66話
この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。
オリジナルの妖怪が登場することもあります。
素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。
入学式が終わって新しい1年生を部活に勧誘する為に6限目からは賑やかだ。
帰宅部の人は5限で帰れるので志乃も帰る準備をしていると演劇部部長の文香が入って来た。
文香「浜名瀬さん。演劇部に入りませんか?」
志乃「断る。」
文香「今回のシナリオアクション少なめで作ったんです。」
志乃「なら余計に私はいらないだろ。」
文香「その代わり演技力が必要なんですよ。」
志乃「1年から探せ。」
文香「それでも浜名瀬さんの演技が忘れられないんです。」
志乃「忘れろ。」
文香「無理です。せめて演技指導だけでもしてくださいよ。」
志乃「もっと無理だ。」
文香「今来ている1年生、風牙先輩の演技に憧れてきた人も多いですが浜名瀬さんを見て来ている人もいるんですよ。」
志乃「知らん。」
文香は立ち上がって帰ろうとする志乃の鞄を掴んで引き留める。
文香「せめてシナリオだけでも読んでください。」
志乃「、、分かったから離してくれ。」
文香「はい。」
志乃は外のベンチに移動して文香のシナリオを読む。
文香「どうですか?」
志乃「良いんじゃないか?」
文香「なら、、」
志乃「だが私が出たいかと言われたら微妙だな。」
文香「どこらへんが悪かったですか?」
志乃「お前はこれが良いと思ったんだろ。今から他の人の意見を取り入れても完成はできない。」
文香「そうれはそうですが、、」
志乃「まずは1年生を勧誘してくれ。それでお前が最大限努力しても人が見つからなかった時だけ助っ人くらいは考える。」
文香「本当ですか!」
志乃「ただし、努力していないと思ったら何も手伝わないからな。」
文香「はい。頑張ります!」
それから部活動の勧誘も終わったが文香から志乃は何も言われていないのでちゃんと人が見つかったのだろう。
そんな事も忘れた頃、球技大会の話が出てきた。
今年は男女混合でサッカーをするらしい。
男女混合なのはサッカー場が限られているのでチーム数が増やせないからだ。
そして不平等にならないように男女が必ず半々になるようチームを作らないといけない。
今年はクラス内にサッカー部が複数人いた事もありすぐに人が集まったので推薦は行われず、志乃は参加しなかった。
参加者が決まった日の帰り道。
陽葵「浜名瀬さんが参加しないって分かっていたら参加しなかったのに。」
志乃「お前、参加者集った時、真っ先に手をあげていたな。」
陽葵「そしたらその後にも手を挙げる人がいてすぐに決まったのは予想外だった。また推薦になって浜名瀬さんの名前が上がると思ったのに。」
志乃「応援はする。」
陽葵「私も浜名瀬さんと一緒に応援したかった。」
志乃「そうか。」
陽葵「さっさと負ければ浜名瀬さんと、、」
志乃「手を抜くようなら、、」
陽葵「分かってます。頑張ります。」
志乃「自分から立候補したんだから全力出せよ。」
陽葵「うん。浜名瀬さんもちゃんと応援してね。」
志乃「分かった。」
陽葵「ちゃんとチアガールの格好して応援してよね。」
志乃「チアガール?」
陽葵「ほらボンボンとか持って踊っている人達見た事ない?」
志乃「ああ、あれか。」
陽葵「そうそう。浜名瀬さんがしてくれたら頑張れるよ。」
志乃「やらないぞ。」
陽葵「えー。」
志乃「普通に応援する。」
陽葵「ちぇ、分かったよ。」
それからしばらくして昼休みにベンチでノートを広げて何かを書いている志乃の元に文香がやって来る。
志乃「どうしたんだ?」
文香「浜名瀬さん。2週間後の全国大会出てくれませんか?」
