60話
この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。
オリジナルの妖怪が登場することもあります。
素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。
志乃と陽葵は大学で映画を撮っているという悠真の部屋で悠真の友人についての話をすることになった。
引っ越して来たばかりなのもあって段ボールが部屋の中に散乱しているがちゃぶ台は出してあったので悠真は段ボールから座布団を探してちゃぶ台の周りに敷いてそこに志乃と陽葵は座る。
悠真「さっき友人が倒れたっていう連絡と一緒にこんな映像も届いたんだ。」
悠真は志乃と陽葵にスマホの画面を見せると映像を再生する。
映像はどこかの部屋の中で、何か物音がしたからカメラを回したらしく何かが走るような音と何かが落ちる音が台所からしているらしくカメラを持ったままゆっくりと近付いて行く。
そして台所にカメラを向けると髪を稚児髷にして、着物を着た犬顔の子供が落としたお皿の匂いを嗅いでいてその様子はまるで犬の様でその子供は撮影者を見つけると驚いて手を足のようにして4つ足の動物のように開いていた小さな窓から飛び出してしまい、撮影者は慌てて窓の外を写した後、下へ駈け下りていく。
撮影されたのは5階で、落ちたら怪我では済まない高さだが下に降りた撮影者はその子供の影も形も見つけることはできなかった。
志乃「白児か、犬神が呼んだのであれば力を付けてきているな。」
悠真「なあ、その犬神って何なんだ?」
陽葵「そうそう、呪術の一種ってどういう事?」
志乃「その前に少し気になる事があるんだが試しても良いか?」
陽葵「え、何?」
志乃「悠真だったか?ちょっとその窓をカメラで撮ってみてくれないか?」
悠真「何でそんなことするんだ?まあいいけど。」
悠真は窓の写真を撮るが窓と普通の景色しか映らない。
次に志乃が悠真のカメラを借りて撮ってみると窓の近くを飛ぶ管狐の姿が写る。
志乃「見えている人が撮ると写るのか。」
悠真「え、なにこれ。この生物はなんなんだ?」
志乃は黙ってその2枚の写真を消去する。
悠真「ちょっと何しているんだよ。」
志乃「それで犬神の事だったか。」
悠真「無視かよ。」
志乃「やり方は色々あるが基本は飢えさせた犬の頭を切り落とした霊を使う。この時に怨念を溜めるとより強力なものになるんだ。」
陽葵「何でそんな事するの?」
志乃「その犬の頭を器に入れて祀るとその人に憑いて願望を成就させるんだ。」
悠真「なら何で陽介は倒れたんだ?それが本当なら願いが叶っているはずだろ?」
志乃「最初にも言った通りこれは呪術だ。やり方次第では良くも悪くもなる。お前の友人に憑いている奴は今主人を失って暴走している。祓わなければこのままこいつを取り殺した後、近くの人に取り憑くを繰り返すだろう。」
悠真「なら祓ってくれ。」
志乃「お前は高校生の私にそんな力があると思っているのか?」
悠真「こんなに詳しいんだ。君に力は無くても祓える人を知らないか?」
志乃「それなら師匠を紹介しよう。」
陽葵「あ。そっちなんだ。」
悠真「そっち?他にも誰かいるのか?」
志乃「気にしなくていい。陽葵は余計な事を言うな。」
悠真「それでいつ紹介してくれる?」
志乃「次の土曜日でも良いか?」
悠真「そんな悠長にしていても良いのか?」
志乃「師匠にも予定がある。すぐにどうこうなるものではないんだから慌てるな。」
悠真「人の命が掛かっているんだぞ。」
志乃「元はと言えば面白半分にそんな所に行ったお前の友人が悪いんだ。」
悠真「俺達は本気だ。本気で映画を撮るために命懸けでカメラを回すんだ。」
志乃「ならその為に住処を荒らされるもの達の事を考えた事があるのか?命を賭けるのであればお前らでその代償を払え。」
悠真「わ、悪かった。土曜日まで待つよ。」
志乃「それじゃ、私は帰らせてもらう。」
悠真「あ。ちょっと待って。」
