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57話

この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。

オリジナルの妖怪が登場することもあります。

素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。

志乃(しの)(しずく)樹霧之介(きりのすけ)の家に着くと(ほむら)茂蔵(もぞう)風見(かざみ)黒根(くろね)と共に待っていた。

そして部屋の片隅に敷かれた布団が目に入る。

黒根(くろね)(ほむら)達から聞いておったがまた無茶しおって。ボロボロじゃないか。」

志乃(しの)「寝れば治る。」

志乃(しの)はスマホにそう打ち込んで黒根(くろね)に見せる。

志乃(しの)はまだ喋れないので志乃(しの)のセリフは何かに書いた内容になります。

黒根(くろね)「代償の話も本当のようじゃの。全く、樹霧之介(きりのすけ)にはあんな事言っておいて一番甘いのはお主なんじゃないのか?」

志乃(しの)「自分が後悔しないように行動しただけだ。」

黒根(くろね)「お主はいつもそうじゃ。まあ、詳しい話は樹霧之介(きりのすけ)真琴(まこと)が帰って来てからでも良い。布団は(ほむら)達が敷いてくれたから少しでも寝ておれ。」

志乃(しの)はもう一度スマホに文字を打ち込もうとするが、その腕を(ほむら)が引いて布団へ連れて行ったので志乃(しの)は仕方なく竹筒など寝るのに邪魔な物を外して布団に入ると、(ほむら)は満足そうな顔をする。

志乃(しの)「ありがとう。」

(ほむら)「おう。また何かあれば言ってくれよ。」

志乃(しの)(ほむら)に頷いてから茂蔵(もぞう)に手招きをして呼び寄せる。

茂蔵(もぞう)「何だ?」

志乃(しの)「明日と明後日学校があるから明日の朝に私の声で休むと伝えてほしい。」

茂蔵(もぞう)「分かった。」

志乃(しの)「ありがとう。」

風見(かざみ)「ワイも出来る事ないか?」

志乃(しの)「なら風を送ってくれないか?」

風見(かざみ)「任せろ。」

志乃(しの)「涼しい、ありがとう。」

(しずく)樹霧之介(きりのすけ)真琴(まこと)が帰って来たら起こすから寝た方が良いわ。」

(ほむら)「寝れないなら添い寝しようか?」

その言葉に反応していつの間にか布団に入っていた12号が顔を出す。

(ほむら)「やるか?」

(しずく)「静かにしなさい。」

志乃(しの)(しずく)達に心配させまいと目を瞑る。

周りでは話し声が聞こえ、静かとは言えないがそれでも志乃(しの)はいつの間にか寝ていたみたいで夢を見る。

その夢では志乃(しの)の目線は低く、子供になって開いた魚を網に並べて干物を作っているようだ。

一段落ついた頃、ふと視線を感じて近くにある道に目線をやると男女の2人がこちらを見ている。

志乃(しの)はその2人を知らないがその2人は志乃(しの)に気が付くと女性の方だけが志乃(しの)に近づいて志乃(しの)の顔を覗き込みながら頭を撫でて何かを話しているがその人の顔も声も分からず、何を話しているのかも分からない。

ただ何故か優しそうに微笑んでいる顔をしている事だけは分かり、その女性が立ち上がり名残惜しそうに男性の方に行くと振り返らずに2人でどこかへ行こうとする姿を見て「行かないで」と何度も言おうとするが声が出ない。

