や群れからは少し離れた地点を指さした。みると、既にエイブラムも、ほぼ同じ方向に視線を向けていた。どうやら彼も、魔力の元となる者を探し当てたらしい。


「その霧とか魔力とかの中心になってるとこを探せば、たぶんそこにおるやろ」

「マリーが指さしてるのが、そこなのか? 確かに、ちょっと離れたところに、アンデッドの群れがいるな。その真ん中にいるのは……じいさんか」

「あの老人が、この騒ぎの首謀者か。いや、待てよ……どうやら彼も、アンデッドのようだ。魔術師のローブを羽織り、手に杖を持っているが、ありえないほどに腰が曲がっている。そして彼の顔は、ひどく干からびているように見える。とても、生きている人の顔ではない。

 おそらく、ミイラ化した死体がアンデッド化したんだろう」


 ジークが目を細めながら言った。どうやら彼は、かなり遠目が効くらしい。彼に限らず、この世界の人は近視の人は少なくて、どちらかというと遠視よりなんだよね。ちょっとうらやましい。私は、携帯ゲームやスマホのせいで、小学校の頃には、きつめの近視になっちゃってたから(←スマホのせいじゃなくて自己責任)。

 ジークは続けて、


「死霊術を使うアンデッド、か。となると、相手はリッチクラスだろう……もしかしたら、死霊術師のアンデッドがリッチになったのかもしれない。黒い霧というのはよくわからないが、生前のスキルを保持したままアンデッドになったものの、その術の行使の方法が、生前とは異なるものになってしまった、といったところだろうか。

 あの魔物がなぜこんなことをしているのかはわからないが、アンデッドには、生前の意識を持たないものも多いらしいからな。行動の理由を問うなど、意味のないことなのかもしれない」

「あ、あそこにいてるのも、アンデッドなんか? っちゅうことはや。

 要するに、今度はうちの出番、ってことやね」


 私はこう言って、一歩前に出た。




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