志乃「その前に事情を話せ。なんで今なんだ?」
文香「その、最初は1年生が入って人数は足りていたのですが出演者の1人が家庭の事情で大会に出れなくなってしまって、他の人がするにも今からじゃ演技できる人がいないんです。」
志乃「人は足りているんだろ?」
文香「はい。ですが優勝を目指している全国大会で満足いく演技ができる人がいないんです。練習時間もほとんどありません。今頼れる人は浜名瀬さんしかいないんです。お願いします。」
志乃は深々と頭を下げる文香を見て断る事ができない。
志乃「分かった。それで私はどの役をすればいいんだ?」
文香「旅人役です。回想のシーンで一番アクションが多いのでできればその役をお願いしたいです。」
志乃「今日も練習するのか?」
文香「はい。」
志乃「なら今日から練習に参加させてもらう。」
文香「ありがとうございます。」
そして放課後、いつも通り陽葵が一緒に帰ろうと志乃を誘いに来る。
陽葵「浜名瀬さん。」
志乃「今日からしばらく帰りが遅くなるから先に帰れ。」
陽葵「え、何で。」
志乃「演劇部の今度の大会で出れない人が出たから代役を引き受けた。練習があるから遅くなる。」
陽葵「えー。初めて聞いたよ。」
志乃「今日の昼に決まったからな。」
陽葵「そんな。しばらくは1人で帰らないといけないの?」
志乃「暖かくなったんだからハラミを連れてくればいいだろ。」
陽葵「それでも寂しいよ。」
志乃「子供じゃないんだから1人で帰れ。」
陽葵「浜名瀬さんから見たらまだ子供でしょ。」
志乃「いいから帰れ。」
陽葵「むー。」
それから志乃は演劇部の練習に参加すると特に問題なく演じ切った。
周りからも歓声が上がり、志乃が1年生の時の舞台を知っている人からは握手を求められて志乃は困惑している。
文香「浜名瀬さんは女優とか目指さないんですか?」
志乃「まだ何も決まってない。」
文香「もったいないですね。」
志乃「自分のしたい事が分からないんだ。」
文香「なら演劇の楽しさを全国大会までに伝えましょう。」
志乃「別にいい。」
文香「なら他に何と迷っているんですか?」
志乃「いいだろ私の事は、練習に戻るぞ。」
文香「私は小説家になる事が夢です。」
志乃「急に何だ?」
文香「参考になるかは分かりませんが他の人の夢を聞いたら何か変わるかなと思ったんですけど、、」
志乃「1人の夢を聞いたところで決められない。」
文香「まあ、浜名瀬さんは多才ですから迷う事も多いですよね。」
志乃「だけど私は自分の好きな事を見つけてそれに一直線に向かう人の方が羨ましい。」
文香「なら見つけましょう。浜名瀬さんの好きな事。」
志乃「好きな事、、」
文香「昔何やってました?その中で続けられた物や好きだと思ったものは無いんですか?」
志乃「今する話か?時間ないんだろ。」
文香「そうですね。全国大会までは練習に集中しましょう。」
それから練習を積み重ねて全国大会当日になった。
全国大会では2泊3日の泊りがけで行われる。
飛行機に乗って現地へ到着後、バスで宿泊先へ行き荷物を下ろしてから会場へ移動し舞台などの確認と大道具の搬入をする。
それらが終わると宿泊先に戻ってセリフ合わせや軽く通し稽古などをして本番に備えてその日は早々に休んだ。
そして本番の日。
準備をして楽屋で自分達の番を静かに待っていると他校の生徒が噂話をしている声が聞こえる。
何でもここの劇場では昔事故があり未来を奪われた女性の霊が嫉妬で才能のある人間を道連れにする事があるんだとか。
それを聞いた志乃は特に妖気も感じないのでただの噂だろうと流していた。
翠嶺高校の公演は無事に終わり、片付けなども終わった後に他校の公演を見てから宿泊先に移動する。
次の日は残りの公演が終わった後に表彰式が行われるため、公演前よりも緊張している人もいた。
