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第11話 急襲

 戦意喪失したアレキサンダーは膝から崩れ落ち、茫然自失している。


 一方、光剣によって大量の魔力を放出したことがセシルの体に与えた負担は大きい。


 既に立っていることがやっとだった。


「アレキサンダー君!」


 取り巻きのヘルマンとルークが、アレキサンダーの下へ駆け寄ってくる。


「編入生、てめえ! アレキサンダー君に盾突いてタダで済むとでも──」


 残ったディーンはセシルを見ながら、木に縛り付けられたクラリッサへ『魔弾の指輪』をはめた指を突きつけていた。


 が、瞬時に転移し束縛から逃れたクラリッサがハイキックを放つ。


 ディーンは頭を木にぶつけてダウンした。


 クラリッサは猿ぐつわを外し、つばをペッと倒れたディーンに吐き出す。


 そして死闘を制したセシルの下へ歩み寄る。


 クラリッサはツカツカとセシルに近寄るや否や、思い切りビンタをかますのだった。


 足元がおぼつかないセシルは吹っ飛んで倒れる。


「せっかく命懸けで囚われのお姫様やってたってのに……あんたが全力出したせいで任務失敗よ! どうせ失敗なんだからあたしから出てきてやったわ!」


「ごめん……でも俺もクラリッサを助ける為に必死で……いや、これは言い訳だな。とにかく、本当にごめん」


 クラリッサの言う通り、『原石』としての力を複数名に目撃されてしまった以上は「素性を隠して“アカデミー”で戦い方を習得する」という任務の継続は不可能だった。


「ホントはどうすべきだったか正解を教えてあげる! あんたがすべきだったのは一人で戦うことじゃなかった! “アカデミー”の特務預かりが三人になったから預けられたポコちゃんのこと、忘れたの!? まずはポコちゃんを使ってフレデリカさんに連絡を取る! 本部にならあいつらくらい制圧できる魔術師がいるはずでしょ!? 本部になら行き先が“アカデミー”の『転移の符』くらい備えがあるはず! アンもいるし、あたしがこのくらいのことを思いつくんだから、ベネディクトさんだったらそれ以上の策を思いつくかもしれない。あんたは怒りに身を任せるんじゃなくてアンやポコちゃんと協力して事態の打開を図るべきだった。違う?」


