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64話

この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。

オリジナルの妖怪が登場することもあります。

素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。

卒業式が終わった放課後、帰ろうとしていた志乃(しの)陽葵(ひまり)の所に野々香(ののか)がやって来た。

野々香(ののか)「別れるの嫌だ。留年したい。」

志乃(しの)「もう卒業式も終わったんだから諦めろ。」

野々香(ののか)「やーだー。」

陽葵(ひまり)「永遠の別れじゃないんだから。」

志乃(しの)「それに学校でもあれからほとんどあってないだろ。」

野々香(ののか)「それでも近くにいるのといないのじゃ全然違う。」

志乃(しの)「昔だって離れてはいただろ。」

野々香(ののか)「それでも時々烏から聞いてたもん。今は烏も駄目って約束しちゃったし。」

志乃(しの)「確かにその約束よく守っているな。」

野々香(ののか)「そうでしょ。ならそろそろ、、」

志乃(しの)「駄目だ。」

野々香(ののか)「えー。」

志乃(しの)「約束は約束だからな。」

野々香(ののか)「ならこうするもん。」

そう言って野々香(ののか)志乃(しの)に抱きついて顔を埋める。

陽葵(ひまり)「ずるい。浜名瀬(はまなせ)さんもいつものように避けてよ。」

志乃(しの)「しばらく離れるんだ。少しくらいならいいだろ。」

野々香(ののか)「えへへ。」

志乃(しの)「だけどこれは付けていかないからな。」

志乃(しの)野々香(ののか)に付けられた烏の羽を外す。

野々香(ののか)「ちぇ。」

志乃(しの)「そろそろいいだろ。」

野々香(ののか)「もうちょっと。」

志乃(しの)は中々離れない野々香(ののか)を剥がして帰ろうとする。

野々香(ののか)「あー。まだ話そうよ。」

志乃(しの)「小細工しようとする奴と話す事は無い。」

野々香(ののか)「もうしないから。」

志乃(しの)「それでも話す事ないだろ。」

野々香(ののか)志乃(しの)も私と同じ大学行こうよ。」

志乃(しの)「行く所は自分で考える。」

野々香(ののか)「えー。ここ演劇に力入れているんだよ。志乃(しの)も一緒に女優になろうよ。」

志乃(しの)「それは嫌だ。」

野々香(ののか)「そしたら年齢をごまかしたり死亡届とかもこっちで管理できるよ。」

志乃(しの)「まだ決められない。」

野々香(ののか)「でもここも候補に入れておいてよね。」

志乃(しの)「分かった、分かった。」

野々香(ののか)「来年どこ行くか聞きに来るから。」

志乃(しの)「来るな。」

最後だからと付き纏う野々香(ののか)を振り払いアパートへ帰ってしばらく本をまとめたりしてから息抜きに外を見てみると悠真(ゆうま)が外で探し物をしていた。

志乃(しの)「どうしたんだ?」

悠真(ゆうま)「あ、それがその、、何でもないです。」

志乃(しの)を見て左手を隠す悠真(ゆうま)

