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68話

この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。

オリジナルの妖怪が登場することもあります。

素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。

志乃(しの)は先日見つけた呪いの玉を調べていると最近できたものだという事が分かる。

次に誰が作ったかを調べるためにこんな事ができる人間がいないか前に妖怪達を誘拐していた律樹(りつき)に話を聞くために律樹(りつき)のいる烏天狗(からすてんぐ)の山へ行く事にした。

志乃(しの)が天狗の山へ行くと歓迎を受けたので全員のしながら屋敷に辿り着くと篁音(たかね)が迎えてくれた。

篁音(たかね)「あら、志乃(しの)さんいらっしゃい。」

志乃(しの)「相変わらず話を聞いてくれないな。」

篁音(たかね)「わざとですよ。私のお供で何回もあなたを見ているのに知らないわけないじゃないですか。」

志乃(しの)「つまりここに来るたびに相手しないといけないのか。」

篁音(たかね)「相手になれるものがあまりいないので良い刺激になっています。それで今回は何の用ですか?」

志乃(しの)「ああ、律樹(りつき)はいるか?少し聞きたいことがあってな。」

篁音(たかね)「今はお風呂の掃除をしていると思います。終わったらこちらに来るように伝えますのでそれまで2人でお話ししましょうか?」

志乃(しの)「話す事なんてあるのか?」

篁音(たかね)志乃(しの)さんはあの人間に何の用なんですか?」

志乃(しの)「先日野槌(のづち)を倒したんだがそいつがこんな物を呑み込んでいてな。最近作られた感じだったからこういう物を作る者に心当たりが無いか聞きたくてな。」

篁音(たかね)「これですか、、確かに呪いの気配がしますね。」

篁音(たかね)志乃(しの)が取り出した玉をまじまじと眺めていたが、しばらくして何かに気づいたようにどこかへ行ってしまった。

しばらく待っていると篁音(たかね)が戻って来ると、手には赤黒いデコボコした胡桃大の石のような物を持っていた。

志乃(しの)「それは?」

篁音(たかね)「前にお話したお千代(ちよ)がいなくなった場所に落ちていました。」

志乃(しの)「見てみても良いか?」

篁音(たかね)「ええ。」

志乃(しの)がその石のような物を持ってみると急に志乃(しの)の頭の中に声が響く。

???「〓〓〓〓、〓〓〓〓〓〓、〓〓〓〓。」

それは言葉の様だがまるで水の中で話しているような感じで意味は聞き取れなかったがいきなり頭に響いた声に驚いた志乃(しの)はその石を放して床に落としてしまう。

志乃(しの)「すまない。」

志乃(しの)は慌てて落としてしまった石を拾い上げるが次は何も聞こえない。

篁音(たかね)「どうしました?」

志乃(しの)「これを持った途端声が聞こえた。」

篁音(たかね)「どんな声でなんて言っていましたか?」

篁音(たかね)志乃(しの)に詰め寄り質問をする。

志乃(しの)「はっきり聞こえたわけじゃない。性別すらも分からない声で内容も分からなかった。」

篁音(たかね)「そうですか。今は聞こえますか?」

志乃(しの)「最初の1回きりだ。」

篁音(たかね)「女性の声ならお千代(ちよ)かもとは思ったんですが。」

志乃(しの)「はっきりとは聞こえなかったが多分お千代(ちよ)とは違うと思う。」

