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第12話 徒手

 吹き飛ばされたブレンダが体勢を立て直しながら言った。


「いけませんね。クラリッサさん。教官相手に攻撃をするとは」


「使徒の教官なんてこっちから願い下げだわ! どうして王都で堂々と公職就いてんのよ!」


 起き上がったブレンダは接近し、ヘルマンにした様にクラリッサの体に触れようとする。


「都市を覆う結界というものは、一度入りこんでしまえば後は存外どうにかなるものです、よ!」


「触られるのもお断り!」


 再度火球をブレンダに叩き込む。ブレンダはよろめくが、効いている様子はない。


「そうですか、それではこちらもその気でやりましょうか」


 ブレンダはクラリッサに向かって突進する。両手を大きく開き、抱きとめるように。


「嫌だって言ってるでしょ!」


 クラリッサは火球を連続して打つが、ブレンダの勢いは衰えない。ギリギリまで引きつけてから、クラリッサはブレンダの反対側に転移する。


「これでは埒が明かないですね」


 眼鏡は割れ、煤だらけの顔でもブレンダはにこやかだった。


「俺も加勢する!」


 呼吸を整え、辛うじて元素弾をブレンダに打ち込むセシル。火球よりかは効いている様だ。


「あんたは逃げなさいって! 要は触られなければいいんでしょ?」


 有効打こそないものの、転移魔術の使い手であるクラリッサにとっては相性のいい相手だった。


「でも……!」


「でもじゃない!」


 クラリッサは考える。使徒の狙いはセシルらしい。


 ならセシルと共に転移すれば使徒は目的を達成することはできない。


 しかしクラリッサとセシルが逃げれば残されたアレキサンダーがどうなるか分からない。


 クラリッサとしてはアレキサンダーは心底ムカつくやつだったが、使徒に殺させるくらいなら自分でぶん殴ってやりたかった。


 また、アンの術式。その透過能力なら特性上逃げることはできるだろうが一応心配する。


 ただ致命的なのはセシルがまだ戦うつもりでいたことだ。


 敵の『ゲート』にでも叩き込まれたらどうするつもりなのだろうか。クラリッサはもどかしい思いでいっぱいになる。


 だが一つ、クラリッサが誤解していることがあった。


 ブレンダの使用魔術についてだ。ブレンダの術式は触れて発現するのが本来の使い道ではない。


 一定範囲の全てを急激に熱する攻撃。これがブレンダの持つ術式の本領だった。


 ブレンダにとってはセシルには早く逃げてもらい、クラリッサなど一気に沸騰させてやりたかった。


 しかしセシルがクラリッサから離れようとしないためそれができない。結果的にセシルはクラリッサのことを助けていたのだった。


(ヨロイが決着を付けるまで時間を稼ぐ必要がありますね……)


 ブレンダは苛立ちを隠すように、にこやかな表情のまま引き続き攻撃をしかけるのだった。




「学生とはいえ転移術師に透過術師、そして『原石』か。面倒な仕事を押し付けられたものだ」


「ゴーレム術師を忘れてるぜ、鎧野郎! ディーンの仇を取らせてもらう!」


 最大稼働数の六体のゴーレムを、ヨロイに向け進軍させながらアレキサンダーが叫んだ。


「変身」


 ヨロイがつぶやくと、鎧が高濃度の魔力で覆われる。


 ヨロイが何かを始めるつもりであることをアレキサンダーは察知し、先手必勝とばかりに砲撃ゴーレムに魔弾を斉射させる。互いの魔力同士がぶつかり合い、爆炎が巻き起こる。


 爆炎の中から、大地を一歩ずつ踏みしめる様に出てきたヨロイの様子がどこかおかしい。


 アレキサンダーがゴーレム越しに目を凝らしてヨロイを見ると、ヨロイの鎧が変形していることに気付く。


 熱で鎧が変形したわけではないことはアレキサンダーにもわかる。


 ヨロイの全身を覆っていたプレートアーマーの曲線的な装甲のデザインは、可動重視にリデザインされ、頭部や胸元、肩や膝、肘、足元といった部分に装甲が集中している。


 それ以外の部分は動くごとに伸縮する特殊な薄い金属で覆われていた。


 爆発前にヨロイが手にしていた剣も、元は騎士団でも使用されている様な特徴のないロングソードだったが、気が付くと光沢の無い黒い曲剣に変形している。


(前衛ゴーレムの三体で鎧野郎を囲み一陣とし、残りの砲撃ゴーレム三体は二陣として二重に取り囲む! 二陣は要所要所で魔弾を放ち一陣のサポートをする!)