志乃(しの)「何でもないのか。」

そう言って志乃(しの)は部屋へ戻ろうとする。

悠真(ゆうま)「ごめんなさい。待ってください。ブレスレットを落としたんです。」

志乃(しの)「私があげたあれか?」

悠真(ゆうま)「そう、それ。今日家に帰ったらいつの間にか無くて外に落ちてないか探していたんだ。」

志乃(しの)「どこに行って来たんだ?」

悠真(ゆうま)陽介(ようすけ)と映画に行ったんだけどその時に着けて行ったのは覚えている。」

志乃(しの)「ならその映画館にあるんじゃないのか?」

悠真(ゆうま)「今日はもう遅いから明日行くよ。今日は近くに落ちていないかを確認していたんだ。」

志乃(しの)「この辺には無い。明日映画館や陽介(ようすけ)に聞いた方がいいだろう。」

悠真(ゆうま)「分かるのか?」

志乃(しの)「あれには私の霊力が込められているから近くにあれば分かる。」

悠真(ゆうま)「なら明日一緒に映画館に行ってくれないか?」

志乃(しの)「大事にしてくれているみたいだからな、仕方ない。朽護(くちもり)(たま)を見つけるだけだぞ。」

悠真(ゆうま)「お願いします。」

次の日朽護(くちもり)(たま)を探すために朝から電車に乗って映画館に向かう。

悠真(ゆうま)「駅員さんに聞いてもそんな落とし物無いって言われたよ。浜名瀬(はまなせ)さんはここでも何も感じない?」

志乃(しの)「そうだな。少なくともこの電車内には無い。」

悠真(ゆうま)「それで浜名瀬(はまなせ)さんは何で大人の姿なの?」

志乃(しの)「これが一番楽なんだ。何か不都合な事があったか?」

悠真(ゆうま)「いや、高校生の姿なら兄妹って事にできたなと思って。」

志乃(しの)「今でも同級生みたいには見えるぞ?」

悠真(ゆうま)「それだとデートみたいじゃないか。」

志乃(しの)「駄目なのか?」

悠真(ゆうま)「今から行く所、同じ大学の人もよく来るんだ。見られたらなんて言われるか。」

志乃(しの)「知り合いでは駄目なのか?」

悠真(ゆうま)「絶対嘘だと思われてからかわれる。」

志乃(しの)「なら人気のない場所で高校生になるか。」

悠真(ゆうま)「だけど僕一人っ子だからそれはそれでややこしい事になりそう。」

志乃(しの)「どうすればいいんだ?」

悠真(ゆうま)「、、このままで大丈夫です。」

志乃(しの)「本当だな?」

悠真(ゆうま)「はい。」

志乃(しの)「そう言えば陽介(ようすけ)には連絡取ったのか?」

悠真(ゆうま)「だけどあいつ今日から家族で旅行行くって言っていたせいか昨日から連絡付かないんだ。」

志乃(しの)「どこに行ったんだ?」

悠真(ゆうま)「海の見える温泉地って言っていたけど詳しくは聞いてない。」

志乃(しの)「海か。」

悠真(ゆうま)「海気になる?ここは山に囲まれて海は見えないからね。」

志乃(しの)「いや、別に。」

そんな事を話していると目的地に着いたので電車を降りて映画館までは少し歩くらしく昨日歩いた道を辿って映画館へ行く途中、2人組の男性に声を掛けられる。

男性1「あれ?悠真(ゆうま)じゃん。どこ行くの?」

悠真(ゆうま)「うげ。」

男性1「そんな声出すなって。隣の人は誰だよ。彼女?」

悠真(ゆうま)「隣に住んでる人だよ。」

男性2「なんでそんな人と2人で歩いているんだよ。」

志乃(しの)「探し物をしている。木製の腕輪なんだが見てないか?」

男性1「もしかしてこないだ大事そうに着けていたやつか?」

悠真(ゆうま)「それ。昨日映画見に行った時に落としたみたいなんだ。」

男性1「俺は見てないな。お前は?」

男性2「見てない。それにしてもお姉さん一緒に探してあげているんだ。優しいね。」

志乃(しの)「少し事情があってな。」

男性2「それってどんな事情?」