篁音(たかね)「何でそう言えるんです?」

志乃(しの)「内容は聞き取れなかったが高圧的な言い方だった。」

篁音(たかね)「ならお千代(ちよ)を攫った奴の声でしょうか。」

志乃(しの)「断定はできないが可能性は高いな。」

志乃(しの)はその時、その声が度々自分の頭の中で聞こえる声とそっくりな事は言えなかった。

篁音(たかね)「それでこれ、志乃(しの)さんが持って来たものと少し似ていると思って持って来たんですがどうでしょうか?」

志乃(しの)「私が持って来た玉からは声は聞こえなかった。形は違うが大きさや色は似ているな。後は呪いの部分だが、、」

篁音(たかね)「私の持って来た方は最初から呪いの気配はありませんでした。でも役割が終わって無くなった可能性もありますよね。」

志乃(しの)「私もその線が強いと思っている。」

篁音(たかね)「ですがもう1つ疑問が増えましたね。」

志乃(しの)「あの声か。せめて何を言っているか分かれば良かったんだが。」

篁音(たかね)「時間が経てばまた聞こえるかもしれません。」

志乃(しの)「、、帰りにまた触れてみるか。」

篁音(たかね)「お願いします。出来るだけお千代(ちよ)の情報を知りたいんです。」

志乃(しの)「ああ、、」

志乃(しの)はお千代(ちよ)の事になると必死になる篁音(たかね)を見て隠し事をしている事に罪悪感を覚えた。

そんな時、掃除を終えた律樹(りつき)がやって来た。

律樹(りつき)「お呼びですか?ってあなたは。」

律樹(りつき)は基本的に屋敷の掃除等を任されていて、生活は変わったが特にやつれているとかも無く元気そうだ。

志乃(しの)「久しぶりだな。」

律樹(りつき)「なら僕を呼んだ理由はあなたが関係しているのでしょうか?」

志乃(しの)「すっかり丸くなったな。」

篁音(たかね)「ふふ。調教は得意ですから。」

律樹(りつき)「そんな事はないです。食事に関しては最初戸惑いはありましたが衣食住は保証されてますし、仕事も聞けば教えてもらえるので居心地は良いです。」

志乃(しの)「そうか。それで私が来たのはお前に聞きたいことがあったからだ。」

律樹(りつき)「僕にですか?」

志乃(しの)「ああ、お前以外で呪具や呪いを扱える人物は知らないか?」

律樹(りつき)「僕以外だと怜司(れいじ)しか知りませんね。」

志乃(しの)「まあ、そうか。」

篁音(たかね)「私も他に悪さするような者はいないか聞きました。」

志乃(しの)「なら何で初めに言わない。」

篁音(たかね)「その玉について何か知っているか確認したかったんです。律樹(りつき)、何か知りませんか?」

律樹(りつき)「いえ、初めて見ます。」

篁音(たかね)「そうですか。そうだ、律樹(りつき)もちょっとこれ持ってみてください。志乃(しの)さんちょっと借りますね。」

篁音(たかね)志乃(しの)の手の上から玉と石を取り上げて律樹(りつき)に渡すと、律樹(りつき)はそれをまじまじと眺めている。

律樹(りつき)「ただの石と玉に見えますね。」

篁音(たかね)「頭の中に声が聞こえたりとかはありませんか?」

律樹(りつき)「いえ、そういう事はありません。」

篁音(たかね)「そうですか。それなら志乃(しの)さんだけ声が聞こえたという事ですが何故でしょうか。」

志乃(しの)「これから調べる。」

篁音(たかね)「なら私も手伝いましょう。」

志乃(しの)「え。」

篁音(たかね)「この石の所有は私ですし、お千代(ちよ)の手掛かりが掴めるなら協力は惜しみません。」