志乃「何だ?」
悠真「君が浜名瀬って苗字は表札見て分かったんたけど、もしかして名前は志乃って言わない?」
志乃「そうだが何で知っているんだ?」
悠真「やっぱり。翠嶺高校の浜名瀬って去年の演劇部の大会で主役してた人だよね。代役とは思えない演技で最後なんて僕も引き込まれたよ。良かったら僕の映画に出ないか?」
志乃「断る。」
悠真「少しくらい考えても良いじゃないか。」
陽葵「諦めた方が良いですよ。あの時も浜名瀬さん渋っていましたし、あなたの映画は浜名瀬さんあまり好きではなさそうなので。」
悠真「何が悪いんだ?人を怖がらせるほど迫力のある映画だぞ。」
志乃「取らぬ狸の皮算用ってことわざ知っているか?」
悠真「ウッ。」
志乃「とにかく私は師匠を紹介するだけだ。それ以上は何もしない。」
そう言って志乃は立ち上がり部屋を出て行ってしまった。
2人になった陽葵と悠真は沈黙の後、話し出す。
悠真「、、それで君は?名前も聞いてなかったよね。」
陽葵「私は桜庭陽葵といいます。浜名瀬さんは私の友達、、いえ、姉弟子です。」
悠真「へー。なら君も同じ師匠に習ってるんだ。そう言えば犬神の名前を最初に言ったのは君だったっけ。」
陽葵「それで私も来年は3年生になるんですが大学の事聞いても良いですか?」
悠真「進学するのかい?参考になるかは分からないけどいいよ。その代わり僕からも質問させてもらうよ。」
陽葵「答えれる事なら、、」
それから意外と意気投合したみたいで話が盛り上がり、その声は隣にいる志乃の耳にまで届いていた。
志乃は1号を陽葵の傍に置いて余計な事を話したら噛み付くように圧を掛けているので特に変な事は話さず解散していった。
それから土曜日になって志乃は8号に男の姿にしてもらい悠真の部屋のチャイムを鳴らす。
悠真「誰ですか?」
志乃「弟子の1人に連絡を貰った。お前が悠真で間違いないな。」
悠真「じゃああなたが志乃さんと陽葵さんの師匠なんですか?」
志乃「そうだ。で、犬神に取り憑かれた奴はどこにいるんだ?」
悠真「隣町にいます。ここから電車で行くんですが大丈夫ですか?」
志乃「分かった。行こう。」
志乃は待ち時間に犬神と白児の動画を見せてもらい、2人で電車に乗るが会話が無く気まずい雰囲気が流れていた。
悠真「あ、あの。」
志乃「なんだ?」
悠真「なんて呼べばいいですか?師匠って言うのも僕の師匠ではないので違う気がするんですよね。」
志乃「好きに呼べ。」
悠真「ならせめて名前を教えてください。」
志乃は前に陽葵が書いていた師匠の設定を思い出す。
志乃「御影 朔。」
悠真「御影さんですね。」
志乃「ああ。」
悠真「それで御影さんが祓っている様子を撮ってもいいでしょうか?」
志乃「断る。」
悠真「御影さんが映っているところはモザイクにしたりして特定できないようにします。」
志乃「それで映画が成り立つのか?」
悠真「映像が無いよりはマシです。それに正体不明の陰陽師とかカッコいいじゃないですか。」
志乃「なら好きにしろ。」
悠真「良いんですか?」
志乃「どうせ見れる者しか映像には残せない。」
悠真「僕には無理って事ですか?」
志乃「お前には無理だな。」
悠真「なら何で陽介は撮れたんですか?」
志乃「最初は犬神の縄張りに入った事により繋がりができて見えていたようだが今は中に犬神がいるから見えているようだな。」
悠真「僕もあの神社には行きましたよ。」
志乃「今はもうそこに犬神はいない。だからお前には見えなかった。」
悠真「僕も見えるようになるにはどうすればいいんですか?」
志乃「ならお前も犬神に取り憑かれてみるか?」
悠真「それで僕にもあの映像が撮れるなら。」
志乃「お前の友人の様子を見てもその威勢が続けばいいな。」
悠真「え。」
それからバスを乗り継いで病院へ到着する。
受付で友人だと説明してから撮影許可を取るが本人が正気ではないとの事で許可は下りなかった。
悠真「倒れる前に許可は取ったのに本人の許可が無ければ駄目ってなんだよ。」