悠真(ゆうま)「いいだろ。こっちは忙しいんだ。」

男性1「でもさ、隣の人に一緒に探してって頼むってなかなかの信頼じゃない?俺だったら言えないわ。」

悠真(ゆうま)「前にお世話になった事があっただけだ。」

男性2「それにしては映画館で落としたなんて都合がいいよな。今から行くんだろ、2人で。」

悠真(ゆうま)「本当にそんなんじゃないから。」

男性1「怪しいな。」

悠真(ゆうま)「ああもう。浜名瀬(はまなせ)さん、行きましょう。」

男性2「良ければ俺らも探そうか?」

悠真(ゆうま)「いいよ。こっちで何とかする。」

男性1「俺らはお邪魔だもんな。」

悠真(ゆうま)「そんなんじゃないって。」

男性1「いいって。見つかったら報告よろしくな。あと進展も。」

悠真(ゆうま)「本当に違うからな。」

男性1「はいはい。」

男性2人はニヤニヤしながらその場を去って行った。

悠真(ゆうま)「はあ、休み明けの学校が怖いよ。」

志乃(しの)「まあ、この辺にも無さそうだからさっさと映画館の方に行こう。」

悠真(ゆうま)「そうだね。今はブレスレットの事を考えよう。」

志乃(しの)悠真(ゆうま)が映画館に着くと悠真(ゆうま)はスタッフに落とし物が無いか聞きに行く。

悠真(ゆうま)「すみません。木製のブレスレットの落とし物って届いていませんか?」

スタッフ「昨日の落とし物は届いていませんね。もしスクリーンの場所が分かれば、上映後に清掃スタッフが確認できますがどうしますか?」

悠真(ゆうま)「ちょっと待ってください。確かネットで予約したのでメールが残っているはずです。」

悠真(ゆうま)はスマホを出して少し操作するとスタッフにスマホの画面を見せる。

悠真(ゆうま)「これです。スクリーンの4番、J列の右端です。」

スタッフ「分かりました。もし見つけたら連絡しますので連絡先を教えていただいても良いですか?」

悠真(ゆうま)「はい。電話番号が080、、」

悠真(ゆうま)は手続きを済ませて待っていた志乃(しの)と合流する。

悠真(ゆうま)「見つかって無いって。浜名瀬(はまなせ)さんはどう?」

志乃(しの)「そうだな。ここからだと少し遠いから私にも分からない。」

悠真(ゆうま)「そうか。」

志乃(しの)「他の所に落ちているかもしれない。今は別の所を探してみよう。」

悠真(ゆうま)「そうだね。この後カラオケにも行ったんだ。あ。ちょっと待って。」

志乃(しの)「どうした?」

悠真(ゆうま)「映画を見る前にトイレに行ったんだ。濡らしたくなくて一度外してポケットに入れてる。」

志乃(しの)「その時に落としたのかもしれないな。」

悠真(ゆうま)「一度トイレも探してみる。この辺で待っていて。」

志乃(しの)「分かった。」

それから悠真(ゆうま)がトイレを探して戻って来たが志乃(しの)の姿が見えない。

悠真(ゆうま)「この辺で待っていてって言ったのにどこ行ったんだ?」

悠真(ゆうま)志乃(しの)を探していると、来る時に話しかけてきた2人組の男性の1人が慌てた様子で悠真(ゆうま)に話しかける。

男性1「おい、お前の彼女さん大変な事になっているぞ。」

悠真(ゆうま)「え。何があったんだ?」

男性1「とにかくこっちだ。」

悠真(ゆうま)が男性に連れられて来た場所で顔色の悪い志乃(しの)が壁に寄りかかり息が荒く、苦しそうにしていてそれをもう1人の男性が心配そうに声を掛けていた。

悠真(ゆうま)「どうした?大丈夫なのか?」

志乃(しの)「平気だ。」

悠真(ゆうま)「せめてベンチに座ろう。」

男性2「顔色悪いけど大丈夫なのか?救急車呼ぼうか?」

志乃(しの)「いい。」

志乃(しの)はゆっくりとベンチへ移動して座って休んでいると次第に顔色も呼吸も戻ってくる。

志乃(しの)「もう大丈夫だ。心配かけたな。」