志乃(しの)「先に玉の方を調べたい。」

篁音(たかね)「一緒に調べればいいじゃないですか。それに志乃(しの)さん、私に隠し事していますよね。」

志乃(しの)「それは、、」

篁音(たかね)「いいんですよ。隠し事の1つや2つ、誰にでもありますから。ですがそれがあの話と関係あるのであれば話は別です。」

律樹(りつき)「あの話?」

篁音(たかね)「あなたはもう大丈夫です。仕事に戻ってください。」

律樹(りつき)「あ、はい。」

律樹(りつき)が仕事に戻ると篁音(たかね)志乃(しの)に向き直る。

篁音(たかね)「さて、私はあなたに情報を提供しました。あなたも知っている事を話すべきでは?」

志乃(しの)「お千代(ちよ)に繋がるかは分からないが去年の秋に出来損ないと出くわした。」

篁音(たかね)「それはどこでですか?」

志乃(しの)「猫の国のある港だ。」

篁音(たかね)「あちらの方ですか。結構行動範囲は広いんですね。それでここで話すという事は会っただけじゃないですよね。」

志乃(しの)「...。」

篁音(たかね)「喋りにくい事でしたらまたお酒でも用意しましょうか?」

志乃(しの)「いらない。今、野々香(ののか)はどうしている?」

篁音(たかね)「あの子も夏休み中ですが何やら大学でやりたい事があるとかで里帰りはしてくれませんでした。」

志乃(しの)「ならいい。」

篁音(たかね)「あの子がいると喋りにくい事ですか?」

志乃(しの)「、、荒鱓(あらうつぼ)を退治した後、海中で足に怪我を負わされた。」

篁音(たかね)「動きにくい場所とはいえ志乃(しの)さんに怪我させるなんてやりますね。」

志乃(しの)「そして、その後から頭に声が響くようになった。」

篁音(たかね)「それはお千代(ちよ)と同じじゃないですか。」

篁音(たかね)が手を挙げると周りの烏天狗(からすてんぐ)達は戦闘態勢に入る。

志乃(しの)「ここで戦うのであれば大百足(おおむかで)を呼び出すぞ。」

篁音(たかね)「ですがみすみす友を2人も奪われるわけにはいきません。」

志乃(しの)「対策はある。」

篁音(たかね)「本当ですか?」

志乃(しの)「ああ、今は準備中だ。」

篁音(たかね)「まあ、いいです。ですが分かっている事は全て話してもらいますからね。」

篁音(たかね)が手を下ろすと戦闘態勢は解かれて烏天狗(からすてんぐ)達は通常の勤務に戻る。

志乃(しの)「今は声を封印しているからそこまで情報は無い。」

篁音(たかね)「前に聞いてきた()()()というのはもしかしてその声から聞いた名前ですか?」

志乃(しの)「封印しても聞こえる時は聞こえるからその時にたまたま聞いたんだ。」

篁音(たかね)「封印はどのくらい持ちそうなんですか?」

志乃(しの)「私の中の呪い。これを全て解呪するまでは持たせるつもりだ。」

篁音(たかね)「それはいつですか?」

志乃(しの)「今年の冬休みまでには解呪は終わると思う。本格的に動くのはそれからだな。」

篁音(たかね)「そうですか。」

篁音(たかね)は少し考えて覚悟を決めたように話し出す。

篁音(たかね)志乃(しの)さん。その封印、少しの間解くことはできませんか?」

志乃(しの)「今ならまだ弱いから出来るとは思うが。」

篁音(たかね)「お千代(ちよ)は頭に響く声から情報を得ていました。危なそうならこちらで対処しますのでお願いできませんか?」

志乃(しの)「この声と話すのか、、」

篁音(たかね)「こればかりは無理強いできませんがどうかお願いします。」

志乃(しの)「、、分かった。」