志乃「どちらにしろ面白いものではない。」
そんな話をしながら病院の廊下を歩いていると犬の遠吠えのような叫び声が聞こえてきて、廊下を医者と看護師と思われる人達が叫び声が聞こえた部屋に入って行く。
志乃と悠真もその叫び声が聞こえた部屋に入ると、医者が鎮静剤を打っているところだった。
入って行った医者と看護師の他にも家族だろうか男女数人も中にいた。
悠真「おばさん。陽介どうですか?」
陽介母「あんたね。どの面下げて来たの?あんたが変な事にうちの子を巻き込んだからこんな事になったんだよ。」
陽介父「落ち着け。お見舞いに来たんだろ。挨拶くらいは許してやれ。」
悠真「僕は今日、陽介の中のものを祓える人を連れてきたんです。」
陽介母「そんなのいいからさっさと出て行って!」
陽介父「落ち着いてくれ。美咲も怖がっているだろ。」
陽介の妹だろうか病室の隅には中学生くらいの女の子がいて泣きそうになっている。
陽介母「お祓いなんて詐欺よ。あなたもいい年してこんな事していて恥ずかしくないの?」
志乃は黙って陽介の母親に近づいて手を取り掌を数ヵ所押すと指先から白く細い糸のようなものが現れ、志乃がそれを引き抜くと陽介の母親は落ち着いてきたのか顔が緩やかになってきた。
陽介母「私またカリカリしてごめんなさい。」
志乃「自分の子供が治るかも分からない病気になったんだ。感情が荒ぶるのは分かるがもう少し周りも見てやれ。」
志乃が美咲の方を見ると陽介の母親は美咲を抱きしめて謝っている。
陽介父「あいつは一度癇癪を起すと中々止まらないんだ。何をしたんだ?」
志乃「疳の虫だ。本来は赤ん坊に憑いて癇癪等を起こさせる妖怪なんだがたまに大人でも憑きやすい人がいる。」
陽介父「疳の虫?妖怪?」
悠真「陽介の母親にも妖怪が取り憑いていたのか?」
志乃「妖怪は見えないだけで身近にいる。」
陽介父「あいつの癇癪は妖怪のせいなのか?」
志乃「元々の気質もあるだろうな。そういう者に取り憑きやすいから。」
陽介父「次なったらどうすればいい?」
志乃「今回は話が進みそうになかったから祓っただけだ。優しく見守ってやればじきに収まる。」
悠真「それよりも陽介だよ。信用してくれたのなら見せてもいいだろ。」
陽介父「あ、ああ。だけど変な事はしないでくれよ。」
志乃「その前にお前が見ろ。妖怪に下手に近づいたらどうなるかその目で見て学んでおけ。」
悠真「分かった。」
悠真はカーテンで隠れていた陽介のベッドに近づきその顔を見る。
悠真「う。」
陽介の顔を見て悠真は怯えと戸惑いの混ざったような顔をする。
何か言おうとしているが言葉は出てこないようだ。
それもそのはずで陽介の顔は人の顔ではあるが鼻は潰れ、目は見開いて口は横に大きく開き、そこからは舌がだらしなく垂れ下がって涎が垂れ流しになり、その姿はまるで犬のようだったのだ。
志乃「映画を撮るためだったらこんな姿になって死ぬのもいとわないか?」
悠真「それは、、」
志乃「覚悟も知識も無いのにこちら側に足を踏み入れるな。諦めて他の物を撮るんだな。」
悠真「また御影さんに頼むのは?」
志乃「馬鹿の尻ぬぐいはこの1回だけだ。」
志乃は7号を出すと呪滅符を陽介の腹部に貼り霊力を込めると陽介の耳から斑模様の大きめの鼠の様な生き物が一列になって飛び出し、どこかへ行こうとするのでそれを7号は追って行く。
そんな事があっても見えない人には室内なのに風が起こったくらいにしか感じなかった。
志乃「終わった。他にもする事あるから俺はもう行く。」
悠真「え。もう?」
陽介の顔はまだ戻らず目は開いているが意識が無いのか動かない。
悠真「なあ、引き受けたのなら最後までしてくれよ。」
志乃「最後ってどこまでだ?もうこいつの中に犬神はいない。」
悠真「なら何でこいつの顔は治らないんだ?」
志乃「時間が経てば治る。俺は逃げた犬神を追わないといけないんだ。邪魔するな。」
悠真「犬神はまだいるのか?」