男性1「貧血ってやつか?悠真(ゆうま)もあまり連れまわすんじゃないぞ。」

悠真(ゆうま)「そうだな。今日はもう帰るよ。」

男性2「俺らも送ろうか?」

志乃(しの)「いい。」

志乃(しの)は立ち上がり出口へと歩きだす。

男性1「せめて出口まででも、、」

志乃(しの)「大丈夫だ。」

男性2人は断られたので志乃(しの)を心配しながらも志乃(しの)悠真(ゆうま)の2人をそのまま見送った。

志乃(しの)は早歩きで歩き、それを悠真(ゆうま)が追いかける。

志乃(しの)「少しヤバい事になったかもしれない。」

悠真(ゆうま)「どうしたんだよ。そんなに体調が悪いのか?」

志乃(しの)「腕輪に仕掛けていた術が発動した。」

悠真(ゆうま)「え?どういう事だ?」

志乃(しの)「あの腕輪は一度身代わりになると言っただろ。」

悠真(ゆうま)「それは聞いた。」

志乃(しの)「だが材料が足りずに全てを防げるわけじゃないんだ。だから防げなかったらその分が私に来るように術をかけていた。」

悠真(ゆうま)「もしかしてさっきのはその代償なのか?」

志乃(しの)「そうだ。あの腕輪が防げないほどの攻撃を腕輪を着けた人間が受けた。」

悠真(ゆうま)「なら腕輪は落としたんじゃなくて盗まれていたのか?」

志乃(しの)「分からない。落とした人間がたまたま拾った可能性もある。だけどあれは着けていないと発動しない。」

悠真(ゆうま)「そんなの盗んだのと同じじゃないか。それで今はどこに向かっているんだ?駅はあっちだぞ。」

志乃(しの)「お前は1人で帰ってくれ。厄介な妖怪が出てきたかもしれない。」

悠真(ゆうま)「お前はどうするんだ?」

志乃(しの)「あいつは放ってはおけない。」

志乃(しの)は人気のない空き地の隅まで来ると1号を出して妖ノ郷(あやかしのさと)の入り口を開けてもらい、その中へ入ると霊感の無い悠真(ゆうま)は急に志乃(しの)が消えたように見えてびっくりしている。

志乃(しの)妖ノ郷(あやかしのさと)へ入ると樹霧之介(きりのすけ)の家へ向かうが樹霧之介(きりのすけ)はおらず、裏に周り黒根(くろね)に話しかける。

志乃(しの)黒丸(くろまる)。」

黒根(くろね)志乃(しの)か。今樹霧之介(きりのすけ)達は風見(かざみ)が感じた妖気の正体を探りに出ておる。」

志乃(しの)「そいつもしかしたら牛鬼(ぎゅうき)かもしれない。」

黒根(くろね)「それが本当なら樹霧之介(きりのすけ)達が危険じゃ。じゃが何でそんな事が分かるんじゃ。」

志乃(しの)「さっき、隣人にあげた腕輪に仕掛けていた術が発動したんだ。」

黒根(くろね)「ならその隣人がそこにいるのか?」

志乃(しの)「いや、そいつはその腕輪を無くしていたから別の人間だ。」

黒根(くろね)「そうか。」

志乃(しの)「それで樹霧之介(きりのすけ)達はどこに行ったんだ?」

黒根(くろね)「こっちじゃ。」

黒根(くろね)は1つの出口に志乃(しの)を案内する。

黒根(くろね)「ここから出た所にある海辺の村に行っておる。」

志乃(しの)「分かった。」

黒根(くろね)樹霧之介(きりのすけ)達を頼む。じゃがお主も無理するなよ。」

志乃(しの)「ああ。」

志乃(しの)妖ノ郷(あやかしのさと)から海辺に出ると(ほむら)達が髪の長い女性の頭と人の手が生えた大蛇の妖怪と戦っていて、樹霧之介(きりのすけ)真琴(まこと)がその後ろで座り込んでいるのが見える。

志乃(しの)「大丈夫か?」

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さん。」

志乃(しの)樹霧之介(きりのすけ)に近づくと樹霧之介(きりのすけ)の腕には大きな石が抱えられており、それは樹霧之介(きりのすけ)の腕と真琴(まこと)の手に貼り付いているみたいだった。

