27 堰を切った身の上話
「私と兄は、マーサ様に命を救っていただいたのです」
エイブラムはこう言った。そして、たぶん心にたまっていた物があったんだろう、堰を切ったように聖女マーサのことを話し出した。
彼の話によると、エイブラムと、エイリクという彼のお兄さんは、サウロイールからかなり離れた森の中に捨てられていたそうだ。
二人とも、まだ一才かそこらだった。おそらく、自分たちの子供を鑑定して彼らのジョブを知った両親が、二人をそこに捨てたんだろう。というのは、エイブラムだけでなくエイリクのジョブも、死霊術師だったからだ。
死霊術師というジョブはかなり珍しいものだし、兄弟だからといって同じジョブになると言うことはない。ただ、エイブラムたち二人は、背格好はほぼ同じで、顔などの見た目もそっくりだった。おそらく、彼らは双子だったんだろう。それも一卵性の。だから、この珍しいジョブが重なってしまったんだろう。
両親としては、兄弟そろって忌むべきジョブを持っていたのが、余計にショックだったのかもしれない。もちろん、自分の子供を捨てるなんて、ほめられたことじゃないけどね。
彼らを拾ってくれたのが、そのころ既に聖女として名高かった、マーサだった。
山岳地帯の街を巡っていた彼女は、その旅の途中、木々の中から聞こえてくる男の子の泣き声に気がついた。そして森に入って、泣いている彼らを見つけたんだ。
彼女は二人を、街としては一番近くにあったサウロイールまで連れていき、この兄弟を知っている人はいないかと、街の人に尋ねて回った。けれど、兄弟のことも、彼らの両親のことも、知っている人はいなかった。またエイブラムたち本人も、この街を知っているようには見えなかった。たぶん、生まれ故郷から遠く離れた場所で捨てられたんだろう。
結局、彼女は彼らの両親を見つけることはできなかった。だけど、この街には孤児院のような施設はなかった。大きな街まで連れていって、そこの孤児院に預ける方法もあったんだけど、彼女はそうしなかった。マーサは、自分で二人を育てることにしたんだ。
生まれついてのジョブのせいで親に捨てられた(マーサは「鑑定」のスキルを持っていたので、二人のジョブは知っていたらしい)という彼らの境遇に同情したのか。それとも、一緒に旅をするうちに情が移ってしまったのか。もしかしたらマーサの方でも、そろそろ一つの街に落ち着こう、なんて考えていたのかもしれない。そのころ彼女は、もう五十才を超えていたそうなので。
実際、二人を拾ったマーサは旅をやめて、サウロイールの街に住むようになった。高名な聖女の定住を、街の人たちは歓迎した。街の門が白く塗られていたのは、「聖女の街」になったのを喜んだ領主代行が、聖女のイメージカラーである白で塗ったから、なんだそうだ。また、聖女が育てている双子と言うことで、当初はエイブラムたちも、大切に扱われた。
だけど、そんな状態が一変する出来事が起きた。
エイリクが、死んだ猫を動かしてしまったんだ。
そのころ、彼らの家によくやってくる猫がいて、兄弟もたまに食べ残しをあげるなどして、その猫をかわいがっていた。ところがある朝、その猫が死んでいた。年寄りの猫だったから、寿命だったんだろう。けれど幼かったエイリクには、それが納得できなかった。彼は、まだ無自覚だった自分のスキルを操って、猫のゾンビを作ってしまった。
この事件で、彼らのジョブが死霊術師であることがばれてしまった。
運の悪いことに、エイリクが術を使ったのが、悲しんでいる彼らを隣の人がなぐさめている時だったからだ。さらに、騒ぎの後でエイブラムも鑑定を受けさせられて、彼のジョブも明らかになってしまった。この時以降、人々の態度は一変した。それまでは二人をかわいがってくれていた人たちが、忌まわしいジョブを持つものは即刻街から出て行け、となじるようになったんだ。
マーサもまた、街の人からの非難を受けた。聖女があんな子供と一緒にいるのはもってのほかだ。いや聖女であるのなら、二人を追い出すのに協力すべきである、と。だけど、彼女は二人を捨てなかった。さすがに街の中に住み続けることはできず、今エイブラムがいるこの家に移り住むことになったけど、それ以降も、マーサはエイブラムたちと共に暮らし続けた。
追い出されるように街を出てからも、マーサは治療活動を続けた。また、街の外で発見した魔物は、エイブラムたちを連れ、自ら率先して退治した。これは、エイブラムたちの訓練の目的もあったらしい。けど、そうした活動もあってか、街の人や領主代行からは、街の近くに住むこと、街の中に入ることを、事実上「黙認」されるような形になった。
マーサは数年前に亡くなったけど、その状態が今もまだ、続いているんだ。住民たちからは、白い目で見られている。が、街を守るため、いやそれよりも、聖女の遺志を継ぎ彼女が実践してきた教えを守るために、エイブラムはこの家に住み続け、魔物と戦い続けていたんだ。
「そっか。さっきの石碑の下には、マーサさんが眠ってるんやね」
こう尋ねると、ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、エイブラムはうなずいた。感極まってしまったのか、彼は話しているうちに泣き出してしまっていた。トライデンはそんな彼を見て、
「なんて恩知らずなやつらだ。自分たちを助けてくれた人を、街から追い出してしまうなんて。しかも、相手が助けて続けてくれるのをいいことに、自分たちの態度を改めようともしない。まったく呆れかえるぜ!」
こう言って、憤懣やるかたない、といった表情で腕を組み、貧乏揺すりを始めた。足の動きに合わせて家がミシミシと音を立て、ジークはちょっと困ったような視線をトライデンに送った。その顔には困惑と同情はあるものの、嫌悪の感情は見あたらないように思えた。




