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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第2章 死霊の街

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23 魔法剣とシールドバッシュ

 ハイファンを出発した私たちは、いよいよメインのルートを外れて、山岳地帯への道を進んでいった。


 一応、次の街までは馬車だったけど、そこから先は早くも歩き。狭くて荒れた道路になって、馬車が通れるような代物ではなくなってしまったからだ。長いこと歩くのなんて中学の遠足以来なんだけど、この先だいじょうぶかなあ。周囲の景色も単調さに磨きがかかって、山と森ばかりになっていった。


 こちらのルートに入って、景色の他にもう一つ少し変わったことがあった。魔物の登場だ。


 人里から離れるにつれて、当然のことながら、野生動物と会う機会が増えた。

 元の世界なら、山に入っても人を襲ってくる動物なんて滅多にいなかった(最近、例外が増えてきたみたいだけどね)。けど、こちらでは当たり前のように野生動物が立ちはだかってくる。主に向かってくるのは、魔物だった。「魔物」とは、魔石という器官を体の中に持つ動物のことだ。

 この世界には、「魔素」というものがある。人がいろいろな魔法を使えるのはこの魔素のおかげなんだけど、動物の中にもこの魔素を使って、自分の力を強化するものがいる。それが、魔物なんだ。魔物は魔素を使うから、それを体にため込んでおく仕組みを持っていて、それが魔石、というわけ。

 魔石には魔素が貯えられているので、いろいろな魔道具のエネルギー源としても使われている。そのため、冒険者ギルドなどに持ち込むと、大きさに応じた値段で買い取ってくれるらしい。

 というわけだから、魔物も魔族と同じく、「悪魔」とは何の関係もない動物だ。まあこの呼び名から逆に影響されて、「穢れたもの」とみなす宗教もあるらしいけど。

 ちなみに、魔物が人に向かってくるのは、単純にエサにするため。「人という種族を憎んでいる」といった設定があるわけではない。魔物以外の動物があまり向かってこないのは、彼らが人より弱い場合が多いから。魔物くらいの強さがあれば、ワンチャン、エサにできてしまうので、向かってきてしまうんだね。


 と言うわけで、今私たちの目の前にはその魔物の一種、レッドベアがいた。


 レッドベアはヒグマを赤黒くしたような見た目の魔物で、山道を通る旅人を襲ったり、ときには人里近くまで降りてきて、街に入り込むこともある。ハイファンのような大きな街ならともかく、山奥の小さな街や村には、背の高い立派な塀なんて無いところも多いからね。ベアはその大きさと俊敏さで、小さな塀なんて乗り越えてしまうんだ。

 冒険者ギルドでは、依頼を受けずに退治しても賞金がもらえる「常設依頼」の対象になっていることも多い。それだけ、大きな被害が出ているってことなんだろう。


 けれども今回は、どうやら相手が悪かったようだ。


 出てきたレッドベアの群れは三頭。うち一頭は、ジークとにらみ合っている。こうして見ると、ジークとトライデンって対照的だな。ジークは騎士としてはそれほど背が高くはなく、肉付きもちょっと細身。対するトライデンは、大男のマッチョだ。けれど、ジークが鍛えていない、というわけではなかったみたいだ。

 ジークは剣を正眼に構えて、動かずにいる。対するベアは、なかなか彼に襲いかかろうとしなかった。なぜかというと、たぶんジークの持つ剣が光っているせい。野生の勘とかいうやつで、あの白い光に警戒しているんだろう。

 けど、とうとう我慢ができなくなったらしい。ベアは二、三歩後ずさったかと思うと、大きなうなり声を上げて、ジークに飛びかかっていった。その攻撃を予期していたかのように、ジークはすっ、と横によけた。そしてすれ違いざま、剣を横なぎにした。

 私には軽く払っただけ、のように見えたんだけど、レッドベアの胴体には一本の赤い線が入り、それは見る間に広がって、大量の赤い液が噴き出した。ベアが地面に倒れた時には、魔物の体は上と下に、きれいに両断されていた。


 残る二頭は、トライデンと対峙していた。トライデンは、左手に持った大きな盾を前に構えて、私を守るような位置に立っている。さっきから二頭のベアは、交互に何度も突っかけようとしていたけれど、そのたびにトライデンの盾に阻まれ、右手に持った剣で切りつけられていた。

 こちらのベアも、だんだんとじれてきたのか。一頭が大きく後ろに下がって、勢いをつけて突進してきた。それを見たトライデンは、剣を地面に突き刺し、両手で盾を持った。そして、襲ってきたベアにカウンターを放つように、強く素早く、盾を突き出した。


「シールドバッシュ!」


 盾をまともに受けたベアは、たまらず吹っ飛ばされた。その体は、上半身と下半身が別々の方を向いているかのようにねじ曲がり、そのままごろごろと転がった。転がりが止まっても、その格好のまま動こうとしなかった。どうやら、今の一撃で死んでしまったらしい。さらには、どういうわけか攻撃してはいなかったもう一頭のベアまで、地面に倒れ込んでいた。