志乃はそれには答えず犬神が行った場所を7号から教えてもらいその場所に向かう。
犬神が向かった場所は最初に見せてもらった映像に映っていたあの神社だった。
痛手を負った犬神は元の住処に戻って回復しようとしているのだ。
志乃は崩れた場所から本殿へ入り、床板を外すと白児がいて壺を抱えて守っている。
志乃は床下に下りて白児にゆっくりと近付いて優しく語りかける。
志乃「もうそんな事しなくても良い。お前は休んでいいんだ。」
白児は志乃の事を警戒しながらも壺から離れない。
壺は大きく白児には持ち上げられそうにないので移動できず少しずつ近づく志乃を唸りながら睨みつける事しかできない。
志乃は白児に近付いて手を出すと噛まれるが志乃はそのまま何かを唱えて白児の額に触れると白児は徐々に薄くなって煙となって消えた。
守るものがいなくなった壺の蓋を開けると犬神が一列になって出てきて頭が犬の人間に変わる。
犬神「なぜ捨てた。なぜ置いてった。なぜ、なぜ、、」
そうブツブツ言いながら犬神は志乃に襲い掛かる。
志乃は床下から上がってそれをかわし、外に走って出ると犬神は追いかけて来る。
犬神「主、なぜ逃げる。」
志乃「私はお前の主じゃない。」
犬神「主、、あ、るじ、、行か、ないで、、」
志乃「行かないで、、」
志乃は一瞬樹霧之介の家で見た夢を思い出す。
その隙を狙って犬神は志乃の耳に右手を伸ばしてきていた。
志乃はすぐにその手を払いのけると1歩踏み出して犬神の胸に呪滅符を貼り、発動させる。
すると犬神は苦しみながらまた鼠の様な姿になると一列になって長くなると志乃の周りを回って志乃を囲んだ。
犬神「なんで、、痛い、酷い、、」
そんな事を呟きながら志乃に取り憑こうと隙を狙っている。
志乃は9号から短刀を受け取って犬神を観察すると1匹の犬神に狙いを定めて短刀を振るが避けられてしまいそのせいで警戒されて離れた場所で人の姿になる。
犬神「殺そうとした。お前は主じゃない。」
志乃「最初からそう言っているだろ。」
犬神「違うならいらない。違うなら消えろ。」
犬神の頭が大きくなると人の体が消えて犬の頭だけが志乃に襲い掛かる。
犬神は志乃の首を狙って飛び付くが志乃は結界でそれを防ぎ、反撃しようとするが自由に飛んでいる犬の首に剣を当てることができない。
犬神は志乃の手の届かない所で飛びながら志乃の隙を窺っているので志乃は霊縛符を付けた棒手裏剣を投げて当てると犬神から一匹、棒手裏剣が刺さった鼠の犬神が落ちて白い煙となって消えた。
一緒に棒手裏剣も外れたので犬神の動きが鈍る事なく志乃に向かってくる。
志乃は避けることなく腕で防御すると、腕に犬神が噛み付いたことにより一時的に動きを止める事に成功したので霊縛符を数枚貼り付けて犬神の動きを完全に封じると志乃は犬神を腕から外して地面に置くと眉間に向かって短刀を突き刺した。
すると辺りに甲高い鳴き声が響き渡り、鼠の姿に分裂して四方八方に散っていくと散った犬神は白い煙となって消えていき、最後には全て白い煙となって消えてしまった。
全て消えると志乃は短刀を9号に渡して片付けてもらい、後ろを向くと鳥居の所で悠真がカメラを持って立っていた。
志乃「見てたのか?」
悠真「はい。僕にも見る事ができました。」
志乃「犬神の縄張りだったからな。撮ったのか?」
悠真「、、はい。ですが消しませんよ。」
志乃「それはいい。俺の顔を加工してもらえば使ってもらっても構わない。」
悠真「いえ、これは使いません。」
志乃「いいのか?」
悠真「僕はこれを参考にこれ以上の映像を撮りたいと思いました。」
志乃「それはこれ以上の妖怪に会いたいという事か?」
悠真「いえ、僕にはもうそんな度胸はありません。あなたの戦いを見て僕にはとても敵わないことが分かりました。やっぱり命は惜しいですから。」
志乃「そうか。」
悠真「なのでしっかりとしたシナリオを書いて役者を雇います。必要ならCGとかの知識を付けるか使える人を探します。」
志乃「なら良かったよ。」