篁音(たかね)「本当ですか?」

志乃(しの)「情報はあった方がいい。一時的に解くから危なくなったらこの封呪符(ふうじゅふ)を頭に貼ってくれ。」

篁音(たかね)「分かりました。」

志乃(しの)は一息つくと胡坐をかいて瞑想する時と同じ姿勢を取る。

志乃(しの)が目を瞑って動かなくなってから1時間が経とうとしていたところだった。

志乃(しの)「うっ。」

志乃(しの)は急に口元を押さえ、顔を誰にも見られないように後ろを向いて背を丸める。

篁音(たかね)志乃(しの)さん!?」

いつも冷静な志乃(しの)がいきなり取り乱しているのを見て篁音(たかね)はすぐに駆け寄り封呪符(ふうじゅふ)を貼る。

それでも志乃(しの)の震えは止まらず篁音(たかね)が落ち着くまで優しく背をさすったり声かけをしていると少し落ち着いてきたのか顔を上げる。

篁音(たかね)「大丈夫ですか?私が無理言ったせいで、すみません。」

それに志乃(しの)は首を横に振ると震えた弱々しい声で答える。

志乃(しの)「大丈夫。大丈夫、、」

そうは言うが志乃(しの)の顔色は悪く、膝の上で組んでいる手はまだ震えていた。

篁音(たかね)「こんな時に聞くのは心苦しいですが、何か分かりましたか?」

志乃(しの)「、、全て本当かは分からない、、嘘で、あってほしい、、」

弱々しい声で話す志乃(しの)を見て篁音(たかね)はこれ以上は聞けず震える志乃(しの)の手を握り、優しく抱きしめる。

篁音(たかね)はお千代(ちよ)も頭の声について話す時は震えていた事を思い出して志乃(しの)にこんな事を頼んだ事を後悔していた。

篁音(たかね)「今日はこのまま泊まって行ってください。布団を用意します。」

志乃(しの)の反応は無く、まだ震えているので篁音(たかね)志乃(しの)を両手で抱き寄せて自分の心臓の音を聞かせる。

しばらくしたら落ち着いてきたのか志乃(しの)篁音(たかね)から離れて口を開く。

志乃(しの)「お千代(ちよ)の事が分かった。」

篁音(たかね)「あなたの様子からして良い事ではない事は分かりますが頼んだのは私です。教えてくれますか?」

志乃(しの)「まずは篁音(たかね)が持って来たその石は私が回収した玉とは少し違うものだが同じような物だった。」

篁音(たかね)「やっぱりこの石も呪いの媒介だったんですね。」

志乃(しの)「その石の中にあった呪いはお千代(ちよ)に移ってお千代(ちよ)は魚の姿になった。」

篁音(たかね)「魚、出来損ないのような姿ですか?」

志乃(しの)は首を横に振る。

志乃(しの)「本当に魚だ。普通の魚と違うのは髪が生えている事くらい、、」

そこまで言うと志乃(しの)は口ごもる。

篁音(たかね)「少し違いますが人魚みたいですね。」

志乃(しの)「私が食べた人魚もそんな感じだった、、一切れだけだったけど、私は、、」

志乃(しの)の様子に篁音(たかね)は何かに気づき、すぐにフォローしようとする。

篁音(たかね)「それは志乃(しの)さんが小さい時です。小さい子どもなんて何でも口に入れようとしますよ。」

志乃(しの)「それは3歳くらいまでの話だろ。あの時私は自分の判断で肉を口に入れた。」

篁音(たかね)「それでも魚であれば食べれると思ってしまいます。あなたは悪くありませんよ。それに一切れだけだったんですよね。残りはどうなったんですか?」

志乃(しの)「確かにそれは、自分が食べたと声の主が言っていた。あの後も生きてはいて再生し、海へ戻ったらしい。」

篁音(たかね)「ほら、志乃(しの)さんはお千代(ちよ)を殺してはいません。」

