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第44話 開戦

 “剣鬼”ガニメデ、“血の四姉妹”の次女イザベラ、三女ウルスラ、ロリポップ・キャンディー、“へし斬り”ダリル。以上がガニメデとそれに付き従う使徒達だった。


「ヨロイの兄貴を殺ったやつ、俺が相手していいだろ? ガニメデさん」


「バカ言ってんじゃねえよダリル。お前じゃ話にならねえだろ。ヨロイが死んでんだぞ?」


「だからこそだろ!?」


 ガニメデに軽くあしらわれるのは軽装の使徒、“へし斬り”ダリル。


 ダリルは使徒として、武人としてロバートことヨロイを慕っていた若者。


 彼は異端の魔術師として使徒になった後、ヨロイに憧れ“奴隷人形部隊”へと志願した。


 ヨロイの死に一番憤りを感じているのは彼であり、逆に言うと残りの四人はそれぞれの目的でガニメデの誘いに乗ったのだった。


「姉さん。プリシラを撃った白いやつは私に殺させて」


「……わかった。絶対殺せよな」


 プリシラの復讐を遂げる為に参加したのは“血の四姉妹”の二人。


「キャンディーちゃんは誰でもいいかもー」


 そしてロリポップ・キャンディー。使用魔術以外全てが正体不明の人物。ヨロイの様に表の顔があるわけでもない。


 彼女は誘われてもいないのに付いてきた。数合わせにちょうどいいのでガニメデも放置している。


 意外にもガニメデは五対五の一騎打ちの約束を守る気だった。


 仲間内でも、一騎打ちの勝負成立後は互いに手出ししないということになっている。


 死体が片づけられ完全な廃墟となったハーデ・ベルに集った五人は“天馬遊撃隊”の到着を待っていた。


 ガニメデは彼らが来なかった場合のことは考えていない。セシルと二度も交戦している彼は、彼にある種の信頼の様な感情を抱いていた。


(あいつは必ず俺を殺しに来る。早く殺しに来い! 殺し合おうぜ、小僧!)




