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第51話 姉妹

 異形の騎士を撃退したアーサーの下へ“天馬遊撃隊”の隊員達が集まる。


「アーサーさん! 大丈夫ですか?」


「ああ、問題ない。武器がなくなってしまったこと以外はね」


 先ほどの激戦をものともせず、セシルの問いにアーサーが応える。


 確かにアーサーの身には傷一つなかった。


「守護騎士の権限。つまりは有事の際の指揮権限において君達に頼みたい。あの使徒を追ってミラ・ダージュを守って欲しい。当然、新たに守護騎士となったセシル君には拒否権があるが、どうだい?」


「わかりました。直ちにミラ・ダージュに飛んであの騎士と戦いましょう。避難指示は王国騎士に任せてもらってもいいですか?」


「ああ。僕から指示を出す。何せ僕の力に耐えられる剣を失ってしまったからね。君達を頼らざるを得ない。深手を負わせたはずだから、何とか君達で対処可能だろう」


 即座に深紅の騎士を追う体勢に入る“天馬遊撃隊”。近接戦が得意なステラや、物量による攻撃が可能なアレキサンダーが不在なのは痛いが最早全力で臨むしかない。


「みんな、全力であの騎士を叩くぞ! 敵は手負いだ。どんな手を使ってくるかわからない」


「オレはどうする、セシル? 流石にここまで使い魔は持ってきてないぞ」


 直接的な攻撃手段を持たないヘンリーが問う。


「ヘンリーは使えそうな使い魔を何でもいいからありったけ持ってきてくれ! ミラ・ダージュ側の『ゲート』の座標設定は街の外にしておくんだ。街中だといきなり死ぬかもしれないからな」


「わかった!」


 特務本部の自室行きの『ゲート』を即座に作成するヘンリー。


「今からクラリッサの転移で俺、シャーリー先輩、ヨナの四人で先に向かう。アンはヘンリーと一緒に転移してこい!」


「了解!」




 先に四人がミラ・ダージュへと転移すると、ほぼ同時に『ゲート』で転移した王国騎士の一団が住民の避難誘導を始める。


 異形の騎士の到来は想定よりも早かった。


 まだ住民の半分も避難を終えていないタイミングで、街の入口上空で滞空している。


「“天馬”、“天馬”を殺さなきゃ……。イザベラ姉さんとプリシラを殺したやつらを。見つけなきゃ……」


 血の翼で空を飛びながら、魔力反応に集中するウルスラ。


「違う。違う。雑魚ばっかり。……いや、感じた! プリシラを殺した、白いやつ!」


 ミラ・ダージュには、以前ガニメデ達と決闘をしたハーデ・ベルの様な大きな広場は無い。


 その代わりに街は東西を分ける大きな一本の中央通りと、それに分割された住宅街が特徴的だった。


 中央通りの少し南側に転移し隊員達が態勢を整えていると、ヨナの改造した目がウルスラを捉える。


「いた! 真正面、北門の上空から突っ込んできてる!」


 アーサーが追わせた傷はまだ癒えていない。それでも暴走した殺意だけがウルスラを動かしていた。


「ヨナ! なるべく空中戦は避けろ、他の隊員がついてこれない!」


「わかった! 叩けるときに囲んで叩く、そうだね!?」


「そういうことだ! 散開!」


 深紅の騎士は角の欠損した盾から無数の尖った触手を生やし、真上から一直線に突っ込んでくる。


(触手を切り落としても、盾で圧殺する。そういうことか!)


 合点のいったセシルは少しでも敵の勢いを減らそうと、前方に向けて第五元素を放出する。


 しかし、盾から生えた触手がたなびくだけで本体の勢いが衰えることはない。


 セシルの攻撃を無視し、魔弾の様な魔力の塊となって騎士はヨナへと突っ込む。


 ヨナは足を獣の様に改造、爪先立ちで大きく曲がった足をばねにして後方に跳躍する。


 大盾で石畳を砕き、地面を抉り、着弾する深紅の騎士。


 セシルは盾を構え直そうとする騎士へ即座に斬りかかる。着弾点は読めていた。


 狙うは頭部。アーサーの様に剣を打ち合うのは自身には不可能と判断した彼は、急所を狙いにかかる。


(この一撃で勝負が決まるとは思えないが、やるしかない!)


 身の丈ほどある左手の盾で攻撃を防ごうとした騎士に対し、セシルは防壁を足元に展開し跳躍。手にした白剣を急速に伸ばし、兜に直撃させる。


 騎士も咄嗟に頭を逸らし直撃を避ける。が、セシルの一撃は深紅の兜の一部を削り、覗き穴周辺を破壊する。


 噴き出す血。本体の血では無い。


 セシルもアーサーと同じ様に鎧そのものが身体の一部という仮説を立てる。


 ただその破壊された兜から垣間見えた顔がセシルの動きを止めた。


(ウルスラ!? 何故だ? 以前相手をしたミカエラが比較にならないほど、強い!)