悠真「それでさっき嚙まれていませんでした?病院に行くなら陽介に会いに行ってくれませんか?あなたが病院を出て行ってすぐに目を覚ましたんです。」
志乃「傷ならない。そいつに会う気も無いからこのまま帰る。」
悠真「なら一緒に帰りませんか?」
志乃「何故お前と帰らないといけない?」
悠真「同じアパートに住んでいるんじゃないんですか?」
志乃「何故そう思う。」
悠真「僕、今日あなたを待っていたんですが階段を上る音が聞こえなかったんです。あのアパート古いから静かに登ろうとしてもカンカンと音が鳴るじゃないですか。」
志乃「音を立てないようにはできる。」
悠真「ですが下りる時は普通に音立てていましたよね。来る時だけ音が鳴らないようにするなんて不自然じゃないですか。ねえ、浜名瀬さん。」
志乃「何のことだ。」
悠真「引っ越した当初からおかしいと思っていたんです。あんなボロアパートに高校生が1人暮らしって。それにあなたと初めて会った日の前日、数日どこかに泊まって帰って来た日です。その時やっと隣の人が帰って来たって思って少し覗いたら大人の女性が隣に入ったのを見て驚きました。しかも朝出てきたのは高校生で動揺を隠せませんでした。」
志乃「お前は人の姿がコロコロ変わるような馬鹿げた事が起こっていると言いたいのか?」
悠真「はい。これでも観察力はあると自負しているんです。」
志乃は悠真の真剣な眼差しに押されて8号の変化を解く。
悠真「やっぱりその大人の女性が本来の姿なんですか?」
志乃「そうだな。」
悠真「駄目元で聞きますが僕の映画に出演なんて、、」
志乃「断る。」
悠真「ですよね。」
志乃「誰もいないからあのアパートに住んでいたんだがこんな事ならどこか引っ越すか?」
悠真「安心してください。僕があのアパートに引っ越したのは近くに心霊現象が起きる場所があるのと、雰囲気があったからもしかしたら何か撮れるかもと思ったからです。もう撮る必要は無くなったので契約期間が過ぎたら出て行きます。」
志乃「それはどのくらいなんだ?」
悠真「えっと。」
志乃「何故考える。」
悠真「いえ、あ。そう言えばあなたも名前を聞かれて少し考えこんでいましたね。その時確実に本名は言わないなと思いました。それに陽葵さんとのやり取りも弟子同士というより師匠と弟子って感じの会話でしたよね。」
志乃「話を変えるな。」
悠真「そんなに僕に出て行ってほしいんですか?もう秘密も知ってしまいましたし別にいいじゃないですか。」
志乃「秘密を知った奴が近くにいるのが嫌なんだ。」
悠真「別にあなたに干渉しようとは思っていませんよ。」
志乃「なら余計にいる意味ないだろ。」
悠真「あそこにいると何かアイディアが閃きそうなんです。」
志乃「勝手にしろ。」
悠真「はい。あ、干渉しないとは言いましたけどお礼に行ってもいいですか?お祓いの料金も払わないといけませんし。」
志乃「基本金は受け取っていない。金を払えばいつでも祓えるなんて思われても嫌だからな。」
悠真「今回のは感謝の気持ちです。」
志乃「、、勝手にしろ。」
悠真「それじゃあ僕は陽介の家族にこの事話してから帰ります。」
志乃「そうか。」
それから悠真と別れて志乃は電車でアパートへ帰った。
志乃は部屋で思い出した夢について考えていた。
知らない人のはずなのに何故か見たとたんに嬉しくなって、しかもどこかへ行く時に引き留めようとしていた。
そして夢の中の自分がいた場所やしていた事から考えても確実に自分のはずなのにその人の記憶はその夢以外には無く、顔も名前も自分とどんな関係なのかも分からない。
海で出来損ないに掴まれてから小さな声が頭の中で響いているがそれと関係はあるのか。
声は今は小さく聞き取れないが徐々に、確実に大きくなっている。
今度声の事は言わずにさりげなく篁音に聞いてみようと考えているとチャイムが鳴ったので高校生の姿で玄関のドアを開ける。
するとそこには悠真と陽介の両親と妹の美咲がいた。
