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第52話 共闘

「ミカエラ姉さん……!」


 突如として現れた“血の四姉妹”長女。“吸血騎”ミカエラ。


 ウルスラだけでも死闘が見込まれる相手である。


 セシル達にとって、さらなる強敵の介入は絶対に避けたい事態だった。


 しかし、ミカエラの様子が少しおかしいと直感的に悟るセシル。


(剣を持っていないし、ウルスラをしきりに気にしている。何が目的だ?)


 ミカエラはセシルに向き直ると、ミカエラは両手を挙げ告げる。


「“天馬”の『原石』、今回私は貴様たちに干渉するつもりは無い。愚妹の暴挙を止めに来ただけなのだ」


「不意打ち、騙し討ち、さらなる力の付与。なんでもいいがお前がそれらをしない保証はあるのか?」


「……すまないが信じて欲しい。今はそれしか言えない」


 ミカエラの立ち振る舞い、目線や表情から彼女の言葉に偽りがないか観察するセシル。


(二人相手に勝てる術は無い。なら相手の言う通りにしてウルスラを止めさせるしかないのか?)


「姉さん? 何を言っているの? 殺さないと。イザベラ姉さんとプリシラの仇を、殺さないと。殺さないと二人は浮かばれないでしょ。ねえ、ねえ、ミカエラ姉さん?」


 うわ言の様にミカエラに問いかけるウルスラ、彼女は懇願するように復讐を持ちかける。


「姉さん。一緒にあいつを殺そう? 昔一緒に遊んだみたいに。みんなで戦場に初めて出たみたいに」


 どちらにせよセシルはミカエラの言葉を信じるしかなかった。


(ウルスラに致命傷を与えた手応えはあったが、死ぬまでアレは暴れ続けるはず……)


 そんな中、暴走したウルスラと使徒の黒幕直属のミカエラを同時に相手取るのは今の彼には不可能だからだ。


「そいつを止めると言ったな? ウルスラを連れ帰って再生させる様なら拒否する。あんな怪物を野放しにするわけにはいかない」


「……もう手遅れだろう。だが“陛下”がウルスラに与えた力を取り除く。ウルスラは死ぬだろうが、せめて人として死なせてやりた……ッ!」


 苦悶の声と共に突然吐血するミカエラ。彼女の胸を赤い触手が貫いている。


「姉さん、どうして? どうして私を殺すのどうしてこいつを殺してくれないのどうしてあの人が下さった力を奪おうとするの!?」


「……もう、いいんだ。お前はイザベラとプリシラの為に十分戦った。私はお前がこれ以上苦しむ姿を見たくないんだ」


 自身を貫く触手に優しく手を添え、語りかけるミカエラ。わずかにウルスラに動揺の色が見える。


 その一瞬の隙を突き、セシルは両者の間に割って入りミカエラを貫く触手を叩き斬る。そして脇腹の傷口目がけて強化した蹴りを放つ。膝を付くウルスラ。


「ミカエラ! 手はあるのか!?」


 ミカエラの手を引きウルスラから距離を取ろうとするセシル。


 ウルスラも膝を付き、悶絶しながらも無数の触手を二人に向けて伸ばす。


「全身の血に巡っている“陛下”の血を抜き出す。だがそれで命を保っているウルスラは死ぬ」


「できるのか!? それが!」


 次々と迫りくる触手を斬って捨てながら問いかけるセシル。


「どの道ウルスラは死ぬ。せめて安らかに逝かせたい……!」


「じゃあ早くやれ!」


 触手の数は剣だけでは対応できないものになってきている。防壁も二重に展開しミカエラの立て直しを待つ。


(ウルスラの血は無尽蔵か!? これ以上は……!)

