過去編1/5
この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。
オリジナルの妖怪が登場することもあります。
素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。
時代は鎌倉。
物心がつく頃にはすでに両親は亡くなっていて父の友人と言う漁師の人達に育てられた。
ある日、漁師の1人が変わった魚を取ったと自慢していていた。
その魚には髪の毛のようなものがついており、誰かがそれは人魚じゃないかと話し出す。
人魚は不老不死の妙薬として言われている。
だが大人たちは信じておらず一応捌いてみるが異臭がしてとても食べれる物じゃない。
捨てられたその魚を好奇心旺盛な年頃のしのは一切れ食べてしまった。
匂いがきつく吐き出そうとした時、親代わりの漁師に声をかけられ驚いて飲み込んでしまう。
しのはその時は漁師には笑ってごまかしていたが、この日の晩はその匂いを思い出して食欲が無く、ご飯に手を付けられなかった。
心配されたが翌日には食欲は戻ったのでその日も他の日と同じく干物を作ったり、網を修復したりと手伝いをしていた。
それからも体は成長し、人魚の事も忘れた頃、隣村に住む青年がしのとの婚約を求めてきた。
育ててくれた漁師たちは喜んでくれてしのは嫁入りすることになる。
子宝にも恵まれ幸せな日々が続くと思っていた。
体の変化が無くなったのだ。
成長はしたが、老いることが無くなったのだ。
周りの人達はシワが増えたり、体のどこかが痛んだりしているのにそれが自分には無い。
しだいに他の人と違う自分が怖くなって夫に相談するがいつまでも綺麗な君が誇りだと言われあまり気にしなくなっていた。
ある日、幼い息子が野犬に襲われそうになったのでそれを庇って噛まれてしまう。
野犬は逃げたが怪我をしたはずの場所に傷は無い。
この事を夫に話したがそれからも普通の女性として接してくれる。
それは夫が老衰で亡くなるまで続き、その日々はとても幸せだった。
息子は嫁を貰い、引っ越していたので夫がいなくなって独りになると不安な事を考えてしまう。
村の人達は時間が経つにつれしのを奇異の目で見てくるようになり、それに耐えられなくなったしのは人魚のことを調べる為に生まれ育った海のある村に行くことにする。
だがしのを知る者は既に居なくなっていた。
それでも人魚の事を聞いて回っていると1人の酔っ払った男性に声をかけられる。
男性からの誘いを断ると逆上されて近くにあった鎌で斬られてしまう。
深手を負ったのは明らかだったが、それでも何事も無かったかのように起き上がるところを大勢の人に見られてしまった。
傷が無くなっている事に気付くとある人は化け物だと叫び、ある人は石を投げつける。
大事になる前にその場から逃げる事はできたが、もう戻る事は出来なさそうだ。
それからは1つの場所に留まらないように旅を続ける事にした。
それでも、しのの異常さに気付くと誰しもが気味悪がり奇異の目で見てくる。
その度に自分の居場所がない事を実感し、絶望して身を投げるが翌日には浜辺に打ち上げられていた。
それからも旅を続けていると、ある老いた男性に出会った。
その老人は元商人で、成功して今は隠居しているのだと言う。
夫の面影があり、しのは一目でその老人が自分の息子だという事がわかった。
老人がしのに声をかけた理由も母親に似ているからである。
老人はしのに自身の母の話をしてくれた。
老人の母は老人が結婚して家を出るまで変わらず若々しく綺麗だった事、時に厳しいこともあったが優しく接してくれた事、野犬から守ってくれた勇敢な話に、忙しくて連絡を取っていなかったらいつの間にかいなくなっていて後悔した事など聞いていくうちにしのは涙が溢れていった。
それからその老人の提案でしばらく老人の店で働く事になる。
数年働くと老人は老衰で亡くなるが最期にしのに母が近くにいるようで良い最期になったとお礼を言う。
しのは自身が母だとは言い出せずに頷くことしか出来なかった。
改めて人との縁を結ぶ事のないように、老人が亡くなると店を辞めてまた旅に出る事にする。
