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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第2章 死霊の街

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28 反魂者にしないわけ

 エイブラムの話を聞いても、ジークたちは特に嫌そうな顔を見せなかった。そんな彼らに、私は尋ねた。


「うちは死霊術師と聞いても別に何とも思わんけど、ジークたちは、そういうのって平気なん?」

「うむ。死霊術師をことさらに嫌うのはオルティナ聖教だが、カーペンタリア王国には、オルティナ聖教の他にも有力な宗教がいくつかある。そのため私たち王族は、それぞれの宗教とは一定の距離を置くよう、教育されているんだ」

「もちろん、俺も平気だ。俺の育った田舎には、そもそもちゃんとした教会なんてもんは無かったからな。一応、宗派としてはオルティナ聖教とか言うやつに入ってたんだろうが、きちんとした教義なんてものは教わっていないし、そもそもあんまり、信心深くもない」


 これを聞いたエイブラムはほっとした顔になって、二人に向かってお辞儀をした。ジークは小さくうなずいて、


「今の話で、街の人が君を嫌っている理由と、それでも代行が君の話を聞いた理由はわかった。ところで、今の話に出てきた、エイリクという君のお兄さんは、どうしているんだ?」

「マーサ様が亡くなってしばらくして、兄はこの家を出て行きました。こんな生活に嫌気がさしたんでしょう。もしかしたら、北の方へ向かったのかもしれませんね。家を出る直前、『魔族の国なら、死霊術師にも居場所があるらしい』なんてことを、よく言っていましたから」

「そうかあ。そんなら、もしかしたらそのうち、会うことがあるかもしれんね」


 私は言った。私たちの旅も、北へ向かって魔王国の王都へ行くのが目的だ。双子なら顔もそっくりだろうから、見わけるのは簡単だろう。向こうに居場所を見つけて、私たちの敵になっていたら困るかもだけど、まあそんなすごい偶然なんて、滅多にないよね。


「ところでやな。こういうのって、もしかしたら聞いていいことやないのかもしれんけど……」

「何でしょう?」

「なんでマーサさんを復活させないんや? 死霊術って、ゾンビみたいにするだけやなくて、ほとんど生きてるのと同じような格好にもできるんやろ? 確か、『反魂者』とかいうやつに」


 この質問に、エイブラムは少し黙り込んだ。

 そのまま立ち上がって、自室に入っていく。戻ってきた時には、焦げ茶色の、一見どこにでもありそうなリュックサックを持っていた。彼はリュックに手を突っ込むと、その中から、入れ物よりも明らかに大きな、ボア(イノシシに似た魔物)の死体を取り出してみせた。


「わ、なんやそれ。マジックバッグってやつか? でもそういうのって、ずいぶんと値の張るもんなんやろ。どうしてそんなもん、持っとるんや?」

「ぼくのジョブは、普通は忌み嫌われます。ですがごくたまに、死霊術師としての依頼を受けることがあるんです。これは、その時に受け取ったものです」

「死霊術師としての依頼?」

「ええ。

 依頼人は、高齢の老人でした。よその街で、かなり手広く商売をしている商人だとの事でしたが、彼が持ってきたのが、このマジックバッグでした。彼はこの中から、十歳くらいの女の子の遺体を取り出しました。

 その子は、彼のお孫さんでした。

 彼女は光魔法のスキルを持っていて。幼くして初級の光魔法も習得していました。スキルだけではなく、性格も優しく、まさしく聖女のような子供だったそうで、将来は本当に聖女になってくれるかもしれない、と期待していたそうです。

 ところが、ある日のこと。一人で街に遊びに行った彼女は、行方不明になってしまいました。そして後日、他殺体となって発見されました。犯人は見つからなかったそうで、老人はそのあたりの詳細は話してはくれませんでしたが、おそらくは街のごろつきあたりに捕まって、殺されてしまったのでしょう。

 彼は孫を、死霊術で反魂者として蘇らせてほしい、と言ったのです。

 遺体の保存状態は良好でした。老人が使ったマジックバッグには、時間を停止させる機能がついていたからです。同じ死霊術を使っても、死体の状態が良い方が、成功率は上がります。彼はそこまで調べていたようです。

 彼の依頼を、兄は引き受けました。兄はぼくよりも優秀な死霊術師で、あの頃すでに、死体を反魂者にする術を身につけていたんです。そして実際に、彼はその術を成功させてみせました」

「へー、すごいやん」

「ですが、反魂者となった女の子は、生前とはまったく違う性格になっていたんです」


 エイブラムは痛ましげな表情で首を振った。


「おとなしくて、おじいさんの言うことは何でも聞くような女の子だったのが、凶暴で手のつけられない暴れ者に変わっていました。そして、光魔術の使い手だったはずなのに、我々を闇魔法で攻撃しようとしました。闇魔法のスキルなんて、もともとは持っていなかったのにです。

 反魂者の性格やスキルは、生前とは大きく変わることがあるんです。そこには生前の最後の経験が強く反映されるらしく、特に恨みや怒り、復讐心を持っていた場合は、大きく変質します。それが非常に強い恨みだったりすると、非常に大きな力を得てしまうことまであります。

 おそらくですが、彼女は死に際して、とても辛いことがあったんでしょう。例えば、男性に襲われたとか……。あの老人も、それらしいことをほのめかしていましたから」


 男に襲われた、か……。それは本当に、嫌だったろうな。特に、聖女のような性格の、汚れを知らない女の子がそんなことされたりしたら。闇落ちしてしまってもおかしくはない。そりゃそうなるよ。私だってそうなる。そのへんのところ、こっちの世界は日本よりもヤバそうだからね。私も気をつけないと。

 エイブラムは続けて、


「このことは事前に説明してはいたのですが、それを実際に目にした老人は、大きなショックを受けていたようでした。そして、即座に死霊術の行使を打ち切るよう、兄に命じました。

 ですが、すでに完成してしまった術を『打ち切る』ことなどできません。ほとんど言葉も通じないままに彼女は暴れ続け、ついには老人に向けて、闇の攻撃魔法を放とうとしました。それはかなり強力な魔法でしたから、私と兄も、攻撃魔法で応戦するしかありませんでした。まるで魔物を退治するかのように、私たちは彼女を退治しました。

 依頼者の老人は絶望した顔になって、この家を去っていきました。このマジックバッグも、依頼の報酬として置いていったわけではありません。『こんな穢れたものは持っていたくない』と、捨てていったものなんです」


 エイブラムは、部屋の西側の壁に目を向けた。そっちは確か、壁の向こうに小さな石碑が建っている、その方向だった。


「反魂者は、見た目は生前とそっくりでも、いろいろなところが違っています。例えば、食べたり飲んだりする必要はなく、眠る必要もありません。ぼくたちと同じ意味で『生きて』はいないのです。逆に言えば『死ぬ』こともないんですが、そんな生活が幸せとは限らないし、マーサ様を反魂者として蘇らせても、あの人が喜んでくれるとは限りません。

 でもそれ以上に、ぼくは心配なんです。

 反魂者になったあの人が、大きく変わってしまわないか、って。街の人たちのため、悪魔のようになってしまったマーサ様を、ぼくは見たくないんです」




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