最後の公演の後、表彰式で優秀賞や最優秀賞などが発表される。
そこで翠嶺高校は見事最優秀賞を勝ち取った。
そのご褒美で帰る前に寄り道する事が決まり、皆のテンションが上がっていたがその場所が博物館と聞いた途端落胆の声が上がった。
博物館では自由行動で集合時間になったら集合場所に集まるのだが集合時間が過ぎても来ない部員が1人いる。
その人は主役を演じていた人で真面目な性格なので来ていないことを他の人も心配していて、そこまで広い場所ではないが入り組んでいる場所があったので迷っているのではと全員で探しに行く事になった。
志乃は少し気になっていたので歴史のコーナーにある1着の着物に会いに行った。
志乃「人を探している。何か知らないか?」
???「あら、あなた私が見えているの?」
衣桁に掛かっている着物の袖から半透明の白い手が出ている。
志乃「お前、小袖の手にしては恨みが少ないな。何で死んだんだ?」
小袖の手「私はこの着物を着て舞台に立ちたかったのに殺されてしまったの。」
志乃「殺された?事故じゃないのか?」
小袖の手「ええ。それで私を殺した人はまだ生きている。その人がまた殺人を犯さないか心配で私は成仏できない。」
志乃「そいつが何でまた人を殺すと思っているんだ?」
小袖の手「その人は私とライバルだったの。だけど私が主役に抜擢された。それからその子は変わってしまった。私が変えてしまった。」
志乃「恨みというより後悔から成仏できてなかったのか。」
小袖の手「恨みもあるわよ。」
志乃「そうだよな、何で殺されたんだ?」
小袖の手「まあ、主役を取られた恨みと嫉妬よね。あの人はあの時から伸び悩んでいたうえに私を殺す時に怪我をしてもう2度と立てなくなった。それからは余計に才能のある人を見つけては嫉妬の目を向けていたわ。」
志乃「それでまた殺すかもか。」
小袖の手「ええ。さっきここにも来ていたからね。」
志乃「人を殺しておいて捕まっていないのか?」
小袖の手「私は事故として片付けられたからね。」
志乃「今演劇部の人がいなくなって探しているんだ。」
小袖の手「ああ、それであんな顔してたのね。」
志乃「どこ行ったか知らないか?」
???「あなた、ここで何してるの?」
志乃が後ろを振り向くと、車椅子に乗った博物館の女性職員がいた。
志乃「着物を見ていただけです。」
職員「その着物、呪われているのよ。」
志乃「なぜそう言えるんですか?」
職員「その着物を着た人は全員何かしらの事故や病気になっているの。」
志乃「そんな事どこにも書いていませんよ。」
職員「昔この着物を着て舞台に立つ予定だった女優がいたんだけど事故で亡くなってしまってね。その呪いだって言われているんだけど、そんな不謹慎な事書けないでしょ。」
志乃「何で私にそんな事話すんですか?」
職員「あなた、昨日の全国大会に出ていたでしょ。そういうのに興味があるのであればこんな事件があったという事も知ってほしくてね。」
志乃「はあ。」
職員「それで他にも話したいことがあるんだけど付いて来てくれない?」
志乃「ここでは駄目なんですか?」
職員「職員しか入れない場所に資料があるの。それを見せながら説明したから付いて来て。」
志乃「、、それなら。」
職員「ほら、行きましょう。」
志乃は職員の後を付いて公開エリアの奥に行く。
職員「ここの部屋よ。少し狭いから先に入って。」
そこは資料整理室だろうか壁際には金属製の本棚が並び、古い台帳や資料箱がぎっしりと詰め込まれて奥にはもう1つ扉がある。
志乃が先に入ると車椅子の女性職員も入って、入って来た扉を塞ぐように車椅子を止めて近くの棚を調べ始めた。
職員「ほら、この写真を見せたかったの、こっちに来て。」
本棚を見ていた志乃は職員に呼ばれて車椅子の女性職員へ近づく。