惜しまれたがこれ以上いると不老不死がバレてこの優しい人達に迷惑がかかる事が怖くてまた独りになる事を選択してしまった。
時折り人魚の噂を聞いて行ってみるが偽物ばかりで本当の話を聞く事は殆どなく、あっても不老不死を無くすようなものは無かった。
次第に聞く噂は同じようなものばかりになり、目的のものには出会えず、所々で戦が増えて人の悪意に怯えながらの旅にしのの心は限界がきていた。
ある日、山道を歩いているとふと道を外れてみたくなり、歩いてみるとそこには古ぼけた山小屋があった。
長い間使われた様子は無く、山道から結構離れた場所にあるので人は来そうにない。
体は疲れていないがこれ以上歩く気力は無い。
中に入ると隙間風はあるが、ある程度の雨風は防げそうなのでしばらく泊めてもらう事にした。
しばらく休めればと思っていたが、ゆっくり考えてみれば悪い事ばかり思い出してしまう。
人から向けられる奇異な目、化け物と罵られる声、退治と称し振り下ろされる刀、夫や息子との思い出が塗り潰されそうで次第に旅への意欲が無くなっていく。
気付けば何年も動かず過ごしていた。
最初の方はお腹も空いていたが食べずとも生きられるので動かずにいたら空腹感はいつの間にか無くなっていた。
これまで普通の人の何生分生きたのだろうか、これからも独りで終わり無い時間を生きなければならないのかと絶望し、ただ時間が過ぎるのを待っていた。
生きる気力が底につきそうな時、戸の方からカリカリいう音が聞こえると戸が開き、2匹の獣が入ってくる。
野犬か何かだとは思ったがこのまま食べられても良いかと動かずにいると静かに出て行き誰かを連れて戻って来た。
それはしのを見つけると直ぐに駆け寄って生死を確認して
葉っぱにすくった水を持ってくるが、反応しないでいるとゆすったり声をかけてくる。
必死に声をかけてくるものだから少し気になって声をかけてくるものの方を向くとそこには2匹の狐を連れた女性がいた。
???「良かった。動けるんだね。」
しの「…。」
???「だけど酷い顔してる。気分悪い?」
しの「ほっといて。」
???「いやいや、こんなの見たらほっとけないよ。」
しの「…。」
???「私は柚子。あなたは?」
しの「…。」
柚子「いつからいるの?」
しの「…。」
柚子「何で無視するの。」
???「おい、柚子。こんな奴構わなくていいよ。」
柚子「だけどあなた達が見つけてきたのよ。」
人は柚子と名乗る女性だけしかいなかったはずなのに他の声が聞こえてきた。
???「だって無視したら後で文句言われるもん。」
声の方を見ると狐が喋っている。
しの「狐が喋ってる?」
つい、言葉に出てしまった。
狐1「ほら、結構元気そうじゃないか。柚子が気にすることじゃ無い。」
狐2「私は柚子のすることに反対はしないけど、お節介はほどほどにね。」
柚子「それでもほっといたら駄目な気がするの。」
しのは起きて不思議な人達に声をかける。
しの「あなた達は一体何者?」
狐1「名前も名乗らない人に教える義理はないな。」
しの「私はしの。ねえ、人魚の話って聞いたことない?」
柚子「人魚?見た事は無いけど肉を食べたら不老不死になれるとは聞いた事あるね。」
狐1「はん。不老不死になりたい人間か?欲深いね。」
しの「違う。不老不死じゃ無くしたいの。」
柚子「もしかして食べたの?」
狐1「不老不死を求めたのにいざなれば要らないか、やっぱり人間は好きになれない。」
しの「違う。あの時、私は子どもであれを食べたのは興味本位だった。」
狐1「言い訳か、やっぱり人間って奴は、、」
柚子「ノラは少し黙ろうか。」
さっきから人間を目の敵にしている普通の色の狐はノラというらしい。
柚子の一言で喋らなくなったが不満そうだ。
柚子「ごめんね。この子人間に住んでた山から追い出されちゃって人間嫌いなの。」
ノラ「シロの方なんて畑守ってやってたのに人間に飼われた犬に追い回されたんだぞ。」
もう1匹の白い狐はシロというらしい。
しの「それは、嫌いになるよな。」
柚子「だけどあなたには関係無いから無視で良いよ。それより何でこんな所にいるの?」
しの「生きるのに疲れただけ。」
