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第16話 志願

 翌日、特務の本部で朝食を食べた四人は転移で“アカデミー”へと戻された。


 使徒が潜んでいるかもしれない“アカデミー”は危険なのではいかという声も特務騎士の一部から上がったが、今回特務は動ける人員を総動員して“アカデミー”を占拠している。


 逆に“アカデミー”の方が安全。という意見が主流となり、送り返さる流れとなったのだ。


 だが“アカデミー”には無期限休校という処分が教王府から迅速に下され、生徒達にも自室待機という指示がなされていた。


 どこに使徒が潜伏しているのかがわからない状況で、寮生達の多くは不安に駆られている。


 “アカデミー”へと戻った四人は張り詰めた空気を肌で感じるのだった。




「よお、戻ったのか!」


「ああ、ただいまヘンリー」


 とりあえず指示通り自室待機することになった四人。


 セシルもヘンリーの待つ部屋に戻り、互いに昨日あったことを話していた。


「で、部屋がめちゃくちゃに荒らされてたんだよ。これも使徒の仕業……なわけないか。でも元に戻すのに相当苦労したぜ? おかげで睡眠不足だよ」


「そうだったのか、俺の分も片づけてくれてありがとう。ヘンリー」


(事情を伝えて俺が謝りたいところだが、そうもいかないのが歯がゆいなあ……)


「いいよいいよ! お前の荷物少ないからすぐ終わったし!」


 二人が会話を続けていると、窓に何かがぶつかる音がした。それも何度も。


「ああ、“アカデミー”の使い魔だな。安心しろよ。手紙を結わえ付けて一斉に飛ばすんだ」


 ヘンリーは窓を開けて木で鳥を模した様な使い魔の足から紙を取り外すと、窓から放り出した。


(一般的な使い魔ってこういう感じなのか。そりゃポコちゃんが重宝されるわけだ)


 ヘンリーは手紙の内容に驚いている様子だった。


「セシル、お前も読んでみろよ……ごめんオレが読み上げるわ」


 それは“アカデミー”からの連絡ではなく、王国騎士団による文章だったそうだ。


「『魔導国家ローレ・デダームを黒父の使徒から守るのは君だ。王国義勇軍に参加せよ!』だってさ。今日にはもう講堂で説明会ブチ上げるんだと」


「はあ。士官学校とはいえ教王府管轄の組織に使徒が潜り込んでたとなるとやっぱりなりふり構わなくなるんだな」


「そんなとこだろうなあ」


 二人で志願兵募集について意見を交わしていると、突然セシルの制服の背中へ毛玉の様な感触の物体が入っていくのを感じた。


「うおっ」


(この感触は……ポコちゃんか!?)


「どうした? なんかあったか?」


「あー、なんか急に腹が痛くなってきた。医務室になら行っていいんだよな?」


「騎士の人に見つかったらちゃんと説明するんだぞー」




 底抜けに優しいヘンリーを騙すのは気が引けるが、特務本部からの連絡となるとそうは言っていられない。


 巡回中の特務騎士に名前を告げ、背中から引っ張り出したポコちゃんを見せる。


 すると騎士は人が来ないように見張りの役目を引き受けてくれた。


「れんらく。はやくでろ」


 ポコちゃんが急かすので慌ててポコちゃんの両耳を引っ張り、通信可能状態にする。


 するとポコちゃんからベネディクトの声が聞こえた。


「やあ、セシル君かい? 昨日は肝心な時に不在で悪かったね。早速で悪いが新たな任務だ。アレキサンダー君も含む四人で王国義勇軍に参加して欲しい」


 新たなベネディクトからの任務はセシルの想定を大幅に超えていた。


「ええ!? でも、特務と義勇軍の掛け持ちなんかできるんですか?」


「できないとも。表向きは義勇軍に出向扱いで、裏では特務にも協力してもらう。というかセシル君とクラリッサ、アンは強制的に声がかかるだろう。教王府は君達を……使徒を倒した“アカデミー”の英雄として扱うらしいからね」


(“アカデミー”の英雄!? 義勇軍の宣伝にでも使うつもりか?)


「英雄……ですか。でもアレキサンダーが拒んだらどうすればいいんですか? 俺の言うことなんか絶対聞かないですよ」


「そうなったら爆発の呪いで脅してもらうしかないかな。気の毒だが、君の能力を見てしまった以上は特務の一員として生きていくしかないよ」


 心臓が爆発する呪いをかけられて特務に隷従することになるとは、昨日までのアレキサンダーは思ってもみなかっただろう。


「クラリッサとアンにはどう伝えたらいいですか? 流石に女子寮へは入れませんよ」


「ポコちゃんに頼んでみてくれ、嫌がったら角砂糖でも与えるといい。前払いで一個。後払いで一個という風にね」


 ベネディクト自身がポコちゃんを外部に持ち出すこともある為、ポコちゃんの扱いは慣れたものだった。


「砂糖なんか村では見たことないですけど。王都になら普通にあるものなんですかね?」


「まあその類の物は錬金術で簡単に作れてしまうからね。食堂でも当たってみるといい」


 セシルの疑問に答えるベネディクト。


 セシルは自分も今度もらってみようかと考える。


「わかりました。試してみます。でも、義勇軍所属になる理由を教えてください」


「情報提供だよ。義勇軍は王国騎士団の正式な下部組織という扱いになるからね。だから君も一応は騎士という扱いになるのかな? なので騎士団から流れてくる情報はなんでも欲しい。では、頼んだよ」


(俺が、騎士に……!?)