 “天馬遊撃隊”は直接ハーデ・ベルには転移せず、少し離れた場所から徒歩で向かっていた。


 クラリッサやヘンリーを外に、アンを中に配置するのを悟られない為だ。


 無人のハーデ・ベルからは当然人の気配も生活音もしないのだが、街としての体をなしている以上それは異様な光景に思えた。


 街の外壁の傍で配置につくヘンリーとクラリッサ。


「誰も死ぬな、絶対死ぬなよ!」


「みんなのこと任せたからね、セシル!」


 二人の声を背中で受けながら街の中へと踏み込んでいくセシル達。


 街の南門から十字状の大通りが交差する中心部の広場に辿り着くと五人の使徒が待ち受けていた。


「おう! “天馬”の愉快な仲間達さんよお! よく来たな、まあ今日の件はヨロイの葬式だとでも思ってくれや。あいつは技と技のぶつかり合いが大好きだったからなあ」


「御託はいい。一騎打ちだろ、勝負相手はどうやって決めるんだ?」


「話が早くていいねえ。そりゃあ早い者勝ち、だろ!」


 一斉に走り出す使徒達。




「ヨロイの兄貴の仇! 俺が討つ!」


 真っ先に飛び出したのは軽装の若者。だが彼は何かに激突したかの様に動きを止める。


「おい、結界で分断する気か? 決闘のはずだろうが!」


「後ろ見ろや、ダリル。向こうに結界使いなんていないっつったろ。バカが」


 ガニメデの指摘にダリルが振り返ると、既にイザベラが血の結界を作成していた。


「ウルスラ! プリシラの仇、討っちゃって!」


 イザベラとウルスラ、それぞれの獲物が他の使徒と戦い始める前に味方を妨害しているのだ。


 ウルスラは結界の外を走っている。彼女たち“血の四姉妹”同士だからこそ可能な結界の通過だった。


 彼女はヨナを目がけて一直線に向かって来る。


 戦闘の余波を避ける為に散開する“天馬”の隊員達。


 彼らも使徒側が破らない限りは一対一という約束を守るつもりでいた。


 混戦になれば何が起こるかわからないし、生き残った使徒側の報復が近郊の街で無いとも限らない。


 少なくとも使徒側による明確な違反行為がない限りは、彼らの定めたルールを遵守する気だった。


「死ね! プリシラを返せ!」


 血液を纏わせ、強化した剣でヨナに斬りつける“血の四姉妹”三女ウルスラ。彼女の目は激情に燃えていた。


 拳を変形させ、鋭い刃を生やして迎撃するヨナ。


 血を纏った赤い剣とヨナの白い刃がぶつかり合う。


 中央広場の南方向、南北に街の中心部を貫く大通りで戦闘を始める二人。


「悪いけど、僕は四十六人の命を背負ってるんだ。そう簡単には死ねないよ」


「黙れ!」


 次に動き出したのは結界を作成した“血の四姉妹”次女イザベラ。


 結界をすり抜けると民家の屋根に飛び乗り、中央広場から見て南西の住宅街に入り込んだセシルとシャーリーのいる方へ向かってくる。


 民家の屋根からシャーリーに飛び掛かるイザベラ。


(ガニメデは危険だ。イザベラの相手はシャーリー先輩にしてもらって、俺がガニメデと戦う!)


 セシルの思いとは裏腹に、イザベラは背中から血液を噴射し、血の粒子による羽根を作成する。


 空中で急速に向きを変え、セシルに手のひらから血杭を打ち出し攻撃を開始した。


「防ぐよな? 勝負成立だぜ! クソ馬隊のクソ隊長!」


 セシルは舌打ちしながら手にした第五元素から生成した白剣で杭を切断する。


「決着付けるぞ! “血の四姉妹”に泥塗った罰をおめーが受けろ!」


「なら“泥の四姉妹”にでも改名しろよ」


「……殺す!」


 セシルは身体強化で勢いよく民家の屋根の上に飛び乗る。少しでも全体の状況を把握できる様にしたいと思ったからだ。


 血の粒子を噴射させながらセシルに追いすがるイザベラ。


 セシルは再び射出された血杭に対処しながらガニメデの動向を探る。


 するとステラが街の中央広場から動かないガニメデ目がけ向かっていく姿が見えた。


(ステラ!? ガニメデには気を付けろとあれだけ言ったのに!)