職員「そこだと見にくいでしょ。」
志乃「ならファイルを渡してくれませんか?」
職員「これ見ながら説明したいのあなたから来てくれない?ほら、もっと近づいてしゃがんで。」
志乃はその職員の言う通りにする。
職員「あなた、昨日の舞台は凄かったわよね。脇役なのに存在感があって。なのに主役と演じる時は邪魔をせず逆に引き立てていてとても才能を感じたわ。」
その声は先ほどまで話していた優しく語りかけるような感じではなく、憎しみや嫉妬といった感情が滲み出ていた。
その時、静かに近づいていた男性が志乃の背後から志乃に向かって角材を振り下ろそうとしたが志乃はそれを腕で受けて男性の腹部を狙って蹴りを入れる。
しゃがんでいたうえ相手が人間だという事もあり志乃が手加減した事もあるがその男性は志乃の蹴りを受けても角材で襲ってくる。
男性はガタイが良く、フードを深く被り顔の下半分を布で覆っていて顔は分からない。
職員「早くして!」
男性は何も喋らず志乃に向かって再度角材を振り下ろすが志乃には当たらない。
それに部屋が狭くて角材はあちこちに当たって資料をぶちまけ男性の視界を遮り、その隙に志乃は男性の横をすり抜けて奥の扉から資料整理室の外に出る。
そこは職員専用の廊下でいくつか扉はあるがそこまで長くない場所で逃げる事はできそうにない。
しかもあの車椅子の女性職員かフードの男性が何かしたのだろうか、人気もない。
職員「念のためどこも鍵を掛けてある。逃げ場はないわ。」
志乃「何でこんな事をする。」
職員「羨ましいのよ。才能があって、未来のある若者が。」
志乃「自業自得だろ。」
職員「自業自得?舞台上で練習をしていたら急に照明が落ちてきてこんな体になったのが自業自得だっていうの?」
志乃「それはお前が仕組んだことだろう?」
職員「私じゃないわ。私を殺そうとしたのは死んだあいつの方よ。」
志乃「!?」
元女優の小袖の手の恨みが少ないのは恨みの対象が今では夢破れて舞台には立てず小さな博物館の職員になっていたから、小袖の手は恨みによって強くなるが元女優の小袖の手は恨みが少ないために力もあまりなく、自分を着た者にしか干渉できないが生前に関係があり、毎日のように自分の近くに来るこの職員の性格を呪いで変えるくらいの力はあったようだ。
そしてそれは本当に少しずつだったので志乃にも気付くことはできなかった。
職員「そしてそれを手伝ったのがこの男。」
男性「おい!」
志乃「その声、館長か?」
この博物館には館長の声で音声説明してくれる場所があり、志乃はその声を聞いていた。
館長「ちっ。バレたら仕方ない。こいつは殺すからな。」
職員「ここでは駄目。気絶させてからバレない所で殺して。」
館長「分かっている。」
小袖の手は車椅子の女性職員だけではなく館長にも呪いを掛けていたようだ。
それが分かると志乃は封呪符を取り出し館長に貼ると、長年の呪いが一気に抜けたことにより館長はその場で気絶してしまった。
職員「は、何?何でこんな小娘が男性を気絶させられるの?」
志乃「お前は、自分で呪いを返せるんじゃないか?」
職員「呪い?何の話?」
志乃は少しずつ車椅子の女性職員に近付くと、車椅子の女性職員は下がろうとして壁にぶつかり引っかかって動けなくなってしまった。
職員「こっちに来ないで。」
志乃は車椅子の女性職員の前に立ち、優しく両手を掴む。
職員「何のつもり?」
その状態が数分ほど続いた後志乃は手を離し車椅子の女性職員の車椅子を蹴り飛ばして倒してしまう。
職員「きゃあ!」
車椅子の女性職員は咄嗟に受け身を取ろうと足に力を入れると立ち上がる事ができた。
志乃が人魚の効果で治したのだ。
職員「どういう事?私はあの事故で下半身が動かなくなったのよ。もう2度と立てないって先生にも言われた。」
