表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/46

第41話 正体

 セシルが使徒に転移で拉致され、しばらく経った頃。


 セシルがドモア村に戻ってくる、もしくは使徒が連れ帰ってくるという一縷の望みにかけて、転移可能なクラリッサと対使徒戦力としてアレキサンダーが残った。


 アレキサンダーは地中にゴーレムを潜伏させている。


 万が一使徒が戻ってきた場合奇襲をさせてその隙にクラリッサがセシルを転移させる手はずだった。


 残りの隊員達は緊急事態をベネディクトとロバートに告げる為、帰還した。


 帰還した中でヘンリーとヨナがベネディクトの下へ向かう。残りのアン、ステラ、シャーリーはロバートに状況の報告をしていた。




 隊員たちがロバートに報告をする中で、勢いよく司令部のドアが開き特務騎士が数名一斉に入ってきた。


 先頭に立つのはギルベルト、中にはフレデリカの姿もある。


「セシルが使徒に拉致されたと聞いたが、本当か? ロバート指揮官」


「その様です。現在クラリッサとアレキサンダーがドモア村で待機中。帰還を待っています」


「そうかい。なあ、ロバート指揮官。最近おかしいと思わないか? あれだけこじれてた特務と騎士団の関係がよくなって、俺達じゃ手の回らない僻地に駐在員まで置いてくれるだなんて前じゃ考えられないぜ」


 突然のギルベルトの言葉に困惑気味のロバート。


「それが、今回の件に何か関係が? 特務と“天馬遊撃隊”が総力を挙げてセシル君を取り戻す案を練らなければならないというのに、一体何を……?」


「そう、それで辺境地をカバーできる様になった矢先、“天馬遊撃隊”を誘い出すドモア村の襲撃。そして前から狙われてたセシルの拉致は達成。で、あんた以前ヘンリーと一緒に暴走気味のガニメデからセシルを守ってたって言うじゃねえか。いくら何でも出来すぎてるぜ」


