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第10話 石像

 怒りに身を任せたアレキサンダーはセシルを殺すつもりで、訓練場の土からセシルの背丈の倍ほどある高さのゴーレムを三体同時召喚。


 アレキサンダーのゴーレムは、地面に届くほどの長さをした足を上回る太さの両腕が特徴的だった。


 人間の首が生えている辺りには少し盛り上がった程度の頭部の様な器官があり、目を思わせる一対の黒い鉱石がセシルを見下ろしている。


 そのうちの一体はアレキサンダーを守る為に少し後方へ位置し、残り二体が前衛を務めている。


(アレキサンダーを叩いて早々に決着をつける。相手には材料がほぼ無限にあると言っていい以上、長期戦は避けたい)


 セシルは全身に第五元素をみなぎらせ、最初の一歩で、勢いよく護衛のゴーレムの下まで距離を詰めようとする。


 第五元素を全身に流して身体を強化する技術だった。


 すると前衛の二体が左右から、通り抜けるセシルを叩き潰すように殴りかかる。


 アレキサンダーもセシルが早期決着を目論んでいることを読んでいたため、ゴーレムの反応は速かった。


 だがセシルはさらに加速する。


 前衛二体の間を通り抜ける際に、背中に思い切り第五元素をぶつけることで再加速したのだ。


 セシルの奇妙な動きにアレキサンダーは一瞬戸惑うが、即座に護衛のゴーレムによる迎撃に意識を切り替える。


 護衛の一体が両腕をセシルに向けて振り下ろす。


 セシルは跳躍し、振り下ろしを回避する。


 が、狙い通りとばかりにアレキサンダーが笑みを浮かべる。護衛ゴーレムの両目が輝き、魔弾を放出。


 石像たちの目の鉱石は魔弾を放てる様に付呪されていた。


 それは高濃度の魔力を有した『魔弾の原石』。


 身体強化した相手とはいえ、逃げ場のない空中で直撃すれば致命傷は避けられない。


「これで死ね!」


 セシルの判断は早かった。


 魔弾の射出された下方に全力で第五元素を放ったのだ。


 魔弾は第五元素とぶつかり合い、強化した木剣で払い落とせるほどに威力は減衰する。


 だがアレキサンダーの攻勢はまだ終わらない。


 先ほど護衛ゴーレムの攻撃を跳躍して回避し、降下中のセシル。


 彼を空中で挟み潰すように二体の石像が同時にパンチを放っていた。


(まだだ!)


 セシルもまだ終わらない。


 靴の裏から元素の波動を噴射するように再び跳躍し、セシルを狙ったパンチはぶつかり合い砕ける。


 魔術戦に慣れているはずのアレキサンダーも、セシルの魔弾攻略からの流れには思わず感心してしまう。


(さっきから急な加速、空中跳躍。こいつ、底が見えないな。悔しいが認識を改める必要がある)


 久々に骨のある相手とする全力での魔術戦。アレキサンダーの気分は高揚していた。


 彼の次の手はゴーレム三体全てによる魔弾の斉射だった。


 運よく当たれば相手は死ぬし、防戦一方に持ち込ませればセシルの魔力の枯渇も狙える。


 魔弾で狙われていることを下方からの目の輝きで気付いたセシル。


 体勢を変えて今度は真下に向かってジャンプするように、再度足から第五元素を放出して加速する。


 すれ違う様に魔弾を回避。


 降下しながらセシルが狙うのは護衛ゴーレムの頭部。


 運よく護衛ゴーレムが撃破できれば、追加が召喚されるより先に最速でアレキサンダーを木剣で殴り飛ばす算段。


(手加減はしていられない。クラリッサを巻き込んだ罰だ)


 既にセシルは暴走してしまっている。


 王国騎士団管轄組織の長の息子。仮にそんな人物を万が一殺してしまったらセシルを推薦した特務の立場が悪くなることなど明白だ。


 だが、最早今のセシルはアレキサンダーを打ち倒すことしか考えられない。


 魔弾の斉射が予想外の方法で回避されたことに、流石のアレキサンダーも動揺する。


 セシルは魔弾の射線上から突っ込んでくるが、護衛ゴーレムは魔弾を連射してしまったために、しばらく魔弾を発射することができない。


 降下の勢いで護衛の肩に着地したセシルは、強化した木剣を頭部に勢いよく突き立てる。


 巨腕の石像は倒れない。護衛ゴーレムの弱点は頭部ではなかった。


 アレキサンダーはゴーレムを召喚するごとに弱点である“核”の場所を変えていた。それをセシルは知る由もない。


(手応えがない。なら!)