志乃「不思議な事っていうのは突然起こるんだ。それに一々理由なんてつけていたら白髪が増えるぞ。」
職員「何も考えず受け入れろって事?」
志乃「そうだ。そしてもう一つ受け入れてもらいたい事がある。」
職員「いいわよ。もう、驚かないから。」
志乃は姿を消した2号を女性職員に取り憑かせてまた車椅子に座らせてあの小袖の手の場所へと連れて行く。
志乃「流石元女優だな。架空の人物を演じるのが上手い。」
小袖の手「あら、バレたの。このままそいつが人の道を外れてもっと落ちぶれた姿を見ようと思っていたのに。」
職員「あなた梨花なの?」
梨花「え?もしかして聞こえてる?」
職員「何故かは分からないけど、聞こえているし、変な手も見えているわ。」
梨花「そう、今なら言いたかった事も言えるってわけね。」
職員「私だって言いたいこといっぱいあるわよ。何であんな事したの!」
梨花「何で?悔しかったに決まっているでしょ。あなたが主役に選ばれて私は脇役、あなたを盛り上げるために演技するくらいなら壊そうと思ったの。」
職員「それで自分の上に照明を落としたの?」
梨花「あなたも道連れにするつもりだったのに生きているって分かったら成仏しきれなくて、気が付いたら今度着る予定だったこの着物に憑いていたわ。だけどそれに乗らないと動けず、こんな所の職員になっているあなたを見て溜飲が下がったわ。」
職員「惨めね。」
梨花「はあ?自分の姿を見てみなさいよ。もう舞台どころか地にすら立てない自分の姿を!」
女性職員は車椅子から降りて立ち上がる。
梨花「ッ!何で!?」
職員「正直、これが無くても舞台には戻るつもりだったわ。」
梨花「嘘よ!」
職員「この辺でバリアフリーの劇場が無くてこの博物館の中央に舞台を作ろうかと館長とは話ししてたの。」
梨花「こんな小さな所に見に来てくれる人なんていないでしょ。」
職員「それでも私の未来を潰したと反省して館長は色々と準備してくれた。」
梨花「そうよ。私があいつに頼んで照明を落としてもらった。何であいつはここで館長をしているの?本来なら殺人の罪で牢に入っているはずでしょ。」
職員「あの人は何もしていない。あれは本当に事故だった。」
梨花「は?確かに私の指定したタイミングとは違っていたけれど、なら何で照明が落ちてきたの?」
職員「劣化よ。照明を吊ってるワイヤーが劣化で切れたの。」
梨花「あいつが切ったんじゃないの?」
職員「あの人は何度もこの事を上層部に掛け合っていたけれど金銭面の問題で中々受け入れられなかった。あの人は、館長はもっと危険性を伝えられていればと後悔していたわ。」
梨花「なら何であいつは人を殺したなんて思っているの。」
職員「責任を感じていたのよ。身勝手なあなたとは違ってね。」
梨花「身勝手?」
職員「何で私だけじゃなく自分も死のうと思ったの?」
梨花「私はあの時伸び悩んでいた。あなたを殺しても主役の座なんて私にできるはずない。だけど悔しかった。そして思ったの、主役になれないなら、それを演じる事ができないのだったら、自分が主役のシナリオを自分で作ってやろうって。そして実行した。あの時私は主役だったでしょ。舞台で散った悲劇のヒロインになったでしょ。」
職員「あんなのは舞台じゃない!一時期上手くいかなかったからってなんでそれだけで何で人生棒に振れるの?私はあなたと舞台に立ちたかったのに。」
梨花「あなたの引き立て役としてでしょ。そんなのごめんよ。」
職員「だけどあなたが活躍するパートもあったでしょ。」
梨花「脇役が目立てるわけないじゃない。」
職員「昨日の舞台、あなたにも見せたかったわ。」
梨花「昨日?そう言えば演劇部が来ているのよね。もしかしてあの劇場で何か大会でもあったの?」
職員「そうよ。そしてその舞台でこの人は脇役の旅人を演じていた。」