 

 不意にウルスラの触手攻撃が止まる。


 ウルスラの背後にクラリッサと転移したシャーリーが手斧と剣の投擲による攻撃をしたのだ。


「雑魚がぁ、鬱陶しい!」


 ウルスラは背後に向けても触手による攻撃を開始する。連続転移で避ける二人。


 一方セシルの防壁を攻める触手は絡まり合い、一本の角となって第五元素の壁に穴を開けつつあった。


「私に任せろ。“陛下”の力を持った血を吸いだす」


 防壁からはみ出した角の先端に触れるミカエラ。触手を通じてウルスラの血流を操作する。


 真っ黒な液体が角の先端から大地にこぼれ落ちる。異常な濃度の魔力が込められているのを感じるセシル。


(これが“四祖の赤”の力を受けた血か? これがあの尋常ではない力の源……)


 致命傷を負った身体を無理やり維持している強大な力。


 それを奪われつつあるウルスラは、巨大な鎧のあちこちから血液が噴き出す様になっていた。


 バシャリと触手の塊が形を崩し地面を赤く汚す。


 苦痛に歪んでいたウルスラの顔は、今やにこやかな笑顔を浮かべている。


(限界が来たのか? いや、警戒を怠るな。今のあいつはなんでもありだ)


「姉さん。一つになろう」


 突如としてミカエラの足元から血の杭が生える。先ほどの地中の血管がまだ生きていたのだ。


 ミカエラの腹部を突き上げる様に斜めに生えた杭が彼女を貫く。しかしミカエラはその杭を抱きかかえるようにして、力を奪いにかかる。


 逆にウルスラもミカエラを貫いた杭から血液を奪い、力に変えようとしている。


「ぷりしらはざんねんだけど、いざべらねえさんとみかえらねえさんのちがわたしのなかでまざりあってる。うれしいなあ。うれしい、うれしい……」


 ミカエラから奪っている血液以上に、強力な力が混ざった血液を排出されていくウルスラ。


 彼女の強固な復讐心の支えとなっていた圧倒的な力。それが奪われていくのを実感していくにつれ、ウルスラの精神は錯乱していく。


「姉妹の仇を討ちに来たのに、自らの姉を手にかけるのか!? お前は何がしたい!?」


「最早何を言っても無駄だ……これ以上持たん。頼む」


 ミカエラの言葉を受けて高く飛び上がるセシル。ウルスラは鎧から血を噴き出させながら大剣を振りかざし応戦しようとする。


 そしてセシルの攻撃が届くより先に一斉に飛来する物体があった。


 ヘンリーの作成した魔力を吸い上げる球体使い魔の群れだった。


「じゃ、ま、だああ!!」


 血の棘を射出して使い魔を撃ち落とすウルスラ。


 そしてヘンリーとやってきたのはもう一人。透過術師、アン。


 ウルスラの身に纏った高濃度の魔力の影響で、実体化でその身を貫こうとすればアン自身の腕がどうなるかわからない。


 その為一瞬実体化し、ヘンリーが注意を引いた隙にシャーリーの剣を拾う。


 それを持ってウルスラの背後から透過したまま刺し込み、さらに実体化して心臓を抉ったのだ。


「あああああああ!」


 心臓を貫かれてもなおウルスラは大剣を振りかざす。自身の血液に残った邪悪な魔力だけで彼女はまだ生きている。


 空中のセシルは自身の両肩から第五元素を噴射し、大剣の間合いより内側へ急降下。


 そして着地後予め強化していた足によって一息で踏み込み、彼女が血液で無理やりふさいでいた脇腹の傷を更に白剣で斬りつけた。


 脇腹からウルスラの全身の血が噴き出す。セシルによって開いた傷からミカエラが血液を一度に放出させたのだ。


「みんな、いっしょに……ねえさ……」


 彼女を覆っていた重厚な鎧は血の粒子となって消え去る。


 ウルスラは死んだ。


 腹部に大穴の開いたミカエラはその傷を省みることなくウルスラに近付き、死体を抱きかかえる。


「礼を言う。この借りはいつか必ず返す」


「そんなものはいい。お前を捕縛する」


 ミカエラは負傷と血液の流出で力が衰えている。


 彼女は黒幕に近い存在の高位の使徒。捕縛できればセシルにとっても重大な情報が手に入るだろう。


「そう上手くはいかねえよっと!」


 突然箱型の『ゲート』と共に転移してきたのは、ドモア村にいた結界術師“箱屋”ヒューゴー。


 ミカエラの回収を“陛下”に依頼されて追ってきた使徒。


 彼は即座に転移結界で自身とミカエラ、そしてウルスラの死体を囲み、移させる。




 ウルスラは確かに死んだ。


 通りを埋め尽くすほどの血液がそれを物語っている。


 しかしこの戦いで得られたものは何もない。むしろミカエラの命を助けてしまった始末だ。


 残された“天馬遊撃隊”の隊員達は呆然と彼らの去った街を見つめるのだった。

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