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第14話 介入

 特務に救援を要請し、ギルベルトを派遣させたのはアンだった。


 アンはセシルの使った『気絶の符』から目を覚ました後、自分が短時間しか気を失っていないことに気付く。


 そして即座に透過の魔術を行使して最短距離で男子寮へ侵入。


 特務と連絡を取るためセシルが持たされたポコちゃんの魔力の気配を探る。


 ベネディクトが首輪を手渡した際、一緒にセシルに持たせたと聞いていたからだ。


 予想が当たってポコちゃんの気配のする部屋までたどり着いたアンは、部屋中をひっくり返すようにポコちゃんを探して回った。


 そして意識を落としたままのぬいぐるみを見つけたアンは、耳を引っ張りポコちゃんとして起動し、通信で救援を要請する。


 ポコちゃんと対になるウサギぬいぐるみの使い魔、シーちゃんをメンテナンスしていたフレデリカと連絡が取れると、状況とセシルの大体の座標を報告。


 フレデリカから救援の確約を得たアンは息つく間もなく、訓練場へ向かったのであった。


 そしてセシルの暴走に戸惑うフレデリカは大急ぎで支援部隊の倉庫へ赴き、“アカデミー”行きの『転移の符』を引っ張り出す。


 だが『原石』を制圧可能な手練れであり、特務が『原石』を匿い士官学校へ送り込んだ事実を伝えられる信頼のおける特務騎士を探すこと。


 これが一番の難題だった。


 今もセシルと不良生徒達は戦っているかもしれない。


 そう考えると本部を不在にしているベネディクトに相談する術はないし、ヴァルターに相談する暇もなかった。


 悩んだ挙句フレデリカの独断で特務騎士団所属であり、兄でもあるギルベルトに救援を依頼したのだ。




「ヨロイの反応が消えてしまいました。はて、どうすればいいのでしょうか……」


 数多の火球と元素弾を食らいつつ脅威のタフネスを見せつけるブレンダ。


 クラリッサの魔力は尽き欠け、セシルは光剣の後遺症で思う様に魔力を放出できない。


 二人ともこれ以上の戦闘は避けたいところではあった。


「ヨロイが撃破された……もしくは撤退するような事情があったのであれば、私などがこれ以上ここにいても仕方ありませんね。お二方、私を逃がしていただけないでしょうか?」


「あんた、あたしたちが『お好きにどうぞ』なんて言うと思ってるの?」


「ええ、信じていますよ。私のかわいい生徒達」


「使徒の生徒になんてなった覚えはないぞ」


 両手を合わせてブレンダが懇願する。


 何のつもりかわからなかったが、セシルとクラリッサは魔力の回復に専念する。


(あの鎧男がやられた? ならなるべく時間を引き延ばしてアンとアレキサンダーの合流を待つ、しかないよね?)


「いやですー! 教官ごっこを続けるつもりなら生徒を殺した罪を償いなさいよ!」


「私だって嫌でしたよ。任務とはいえ魔術も満足に扱えない猿達の相手をするのは」


 生徒殺しを何とも思っていない顔で、平然と言ってのけるブレンダ。


「猿? あんたこそ人殺しの獣でしょうが!」


「ええ、ええ。仰りたいことはわかりますよ。ではそろそろお暇させていただきますね」


 突如として『ゲート』がブレンダの後方に発生する。


 ブレンダが合わせていた手を離すとそこには『転移の符』が挟まれていた。


 時間を稼いでいたのはブレンダも同じだったのだ。


「それではお二方。ごきげんよう」


 「ゲート」に飛び込むブレンダ。「ゲート」が収縮を始める。後を追うのは二人にとって得策ではない。

 

 行き先が使徒の巣窟かもしれないからだ。だが、クラリッサには考えがあった。


「まだ間に合う!」


 ゲート前へ転移するクラリッサ。


 セシルはクラリッサが後を追おうとしているものだと思い、駆け寄って止めようとする。


 だがクラリッサはその場に立ち止まり、収縮しつつある『ゲート』を発生させた『転移の符』に触れている。


(行き先の座標は読めない。でも思い起こせ! 刻め! 今まで一番多く転移した、あの場所を!)