 ウルスラは棘を生やした盾を前面に押し出し、驚異の瞬発力で再び突進してくる。


 後方には八百屋と思われる店舗がある。背後への回避は諦め、跳躍するセシル。


 それを見据えていたウルスラは、大盾をセシルに向け傾けると棘を一斉に射出する。


 空中で防壁を展開し、棘を受け止めるセシル。だが棘は血の粒子を噴出し防壁へと食い込んでいく、彼はさらに足元に防壁を展開して跳躍する。


 それを見越したかの様に、さらに彼を追撃しようと血の大盾に棘を再装填して構えるウルスラ。


 だが次の瞬間、空中転移してきたクラリッサにより転移空間へと退避させられるセシル。


 話す間もなく後方に跳躍したヨナの逃げた先に転移させられる。


「ありがとうクラリッサ!」


「空中の転移って大変なんだから! もう!」


 シャーリーもセシル達の下へ駆け寄ってくる。


 合流を果たした“天馬”の四人。それを見たウルスラは妖気を含んだ笑みを割れた兜の中から漏らす。


「前戦ったチビ、イザベラ姉さんをいじめた男、そしてプリシラの仇……! 全員殺そう。姉さんが好きだった様に串刺しにして、プリシラを供養しよう……!」


 ウルスラは自身の姿を変貌させるほどの力に酔い、錯乱していた。


 彼女は血の大剣を地面に突き立てる。するとそこを起点として無数の血の杭が通路を埋め尽くすように、石畳を破りながら“天馬”の四人に向かって次々と生えて向かってくる。


(あいつは正気じゃない。異常な力だが、そこに隙がある!)


「クラリッサ、まとめて転移しろ! 本気でやる。巻き添えを食うぞ!」


 頷くと即座にシャーリーとヨナに触れ転移するクラリッサ。


「そいつらをおお! 逃がすなあああああ!」


 セシルは答えを返さずに白剣を大地に突き刺す。


 ウルスラがしたのと同じ要領で第五元素を地面に注ぎ込む。迫りくる血杭。


 そしてウルスラに突如として異変が起こる。アーサーに斬られた傷。血液で補強しふさいでいた傷が内部から弾けたのだ。


 セシルの目の前で血杭の動きが止まる。そして自壊し次々と炸裂する無数の血杭。


 破裂した血杭はそれぞれが細かい血の棘となって周囲の家屋の壁に一斉へと穴を開ける。


 セシルは咄嗟に防壁でその棘を防ぐ。防壁を破った一部の棘が肉を削る。


「ア、アア! 貴様貴様貴様! 邪魔するな、邪魔するな、邪魔をするなああああああ!」


 苦悶と怒りの混じった声でセシルを怒鳴りつけるウルスラ。彼女の周囲を鮮血が濡らす。


 セシルがしたことは単純だった。


 突き立てた大剣から地中に広がった血液の流れ。それは血管の様に張り巡らされており、無数の杭はそこから生えていた。


 その地中の血管にセシルは第五元素を流し込み、血液を伝ってウルスラの体内へ到達。傷口付近で彼女の魔力も巻き込み暴発させたのだ。


 アーサーが傷付け、セシルが抉った傷は最早修復不可能なほどの深さまで達している。


 周囲に人はおらず、血を吸って傷を回復するという選択肢はない。


「どうする? 逃げるかそのまま戦うか、選ばせてやってもいい」


 これはセシルの精一杯の強がり。


 彼女がこの場で死ぬ覚悟を決めて傷を無視して襲い掛かってくれば、アーサーですら殺せなかった相手をセシルが倒せる道理はない。


 セシル側の戦力は四人のみ。


 ヨナが飛べばウルスラは追いかけ、すぐさま殺しにかかるだろう。彼の遠距離射撃の持ち味は活かせない。


 シャーリーは多種多様な武器を使い分け近接戦を得意とするが、あくまで相手が人間の範疇であればだ。今のウルスラ相手に通用するとは思えない。


 唯一戦力となり得るのはクラリッサ。転移を繰り返すことにより縦横無尽に攻撃をしかけることができる。が、彼女にかかる負担は計り知れない。


 その為ここはウルスラを逃がし、異端審問官や特務騎士団と協力した上で万全な状態で彼女を討ち取るべきだとセシルは考えた。


 ただ、想定外だったのは予想外の人物がその場を訪れたこと。


 “血の四姉妹”長女。“吸血騎”ミカエラがウルスラの下に現れたのだ。

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