 六体のゴーレムに取り囲まれるヨロイ。しかし包囲に対してヨロイは全く動じず、逆に剣を腰に納めて拳を構えた。


「余裕のつもりかよ? 死んでから後悔しても遅いからな、クズ野郎」


(素手? ならあの黒剣は何だ? 鎧と共にわざわざ変形させた剣だ。意味がないはずがない、警戒を怠るな)


 アレキサンダーは円状に包囲を維持しながら思案する。


「何故攻めてこない。まだ包囲は出来上がらないのか?」


「一々癇に障るやつだな鎧男。望み通りすり潰してやるよ!」


 アレキサンダーは前衛ゴーレムのうち一体に攻めさせる。


 柱の様に太い腕によって放たれる強烈なパンチがヨロイへと迫る。


 するとヨロイはゴーレムのパンチに合わせる様に拳を斜め上に突き出した。ぶつかり合う拳。

 

 アレキサンダーはたった今自分が目の当たりにした事実を信じられなかった。


 ヨロイの拳がゴーレムの放ったパンチを受け止めていたのだった。ヨロイの拳がゴーレムの拳にめり込んでいく。


(不味い!)


 アレキサンダーは咄嗟にゴーレムの腕だけでも切断しようとしたが、僅かに遅かった。


 ヨロイが拳を通じて高濃度の魔力を注ぎ込んだのだ。


 注がれた魔力はゴーレムの背中に隠してあった“核”を破壊し、一体目のゴーレムは粉々に崩れ去った。


 しかしアレキサンダーは、ヨロイがゴーレムのパンチを受け止めた時点で次の手を打っていた。


 ヨロイの右斜め後ろから二体目が、彼を叩き潰すべく上から拳を振り下ろそうとしていた。


 だが、自身を狙う巨腕の影をヨロイは見逃さない。迫る拳を目視することなく勢いよく後ろ回し蹴りを放つ。砕け散るゴーレムの拳。


 だがアレキサンダーの攻勢はまだ止まらない。


 一体目のゴーレムが破壊されたことによる包囲の穴、そこから二陣の砲撃ゴーレムがヨロイへ向けて魔弾を放つ。


 が、ヨロイの対応力には底知れないものがあった。


 ヨロイは左腕に魔力を集中すると、迫りくる魔弾を横薙ぎに払い飛ばすのだった。


(どこまでが読まれていて、どこからが即興の動きなのかがわからない。が、俺の行動を読んでいるんじゃなく、全て徒手空拳だけで対応できているのならこいつは正真正銘バケモノだ……!)


 包囲を埋める為、第一陣のゴーレムを再召喚しながらアレキサンダーは効果的な一手を模索する。


「そろそろこちらからも仕掛けさせてもらおう」


 遂にヨロイが前進を開始。


 既にアレキサンダーはゴーレム一体を捨て石にし、迎え撃たせて全体の再編成を図る。


 しかしアレキサンダーは自身の考えの甘さを実感することになる。


 ヨロイはゴーレムと打ち合うのを避け、スライディングして足元を通り抜ける。


 そしてすれ違いざまにゴーレムの脚を掴んで急停止し、低所から飛び上がり目の前の石像の右足を鋭い蹴りで貫いたのだった。


 そしてゴーレムは崩れ落ちるのでなく、粉々に砕けた。


 どういうわけかヨロイはランダムに配置しているはずの“核”を的確に狙い打ったのだった。


(どうしてだ? どうして”核”の場所がわかる!?)


 アレキサンダーは思わず驚きの色を示してしまった。


「気になるか。“核”の場所がわかる理由が」


 アレキサンダーがゴーレムたちの編成をし終える前に、ヨロイが次のゴーレムに急接近する。


(仮に“核”の場所が割れても、反撃が“核”に届かないような攻撃を繰り出せばいいだけだ!)


 近づかれたゴーレムは両手を組ませて頭上から思い切り振り下ろした。このゴーレムの“核”は腹部にあった。


 腕が長く設計されたアレキサンダーのゴーレムと、この攻撃方法であればヨロイと”核”との間に距離を取りながら攻撃できるはずだった。


 ゴーレムの振り下ろしをヨロイは両腕を交差して受け止める。


 腕での防御なら内部に魔力を流し込まれることはない。ヨロイの動きは止まった。


 このまま魔力支援も行って出力を上げてヨロイを押しつぶす。アレキサンダーはそう考え実行に移そうとする。


 しかし、動きを止められたヨロイの全身を次第に高濃度の魔力が覆っていく。そしてヨロイの全身に魔力が漲り、ヨロイを押さえ付けていたゴーレムの振り下ろしは跳ね上げられてしまった。


 次の瞬間、弱点の腹部を露わにしたゴーレムにヨロイが急接近し、狙いすました手刀が腹部の”核”を貫いた。


「一度打ち合えば魔力の流れを読むなど造作もないことだ」


 ヨロイが言い放つ。そう、ヨロイはゴーレムに触れただけで魔力の流れを読み“核”の位置を感知し、連続で破壊していったのだった。


(いくらゴーレムを召喚しても、こうも簡単に破壊されるならただ魔力を消耗するだけだ。それならば……)


 アレキサンダーは砲撃ゴーレムの三体を自壊させる。


「諦めたのか? 奥の手の一つでも持ち合わせてはいないかと期待していたのだが」

 

 アレキサンダーにはまだ策があった。ゴーレムの“核”まで届くセシルの光剣相手には通用しないと思い使わなかった秘策、奥の手が。


「お前みたいなクズに見せるのは惜しいが、お望み通り見せてやるよ、奥の手をよ!」

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