志乃(しの)がその石に封呪符(ふうじゅふ)を貼り付けると樹霧之介(きりのすけ)真琴(まこと)から離れて落ちる。

樹霧之介(きりのすけ)「助かりました。」

真琴(まこと)「ありがとう。」

志乃(しの)「何があった?」

樹霧之介(きりのすけ)風見(かざみ)が感じた妖気を辿ってこの出入り口から出たら女性がいて近づこうとしたら風見(かざみ)に妖怪だと指摘されたんです。それで警戒して距離を取ろうとしたら徐々に大きくなって赤ん坊を落としたので咄嗟に抱えたら石になって離そうとしても離れなくて、取ろうとしてくれた真琴(まこと)の手にもくっ付いてどんどん重くなってきた時に志乃(しの)さんが来てくれたんです。」

志乃(しの)「あいつは濡女(ぬれおんな)だ。石に変わる赤ん坊で人を動けなくして牛鬼(ぎゅうき)に食べさせるんだ。近くに牛鬼(ぎゅうき)はいなかったか?」

樹霧之介(きりのすけ)「いえ、他の妖怪は見ていません。」

その時、山の方から地を響かすような咆哮が聞こえた。

樹霧之介(きりのすけ)「今のは?」

志乃(しの)牛鬼(ぎゅうき)だろう。海の中で見えていないが濡女(ぬれおんな)の体は300メートル以上ある気を付けてくれ。」

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さんはどうするんですか?」

志乃(しの)「気になる事があるから牛鬼(ぎゅうき)の方に行く。」

樹霧之介(きりのすけ)「僕も行きます。」

志乃(しの)「あいつは毒を吐く。私には効かないから私が行く。」

樹霧之介(きりのすけ)「僕も多少の毒なら浄化できます。」

志乃(しの)真琴(まこと)禍避(まがよけ)織物(おりもの)まだ持っているか?」

真琴(まこと)「もちろん。」

志乃(しの)「あれは妖怪の毒も防いでくれる。せめてそれを着けて来てくれ。」

樹霧之介(きりのすけ)「分かりました。」

それだけ言って志乃(しの)が山へ向かおうとすると濡女(ぬれおんな)がそれに気づき蛇の体で志乃(しの)の前を塞ぐが志乃(しの)は結界を足場にそれを乗り越え、その間にも(ほむら)達が攻撃していたので志乃(しの)1人に構う事ができずに志乃(しの)は山へと向かう事ができた。

志乃(しの)が山の中に入ると祠とその後ろに立ち入り禁止の看板が付いた柵があったが、それを越えて奥へ行くとすぐに牛鬼(ぎゅうき)の姿を見つけ、木の陰から様子を窺うと牛鬼(ぎゅうき)は何かを探しているのかきょろきょろと辺りを見渡している。

牛鬼(ぎゅうき)は牛のような頭と蜘蛛の足を持った巨大な体をしており、何かに苛立っているようで度々咆哮をあげながら歩いている。

志乃(しの)はそれに気付かれないように辺りを探すと木の陰に1人の人間を見つけ、近づくと陽介(ようすけ)が震えながら縮こまっていた。

志乃(しの)「お前だったのか。」

陽介(ようすけ)「ああ、浜名瀬(はまなせ)さん。助けに来てくれたんですね。」

志乃(しの)「次は助けないと言ったはずだ。ここからは自力で逃げてくれ。」

陽介(ようすけ)「あいつの叫び声を聞くたびに足がすくんで動けなくなるんだ。走れないよ。」

志乃(しの)「それでも走れ。でないと牛鬼(ぎゅうき)に食い殺されるぞ。」

陽介(ようすけ)「やっぱりあの化け物は牛鬼(ぎゅうき)なのか?」

志乃(しの)「お前、ここに入ったのはやっぱり偶然じゃないな。」

陽介(ようすけ)「だってこのブレスレットは一度ならどんな攻撃も無効化してくれるんだろ。」

陽介(ようすけ)は右腕に着けた木製のブレスレットを志乃(しの)に見せてくるが木製の勾玉や丸玉は割れ、いくつか無くなっている。

志乃(しの)「一度だけな。こんな凶暴な奴を呼び起こしておいて一度だけの攻撃で終わると思っていたのか?」

陽介(ようすけ)「ブレスレットが割れたら戻ろうと思っていたんだ。それなのにあいつが急に現れて、それから記憶が無いんだ。気が付いてからあいつが隙を見せた時に逃げれたのはいいがあいつの叫び声を聞いてから足がすくんで動けないし、カメラは無くなるしで散々だ。」