ノラ「だが、それは自業自得だろ?それこそ俺らに関係ないね。」
しの「そうね。あなた達には関係ない。久しぶりに喋れて良かった。ありがとう。」
柚子「だけど、あなたはこのままここにいるの?」
しの「それでも他にする事もしたい事も無いよ。」
柚子「だけど、小屋はもう崩れそうだよ。」
しの「本当だ。気づかなかった。」
ノラ「どれだけ無関心だったんだよ。」
しの「まあ、怪我してもすぐ治るから特に問題は無いよ。」
柚子「それでも怪我すれば痛いでしょ?」
しの「、、私が不老不死だって知った人はそんな事言ってくれた事ないよ。」
柚子「ねぇ、行く所無いなら私達の事手伝ってくれない?」
ノラ「え?こいつも仲間に入れるのか?」
柚子「ノラはちょっと黙ろうか。」
ノラ「いやいや、シロも何か言ってくれよ。」
シロ「私は柚子がいいならいい。」
しの「話が盛り上がっているところ悪いが、あなた達は何をしているの?」
柚子「妖怪と人間の仲を取り持ってる。」
しの「具体的には?」
柚子「最近暴れる妖怪が増えていてそうなると一方的に妖怪が退治されちゃうんだけど、そうならないように仲直りさせてるの。」
しの「だが、被害が出ているのなら退治されても良いんじゃないの?」
柚子「妖怪って人間の影響を受けやすくて、暴れていても人間の方が悪い事ってよくあるのよ。」
ノラ「そうだ。人間はいつも自分の都合の良い方に考えて妖怪を悪者にしたがる。」
柚子「ノラ。」
ノラは柚子に睨まれた事でハッとし、黙ってしまった。
柚子「それに人魚も妖怪だから、もしかしたら情報が入って来るかもしれないよ。」
しの「だけど柚子さん達はこれまでやって来たのに人魚の事あまり知らないんでしょ?」
柚子「そうだけど、聞いてこなかったのもあるから。聞いたら情報入ってくるかもしれないから。」
しの「かも、か。」
柚子「勿論、強制とかでは無いから拒否してもらってもいいよ。」
しのはしばらく考えて答えを出す。
しの「私ができることがあるかは分からないけどここでジッとしているよりも良いと思う。」
柚子「やった。良かった。」
人との繋がりをつくる気は無かったがこれで不老不死じゃ無くなればその心配も要らないはず。
柚子「じゃあ、改めて自己紹介するね。私は柚子、木霊という妖怪で人より寿命あるから長く一緒にいられると思うよ。」
シロ「私はシロ、白狐で幻術、化かす、狐火色々とできる。」
しの「あ、えっとしのです。人間です。」
柚子「ほら、ノラも。」
ノラ「黙れと言われたので黙ります。」
柚子「もう、これはノラ、野狐で走ることや追跡とか探し物を見つけたりするのが得意よ。」
しの「柚子さんは人じゃ無いんですね。」
柚子「柚子さんじゃ無くて柚子で良いよ。私もしのって呼ぶから。」
しの「あ、うん。よろしく、柚子。」
柚子「よろしく、しの。」
しの「シロとノラもよろしく。」
シロ「よろしく。」
ノラ「ふんっ。」
柚子「それじゃ、しのにはちょっと行って欲しい所があるから一緒に行こう。」
柚子はそう言うとしのの腕を引きどこかへ連れて行こうとする。
しの「何処に?」
柚子「知り合いの陰陽師。ある程度戦えるようになった方が良いから。」
しの「私、護身術くらいしかできないけど大丈夫かな?」
柚子「もし出来なくてもする事は他にもあるから大丈夫。」
ノラ「こんな弱そうなの使い物になるのか?」
柚子「人は見た目じゃ無いから。」
ノラは随時、不満そうだったが柚子が案内してくれたおかげで陰陽師の所まで到着した。
そこは村から少し外れた場所にある小さな家だった。
柚子「鬼渡いる?」
しの「鬼渡?変わった名前ですね。」
柚子「そう。陰陽師なのに妖怪の味方ばかりしているから人間の方に恨まれてそう呼ばれるようになったの。」
しの「何で柚子もそう呼んでいるの?」
柚子「本名を教えてくれないから。こう呼べってあっちから言ってるの。」
しの「変わってるね。」
柚子「そう呼び始めた人への当てつけみたいだけどね。」
そんな会話をしていると扉がガラッと開いて1人の男性が出てくる。
鬼渡「久しぶりだな柚子、そっちの嬢ちゃんは人間か?何しに来た?」
