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第48話 鬱憤

 セシルがガニメデを手にかけた時、イザベラの手によって致命傷を回復したウルスラは曖昧な意識のまま街を徘徊していた。


(ウルスラ、あんたは生きて。妹を二人も死なせるなんてあたしは耐えられないから……)


 ウルスラの意識に、彼女の身体に入り込んだイザベラの血が語りかける。


 イザベラはその身体に残った血液の全てをウルスラに注ぎ込み、自身の命と引き換えにウルスラの傷を癒したのだった。


「いやだ……。私だって、姉さんに死んで欲しくない……」


 ウルスラは街の南西部の住宅街にある弱々しい魔力反応へと引き寄せられるように、ふらふらと歩みを進める。


「姉さんの死を無駄にしちゃダメだ……。一人でも“天馬”のやつを殺さないと……」


 彼女が進む先には、ダリルとの一戦で魔力の大半を使い果たしたシャーリーが座り込んでいた。


「いた……。この前のやつ、殺そう。殺さなきゃ……」


 彼女は手のひらから血の剣を生成しようとするが、剣の形になった瞬間、ビチャリと地面にこぼれ落ちる。


「どうして……」


 彼女の現在の血液の大半を占めるイザベラの血液がまだ身体に馴染んでいない為、武器の様に自身から分離させることはできないでいることをウルスラは知らない。


 だが、彼女には理由などどうでもよかった。


 剣が崩れるなら爪でもいい、とにかく姉イザベラの死を無駄にしない為、少しでも戦果を上げようとシャーリーに接近するウルスラ。


 その姿を認めたシャーリーは立ち上がろうとする。が、一度に大量の魔力を放出した影響で身体が上手く動かない。そのまま尻もちをついてしまうシャーリー。


 ウルスラは何かつぶやきながらシャーリーに一歩ずつ近付いていく。座り込んだまま後ずさりするシャーリー。


 ウルスラは指から血の爪を伸ばそうとするがそれもままならない。


「ならいい。絞め殺そう。姉さんの血で強くなった私がその力で“天馬”を殺すんだ」


 だが次の瞬間、シャーリーの背後に「ゲート」が出現する。透過し、魔力切れを起こしたシャーリーに向かってくる使徒に反撃する為、あえてその場で警護していたアンによるものだった。


 彼女はウルスラの中に渦巻く二種類の魔力を警戒し、直接攻撃を避け様子見に徹していたが、遂に動き出す。


 「ゲート」にシャーリーを押し込むと叫ぶ。


「ヘンリー! 今っす!」


 「ゲート」向こう側でヘンリーが持ち込んだ使い魔を放つ、空間を転移して一斉にウルスラへと襲い掛かる使い魔の群れ。


 辛うじて可能な魔術、身体強化で群がる使い魔を叩き落とそうとするウルスラ。


 しかし、その手に吸い付く様に球状の使い魔が貼り付く。気が付くと戸惑う彼女の身体中の至る所に同じ形の使い魔が貼り付いている。


 急速に魔力の減衰を感じるウルスラ。


 ヘンリーが放ったのは魔力反応目がけて追尾し、魔力を吸い上げる使い魔。


(姉さんの力が吸われていく。許せない。許せない……)


 そしてその使い魔の効能はその一つだけではなかった。一定量の魔力を吸い取った使い魔は次々とウルスラの魔力を利用し破裂していく。


 全身に炸裂した使い魔の破片が突き刺さり、苦悶の声を上げるウルスラ。


 執念のみで動いていたウルスラは遂に倒れ伏す。


 止めを刺しに透過したまま近寄るアン。しかし彼女は新たな魔力反応の接近に警戒する。


(今度はなんすか? 使徒が二人? ......傘で飛んでるっす!)