志乃(しの)「人の物を盗って立ち入り禁止の場所に入ったんだ。自業自得だろ。」

陽介(ようすけ)「おい、後ろ。」

牛鬼(ぎゅうき)は2人を見つけ志乃(しの)の後ろに来ていて前足を振り上げていた。

志乃(しの)「身を低くしろ!」

志乃(しの)陽介(ようすけ)の頭を片手で押さえて伏せさせるとその上を牛鬼(ぎゅうき)の前足が掠り、隠れていた木と周りの木はへし折れて隠れられる場所が近くに無くなってしまった。

陽介(ようすけ)「ひえっ。」

牛鬼(ぎゅうき)は続けて陽介(ようすけ)に対して前足を振り下ろすが志乃(しの)はそれを短刀で受け止める。

だが牛鬼(ぎゅうき)の巨体と力で押されて志乃(しの)の怪力でも長くはもたないだろう。

志乃(しの)陽介(ようすけ)の方を見るが完全に腰が抜けて立つことも難しそうなので牛鬼(ぎゅうき)の届かない場所へと蹴り飛ばす。

志乃(しの)「走れ!」

志乃(しの)がそう叫ぶも陽介(ようすけ)は呆然として動こうとはしなかったが陽介(ようすけ)を蹴り飛ばした時に志乃(しの)はバランスを崩していてそのせいで牛鬼(ぎゅうき)の攻撃を止められずに牛鬼(ぎゅうき)の前足が志乃(しの)の腹部を貫いた。

それを見た陽介(ようすけ)は我に返り恐怖心からその場を走って離れるが背後からはくちゃくちゃと肉を食む音やバリボリと骨の砕ける音が聞こえていた。

耳を塞ぎ、前も見ずに草木にぶつかりながらも走って行くと立ち入り禁止の柵がありそこにぶつかって止まる。

近くに来ていた樹霧之介(きりのすけ)真琴(まこと)がその音を聞いて駆けつけるとそこには涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をした陽介(ようすけ)を見つける。