志乃「何の用ですか?」
陽介母「あら。あなたは?」
悠真「あ、その人は御影さんの弟子の1人で、今回紹介してくれた人です。」
陽介母「そうだったのね。私はあなたの師匠に助けられた陽介の母です。」
志乃「それは、どうも。」
陽介母「それで、その時お礼を言えなかったから悠真君にここにいるかもと言われてきたんだけど、いらっしゃいますか?」
志乃「何を勘違いしているのかは知りませんがここは私が住んでいる所で師匠はいませんよ。」
美咲「え、あの人に会えないの?私も弟子入りしたかったのに。」
志乃「師匠はいないのでこれで失礼します。」
志乃がドアを閉めようとするとそれを悠真が止める。
悠真「ちょちょちょ。待って。」
志乃「何?」
悠真「君なら御影さんに連絡取れるだろ?」
志乃「師匠は忙しいので緊急的な案件以外受け付けません。それにあなた。干渉しないって言っていませんでした?」
悠真「お礼は良いって言われたんだよ。」
志乃「ですが師匠はいません。」
悠真「なら伝言はいいだろ。伝言とお礼、君に渡すから御影さんに渡してくれないか?」
志乃「、、それなら。」
悠真「良かった。そういう事なので今日は浜名瀬さんに伝えてくれますか?」
陽介母「もう一度会いたかったけれど、忙しいなら仕方ないわね。」
美咲「なら御影さんに今日はありがとうございました。良ければ私も弟子にしてくださいって言っておいてください。」
志乃「分かった。」
陽介母「私からも、初対面の人に詐欺師なんて言ってしまってすみませんでした。あなたは立派な人間です。家の陽介がお世話になりました。ありがとうございます。と伝えてください。」
志乃「師匠はそんな事気にしないとは思うけど伝えておきます。」
陽介父「私からも、陽介を助けてくれてありがとうと伝えてください。それとこれ少ないですが受け取ってくださいと渡してもらえますか?」
志乃「師匠はお金は受け取りません。」
陽介父「はい。聞きました。ですがそれはお金で解決できない事をしているからですよね。私達ではこんな形でしかお礼できないので受け取ってほしいのです。」
志乃「それが分かっているのであればいいです。こちらから伝えて渡しましょう。」
陽介父「よろしくお願いします。」
志乃「他にありますか?」
美咲「お姉さんってあの人にお祓いとか習っているんだよね。どんな事しているの?」
志乃「修行の内容は他言するなと言われています。」
美咲「そうだよね。外に漏らしたら駄目だよね。ねえ、もう一度会うにはどうすればいいかな?」
志乃「どちらにしろこれ以上弟子は増やさないと言っていたので望みは薄いかと。」
美咲「何でお姉ちゃんがそんな事言えるの?会ってみなきゃ分からないよ。」
志乃「弟子だからです。」
美咲「むむ。なら私がお姉ちゃんより有能だって分かれば私を弟子にしてくれるでしょ。」
志乃「霊感も無いのに?」
美咲「あるもん。」
志乃「あなたのお兄さんのようになりたくないなら大人しくした方が良いですよ。」
美咲「そうなればまた助けてくれる、、」
陽介母「止めなさい!」
美咲「何で。お母さんもまた会いたいって言っていたでしょ。」
陽介母「それでも、あなたまであんな事になるなんてお母さんは許しません。」
美咲「、、ごめんなさい。」
陽介父「もしも時間があれば改めてお礼がしたいとも伝えておいてください。私達はこれで失礼します。」
志乃「分かりました。」
悠真「陽介は2日後に退院するんだ。そしたらまた来ても良いか?」
志乃「今、引っ越しを検討している。」
悠真「ごめん。これ以上は干渉しないよ。だけど陽介には君の事話してもいいか?」
志乃「勝手にしろ。もしその話しが広がっても行くところはあるんだ。」
悠真「陽介にも口止めはするよ。」
志乃「人の口に戸は立てられない。どうなるかな。」
志乃は扉と鍵を閉めて部屋に戻る。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。