 肩に立ったまま木剣を突き立てているセシルは剣先から第五元素を注ぎ込むことで内部からの破壊を試みる。


 一方で護衛ゴーレムも頭上のセシルを握り潰そうとし、セシルにその両腕が迫る。


 ゴーレムを蹴り飛ばすように跳ね、次の手を考えるセシル。


 しかしアレキサンダーは再び笑みを浮かべた。


(周囲に新しい魔力の反応は無い。何だ? 何を笑ってる!?)


 勝ち誇ったアレキサンダーの表情がセシルの目に留まり、何かおかしい点はないか周囲を見回す。


 彼の次の手は予想外の地点から発生した。


 足場にしたばかりの護衛ゴーレムの肩から、新たなゴーレムの上半身が急速に生えたのだった。


「これならどうだ!? できそこないのクズ!」


 周囲を警戒していたセシルは反応が遅れる。


 新たに生えた岩のパンチがセシルを捉えた。


 防御する間もなく、セシルは激しい衝撃と共に吹き飛ばされる。




 アレキサンダーの使役できるゴーレムの数は最大六体。


 セシルが立ち上がろうともがいている合間に、肩に生やした四体目は一度分解して追加で三体召喚する。


 これで合計六体。


 『魔弾の原石』持ちの三体を後方の砲撃ゴーレムとし、残りの三体を前衛に配置する。


 これが、彼がセシル相手に考える最上の布陣だった。


「お前はただのクズだと思っていたが、訂正してやる。俺が手を尽くして迎え撃つべき敵としてな」


「お前は相変わらず、ただのクズだな……」


 セシルが言い返すが、ゴーレムの一撃は身体強化をしていても重かった。


 何度も第五元素を放出した影響もあって、セシルは息も絶え絶えだ。


 だがセシルは諦めずに“あること”を待っていた。


 仕切り直しと言わんばかりに、セシルが前衛の三体へと突撃する。


「馬鹿には算数もわかんねえかな。数が倍になったら勝てるわけがないってことをよ!」


 突然、セシルは前衛ゴーレムの前で動きを止める。


「潔く諦めたか? 最初はいたぶり尽くして殺してやろうと思ってたが、健闘を称えて一思いに殺してやるよ! 光栄に思え!」


 前衛のうちの一体が渾身の一撃をセシルに叩きつける。


 強化した木剣で受けたが、当然木剣では防ぎきれずセシルは再び吹き飛ばされた。


「諦めたんだか諦めてねえんだかはっきりしろよ、クズが!」


「別に諦めてなんかない。俺はただ“待ってた”だけだ」


 座り込んだままセシルが答える。遂に木剣も折れ、手には柄しか残っていない。


「救援をか? 言ったよな? 助けを求めたら女を殺すって。文字が読めねえと記憶も満足にできないのか?」


 ゴーレムがじわじわと歩み寄ってくる。


 この瞬間もアレキサンダーは油断せずに魔弾を温存している。


「救援じゃない……“これ”をだよ」


 セシルが首を振ると、セシルの魔力を抑えていた首輪が外れた。


 そう、二度の打撃で壊れかけていたのだ。


 彼からは外すことのできない首輪だったが、強烈な打撃と衝撃が首輪を壊す要因となったのだった。


 セシルが立ち上がる。


 するとセシルの魔力が爆発的に高まるのをアレキサンダーは感じ取った。


 彼は今まで感じ取ったことのない桁外れの魔力の放つ圧を前にして、反射的にゴーレムの魔弾を斉射してしまう。


 次の瞬間、訓練場にいる全員の視界がまばゆい光で真っ白になった。


 そしてアレキサンダーの目が見える様になったときには、六体のゴーレムの全てが両断されていたのだった。


 それだけの一撃を放ったセシルの魔力は衰えている様子はない。


 魔弾が斉射される瞬間。セシルは木剣の魔力強化の要領で、木剣の柄に第五元素を全力で流し込み、外から全力で抑え込んだ。


 すると剣としての実体を持たない第五元素そのもので構成された、白く輝く光剣が出来上がったのだった。


 凄まじい高濃度で圧縮された第五元素で出来た剣は眩く、白く、光り輝く。


 そして斉射された魔弾共々、全てのゴーレムを横薙ぎに一刀両断したのだった。


 両断されたゴーレムには光剣による高濃度の魔力が注ぎ込まれていた。


 全てのゴーレムが“核”を破壊され、崩れ去る。


 その光剣を目の当たりにしたアレキサンダーは、ゴーレムと共に自分の中の何かが崩れ落ちる様な感覚に囚われ、戦意の喪失を感じたのだった。

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