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召喚されたおおまか聖女は、ハッピー・エンドを希求する  作者: ココアの丘
第1章 学園の街

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18 三度目の狂乱

「待て、トライデンー!」


 若い男の声だった。次いで、金属音を響かせながら、一人の男が私たちを追い越した。男は、全身に金属製の鎧を身につけている。兜もかぶっていて顔がわからないけど、あれ、この声どこかで聞いたような……。

 トライデンは男を見ると、あきれたような声を出した。


「こんなところで何してるんですか、コンラッド様」


 そこに立っていたのはコンラッドだった。学長室の前でトライデンにケンカを売って、首席の座は渡さない、なんて言っていた貴族の嫡男。その男が、完全な戦闘用の装備で、私たちの前に立ちはだかっていた。


「学長から聞いたぞ。貴様、卒業試験の試合を辞退するそうだな。私との最後の試合から逃げるとは、どういう了簡だ」

「ああ、その件ですか。実はとある筋から依頼がありまして、急ぎの旅に出ることになったんです。学長にも、了解をいただきましたよ」

「しかも、それだけでなく! おまえは試験も受けずに、卒業生首席になるそうではないか!

 そのような卑怯な手段で首席になるなど、騎士の風上にも置けん。私はここで、卒業生首席の座を正当なる、そして正統なる者の手に取り戻すことを宣言する。すなわち、尊き血の系譜を引き継ぐ、この私の手にだ!」

「いや、取り戻すも何も、あなたこれまで、一回も首席になったことは──」

「問答無用! 私はここで、貴様に決闘を申し込む!」


 コンラッドはこう叫んで、腰の大剣を抜いた。

 街中での騒ぎとあって、あたりの人も騒然とし始めた。突然の出来事に、トライデンはあっけにとられていたようだったけど、相手が大剣を抜いたのを見て、彼も剣と盾を手に取った。

 ジークはというと、どうしていいか迷っているようだった。後で聞いたところによると、貴族であるコンラッドが「決闘」という言葉を口にしたため、第三者である自分が介入すべきかどうか、迷っていたらしい。この国の貴族には、そういう文化があるんだね。

 そして、私はと言うと──一種分析的な視線で、コンラッドの姿を注視していた。


 まただ。また、魔力の「澱み」がある。


 冒険者ギルドでの騒ぎの時、そしてマービンが卒業試験で暴れた時に感じた、魔力の澱み。それと似たものが、コンラッドから感じられたんだ。しかもその乱れは、前の2回と比べて、より大きなもののように思えた。

 ということは、今度の騒ぎも──。


「どぁぁぁぁ!」


 叫ぶやいなや、コンラッドはすさまじいスピードでトライデンに迫った。同時に、鋭い突きを繰り出した。あれを食らったら間違いなく死ぬよね、と思えるような、すさまじい一撃だった。トライデンは盾で防いだけど、剣圧をまともに受けて、ずずっと後ろに下がった。そして、驚いた顔になった。

 たぶん、彼が思っていた以上のパワーが、剣に乗っていたんだろう。これも同じだ。マービンが卒業試験で、トライデンが知っていた以上のパワーを出したこと。冒険者ギルドで、騎士になるのをあきらめたはずが学生が、将来有望と思われるほどのパワーを出したこと。

 さらに、マービンもギルドの学生も、そして目の前のコンラッドも、ちょっと様子がおかしい点も同じだった。コンラッドは決闘なんて口にはしてるけど、普通に彼の話を聞いていたら、いくらなんでも無茶な言い分だろう。


 コンラッドの一方的な攻勢は続いた。度重なる攻撃を、トライデンはなんとか防ぎ続けている。けど、コンラッドの剣の一つ一つに、かなりのパワーが乗っているらしい。盾で受けるたびに、トライデンの体は後ろに下がり、態勢をぐらつかせた。

 マービンとヘルトの戦いにちょっと似ている。たけどヘルトとは違って、コンラッドの勢いには、(かげ)りは見えなかった。コンラッドは怒号とも雄叫びともつかないものを叫びながら、大剣を振り続けていた。

 とうとう、その攻撃の一つが、盾を横にはじいて、トライデンの肩に当たった。そこも鎧の上だったけど、トライデンが着ているのは金属鎧ではなく、動きやすいけど防御力は低めの革鎧だ。トライデンは「うぐっ!」と短いうめき声を上げた。

 が、同時に盾を振るって、コンラッドの体を下から突き上げた。コンラッドは盾をくらって大きく押し戻されたけど、トライデンも少しよろけている。ジークが顔をしかめた。


「まずいな」

「<差異はおのれの概念を見いだす

  そしておのれの直感を見いだす

  すなわち差異的、すなわち微分、すなわち比のために──>」


 私はとっさに前に出ながら、呪文の詠唱を始めた。マービンの時と同じことが起きているなら、同じ魔法が効くだろうと思ったからだ。するとコンラッドが、血走った目をこっちに向けてきた。

 私がしようとしていることに気づいたのか、それとも魔力の流れに反応したのか。そして彼は、トライデンではなく、なんと私の方を目がけて走ってきた。


(あ、まず)


 私はそれを認識しながらも、動くことができなかった。私には、武道の心得なんてない。部活は体育系だったけど、引退してからけっこう経っていたせいか、体がすぐに反応してくれなかった。

 いやー、私って昔っから、スタート苦手だったからなあ。ラストの大会でも、スタートさえ良ければ入賞できてたかも。まあ、そのあたりを意識した大会では見事にフライングで失格になってしまってたから、最後だけは、ちゃんと走って終わりたかったんだよねえ……。

 なんて思っている間にも、コンラッドがすぐ近くまで迫っていた。あれ、これほんとに、まずいんじゃない?

 でもその時、銀色の鎧の前に現れた姿があった。


「──させん」


 トライデンだ。彼は本当に私のすぐ目の前まで来ると、右手の剣を捨て、両手で盾を構えた。そして、コンラッドの振るう剣に合わせて、大きく盾を突き出した。


「……シールドバッシュ!」


 私も話には聞いたことがある、盾を使ったカウンターの大技。それがものの見事に決まった。コンラッドの剣は宙に吹き飛び、彼の体は盾に跳ね返されたように浮き上がって、ごろごろと地面を転がった。

 ちょっと見にも、相手はかなりのダメージを受けたのがわかった。ところが、コンラッドはそれでもまだ、戦いをやめようとはしなかった。痙攣しているように震える鎧が、ぎこちない動きで上体を起こし、再び起き上がろうとしていた。

 その動きを見て、トライデンは剣を拾いなおして、一歩前に出た。けど、私は彼を手で制して、さっき使おうとしてた魔法の続きを詠唱した。


「<──差異は自ずから消え去る>


 ……<キュア>!」


 小さな光の玉が走って、鎧の中に消えた。その直後、コンラッドはびくんと大きく体を反らし、再び地面に倒れ込んだ。そしてそのまま、動かなくなった。




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