梨花「脇役の旅人?そんなの演じて何が楽しいの?」
職員「それでも人々の注目を浴びていた。確かに出番は主役よりも少なかったけど心には残ったわ。」
梨花「そんなの嘘よ。」
職員「自分の役が嫌で努力もせず逃げ出したあなたには考えられない事よね。だけど、あなたのせいで嫉妬に狂った私がこの人にも手を出そうとしたの。それくらい私には魅力的に見えた。」
梨花「嘘!嘘、嘘、嘘。主役じゃなきゃ輝けない。主役じゃなきゃ見てもらえない。」
職員「そんな事ない。脇役がいなければ舞台は成立しない。それは皆その役も見ているって事でしょ。」
梨花「私は引き立て役なんて嫌。」
職員「あなた、主役主役言っているけど今の自分の姿を見た事あるの?」
梨花「え?」
職員「あなた、私を小さな博物館の職員と馬鹿にしていたけれど、今のあなたはその博物館の隅の展示物よ。」
梨花「違う。私は舞台で主役になったの。」
職員「あなたはそれだけで満足なの?」
梨花「主役になって死んだの満足よ。」
職員「分からないわ。私はこれからも舞台に立ち続ける。どれだけ主役を演じようと私は満足しない。この体が動く限りどんな役だって演じてみせるわ。」
梨花「そんなのもう体の無い私にはできない。」
職員「そうね。でもそれがあなたが選んだ道なんだから仕方ないでしょ。」
梨花「ずるい。ずるい、ずるい、ずるい。私ももっと舞台に立ちたい。演技をしたい。人に見てもらいたい。」
職員「だけどあなたはもう、衣桁に掛けられるだけの着物よ。」
梨花「羨ましい。あなたには希望がある。未来がある。」
職員「どちらもあなたが自ら捨てたものね。」
梨花「私にはもう無い。欲しい。羨ましい。」
小袖の手の恨みが強まると力も強まっていく。
志乃「そろそろか。」
職員「最後にあなたと話せて良かったわ。」
志乃が着物に呪滅符を貼り付けると、小袖の手は苦しみながら着物から伸びた手を女性職員の方に伸ばす。
梨花「私はあなたと逝きたい。」
職員「私はあなたと生きたかった。」
女性職員は自分の目の前まで伸びた手をただ見つめるだけだった。
梨花「、、バイバイ。もうあなたとは会いたくないわ。」
それだけ言い残して小袖の手は白い煙となって消えていった。
志乃「、、泣いているのか?」
職員「あまり人に見せたい顔じゃないからこっち見ないで。」
志乃「お前の人生を狂わせた奴だぞ。」
職員「それでも、一緒に練習して同じ夢を目指した人だもの。そんな人が、、もう昔に死んでたけど、、やっぱり別れは辛いわ。」
志乃「そうか。それで、私がここに来た理由が部員の1人がいなくなったからなんだが、、」
職員「ごめんなさい。さっきの職員用の廊下を右に曲がった1番奥の部屋にいるわ。」
そう言って女性職員は志乃に鍵の束から1つの鍵を渡す。
志乃が言われた部屋に行くとそこは蛍光灯が1つしか点いていない薄暗い倉庫で、中には椅子に主役を演じた部員が縛られていたので志乃は拘束を解くといきなりこんな所で拘束されてパニックになっていた部員を宥めてから集合場所へ一緒に向かう。
そこでは先生達が志乃も行方不明だと騒いでいたが志乃と主役を演じた部員を見つけると駆け寄って来た。
2人でこれまでにあった事を話しているとパトカーの音が聞こえ、それを聞いた女性職員と館長が博物館から出て来て連れて行かれる。
女性職員が自ら通報したようで、志乃と主役を演じた部員を初め先生や他の部員も話を聞かれていた。
乗る予定だった飛行機は逃したが航空会社との交渉で、席はバラバラだが少し遅い便に乗れる事になり帰る事ができたが、次の日にはその時の出来事が学校中の噂になっていて志乃は久しぶりに姿を消して休み時間を過ごす事になった。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。