 通信が切れ、ポコちゃんは何も言わなくなった。


 セシルはポコちゃんの意識を落としたまま、見張りの特務騎士に頼んで食堂から角砂糖を持ってきてもらうのだった。


 ポコちゃんに依頼した連絡は上手くいった。一仕事終えたポコちゃんは報酬の角砂糖を舐めている。


「あまいのうれしい! あまいのうれしいね!」


「よかったねえ」


 角砂糖を食べ終え、上機嫌のポコちゃんは再びセシルの背中に潜り込む。その足でセシルは事前に聞かされていたアレキサンダーの部屋へ向かうのだった。




 普段なら昼休憩が終わって講義が始まる時間。


 講堂にて王国義勇軍の説明会が始まろうとしていた。


 アレキサンダーを義勇軍に引き入れるのは至難の業だと思っていたが、「テメーに言われるまでもねえ。俺は義勇軍で仲間の仇を討つ」と既に覚悟が決まっている様子。


 入隊を決めている為、説明会には参加しないとのことだった。


「セシル! こっちこっち!」


 先に講堂へ来ていたクラリッサが手を振りながらセシルを呼ぶ。


 アンも一緒にいたが昨日の一件についてまだ怒っている様で、彼が声をかけても「ぷいっす」と無視された。


 既に講堂には意外にも多くの生徒が集まっている。


 説明会の内容は、昨日の事件で王都の住民が不安に苛まれていること。


 ”アカデミー”での授業はいつ再開になるかわからないこと。


 従軍する中で魔術を学ぶこともできるということ。


 王国騎士団と異端審問官による使徒への大攻勢に備え、戦える人員を少しでも増やしたいということ。


 そして昨日の事件では”アカデミー”の生徒が使徒を撃退した為、学生といえでも使徒と戦うことは可能だということ。


 といったものだった。


(好き勝手利用されてるな。生徒の誰もが俺達と同じように使徒と戦えるとは限らないだろうに。そもそもそんなに使徒と戦うことが簡単なら特務の人達はあんな苦労はしていないはずだ)


 すると説明会担当を担当する広報官の王国騎士が、セシル達三人を指さし壇上に上がるよう促した。


「彼らこそ昨日の一件で使徒を撃退した”アカデミー”の英雄の三人だ。そして使徒の精鋭部隊の一人と渡り合ったアレキサンダー君。彼はまだ一年生だと聞いている。先ほど皆に話した様に、”アカデミー”学生という身分は使徒と戦う上では関係ない。実力さえあれば使徒など一年生でも勝つことができる。我こそは、という者は是非王国義勇軍に志願して欲しい。また後方支援要員も募集しているため、戦闘力に自信のない者を無理に戦わせるわけではないことを理解してもらいたい。以上だ」


 王国騎士の広報官による演説は生徒達をやる気にさせるには十分だった。


 そもそも説明会に参加する時点で入隊を考えているか、悩んでいるかのどちらかなのだから。その背中を押すのに広報官は一役買ったのだった。




 その後セシル達が部屋に戻ると、休む間もなく再び鳥型の使い魔が窓から入ってきた。


 ヘンリーに読んでもらうと、義勇軍の応募用紙らしい。


 説明会に参加した生徒達のやる気がまだ高まっているままのタイミングでの応募用紙の配布。


 それは王国騎士団のなりふり構っていられない様子を表していた。


「お前、後悔しないな?」


 セシルに名前の代筆を依頼されたヘンリーはセシルに問う。


「ああ、遅かれ早かれ使徒と戦うことになる予定だった。ちょっと予想よりも早まったと思うことにする」


「そっか。確かにお前はアレキサンダーに勝てるくらい強いかんなー。うーん、オレは今後の人生設計を考え直さないといけなくなっちまった」


 “アカデミー”で付呪をマスターしようとしていたヘンリーは、無期限休校という事実に向き合わなければならなかった。


「それにしてもお前、短い学園生活だったな! でもこれから違う道を歩むことになってもお互いがんばろうぜ!」


「そうだな。短い間だったけどありがとう、ヘンリー」


 セシルは苦笑しつつもヘンリーという心優しい友達に出会えたことへ感謝し、彼へ握手を求めるのだった。

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