樹霧之介(きりのすけ)「大丈夫ですか?」

陽介(ようすけ)「こ、子供?誰?」

樹霧之介(きりのすけ)「僕は樹霧之介(きりのすけ)といいます。あなた、女性には会いませんでしたか?」

陽介(ようすけ)「女性、それは浜名瀬(はまなせ)とかいう奴か?」

樹霧之介(きりのすけ)「そうです。志乃(しの)さんはどうしましたか?」

陽介(ようすけ)志乃(しの)、、あの人の名前、志乃(しの)っていうんだ。」

樹霧之介(きりのすけ)「それでその人は今どこにいるんですか?」

陽介(ようすけ)「あの人は死んだよ。」

樹霧之介(きりのすけ)「え!?」

陽介(ようすけ)「俺を庇って牛鬼(ぎゅうき)の前足で串刺しにされたんだ。こちらを見る生気の無い目、力なく垂れさがる手足、もう忘れられない。」

樹霧之介(きりのすけ)「そんな。」

陽介(ようすけ)牛鬼(ぎゅうき)が食べる音も聞いたんだ。もう食べられて骨も残っていないかも、、」

真琴(まこと)「流石の浜名瀬(はまなせ)さんでも体が無くなればどうなるか分からないわよ。」

樹霧之介(きりのすけ)「僕、行きます。食べられる前に取り返しましょう。」

陽介(ようすけ)「止めとけ。腹を一突きにされていたんだ。もう、生きてはいないよ。」

樹霧之介(きりのすけ)「だけど志乃(しの)さんは、、」

話の途中で牛鬼(ぎゅうき)の咆哮が響き渡る。

陽介(ようすけ)「ひぃぃ。」

樹霧之介(きりのすけ)「話は後です。先に牛鬼(ぎゅうき)の方へ行きましょう。」

陽介(ようすけ)「子供に何ができるんだ?」

樹霧之介(きりのすけ)陽介(ようすけ)を無視して山を登ろうとすると空から羽虫のような羽が生えた牛鬼(ぎゅうき)が落ちて来て柵や祠を踏み潰した。

陽介(ようすけ)「何でこいつ空飛べるんだよ。もう終わりだ。俺も食われるんだ。」

怯える陽介(ようすけ)の目の前で牛鬼(ぎゅうき)が吠えると何かが切れたように陽介(ようすけ)は気絶する。

その陽介(ようすけ)に向かって前足を振り下ろそうとする牛鬼(ぎゅうき)樹霧之介(きりのすけ)は周りに生えてる木を操り木の枝で牛鬼(ぎゅうき)の前足を絡め取り一時的に動きを止めるが牛鬼(ぎゅうき)の力は強く、木の枝を引きちぎると邪魔をした樹霧之介(きりのすけ)に狙いを変えた。

真琴(まこと)は紙の槍を用意してそれに硬いの文字を付与し、牛鬼(ぎゅうき)に攻撃するとそれは牛鬼(ぎゅうき)の胴体に刺さり牛鬼(ぎゅうき)が悲鳴に似た声を上げたがすぐに真琴(まこと)の槍は抜けて牛鬼(ぎゅうき)の怪我は治る。

真琴(まこと)「何こいつ。怪我治るの?」

樹霧之介(きりのすけ)「とにかくこの男性からこいつを離しましょう。」

樹霧之介(きりのすけ)陽介(ようすけ)から距離を離す為に山を登る。

そして途中まで上手く誘導できていたが捕まらないと分かると急に方向を変えてまた陽介(ようすけ)の方へ行こうとする。

牛鬼(ぎゅうき)のスピードは速く、このままでは陽介(ようすけ)が食べられてしまうのではないかと樹霧之介(きりのすけ)が思った時、上からまた何かが降って来て牛鬼(ぎゅうき)の頭にぶつかる。

