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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第1章 学園の街

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20/50

20 ──とは限らない!

「いえ、違いますよ」

「え、違うん?」


 ハイラインに軽く否定の言葉を返された私は、おうむ返しにつぶやいてしまった。ちょっと予想外の展開だったからだ。ここは素直に認めるか、そうでなければ、怒り狂って否定するところじゃない? でも、ハイラインはまたもや軽い調子でうなずいて、


「ええ。私はそんなことはしていません。

 まずですね。私が魔族に違いない、ということが、私が犯人であることの論拠の一つ、とのことでしたね。しかし、魔族がいるからといって、その人が犯人とは限りません。当たり前の話ですが、すべての魔族が、魔王や魔王国に忠誠を誓っているわけではないからです。このあたりは、ヒト族でも同じでしょう?」

「そう言われたら、そうかもな」

「それに、魔族が戦争を有利に進めるために今回のような事件を起こした、というのも、少々弱いと思います。戦いは既に始まっており、魔王国側はかなりの劣勢に立たされていると聞きます。そんな時に、後方も後方、食料や武具を生産しているわけでもないこんな街でこの程度の事件を起こしても、なんの影響もないでしょう。工作としては、あまりに迂遠すぎます。

 長期的な効果を狙うにしても、もっと大規模に薬物を広めなければ、ほとんど実害はないのではありませんか?」

「それもそうやね」

「だいたいですね、もしも私が魔族であり、魔王国のために薬物工作をしていたとしたら、どうしてあなたにあんな話をしなければならなかったのです? あなたが今回の事件に気づかれたのも、犯人を私と考えたのも、この件をあなたにお話したのが原因でした。けれど私が犯人だとしたら、そんなことをしても何のメリットもありませんよね?」

「確かに。そこは、忘れとったわ」


 矢継ぎ早に反論を並べたハイラインは、さらに続けて、とんでもないことを言い放った。


「では、真犯人は誰なのか。誰が何のために、薬を流しているのか。実はその点については、調べがついております」

「え、調べがついとんの!?」

「ええ。あなたはご存じないかもしれませんが、イスモという、つまらない男がおりましてね。ちょびひげなどをはやし、自称高級ポーション店を営んでいる男なのですが、その裏で、違法薬物も扱っているのです。そのイスモが、取引先の怪しい筋から、怪しい薬物を仕入れたのですよ。

 それは、服用すれば一時的に身体機能を向上させるが、同時に精神的にも著しい興奮状態を起こしてしまう。しかも、常用するとやっかいな依存症状が起きる。そんな代物でした。普通なら、使い物にならないと破棄するところでしょう。が、彼はそれを、卒業試験間際の、某侯爵家の息子に売りつけたのです。

 卒業試験にひどくこだわっていたその息子は、その薬を購入しました。が、彼もそんな怪しい薬を、すぐに飲んでみる気にはなれなかったようでしてね。『明確に合法ではないが、はっきりとは禁止されていない、グレーな薬品だ』などとうまいことを言って知り合いの学生に渡し、飲むよう勧めたのです。

 その甘言に乗って、卒業試験の試合や冒険者としての初仕事に不安があった一部の学生が、飲んでしまった。その結果、いくつかの暴力事件が起きてしまった。今回の一連の事件の真相は、そんな次第だったのです」


 私はゆっくりと、ハイラインに突きつけていた指を下ろしていった。


 真実は一つでも、私が言いあててるとは限らなーい!


 某侯爵家の息子というのがコンラッド、甘言に乗った学生の一人が、マービンなんだろう。そういえば、ちょびひげを生やした尊大なポーション屋の主人っていうのも、どこかで会ったような気がする。

 薬を飲んだマービンは様子がおかしくなっていたけど、コンラッドはそうなる前に、武芸場から立ち去ってしまっていたからね。おかしくなったところは見ていなかった。だから安心して、自分も薬を飲んでしまったんだろう。

 ハイラインの推理に、私は素直に感心した。


「それにしても、よくそこまで調べれたもんやねえ」

「そこは、スキルというもののおかげでして……。実は、先ほどのあなたのお話には、正しいところもあったのです。私が魔族である、という点ですよ」

「あ、そこは認めるんや」

「ええ。この髪の色も、魔道具で変えたものです。ただし、魔王の配下ではありません。ですから、聖女様と敵対するつもりなど、微塵(みじん)もないのですよ。

 それどころか、事件の情報をお伝えしたのは、あなたのためだったのです。あなたがたがこの街で、旅の同行者を見つけるつもりなのは存じておりましたからね。その際に、薬に頼るような変な学生に引っかからないよう、ご注意申し上げようと思ったのです。

 まあ、確かに以前は、魔王軍に所属していたことはあります。そして、私の持つスキルの力が認められ、それなりに重要な職に就いていたのですが──」


 「魔王軍の重要な職」、そして「聖女」という言葉に、私の心は再び警戒態勢になった。こいつ、どうして私が聖女で、ここで仲間を増やすのを知ってるの? けどハイラインは、そんなことなど何でもないかのような調子で、


「──ですが、とある問題を起こしましてね。その職を解かれてしまいました。今は魔王軍からは離れており、なんの活動もしていません。今回、あの事件に気づいたのは単なる好奇心からですし、あなたにあのお話をしたのも、先ほど申し上げたとおり、単なる老婆心からです」

「問題を起こしたって、何をしたんや?」

「厳密には、私が問題を起こしたのではなく、まわりが勝手に、問題視しただけなのです。嘆かわしいことに、魔族の間では、あなたのような趣味趣向は認められていないんですよ。まあ、この国に来てわかったのですが、魔族だけでなくヒト族の間でも、嫌う人が大半のようなのですが」

「え、うちの趣味? どうしてそこで、うちの話が出てくるんや?」


 首をかしげる私に、ハイラインはにっこりと笑って、こう答えた。


「マレビトの間では、それなりに一般的な趣味なのでしょう? 『オトコのコ』というものは」




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