志乃(しの)「それでも食べた。人魚と分かっていた時点で半分は人間だと分かっていたのに。」

篁音(たかね)「飢饉の時なんて生きるために人の肉を食べる人間はいました。」

志乃(しの)「私が食べたのは興味本位からだった。それに切った事によって苦しめた事に変わりはない。」

篁音(たかね)「もう、終わった事です。事実が分かったからと言って苦しむ事ではないはずです。」

志乃(しの)「それだけじゃない。」

篁音(たかね)「他に何があったんですか?」

志乃(しの)「それだけじゃない、けど、、」

篁音(たかね)「言った方がスッキリしますよ。」

志乃(しの)「...。」

篁音(たかね)「言いたくない事ですか?」

志乃(しの)「...。」

篁音(たかね)「聞きたい事は聞けました。無理に言わなくてもいいです。」

志乃(しの)「、、すまない。」

篁音(たかね)「無理言ってすみませんでした。客間に布団を用意してあります。今日はもう休みましょう。」

志乃(しの)「、、ああ。」

篁音(たかね)「それで封印は大丈夫ですか?」

志乃(しの)「一部しか解いてなかったから再封印は出来た。」

篁音(たかね)「それでもこれだけ影響があるんですね。」

志乃(しの)「声が聞こえるだけにしたはずなのにな。」

篁音(たかね)「声以外にも何かあるんですか?」

志乃(しの)「洗脳のような頭に干渉してくる感じがした。」

篁音(たかね)志乃(しの)さん、やっぱりここで暮らす事を考えませんか?」

志乃(しの)「駄目だ。話を聞いて余計に放っておけなくなった。」

篁音(たかね)「、、私では、止められないんでしょうね。」

志乃(しの)「...。」

篁音(たかね)「、、暗い話は止めましょう。寝る前にさっぱりして少しでも気分を晴らしましょうか。」

篁音(たかね)志乃(しの)の手を引いてお風呂場に行き、志乃(しの)はまた篁音(たかね)に洗われてそれが一通り終わると志乃(しの)は客間に案内された。

篁音(たかね)「何かあればすぐに駆けつけます。ちゃんと知らせてくださいね。」

志乃(しの)「ああ。」

篁音(たかね)は静かに襖を閉めて行ってしまった。

真っ暗な部屋で1人で布団の中に入るが、さっきの事を思い出して寝れずにいると、心配した管狐(くだぎつね)達が竹筒から出て来た。

志乃(しの)はそのうちの1匹を撫でていると自分もと他の管狐(くだぎつね)志乃(しの)の手の下に入って来る。

その光景を見て志乃(しの)の気持ちが少しだけだが軽くなり、3号に灯りを点けてもらい、9号に風呂敷とブラシを持って来てもらうと風呂敷を床に敷いて管狐(くだぎつね)達のブラッシングを始めた。

志乃(しの)「私を風呂に入れる篁音(たかね)もこんな気持ちなのかな。」

少し独り言を喋りながらブラッシングが一通り終わると眠気が来たので志乃(しの)は眠りにつく事にした。

その夜、志乃(しの)は夢を見る。

それは志乃(しの)が人魚を食べる時の夢で、そこで志乃(しの)は第三者視点でその様子を見ていた。

漁師の1人が獲って来た見た事のない魚。

興味津々でそれを眺める子供の自分。

この夢で初めて志乃(しの)は人魚の目が自分を見ていたことに気づいた。

当時は背が低く人魚自体をあまり見れていなかったのもあったが人魚の顔は髪の毛で覆われており見えていなかったのだ。

言い訳にはなりそうだがそれもあり人の髪の毛が生えた魚としか思っておらず、まさか元人間で知り合いの友だったなんて、この時は思いもしなかったし、分かるわけもなかった。