 セシルには返す言葉もなかった。


 連絡用使い魔であるポコちゃんの存在を忘れ、同じ特務の仲間であるアンを気絶させ、無策でアレキサンダーへ挑み、あまつさえ『原石』としての力を目撃されてしまった。


「それにあんたが死んだらあたしだって悲しむじゃない。それをわかって……」


 クラリッサは今にも泣き出しそうだった。


 その姿を見て、セシルは思わず目を逸らしてしまう。




 だが、目を逸らした先でセシルは異様な光景を目撃する。


 アレキサンダーの取り巻きの一人、ルークが腕を地面に突き刺していたのだ。


 すると空間から生えてくるかのように、丸太ほどの太さの巨大な黒い腕が出現する。


 黒腕はびっしりと鱗に覆われていて、ナイフの様な光る爪が特徴的だった。


 セシルは始めアレキサンダーを降した自分への報復だと考えた。


 ただ、違和感に気付く。


 ルークは鱗の黒腕こそセシルに向けてはいるが、視線を座り込んだアレキサンダーに向けていた。


 鱗の黒腕が突如として向きを変えアレキサンダーへと突進する。


 セシルには状況が理解できなかったが、まだアレキサンダーとは話合う必要があるように思えた。


 セシルはアレキサンダーを守るため、球状に圧縮した第五元素を弾として勢いよく放出する。


 初めての放出で狙いは逸れ、元素弾はアレキサンダーを誤爆した。


 アレキサンダーは状況を理解できないまま地面を転がり、怒りと共に起き上がった。


「クソ、このクズ......!」


 今までのアレキサンダーであれば即座にゴーレムを召喚し、戦闘を続行していただろう。


 が、破壊力が形を成した様なセシルの一撃を見たことで、アレキサンダーの敵愾心は完全に折れてしまっていた。


「誤解だ! でもお前、手下に狙われてるぞ!」


 先ほどまでアレキサンダーが座り込んでいた場所に、黒腕がナイフの様な爪の指を揃えて突き刺さっていた。


 彼もそれを見てすぐさま腕が自分を狙ったものであることを察する。


「どういうつもりだルーク! それにお前、なんだその術式は」


「どうもこうもねえよ。なあ、負けるにしても早すぎんだろぉ? せっかく俺が手柄を立てるチャンスだったつーのによぉ!」


 ルークは地面に腕を突っ込んだまま、今までとは人が変わった様にアレキサンダーを罵る。


「ルークの術式はそんなんじゃねえ。本物のルークはどうした? 答えろよ、クズが!」


「クズクズうるせえなぁ。お前こそ七光りのクズだろうが!?」


 鱗を纏った腕が向きを変え、再びアレキサンダーへ突っ込む。


 アレキサンダーは即座にゴーレムを召喚し、黒腕を捕まえた。


 しかし次の瞬間には捕まえた腕はゴーレムの手から消える。


「これ、正面から戦うような術式じゃねえんだけどよぉ。無茶言ってくれるぜ、偉いさんはよぉ」


 ルークは地面に飲み込ませていた腕を引き抜いていた。


 ゴーレムに鱗の黒腕が捕らえられた際に術式を解除していたようだ。


 アレキサンダーにはルークが操られているのか、既にすり替えられているのかの判断がつかず追撃できない。


 ルークとアレキサンダーは膠着状態にあった。


「決闘騒ぎだと聞いて来てみましたが、あなた達でしたか」


 セシルが声の方向を見るとブレンダがこちらに向かって近付いてきていた。


 内心セシルは安堵する。


 流石のアレキサンダーも教官を無視して無茶をするわけにもいかないだろうし、ルークの変わり身についても何かわかるかもしれないと考えたからだ。


「教官! ルークの様子がおかしいんです! 見たこともない術式を使って……」


 取り巻きのヘルマンがブレンダの元に駆け寄る。


「アレキサンダー君? いくら学長の御子息といえども、白昼堂々決闘を行う様な真似は許されないです、よ!」


 ブレンダは駆け寄ってきたヘルマンの頭を掴んだ。


 ボン!


 という音がしてヘルマンは糸が切れた人形の様に崩れ落ちる。


 ヘルマンの目は白濁し、口や鼻、耳からは湯気が出ている。


「遅いぜ、教官さんよぉ。仕留めそこなっちまった」


「あなたがアレキサンダーの決闘をもう少し遅らせるべきだったんですよ。ええと、ルーク君」


 生徒達は教官であるブレンダがヘルマンを突然殺害したことに驚き、身動きが取れなくなる。


(このいとも簡単に人間を殺せる異常者……勘だけど、おそらく使徒だ……!)


 セシルは確信し、クラリッサを見る。


 クラリッサの考えも同じ様で、セシルを見て頷く。


「ヘルマン! 何でヘルマンを殺した!? 俺が目的じゃなかったのか!?」


「あなたはそうですね、ついでの様なものです。目撃者はまとめて始末する手筈になっていましたので」


 アレキサンダーの絶叫。


 一方でブレンダは意に介していない様子でセシルに向き直る。


「セシル君? 何も言わず、我々に付いてきてもらえないでしょうか。教官からの命令ですよ?」


「断る。でも一応聞かせろ。お前らは、使徒か?」


「ええまあ。末端ですけどね。だから……ええとルーク君で合ってましたよね? 彼も末端ながら手柄を立てたくて必死なようですよ?」


 ブレンダはあっさりと使徒であることを認める。


 だがセシルの手には既に木剣はないし、また光剣を放つ様な無茶もできそうにない。


「でも、そちらの方なんかは本部の偉い方のようですけど」


「うぐっ……」


 ブレンダに促され視線を向けた先には、閉じ行くある転移用の黒紫色の扉……「ゲート」があった。


 そして全身を覆う豪奢な甲冑に身を包んだ人物が、クラリッサに蹴り倒されて気絶していたディーンに剣を突き立てている。


「ディーン!」


 アレキサンダーが叫ぶ。


「一体何だ、この不始末は」


 鎧に身を包んだのは低い声の男だった。


「ヨロイさんもさあ、もっと早く来てくれればよかったのによぉ」


「俺は不測の事態に呼び出され戦うだけの役目だ。文句はブレンダに言え」


 不服そうなルークに、文字通りヨロイと呼ばれた甲冑の男は突き放す様に言った。


「状況は?」


「『原石』はおそらく不調。武器もなし。残りはアレキサンダーとそこのクラリッサという女です。クラリッサの使用する術式は転移魔術、それ以外は凡庸です」


 ブレンダが状況報告する。


 彼女の言う通り、ヨロイはルークやブレンダと比べ使徒の中で地位の高い男の様だった。


「アレキサンダーは俺がやろう。お前達では相性が悪い。残りは二人で決めろ」


「俺は『原石』をやるからよぉ。お前はあっちの──ガアアッ!」


 突然ルークが苦痛に満ちた声を上げる。


 何の前触れもなく、ルークの胸を何者かの腕が背後から貫いていた。


 胸から生えていた腕はすぐに消える。


 自身を貫く腕を支えにして、どうにか立っていたルークが血を吐きながら倒れた。


「セシルはやらせないっすよ」


 姿は見えないが、ルークのいた位置から確かにアンの声が聞こえた。


「今のは?」


「私の担当学級所属のアンだと思われます。使用魔術は透過と実体化。厄介な相手です」


「では俺がそいつとアレキサンダーを受け持とう。ブレンダ、残りの二人は行けそうか?」


 ルークなど始めからいなかったかの様に、ヨロイとブレンダとは作戦を立てている。


「『原石』の調子次第ですが、やってみましょう」


 ブレンダが言い終えるや否や、クラリッサが即座にブレンダの背後に転移し背中へ両手をかざす。


 かつてドロシーやガニメデに放った火球。


 それを至近距離のまま最大出力、ブレンダを殺すつもりで打ち込む。


 使徒相手に手加減は命取りになりかねない。彼女がガニメデ戦で学んだことだった。


 火球を打ち込まれたブレンダが吹き飛ぶ。それが開戦の合図となった。

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