13 珍しい専門店
翌日、私たちはトライデンの案内で街の中を巡り、冒険者向けの店を回って、保存食やポーションの類、夜営用の細々とした道具などを購入した。
でもあれだね。旅の途中で魔物や動物を狩って、それをさばいて食べるなんてこと、本当にするんだ。っていうか、私もすることになるんだね。ナイフを買う時、店員さんから「これは肉をさばくのに、とても使い勝手がいいんですよ」なんて勧められたよ。実は私、まだそのあたりは吹っ切れてません……。
トライデンの助けもあって、とくに問題もなく買い物をしていけたんだけど、ジークも私も身分を隠していたせいだろうか、門前払いされることもあった。
効き目の高いポーションも少し買っておきたいと思って、この街一番の高級店に行った時、その店先で止められてしまったんだ。そして、ちょびひげを生やした店長? らしいおっさんに、尊大そのものといった態度で「当店では、お客様のような身なりの方の入店は、お断りさせていただいております」って言われ。追い出されてしまった。
ポーション屋にドレスコードがあるのかよ! いいもんね。私、回復魔法は大得意だし。私自身が大けがをしたとしても、普通のポーションで私をちょっと回復させてくれれば、自分で回復できるから。
買った荷物は、異世界ものの小説ではおなじみの、「マジックバッグ」に収納……なんてことはなくて、リュックみたいな普通のバッグに入れてある。
マジックバッグというものが、ないわけではない。ただ、それはこの世界でも超のつく貴重品だ。まあ、王族であれば持てないことはないんだけど、それを持っていると知られるのはまずい。間違いなく盗賊や、下手をすると一般の人にも狙われてしまううえに、「こいつら本当に冒険者か?」と疑われてしまう。そのため、今回の隠密の旅では、持たされなかったんだそうだ。
でもなあ。ここもまた、ちょっと引っかかるんだよなあ。
疑われる危険がある、って話はわからないではないよ。けど、それはこっちで注意すればいいことじゃない。まずは、旅の成功を目指して、荷物を軽くすべきだと思うんだよね。このあたりも、なんだか理不尽に「しょぼい」旅にされている気がする。
それから、これはまったくの余談だけど、トライデンは買い物の最中も「オレ──いや、私」を連発していた。
あまりにもそれが多かったので、とうとうジークから、
「これからの旅の間、私とマリーは身分を隠して行動することになる。そして、君とは戦う仲間として、ずっと一緒に過ごすことになるのだ。だから、丁寧な言葉遣いはしなくていいし、『オレ』という言葉を使っても構わない」
と言われていた。トライデンはほっとしていたみたいだったけど、私もほっとした。横で聞いてるだけで、なんだかすごく面倒くさかったので。
さらにその翌日は、トライデンは自分の準備があるとのことだったので、私とジークの二人だけで街に出た。もっとも、前日の買い物でだいたいの準備はすんでいたので、この日はほぼ街ブラみたいな感じ。魔道具の店をのぞいたり、露店の串焼きを買ったりと、それなりに異世界の街を楽しんだ。
ジークも、こういう庶民が行くような店を使うことは、ほとんどなかったらしい。珍しそうに店の中を眺めたり、ちょっと味付けの濃すぎる魔物肉の串に、おっかなびっくりという感じで口をつけていた。
そして今。私は一人きりで、とある店の中にいた。
王城を出てからと言うもの、私は基本的に、一人にはなれなかった。まだ一人では危ないからと、ジークがつきっきりになってくれていたんだ。
まあ、宿の部屋は別ですけどね。そこはさすがに。それでも、王城から持ってきた「結界の魔道具」とかいうもの(結界と言っても、そこまで強力なものではない。主な用途は、夜営の際にザコ敵を近づけないようにするためのもの)を使って、ある程度の守りはつけてくれていた。
でも今は、久しぶりに、正真正銘の一人だ。
なぜなら、私が今いるのは、こちらでは珍しい女性用衣類の専門店、しかもその中の女性用下着のコーナーだったから。
この世界、商品の分化や流通は、そこまで発達していない。「女性用の服」でさえ、店にないことはないけれど、量や種類はそれほど多くはない。私の着ている服も、一応は女性用なんだけど、そこまで「女性」って感じはしない。
ましてや女性用下着なんて、少し田舎に行ったら、売ってなんていないとのことだった。なんでも、古くなって捨てる服の切れ端を使って、自作するのが普通なんだそうだ。
昨日の別れ際、トライデンからそう聞いた私は、すぐさまジークを説き伏せて、バッグに下着を入れておくことを約束させた。それも、そこそこ大量に。だってこの旅、何日かかるかわからないんだから。私、服にはそこまでこだわらないけど、下着の清潔さは、わりと気になるタイプなんだ。
最初のうちは、ジークも一緒に店に入ってきてたけど、そのうちにあきれたような顔になって、店から出ていってしまった。あれ、何だったのかね。まだ、下着コーナーまで着いてないというか、近くにも行っていなかったのに。
女性用の服ばかりだから、ちょっと居心地が悪かったのかな。まあ、店のすぐ外で待っているみたいだから、問題はないでしょう。
店の中をぐるぐると回って、私は何種類かの下着を購入した。ただ、その後もすぐに店を出ずに、なんとはなしに店内を一巡していた。こういうお店に来れるのも、しばらくはお預けかもしれないしね。すると突然、背後から声がかかった。
「いらっしゃいませ」
「わ、なんや! びっくりしたぁ」
驚いて振り向くと、私のすぐ後ろに、一人の男が立っていた。歳は二十代後半くらい? 背は私より頭一つ高く、服装はタキシードっぽい黒の服、こちらでは珍しいくせ毛の銀髪を肩まで伸ばしている。切れ長の目に長いまつげに細面と、顔立ちは整っている方なんだけど、なんだかどことなく、キザっぽい感じもした。
男は、やっぱりちょっとキザ目で大げさなお辞儀をすると、謝罪の言葉を口にした。
「驚かせてしまいましたでしょうか? これは失礼いたしました」
「おたく、どなたですの?」
「この店の店長をおおせつかっております、ハイラインと申す者です。どうぞお見知りおきを」