 ロバートへの警戒を解かないままギルベルトは言う。


「……つまり、私を使徒の内通者だと仰りたいと?」


「そういうことだ。もし違ったら土下座でも何でもしてやるよ。だが取り調べは徹底的にやらせてもらうぜ。騎士団に入った辺りから経歴も洗わせてもらう」


 ロバートは呆れた様な表情で、指揮官の椅子から立ち上がる。


「そのままゆっくりこっちに来い。武器も魔導器もその場で捨てろ」


 ロバートは素直に指示に従い、ギルベルトの前でベルトに差したナイフや、魔弾の指輪などを床に捨てていく。


「それでいい。悪いが拘束もさせてもらう」


 ギルベルトが警戒を解きロバートに一歩近付いた瞬間。


 ロバートの鋭い手刀がギルベルトの腹部を貫いていた。


「ガァ……ッ」


 一斉に抜刀する特務騎士達。


「あの時、屈辱を忘れんと言ったな。今がそれを晴らす時だ」


「テメエ、ヨロイか……!」


 ロバートの正体。


 それは“奴隷人形部隊(マリオネット)”の精鋭。魔術師でありながら徒手空拳で戦う武人。


 プレートアーマーに身を包んだ正体不明、本名不詳の使徒。通称ヨロイだった。


 ギルベルトの読み通りロバートはセシル拉致を目的とし、騎士団の内通者に話を通し、辺境地に駐在の騎士を置かせたのだった。


 “天馬遊撃隊”をすぐにおびき寄せることのできる因縁のドモア村に、いつでも特務本部から転移出来る様に。


 ロバートがギルベルトを貫いた腕を引き抜くと、ギルベルトは崩れ落ちた。


「兄さん!」


 フレデリカの叫び声が司令部に響く。ギルベルトに駆け寄るフレデリカ。


「こうなったら少しでも多くの戦力を削り、姿をくらますしかあるまい」


 ロバートが拳を構える。


「フレデリカさん、防壁頼むっす!」


 声と同時に虚空を突く拳。万が一に備えて透過していたアンが実体化し、ロバートに攻撃をしかけたのだ。


「前にも言ったはずだ。透過術師は実体化の際──」


 アンの実体化による攻撃を回避したロバート。だが、異変に気付く。


 アンは実体化とほぼ同時にまた透過をしている。


 以前腕を掴まれ投げ飛ばされたことを警戒しているのか、もしくは「最初から当てる気が無かったのか」。


 ロバートの足元に何か落ちている。それはヘンリーの試作品。予め込めた魔力によって爆発を起こす遠隔型の使い魔。


 遠距離で複数の敵を相手に使用することを前提としている為、間近での威力は測り知れない。


 “天馬遊撃隊”司令部に魔力による爆風が吹き荒れる。


 アンは透過、ヘンリーは魔力攻撃を無効化できる使い魔のプニちゃんでそれぞれ爆風を防ぐ。


 流石のロバート、改めヨロイでも甲冑無し、十分な身体強化無しでは深手を負うほどの凄まじい爆発だった。反撃を諦め逃亡するヨロイ。


 一方でギルベルトを含む特務騎士達はフレデリカの展開した防壁により守られていた。


 フレデリカは性格的に攻撃魔術は得意でないが、防御においては持ち前の魔力量で同時に十層の強力な防壁を展開できる。


 そしてそのうち四枚の防壁が爆風により破壊されていた。


 それほどの攻撃が直撃してもなお倒れずに逃亡を試みるヨロイの強靭さには最早感心する他ない。と苦痛に顔を歪めながら考えるギルベルト。


「このまま治療を始めます! 警護をお願いします!」


 フレデリカは特務騎士達に指示し、早速ギルベルトの治療を開始する。


 そこへ爆音を聞きつけたヴァルターがやってきた。事の顛末を特務騎士から説明を受けるヴァルター。


 彼は特務本部に厳戒態勢を敷くことを命じたのだった。




 一方それからしばらくして、セシルは未知なる転移先へと覚悟を決め「ゲート」に飛び込むセシル。


 使徒が用意した「転移の符」。その行き先は律儀にもドモア村だった。


(元の場所に戻すのはいいけど、ここからどうやって帰るんだ?)


「心配したじゃん! バカー!」


 セシルの姿を見つけすぐさま転移してきたクラリッサに突然怒鳴られる。


 クラリッサは泣き出しそうな、安堵した様な色々な感情の混ざった顔をしていたが、最終的には笑顔になった。


「どこで道草食ってたんだよ。バカが」


 と、アレキサンダー。


 同じ「バカ」でも言う人間でここまで受け取り方が変わるのかと逆に感心してしまうセシル。


「使徒の城に連れていかれて、わけのわからない話を聞かされた」


 ドロシーのことや「原石」の話をするのは避ける。「四祖の赤」の話が真実であれば、最悪の場合二人が教王府に消されてしまうかもしれない。


 二人だけでなく“天馬”の皆には絶対に伏せておこうと誓うセシル。


「まあ文字も読めないお前なら何の話をされてもわけがわからないだろうな」


「アレキサンダー! ちょっとひどいよそれ!」


「うるせえ」


 心なしかアレキサンダーも口数が多くなっている様な気がする。セシルの無事を喜んでくれているのだろうか。


「おい。お前首輪はどうした?」


 首輪を外したセシルの力を身をもって思い知っているアレキサンダーが身構えながら聞いた。


「ホントだ! でも魔力の反応はいつも通りだね」


 クラリッサから見るとセシルは魔力を首輪無しで制御できているらしい。例の「段階」とやらが上がったことに関係しているのだろうか。


「戦闘中に失くしたけど、いつの間にか意外とコツが掴めてたのかもしれないな。ベネディクトさんには後で相談してみるよ」


 ウソをつくことに少し罪悪感を覚えながらごまかすセシル。


「村の人にも怪我とかもなかったみたいだし、帰ろう? みんな心配してるって」


 クラリッサの力で特務本部、“天馬遊撃隊”司令部へと転移すると、その光景に三者は驚愕するしかなかった。


 女子隊員達が元倉庫を少しでも明るくしようと持ち込んだ花や絵画、ヘンリーが暇つぶしに持ち込んだボードゲーム。


 アンが持ち込んだよく分からない品々が全て粉々、バラバラ、ぐちゃぐちゃになり、床には血痕。窓は吹き飛び、指揮官の机や椅子まで破壊されている。


「誰だ!」


 見張りの特務騎士が剣を抜き、司令部に入ってきたが三人の顔を見て剣を収める。


「無事だったか、セシル君」


「でもここで一体何が……?」


 事の顛末を聞き、絶句する三人。


「あの鎧野郎……!」


「ギルベルトさんは? 大丈夫なんですか!?」


「絶対安静とのことだ。支援部隊のフレデリカ隊長が一晩かけて治療するらしい。とにかくみんなもゆっくりと休んでくれ」


「ギルベルトさんのお見舞いに行きたいけど、迷惑だよね……。ごめん、先に部屋に戻るね」


 クラリッサはそう言うと自室に戻って言った。


「俺はもう寝る。お前が戻ってくるまでずっとゴーレムを待機させてたからな。体調が最悪だ」


「ありがとう。アレキサンダー」


「黙れ」


 照れ隠しの様に言い放ち、去っていくアレキサンダー。


 だがセシルには休む前にまだ行くところがあった。


 ベネディクトの執務室である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