 ブレンダの転移先は用意していた避難用の拠点、のはずだった。


 が、予想外の事実がブレンダに襲い掛かる。


 そう、そこは彼らが“黒犬”と呼ぶ王国特務魔導騎士団……つまりは特務騎士団の本部だった。


 ブレンダは知る由もないが、彼女の転移中にクラリッサは『転移の符』に触れることで、自身の魔術と同じ性質の力を持つ符に干渉して行き先を書き換えたのだった。


 そして運悪く、ブレンダが転移したのは特務本部でも多くの特務騎士が集う場所。


 日夜特務騎士達が対使徒の作戦立案を行い、騎士達へ任務の事前説明が行われる中央司令室だった。


 突如転移してきた“アカデミー”教官の軍服を着たボロボロの女。当然怪しまれ特務騎士達に取り囲まれる。


 なりふり構わずブレンダの範囲攻撃を全力で放てば、騎士達のいくらかは倒せるかもしれない。


 が、生き残りとの戦闘、本部からの脱出、安全地帯までの逃走。


 それらを鑑みると選択肢は一つしかない。


「突然失礼したしました。投降させていただきますね」


 かくして、クラリッサは使徒の捕虜という貴重な情報源を確保するという大手柄を立てたのだった。


 そして“アカデミー”訓練場で使徒の戦闘部隊である“奴隷人形部隊(マリオネット)”構成員のヨロイを排除したギルベルトは、アンとアレキサンダーを保護した後にセシルとクラリッサに合流する。


 生徒や教官に使徒が潜んでいたという証言を得たギルベルトは、事実確認をするよりも先に本部へ応援を要請した。


 ギルベルトの考えでは“アカデミー”に他にも使徒が潜入しており、今回の一件で姿をくらます可能性が高かったからだ。


 増援の特務騎士が続々と到着し“アカデミー”は包囲され、校内にも騎士達が巡回することになった。




 その後不調のセシル、魔力が枯渇したクラリッサとアレキサンダー、負傷したアンの四人は医務室に運ばれたのだった。


 医務室の警備はギルベルト担当となった。


「身体中が痛いっすー。私今日めちゃくちゃがんばったっすよ。クラリッサ、頭なでなでしてほしいっすー。……あとセシルのことは当分許さないっす」


「がんばったね。アン。ほら、よしよし」


「アン、さっきは本当にごめん。もっと冷静になるべきだった」


 むくれるアンをなだめるクラリッサ、そして謝罪するセシル。


「うるせーよ、お前ら。寝れねーだろうが」


 アレキサンダーが吐き捨てる様に言うと、医務室が静まり返る。


「そっか、いくらあたしを人質にした性格最悪のクソ男でもあんなことがあったのよね……」


「全部口に出すな山猿」


「ギルベルトさん、どうしてアレキサンダーが狙われたっすか?」


 クラリッサとアレキサンダーの言葉の応酬を気にもせず、アンが居眠りを始めたギルベルトに質問をする。


「え、ああ? なんだって?」


「俺が学長の息子だから狙われたんだろ」


 質問を聞き逃したギルベルトに代わり、アンに答えるアレキサンダー。


「でもブレンダ教官がお前は『ついでの様なもの』って言ってたっす」


「知らねえよ! じゃあお前は使徒の言うこと全部真に受けんのかよ? ああ!?」


 アンの発言で、考えたくもない顔を思い出し語気を荒げるアレキサンダー。


「おいおい喧嘩すんなよー。使徒の狙いの話か? そりゃあセシルだろ」


 そしてギルベルトは座っていた椅子を、四台並んだベッドに向けて自身の見解を語り始めた。


 彼なりに推理したこの事件の真相を。

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