 ふわりと着地したのはボロボロになったダリルを抱えたロリポップ☆キャンディー。


 「あーらら! かっわいそー!」


 ガニメデに致死性の毒を盛り、イザベラの死亡を確認したロリポップ☆キャンディーは、ウルスラを回収しに来たのだった。


 ロリポップ☆キャンディーは興味本位でこの決闘に参加したのではない。


 ガニメデの暴挙に勘付いた“陛下”は軽挙妄動に走った使徒を見せしめに処断すべくあえてガニメデを泳がせていた。


 そして敗北した使徒を捕虜にさせず、回収する目的で決闘に参加したのがロリポップ☆キャンディーだった。




 手負いを含むとは言え、使徒が三人も集結している。実体化し『ゲート』に飛び込んで外部への移動手段を閉じるアン。


「ヘンリー、ナイスアシストっす!」


「ああ、合図ありがとな! アン!」


 アレキサンダーをフレデリカに引き渡し帰還したクラリッサ、待機していたヘンリー、先ほど助けたばかりのシャーリーと合流するアン。


 後はステラとセシルを待つだけだった。


 すると間もなく『ゲート』が開く。


 出てきたのはぐったりとしたステラとそれを抱きかかえたセシル。彼の表情は苦渋に満ちていた。


「ステラ、それ……腕はどうしたっすか!?」


「ガニメデにやられた。クラリッサ、まだくっつくかもしれない。すぐにフレデリカさんのところに転移してくれ」


 神妙な顔で頷くと布で包まれたステラの右腕とステラに触れ転移するクラリッサ。


「……ガニメデはどうしたんだ?」


 ヘンリーの問いに一瞬躊躇してから彼は答える。


「……殺したよ」


「そうか、大変だったな」


 セシルはガニメデとの決着をつけた。長きにわたる因縁も断ち切った。ステラの復讐も果たした。


 これ以上ガニメデによる理不尽に晒される人もいなくなるはずだ。


 けれども彼の心は晴れず、胸に何かがつかえた様な感覚が残るのだった。




 大きな負傷のなかったセシル、クラリッサ、アン、ヘンリー、シャーリーの五人は帰還用に渡されていた符で帰還する。


 そこは王都の正門前。王国騎士達が殺到する王都市民達を押さえ、“天馬遊撃隊”の通り道を確保する。


 市民達は熱狂し、決闘に打ち勝った“天馬遊撃隊”にそれぞれが何か叫んでいるがセシルの耳には届かない。


 彼らはアレキサンダー、ステラ、ヨナの負傷を知らない。


 知っていても使徒の精鋭相手が二名も死亡したことを知れば彼らは余計に喜ぶだろう。


 そう思うとセシルは群衆に向けて何か大声で怒鳴りつけたい気持ちになった。


 当然そんな軽率な行動を彼は取らないが、ガニメデを殺したことによる胸のつかえに加えて、無知な王都市民に対する苛立ちは増していくばかりだった。


 『四祖の赤』の語ったこの世界の歪み。


 セシルは戦士達の犠牲も知らずに熱狂する群衆を見る。


 そうしているとこの世界の理不尽を作り出しているのは使徒だけではない様に思えてきて、頭の中で必死にそれを否定するので精一杯だった。


 押し寄せる群衆をかきわける様にして特務本部までたどり着くと、五人は急いで医務室に駆けつける。


 ステラは命に別状はないらしいが、意識はまだ戻らず、腕はもう繋がらないとのことだった。


 その事実を突きつけられると、何故か自分が責められているような感情に襲われるセシル。


 さらにアレキサンダーは重篤な状態の様で、フレデリカでは対応できず特殊な治癒魔術師の下へ搬送されたらしい。


 ヨナもまた研究所に運ばれてしまい、残された彼らにできることは彼らの回復を祈ることだけだった。




 翌日の新聞では“天馬遊撃隊”が“奴隷人形部隊”との決闘に勝利したことが大々的に書かれていた。


 無論、負傷者のことについてなど触れられてはいない。


 そして悪名高い“奴隷人形部隊”のヨロイやガニメデを倒し、“血の四姉妹”イザベラの死まで彼の功績とされたセシルには、“人形狩り”という異名が付いたのだった。


 更には彼ら“天馬遊撃隊”の今までの功績を称え、教王自ら特別栄誉騎士としての勲章を授与するらしい。


 『四祖の赤』の言うところの偽物の教王。


 セシルは枢機卿達も参加するはずのその式典で、『四祖の赤』とローレ・デダームの真実を聞き出そうと決心したのだった。

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