柚子「久しぶり、私の手伝いをしてくれる人を見つけたから才能があれば修行させてほしいの。」
鬼渡「へー、物好きがいるんだな。」
ノラ「お前よりかは普通の人間だぞ。」
不老不死の人間よりも異常なのかと思いながらも鬼渡の方を見てみる。
見た目は少し背は高いが普通のおじさんなので変わっているのは性格の方なのだろうか。
鬼渡「ほう、霊力の方は結構あるじゃ無いか。何かしていたか?」
しの「霊力?」
鬼渡「ああ、妖怪と関わる上で役立つ力だ。」
しの「今までは人と関わらないように旅を続けていただけで霊力というものも知りませんでした。」
鬼渡「旅か、歩き続けたりしていても強化される事があるからな。だけどそれだけだとそんなに多くならないはずだが。」
柚子「そうそう、言い忘れてたけど鬼渡は人魚って知ってる?」
鬼渡「知ってるが本物は見た事は無いな。偽物なら何回かあるが。」
柚子「それを食べて長く生きているらしいの。」
鬼渡「ほう、人魚は本当にいたのか。じゃあどのくらい旅したんだ?」
しの「途中から数えてません。」
鬼渡「そうか。数えきれないくらい旅してたのか。大変だったな。」
柚子「一応聞くけど鬼渡は不老不死を無くす方法は知らない?」
鬼渡「不老不死か、なりたい奴なら何回かあったが無くしたい奴は初めてだな。」
柚子「まあ、知らないよね。」
鬼渡「調べる奴自体いないからな。」
しの「そうですよね。」
鬼渡「まあそう落ち込むな。いつかわかるかもしれないし、楽しい事してりゃそんな事考えなくなるかもしれないぞ。」
鬼渡はそう言いながらしのの背中を叩く。
しの「はい。」
そう力なく答えた。
柚子「実感湧かないかもしれないけど色々やってみよう?」
柚子の励ましに一応頷く。
鬼渡「なあ、ここには霊力の使い方を習いに来たんだろ?まあ、入れよ。」
鬼渡に促されて入るとそこは外見とは違い立派な屋敷が建っていた。
鬼渡「驚いたか?ここは結界で隠してる本当の俺の家だ。」
小さい家なのに出てくるのが遅いと思っていたが、実際の広さを見てそれも納得する。
鬼渡「力を使いこなせれば他にもできることがある。まずは自分の力がどんなものか確認するか。」
そうして案内された道場で修行が始まる。
瞑想などの精神的なものから戦闘は避けられない為、柔術や徒手空拳などの戦闘術や刀などの武器の扱い方にお札や結界の張り方などの霊力の使い方、妖怪の知識など様々な事を教えてもらった。
そしてしのは順調に技術や知識を取り込んでいった。
数か月が経った頃。
鬼渡「明日、実践に行くぞ。」
しの「え?もうですか?」
鬼渡「それはこっちのセリフだ。もう教える事を全部覚えてしまったんだから。」
しの「だけど、、」
鬼渡「後は実践で覚えるしかない。俺の付き添いとしてついて来い。」
しの「はい。」
鬼渡「それじゃあ、これ。」
しの「これは何ですか?」
渡されたのは陰陽師の服と刀が2つ。
鬼渡「衣装と打刀と脇差だ。」
しの「刀は最近見るようになった組み合わせですね。こんな大きなもの必要ですか?」
鬼渡「威嚇にもなるからそのくらいあった方が良いんだ。お前ならそれでも動けるだろう。」
しの「まあ、後はこの衣装ですが。」
鬼渡「男物だ。男装しろ。」
しの「何ですか?」
鬼渡「男女で態度を変える奴は多いからな。有名になるまでは男装しておけ。」
しの「わかりました。」
鬼渡「言葉遣いも気を付けろ。」
しの「師匠のようなしゃべり方がいいのでしょうか?」
鬼渡「舐められないなら大丈夫だ。」
しの「わかった。気を付ける。」
鬼渡「うん、それでいい。」
しのは明日の準備をして眠りにつく。
翌日、外に出ると柚子とシロとノラが待っていた。
しの「どうしたの?」
柚子「初仕事の応援に来たよ。」
ノラ「それにしてもお前、似合ってないなその恰好。」
しの「お前はいつも通り一言多いんだな。」
シロ「様になっているじゃない。」
柚子「そうそう、初めて見るから慣れないだけだよ。」
鬼渡「準備できているな。行くぞ。」
柚子「いってらっしゃい。」
そしてしのの初仕事が始まる。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。