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第25話 最強

 ステラに襲い掛かる幻影の騎士。


 次の瞬間、剣を突き出したまま自分を第五元素で射出したセシルがステラを狙った幻影騎士に激突し霧散させる。


 自分自身を吹き飛ばす勢いで背中に第五元素をぶつけたため、咳き込んでしまうセシル。


「ステラ、大剣だと周りを巻き込み兼ねない……風だけで戦うことはできるか?」


 次々と騎士を斬り捨てながらセシルが問う。


「魔力消費が激しくなるから、今までみたいには戦えないけれど。いいかしら?」


 ステラは土の大剣を前方の騎士に向けて破裂させる様に分解し、答える。


「こうなったらヨナの狙撃が成功することを期待するしかない。シャーリー先輩、近距離戦に専念してもらってもいいですか?」


「……了解、した」


 シャーリーは手斧を懐に格納。背中からもう一振りの片手剣を取り出し、二刀で構える。


 ステラは剣に風を纏わせ構える。


 セシルも第五元素で覆った剣を構え眼前の敵の群れに備える。


 最早策などない。


 ヨナの狙撃に全てを託し、がむしゃらに戦うしかない。眼前には視界を埋め尽くす様に幻影の群れが迫ってきていた。




 ヨナは翼を使い飛行しながら鉱山上空を飛びながら魔力の気配を探っていた。


 目は実体よりも魔力を捉えることができる様に作り変えており、鉱山中腹にある二人の魔力反応を見つけるのにそう時間はかからなかった。


(見つけた! でもどっちが術者なんだ!?)


 衝動的に飛び立った彼は敵術師が複数で行動している可能性を考慮していなかった。


 だがヨナは自身の魔力量と身体改造による機能強化に過剰ともいえる自信をもっていた。


 それは四十六体の失敗作を経て完成した戦闘用ホムンクルスという自負故なのだろうか。


 ヨナは魔力反応の真上の位置で滞空し、魔弾発射用に改造した右手首の砲身を肘にまで延長し、左腕も同じ様に改造する。


(渾身の魔力を込めて魔弾を射出する。一人に二発ずつ。計四発。これを防ぎきれる防壁をこの高度、真上からの不意打ちで対応できるとは思えない。少なくとも術式を解除させることくらいできるはずだ)


 今度は目を遠距離を捉える様に改造。狙いを定める。


(一人はうずくまっている? 何故? いや、相手の事情は関係ない。この魔弾で倒す!)