それでも漁師達が匂いで食べる事を断念した後にその人魚に近づく自分にその事を伝えたかったがその声は届くわけがない。

そして子供の志乃(しの)はゴミ捨て用の桶から捨てられた人魚を一切れ口に入れてその場で動かなくなっていた。

匂いがきつくて吐き出そうか考えていたことは覚えているがこんな長い間止まっている事なんて自分は知らず、しばらくして育ての親である漁師に声を掛けられて我に返る。

その時に口に含んでいた肉は飲み込んでしまったがこれで良かったと思ってしまう。

桶に捨てられた人魚を見ると髪の毛の間から悔しそうな顔が覗いていたからだ。

あのままだったらもしかしたらもっと食べていたのかもしれない。

あの後あの匂いがずっと忘れられなかったのは長い間口の中に含んでいたからだった。

そしてずっと興味本位で食べたと思いこんでいたが、実際にはお千代(ちよ)の人魚に乗り移った声の主が人魚を食べさせようと子供の志乃(しの)を操っていた。

自分の意思ではない事に少し安堵したが元人間の肉を食べた事に変わりはない。

志乃(しの)は口に残る魚とは違う肉の感触と異臭を思い出して気持ち悪くなり目が覚める。

部屋の中はまだ暗かったが、障子を開けて外を確かめると少しだけ陽の光が見えた。

窓を開けると涼しい風が吹いていたのでそのまま気持ちを落ち着けていると廊下に通じる襖の方から声が聞こえる。

篁音(たかね)志乃(しの)さん、大丈夫ですか?」

志乃(しの)は声の方に近づいて襖を開けると寝間着姿で心配そうな顔の篁音(たかね)が立っていた。

志乃(しの)「少し夢見が悪かっただけだ。」

篁音(たかね)「私があんな事頼まなければ良かったんでしょうね。」

志乃(しの)「いつかは知る事だった。今知れて良かったと思っている。」

篁音(たかね)「そうですか。」

志乃(しの)「お前は仕事があるだろ。こんな早くから起きて大丈夫なのか?」

篁音(たかね)「もう十分に睡眠は取れましたから。」

志乃(しの)「それならいいが、、」

篁音(たかね)志乃(しの)さんは朝食食べれますか?」

志乃(しの)「いや、食欲は無い。」

篁音(たかね)「そうですか。」

志乃(しの)「準備をしたら帰ろうと思っている。」

篁音(たかね)「送りましょうか?」

志乃(しの)「1人になりたいんだ。」

篁音(たかね)「、、分かりました。ですが見送りだけはさせてください。」

志乃(しの)「準備ができたら知らせる。」

篁音(たかね)「はい。」

それから志乃(しの)は襖を閉めると今まで監視していた烏天狗(からすてんぐ)がいなくなっている事に気が付く。

1人になりたいと言った志乃(しの)の言葉に篁音(たかね)が気を使ってくれたんだろう。

志乃(しの)は準備が終わると廊下に出て9号に拍子木を持って来てもらってそれを鳴らすと篁音(たかね)が慌てて出てきた。

篁音(たかね)「もう行くんですか?」

陽が昇り始めた頃だったのでもう少し休んでから行くと思っていた篁音(たかね)は驚いている。

志乃(しの)「これ以上迷惑は掛けれないからな。」

篁音(たかね)「気にしないでください。」

志乃(しの)「それに少し調べたいこともある。」

篁音(たかね)「それは今じゃなくても良いんじゃありませんか?」

志乃(しの)「調べないと落ち着かないんだ。」

篁音(たかね)「そうですか。何かあればいつでも頼ってくれてもいいんですよ。」

志乃(しの)「ありがとう。」

志乃(しの)は天狗の山を出て一番近い妖ノ郷(あやかしのさと)の入り口から妖ノ郷(あやかしのさと)に入る。

行きたい場所が少し遠いので妖ノ郷(あやかしのさと)を通って行こうとしたのである。

その時に黒根(くろね)を連れた樹霧之介(きりのすけ)と出会う。

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さん。何か用ですか?」

志乃(しの)「少し行きたい場所があったんだ。お前らこそ朝から起きているなんて珍しいな。」

黒根(くろね)「久しぶりに出入口を増やしたら不安定な物もあってな。調整してきたんじゃ。」

志乃(しの)「そうか。私は妖力が使えないから直接的な手伝いはできないからな。」

黒根(くろね)「お主が竹筒を置いて行った時からたまに1号も手伝ってくれとる。昨日の夜は出てきてくれんだから一晩掛かってしまったが何かあったんか?」

志乃(しの)「まあ、少しな。」

黒根(くろね)「今からもどこか行くようじゃがあまり無理するなよ。」

志乃(しの)「気になった事を少し調べようと思っているだけだ。」

樹霧之介(きりのすけ)「もしかしてあの玉の事何か分かったんですか?」

志乃(しの)「分かった事もあるがもう少し詳しく調べる。」

黒根(くろね)「お主がそれほどまでに手間取るなんての。ここから入って来たという事は烏天狗(からすてんぐ)にも何か聞きに行ったんじゃろ。」

志乃(しの)「ああ。」

樹霧之介(きりのすけ)「何か手伝えることはありませんか?」

志乃(しの)「一晩調整していたのなら今は眠いだろ。いいから寝ろ。」

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さんは寝たんですか?」

志乃(しの)篁音(たかね)に半ば無理矢理な。」

黒根(くろね)「なら大丈夫じゃろ。わしらは帰ろうか。」

樹霧之介(きりのすけ)「はい。」

それから志乃(しの)はとある出口から妖ノ郷(あやかしのさと)の外に出るとそこは人は訪れない山の奥で、少し進むとそこは膝まで届く笹やススキなどの草が生えていて獣道すら見えない。