 そこへ、ベアを両断したばかりのジークが駆け寄ってきて、こちらにもとどめをさした。


「おー、すごいやん」


 私は思わず感嘆した。


「ジークの、さっきのあれは何やったん? なんか、剣が光っとったで」

「あれが魔法剣というものだ。魔法を刀身にまとわせることによって、剣の切れ味を増したり、斬撃に魔法的な効果を加えることができる。白く光っていたのは、まとわせていたのが雷魔法だったからだ。

 私の剣には、エレン学長がトライデンに渡そうとしていた剣のような、魔石はついていない。だが修練を積めば、魔石なしでも魔法剣を使うことは可能なんだ」

「はえー、そうなんや。でもそうなると、ちょっと惜しかったなあ。こんなにすごいんなら、トライデンもあの剣、もらっとけば良かったのに」


 私はこう言いながら、トライデンをちらりと見た。

 実はトライデン、ハイファンを出る前に、卒業生首席がもらえるはずの魔法剣を学園に返してしまってたんだ。卒業試験を受けずに首席扱いされることについて、トライデンとしては少し思うところがあったのかもしれない。決闘騒ぎを起こしたコンラッドから、「卒業試験から逃げた」、なんて言われてたせいかも。

 でも私は、別にもらっておいてもよかったと思うけどなあ。コンラッドのは単なる言いがかりだし、卒業試験を受けられなかったのは、ジークのせいなんだからね。

 と思っていると、トライデンは首を振って、


「いや、あれは俺には必要の無いものだ。俺の本領は、攻撃することじゃない。誰かを守ることだったんだよ。

 これまでもそうだったんだが、特にコンラッドとの戦いではそう感じた。自分を守るのではなく、マリーを守ろうとした時、今までにはない力が湧いてきたような気がしたんだ。そしてあの時のシールドバッシュには、それまでとは段違いの破壊力があった。

 誰かを守る時に力を発揮する。もしかしたらこれが、重騎士というジョブの特性なのかも知れないな。重騎士というのは、守りに特化した少々使い勝手の悪いジョブ、と考える人も多いが、俺はこのジョブに、誇りを感じているんだよ。

 だから、俺にとって大事なのはこの盾で、剣じゃあないんだ」

「ふーん。ま、本人がそう言うなら、うちとしては文句なんて無いんやけどな。ところで、さっきのシールドバッシュやったっけ、あれもすごかったで。でっかいベアを二頭いっぺんに倒して。あれ、直接叩いたやつが倒れたのはわかるけど、なんで2頭目も倒れたん?」

「あれは衝撃波だ。シールドバッシュが成功すると、敵の攻撃と俺の盾による打撃が真正面からぶつかり合って、強い衝撃波が生まれる。その衝撃波を、二頭目のベアの方に向けたんだ。

 達人になると、魔法に対してもシールドバッシュが使えて、魔力を伴った衝撃波を出すことができるらしいぞ。まあ、盾に魔法をまとわせなければいけないから、俺には無理だけど」

「そうなんや。うちも一応、攻撃魔法の準備はしとったんやけど、全然必要なかったな」


 私は、ベア三頭が倒れた地面を改めて眺めながら、


「ただ、それにしてもなあ。なんとなくやけど、うちらのパーティーって、少しおかしくない? 剣役と盾役とヒール役はいるけど、遠距離攻撃役がおらへんやん」


 私も一応は全属性魔導師だから、攻撃魔法が使えないことはない。けど、光魔法以外の魔法は、なんて言うか燃費が悪くて、それほど得意ではないんだ。光魔法の攻撃魔法もあるけど、あれは広範囲魔法だし、こういう相手に使うには、ちょっと大規模すぎる。だから、攻撃魔法をメインで使うタイプの人がいてくれたらな、と思ったんだ。

 まあ、なんていうかよくあるゲームの設定からの連想で言っただけなんだけど、意外なことに、これが正解だったらしい。ジークがうなずいて、


「よく知っているな。確かに一般の冒険者パーティーであれば、魔術師が一人いるのが普通だ」

「あ、やっぱそうなん?」

「ああ。ただ、私たちのパーティーの場合、新たに魔術師を加入させるにしても、その人選が難しい。私たちの使命を明かすことができ、魔王国の王都まで一緒に戦い続けてくれるような人物でなければならないからな。

 使命を明かさずに、その場その場で臨時に魔術師を雇い入れる方法もあるが、それでも最終的には、魔王や魔王側近を相手にすることになる。それだけの覚悟と実力のある魔術師をその場で見つけるのは、おそらくは難しいのではないかな」

「なあに、だいじょうぶだ! マリーのことは、俺のこの盾で、守ってみせるからよ!」


 トライデンが口をはさんできた。戦いの直後で、しかも必殺のシールドバッシュがきれいに決まったせいか、少しハイになってるみたいだね。その様子に、ジークがちょっと苦笑いをしていた。




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