それは志乃(しの)が結界で上から移動して牛鬼(ぎゅうき)の頭に蹴りをいれたのだ。

牛鬼(ぎゅうき)は動かなくなり志乃(しの)牛鬼(ぎゅうき)の上から樹霧之介(きりのすけ)の前に飛び降りる。

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さん。無事だったんですね。」

志乃(しの)「そう簡単にやられるわけないだろ。」

真琴(まこと)「さっき男の人と会ってその人が浜名瀬(はまなせ)さんが死んだとか言っていたのよ。」

志乃(しの)「先に陽介(ようすけ)の方に会っていたのか。」

樹霧之介(きりのすけ)「それに志乃(しの)さんが戦っているはずの牛鬼(ぎゅうき)もこっちに来ましたし本当に何かあったのかと思ったんです。」

志乃(しの)牛鬼(ぎゅうき)は一度狙った獲物をしつこく追いかける。いきなり羽が生えて飛んだことで逃してしまったんだ。」

真琴(まこと)「それでさっきからあの男性を狙っているのね。」

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さん。お腹貫かれたって聞きましたが大丈夫なんですか?」

樹霧之介(きりのすけ)はそう言いながら志乃(しの)の腹部を観察している。

志乃(しの)「あいつ、前に犬神(いぬがみ)に取り憑かれているのに今回も自ら牛鬼(ぎゅうき)を起こしたから自分のした事を分からせる為に2号で幻を見せたんだ。」

樹霧之介(きりのすけ)「なら怪我とか何もしていないんですよね?」

志乃(しの)「ああ。服に血も付いてないだろ?」

真琴(まこと)「ならあの男性が聞いた食べる音は何だったの?」

志乃(しの)「さあ、幻聴でも聞いたんじゃないのか?」

志乃(しの)は嘘をつくときの仕草をしてしまう。

樹霧之介(きりのすけ)「何隠しているんですか?」

志乃(しの)はあの時腹部は刺されなかったが牛鬼(ぎゅうき)の前足は志乃(しの)の片腕を直撃していたのだ。

牛鬼(ぎゅうき)は少しでも回復しようとその志乃(しの)の腕を食べていて、その音を陽介(ようすけ)は聞いていた。

牛鬼(ぎゅうき)を逃したのは片腕だったから、牛鬼(ぎゅうき)に追いつくのが遅かったのは樹霧之介(きりのすけ)真琴(まこと)がそこにいるのを妖気で分かっていたので腕の回復を待ち、8号で血の付いた服を変化(へんげ)させていたからである。

志乃(しの)「それよりも牛鬼(ぎゅうき)だ。少し厄介なんだ手伝ってくれ。」

樹霧之介(きりのすけ)「分かりました。でも、心配したんですからね。」

志乃(しの)「悪かった。」

その時牛鬼(ぎゅうき)が起きて動き出してしまった。

志乃(しの)「相変わらず丈夫だな。」

真琴(まこと)浜名瀬(はまなせ)さんでも倒せないの?」

志乃(しの)「急所が少し厄介な場所にあるんだ。」

樹霧之介(きりのすけ)「何処にあるんですか?」

志乃(しの)牛鬼(ぎゅうき)の喉の所に膨らみがあるだろ。」

樹霧之介(きりのすけ)「はい。あそこですか?」

志乃(しの)「あれは毒袋だ。万が一破れば村にまで毒が広がるだろう。そしてその袋の奥に急所である霊核珠(れいかくじゅ)がある。」

真琴(まこと)「それってどんなの?」

志乃(しの)「あのたるんだ皮と皮の隙間に人の握り拳ほどの大きさで赤く脈打っている部分がある。毒袋にも近いから狙いをつけ難い。」

真琴(まこと)「この巨体のそんな小さなものを的確に攻撃するしかないの?」

志乃(しの)霊核珠(れいかくじゅ)はこいつの生命力の源だ。それがある限り多少の傷はすぐに治るが壊れてしまえば自分の毒で自ら死ぬ。他にも治せないほどの攻撃を与えられれば倒せはする。」

真琴(まこと)「治せないほどの攻撃って?」

志乃(しの)「前は黒丸(くろまる)に抑えてもらって私が胴を2つに斬ったんだが今の私にはそんな力は無い。」

樹霧之介(きりのすけ)「あの巨体を斬ったんですか?」

志乃(しの)「だけどあの時は人を食べてもう少し大きくなっていたな。」

志乃(しの)達は牛鬼(ぎゅうき)の攻撃を避けながら話をしていたが牛鬼(ぎゅうき)志乃(しの)に向かって何かの構えを取る。

志乃(しの)「毒がくる。少し離れろ。」

牛鬼(ぎゅうき)が毒を吐くと予め離れた場所で待機していた3号が炎を飛ばして毒に火を付ける。

真琴(まこと)「火で無毒化できるのね。」

志乃(しの)「ああ。(ほむら)がいてくれればよかったんだが、あっちも手こずっているようだな。」

樹霧之介(きりのすけ)「そうですね。濡女(ぬれおんな)は倒し方とかあるんですか?」

志乃(しの)「あいつに弱点とかは無いが体が大きいだけで戦闘能力はそこまで無い。あの石にさえ気を付ければ(ほむら)達は大丈夫だろ。」

毒が効かないことが分かると牛鬼(ぎゅうき)は突進攻撃に切り替えて志乃(しの)達に突っ込んでくるが直線的な攻撃が当たる事は無い。

牛鬼(ぎゅうき)が振り向いてもう一度突っ込んでくる時、避けようとした樹霧之介(きりのすけ)に対して咆哮を上げると樹霧之介(きりのすけ)の足から力が抜ける。

このままでは樹霧之介(きりのすけ)牛鬼(ぎゅうき)に轢かれてしまうだろう。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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