 すると今度は家屋を破壊する様な轟音が聞こえてくる。アレキサンダーのゴーレムだ。


「よそ見してんじゃ、ねーよ!」


 両手から生やした血杭によるなりふり構わない連撃で、セシルの注意を引くイザベラ。


 その杭をセシルが剣で叩き斬ると、切り落とした部分が破裂し、無数の針へと形を変えた血液が襲い掛かる。


 即座に防壁を展開し血の針を防ぐセシル。すると彼の防壁には血が一面にこびりつき視界が封じられる。


「獲ったぁ!」


 一瞬の隙を突き血の羽根で舞い上がったイザベラは、上空で両手を重ね魔力と血液を集中。


 血の槍を生成してセシルを脳天から串刺しにしようとする。


 一方セシルは突きあげた足に第五元素を一気に集中させ放出し、血槍の勢いを弱める。


 彼はそのまま強化した足を使い、宙返りをしアクロバティックな動きで槍を蹴り返す。


「ぐぅ……ッ」


 イザベラの腹部に槍の柄がめり込む。


 痛みで血の羽へ回していた魔力が弱まり落下し始める。その彼女の脇腹を容赦なく蹴りつけるセシル。


 蹴られた勢いでイザベラはウルスラとヨナが最初に戦闘を始めた地点。つまりは中央広場南方の大通りに墜落した。


 ヨナは右手から刃を生成し、左手を魔弾射出用に改造することでウルスラの血剣や血斧投擲といった遠近両用の戦法に対応していた。


「姉さん!」


 ウルスラが姉に意識を向けた瞬間をヨナは見逃さなかった。


 瞬時に右手も魔弾が放てる様に改造し、両手から魔弾を一斉射撃。


 無数の魔弾は全てウルスラの頭部に向けて放たれていた。


 彼女は落ち着いて魔弾に向けて手をかざす。すると円状の血の防壁が生成された。


 血の防壁は全ての魔弾を防壁の持つ魔力で相殺する。魔弾を防ぎ切った血の盾は音を立て石畳にこぼれた。


 ウルスラはこれまで血を武器に纏うことで、なるべく血液を消費しないように立ち回ってきた。


 戦場では何が起こるかわからない。彼女の慎重さが表れた戦法だった。


 だがウルスラは妹の仇であるヨナを殺す為、出し惜しみをしないことに決める。


 彼女は長姉であるミカエラの様に全身に血を纏い、鎧とした。


 血鎧を纏ったウルスラは魔弾の連射にひるむことなく前進していく。ヨナは敵の出方が突然変わったことに驚く。


 彼女のこれまでの戦い方は、多量の血液を一度に扱えない故の戦法であると錯覚していたからだ。


 押され気味のヨナは、段々とガニメデとステラが戦う中央広場に北上する様に後退を始めていた。




 中央広場で戦うステラも、ヨナとウルスラの戦闘に巻き込まれない様に大通りを北上していく。


 ステラ対ガニメデは意外にもガニメデが防戦一方。


 かと思いきや彼女が元素を使った技を出そうとすると、的確に妨害する一撃を繰り出してくる。


 つまり、ガニメデは手を抜いて戦っていた。


 切り落とされた右手首も義手で補強され十分戦えるはずなのに、おそらく利き手ではない左手のみで剣を握りステラを軽くあしらっている。


 結界の妨害によってイザベラがセシルへの挑戦権を得た以上、彼らの戦いを妨害するつもりはガニメデには無かった。


 自身から宣言した一対一での決闘。そのルールを破ることは彼のプライドが許さなかったからだ。


 一方で、イザベラが死んだらすぐにセシルの下へ駆けつける為、いつでも殺せる様にステラと手を抜いて戦い、そのタイミングを見計らっていた。


 早々に彼女を殺して手持ち無沙汰の状態では、セシル以外の誰かが戦いを挑んでくるかもしれないからだ。


 そして防戦一方ながらもステラに攻めの一手を与えず逆に北方向へ追い詰めていくガニメデ。


 すると突然、両者の傍にある民家の壁が吹き飛ばされた。


「アレキサンダー!? 気を付けなさい!」


 抗議するステラにゴーレムで身を覆ったアレキサンダーが叫ぶ。


「逃げろ! 毒だ!」


 即座に中央広場の北部から西側の住宅地の屋根に飛び移るステラ。


 ゴーレムに殴り飛ばされて壁をぶち抜いてきたのはロリポップ・キャンディー、彼女の過剰なフリルやレースの付いたピンクのスカートはボロボロだ。


「やーん! これキャンディーちゃんのお気に入りなのにー!」


 彼女の周囲は毒の粒子を含んだ風で覆われている。


 ガニメデもロリポップ・キャンディーから飛び退いた。


 彼女の毒の力をよく知っているからだ。


「おいキャンディー! いつも周りには気を遣えっつってるよな!」


「でもでもー、ゴーレムに殴られちゃったから仕方なくない? ない?」


 彼女は岩を身に纏ったアレキサンダーに直接殴られたにも関わらず平然としている。


 一方でアレキサンダーは毒の混じった空気を吸わないように、石畳越しに土からの魔力を風に変換して呼吸を行うので精一杯。


 その為ゴーレムの多重召喚は諦め自身を“核”としたゴーレムでロリポップ・キャンディーを殴り飛ばしたのだった。


(ステラのやつ、簡単そうに元素変換してたがクソ面倒だぞ! これ!)


 そして一方的に攻撃されている様に見える彼女はアレキサンダーの毒対策を見抜き、毒素を着実に大地へと染み込ませアレキサンダーの中毒死を狙っていた。


 ガニメデはステラの剣術とその魔術に興味を抱かなかった様で、身をくらました彼女を探すことなくイザベラの敗北を期待するのだった。

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