 高度からの正確無比な狙撃によって発射された四発の魔弾がルイスとカトリーヌを襲った。


 泣きじゃくり、嘔吐するルイス。限界が近づいていることを察し、焦りを隠せないでいるカトリーヌ。


 すると彼女は突然頭上から高濃度の魔力反応が急接近してくることに気付く。


 存在を感じさせない高度からの見事な奇襲だと思いながらカトリーヌは、何もしなかった。


 ルイスの限界を悟り、諦めていたわけではない。


 二人を囲むように、防壁とは全く違った性質を持つ球状の結界が展開されていたからだ。


 カトリーヌは結界魔術を得意とする結界術師だった。


 彼女の展開した結界は魔力をわずかでも纏ったモノ……物質はもちろん、魔力だけで構成された魔弾といったものを条件を問わず、結界の外部に固定する性質を持っていた。


 そして彼女は結界に固定されたモノを、結界に直撃した際の勢いそのままに反射することができた。


 カトリーヌは魔弾を反射する。


 敵が視認できない為反撃になったかはわからなかったが、それで十分だった。


 魔力を持たない物質でなければこの結界を通ることはできないし、魔力の無い攻撃をしてくる魔術師などいないからだ。


 カトリーヌは少なくとも敵の一人は村を離れたことを知った。


 彼女はこれを機に敵の戦線が瓦解することを祈ることしかできなかった。


 一方ヨナは魔弾が防がれたことを改造した目で確認し、動揺。


 そして魔弾が撃ち返されたことを見届けると、すぐさま回避行動を取る。


 だがそれは自身の改造した腕で、通常の魔弾よりも速く、強く生成した魔弾。


 彼は魔弾を回避しきることができず翼に魔弾を受け墜落していった。




 ヨナの狙撃の失敗を知る術を持たず、戦い続ける三人の剣士。


 それぞれが能力を万全に発揮できずに押され気味になる。


「ヘンリー、敵の魔力反応は!?」


「まだだ! まだ見つけられていないのか、狙撃が失敗したのかわからない。でもまだ敵術師は健在だ!」


 無慈悲な現実に押しつぶされそうになる三人。


 だが手助けができず、ヨナが上手くいっていないことをありのまま伝えなくてはならないヘンリーもつらいことをセシルは理解しているつもりだった。


「おい! ゴーレムを解くわけにはいかねえのか!? 敵はここに集中してるはずだろ!?」


「ダメだ! 一体でも外に出せばここまで戦ったこと自体が無意味になる!」


 あくまでも最後の入口を死守する。セシルのその考えは変わらない。


 その一方で三人は戦いながらも後退しつつあり、後退した分だけ敵の発生する領域が拡大する。


 既に幻影騎士達は、剣よりも一つの塊としてぶつかることを武器にしている様に見えた。


 そんな中で、三人の剣士の中で一番小柄なシャーリーが押しつぶされる様に倒されてしまった。


 シャーリーは横に転がることで騎士の群れに踏み殺されることだけは何とか避ける。


 遂に、先頭の一人が村の外に出てしまった。


 ヘンリーは懸命に騎士へ魔弾を撃っているが効果はない。


 仮に倒せたとしても、村の外が新たな幻影騎士の発生地となってしまう。


 終わった。皆がそう思ったとき、戦場に一陣の風が吹いた。


 村の外に出た騎士が突然霧散した。それだけではない。


 衝撃と共にセシル達に押し寄せていた幻影騎士、十数体がほぼ同時に消滅する。


 それを成した者が長剣を持った男で、王国騎士団の軍服を着ていることを視認できた頃には、彼は次なる騎士達の群れを蹴散らしていた。


「ここは僕に任せて欲しい。君達は村から出た騎士がいた場所を囲み、湧き次第叩いてくれ」


 王国騎士団所属、二十代後半と思われる金髪の男。


 彼はどういうわけか幻影騎士の発生条件を理解しているようだった。


「おい、なんでアンタがこんなとこに……!」


 その男に反応したのはアレキサンダー。


 既に男の姿は無く、村の入り口から中心地まで稲妻のように一瞬で到達していた。


 彼の踏み込んだ跡は地面が削られ、土煙が舞った。


 金髪の男はただ村の中心目がけて突っ込んだのではなかった。


 入口から彼が今立っている地点までに群がっていた騎士のほとんどが霧散していたのだ。


 彼は魔術を行使して騎士を倒したわけではない。剣で全て斬り倒していた。


 よく見れば彼の通った道程に、急停止した跡や、さらに踏み込んだ跡が無数に刻み込まれていることがわかるはずだ。


 だが、あまりに予想外の出来事に分隊員達はそこまで気を向けることができない。


 そして彼は再び湧き出た幻影を切り伏せながら一瞬で村の入口に戻ってくる。


 騎士が村の外に出てしまった場所。


 そこから湧く影を倒しながらも第一分隊の面々は呆気にとられる。


 一方で、入口周辺に再び幻影騎士が発生し始めていた。


「少し目を閉じていて欲しい。念のためね」


 言われるがまま目を閉じる一同。すると次の瞬間、激しい地響きが聞こえ、足元が揺れる。


「もう大丈夫だよ」


 パラパラと土や小石が降りかかるのを感じながら彼らが目を開けると、金髪の男を中心に最早大穴と呼べるほどに地面が削れているのが見えた。


 穴の淵まで飛び上がる金髪の男。やはり彼は魔術を行使していなかった。


 強力な付呪こそされているものの、手にした長剣を全力で地面に叩きつけ、その衝撃で幻影騎士を一掃したのだった。新たに湧いた騎士は穴の中でもがいている。


「あんた、アーサーだろ!? 騎士団の! どういうことだよ!」


 再びアレキサンダーが怒鳴る様に問いかける。


「騎士団のアーサーって……。『最強の騎士』アーサー!?」


 ヘンリーがその名を聞いて飛び上がる様に驚く。


「確かに僕の名前はアーサーだが、ここにいる理由の説明はこの戦いが終わるまで待っていて欲しい」


 アーサーと呼ばれた男が返す。


「無敗の騎士アーサー」、「閃光のアーサー」、「金剛石のアーサー」、「剣聖アーサー」


 そして彼を称える数多の異名の中で、最も有名なものが「最強の騎士アーサー」だった。


 分隊員達はその正体に驚く。


 けれどもセシルはそれほど有名な人物が、王都からかなりの距離がある場所の、騎士団下部組織の任務の増援に来る不自然さを訝しんだ。


 するとアーサーの目の前に最早何度目かの発生かわからない幻影騎士が迫る。


 が、突如として騎士達の身体から黒い煙が噴き出し、敵の群れは攻撃を止めその場に立ち止まった。


 そして日が落ちかけ、辺りを照らしていた幻影の炎が消えると、立ち尽くしていた騎士達が一斉に消滅する。


 術師の魔力切れなのか、狙撃が成功したのかはわからない。


 しかし、これはセシル達、“天馬遊撃隊”第一分隊が使徒からドモア村一帯を守り切ったことを意味していた。

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