それでも草をかき分けて進んでいくと斜面のくぼみに不自然な石の盛り上がりがあった。

志乃(しの)はそれに近づき草を退けると3つの大石が偶然にしてはあまりに整った三角形を描き、その中心に低く積まれた石群が苔に覆われていた。

志乃(しの)は石でできた三角形の中に足を踏み入れ中心の積まれた石に手を伸ばして触れてみる。

石には薄く結界が張ってあり、掛かっている術を隠しているので知らずに見ただけではそれが何かを封印している塚だとは分からないだろう。

その封印は志乃(しの)が使っている物とは違う封印術で繊細ながらも強固なので解除に時間は掛ったが何とか順番に術を解いていき、最後の石を退かすと煙と共に1人の老婆が現れた。

老婆「あんたがこの結界を解いたのか?」

志乃(しの)「そうだ。お前は山姥(やまんば)だな。何でこんなところに封印されているんだ?」

山姥(やまんば)「なんだ。何か知っていて解いたわけじゃなさそうだな。」

志乃(しの)「この先に目的の場所があるんだがこの塚を見つけて気になったんだ。」

山姥(やまんば)「ふむ、それはこの塚を封印した霊力がお前の霊力と似通っているからだろう。」

志乃(しの)「、、確かに。言われてみれば似ていた。何で分かった?」

山姥(やまんば)「私はこれでも昔は巫女だった。今は妖怪となって霊力は使えなくなったが知識や感覚は残っている。」

志乃(しの)「そうか。それでお前を封印したのは誰なんだ?」

山姥(やまんば)潮埜(しおの)という女だ。私がまだ巫女だった頃、山伏として私の村に来て友となった。」

志乃(しの)「友なのに封印されたのか?」

山姥(やまんば)「これは私を守るためだった。自分でも出れたがあいつがいなくなった世界に興味が無くてそのまま寝た。」

志乃(しの)「いなくなった?封印されたのならいるだろ?」

山姥(やまんば)「あいつらは大切なものを守るために自害を決めていた。私には止められなかった。」

志乃(しの)「、、もしかしてそれはこの先にある谷と関係があるのか?」

山姥(やまんば)「逃げきれないと悟った2人はそこに向かう途中で私を封印した。十中八九飛び降りただろうな。」

志乃(しの)「ある人物に私の両親はこの先の谷で自害したと聞かされた。」

山姥(やまんば)「封印を解いた時点で気づいてはいたがお前が清埜(きよの)だな。」

志乃(しの)「私はずっと志乃(しの)と呼ばれていた。今更その名前は受け入れられない。」

山姥(やまんば)「なら志乃(しの)と呼ぼう。それでもその名はあいつらがお前の親であった証だ。それだけは忘れないでやってくれ。」

志乃(しの)「もちろんだ。」

山姥(やまんば)「それでお前はここで何があったか知りたいか?」

志乃(しの)「、、私は正直700以上年生きてきた中で両親の事を考えたことはなかった。」

山姥(やまんば)「700年?お前、そこに少し座れ。」

志乃(しの)は何故そんなに驚かれたのか分からなかったが言われた通りに座ると山姥(やまんば)志乃(しの)の頭に手を置く。

山姥(やまんば)「あいつの呪いか?少し違うような気もするが。」

志乃(しの)「この呪いは解くことはできないのか?」

山姥(やまんば)「呪いが既に浸透している。難しいだろう。」

志乃(しの)「この呪いはどんなものなんだ?」

山姥(やまんば)「その前にお前の両親の話をした方がいい。お前は聞きたくないかもしれないがこれから役に立つかもしれない。」

志乃(しの)「聞きたくないわけじゃない。」

山姥(やまんば)「そう言えばこの先の谷に行こうとしていたんだったな。」

志乃(しの)「これまで考えた事もない人達の事を受け入れられるか少し怖いんだ。」

山姥(やまんば)「どう思おうがあいつらは気にしないだろう。そんな奴らだ。」

志乃(しの)「、、聞かせてくれ。」

山姥(やまんば)は語りだした。

それは800年ほど前、志乃(しの)が生まれる前の話だった。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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