男女の姿が見えなくなったところで目を覚ますと樹霧之介(きりのすけ)が心配そうに志乃(しの)の顔を覗き込んでいた。

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さん、大丈夫ですか?」

志乃(しの)は上半身を起こし、スマホに文字を打ち込む。

志乃(しの)「どうした?」

樹霧之介(きりのすけ)「何か言おうと口を動かしていました。何を伝えようとしていたんですか?」

志乃(しの)は少し考えてさっき見た夢の内容を思い出そうとしたがボヤっとしたことしか思い出せない。

志乃(しの)「子供の頃の夢を見ていた。内容はよく覚えていない。」

樹霧之介(きりのすけ)「そうだったんですね。」

(しずく)「驚いたわよ。何かを一生懸命伝えようとしていたから何かあったんじゃないかって。」

志乃(しの)「心配かけたな。」

(しずく)「本当よ、もう。」

樹霧之介(きりのすけ)「それで今から雪坊(ゆきんぼ)の事話そうと思うんですが本当に体調は大丈夫ですか?」

志乃(しの)「大丈夫だ。どこから話す?」

樹霧之介(きりのすけ)「先に僕達から雪爺(ゆきじじい)さんの所での話をします。」

(しずく)雪坊(ゆきんぼ)がいないって事は上手く馴染んだの?」

樹霧之介(きりのすけ)「はい。最初は多くの(ゆき)()達に驚いていましたが一緒に遊ぶうちに緊張も解けて楽しそうにしていました。」

真琴(まこと)「最後には私からも離れて(ゆき)()達に馴染んでいたのは少し寂しかったけどね。」

(しずく)「でも良かったじゃない沢山の友達ができたんでしょ?」

真琴(まこと)「ええ。」

樹霧之介(きりのすけ)「それで真琴(まこと)雪坊(ゆきんぼ)とどうやって出会ったんですか?」

真琴(まこと)「私は妖ノ郷(あやかしのさと)の出入り口を設置できそうな場所を探してたらあの小屋を見つけて中に入ったら1人でいたあの子を見つけたの。最初は距離を取られていたから折り紙とかで距離を縮めようとしてたんだけどそれから片足しかないことが分かってあまり外に出れないと思ったから絵を描けるようにクレヨンとかも持って行ったの。それから色々描いていたけど私に興味を持ってくれたから名前とひらがなも教えたんだけど、それがあんなことに繋がるなんて思いもよらなかったわ。」

樹霧之介(きりのすけ)「それは誰も予想できませんよ。ですが何であんな箱がその小屋にあったんでしょう?」

真琴(まこと)「それなのよね。」

志乃(しの)名留(などめ)(はこ)の中に初めから紙は入っていたか?」

真琴(まこと)「そう言えばあの子が持って来た時に何枚か入っていてそれを出してから使っていたわ。」

志乃(しの)「前に使っていた奴は臆病な奴だったんだろうな。誰にも見つからないような場所に小屋を建ててそこでその箱を使っていたんだろう。」

真琴(まこと)「箱の存在が明らかになると色々と不都合な事があったのね。」

志乃(しの)「あんな物分かって使ってる奴がまともなわけが無い。」

真琴(まこと)「そうよね。だけど代償は怖くなかったのかしら。」

茂蔵(もぞう)「そうだ。名前を間違えただけであんな物が出てくるんだぞ。」

(しずく)常闇(とこやみ)って私も名前だけで見た事ないのよね。どんなものだったの?」

風見(かざみ)「真っ暗だった。ただ暗くなっただけじゃない本当に光も何もない場所だったんだ。」

茂蔵(もぞう)「あの中に放り込まれたら精神がおかしくなるってよく分かるぜ。」

(しずく)「そんなものよく封印できたわね。」

志乃(しの)「私が作った隠里(かくれざと)にあるあの屋敷の時間を止めているのは常闇(とこやみ)の力だぞ。」

(しずく)「え。そうなの?」

志乃(しの)「だから扱いには慣れている。」

黒根(くろね)「それはわしも初耳じゃ。」

志乃(しの)黒丸(くろまる)はこういう事には無関心だからな。」

黒根(くろね)「文字でもわしの名前は黒丸(くろまる)なのか。」

志乃(しの)「それで助かった事あるんだからいいだろ。」

黒丸(くろまる)「そうじゃが、納得はしとらん。そんな犬っころのような名前。」

樹霧之介(きりのすけ)「助かったって何があったんですか?」

志乃(しの)雪坊(ゆきんぼ)の似顔絵を9号に持って来てもらう。

真琴(まこと)「その絵。何か関係あるの?」

志乃(しの)は似顔絵の中から自分の似顔絵を全員に見せる。

樹霧之介(きりのすけ)「そう言えば志乃(しの)さんの似顔絵を入れて常闇(とこやみ)が出てきたんでしたよね。」

真琴(まこと)「だけどこの文字、しのって読めるわよ。」

黒根(くろね)「そういう事か。志乃(しの)、あの事を話していいんじゃな。」

志乃(しの)「頼む。」

樹霧之介(きりのすけ)「何があったんですか?」

黒根(くろね)「あれは志乃(しの)と出会ってからまだ時間が経っていない時の事件じゃ。言霊を使う術者が現れたんじゃ。」

(ほむら)「言霊ってなんだ?木霊(こだま)と似たようなものか?」

黒根(くろね)「言霊は言葉で相手の真名を縛り簡単な命令を聞かせる術じゃ。わしらとは関係ない。」

(ほむら)「なら名前を知られたらそいつの命令を聞かないといけないのか?」

黒根(くろね)「少し違うな。その声を聞くと体が勝手にそう動くんじゃ。ちなみに志乃(しの)も使えるぞ。」

志乃(しの)「霊力を消費するし、あまり好きな術じゃないなから使わないけどな。」

樹霧之介(きりのすけ)「そんな術があるのなら僕達も名前呼び合うのは考えた方が良いんでしょうか?」

黒根(くろね)「この術は修行を積んだ一部の術者しか使えん。それも戦闘に利用できるくらいの術者は今の時代志乃(しの)くらいしかおらんじゃろう。」

樹霧之介(きりのすけ)「そうなんですね。」

(しずく)「だけど少し敵の前で名前呼ぶのは怖くなるわね。」

黒根(くろね)「まあ、警戒する分はいいじゃろう。それでその時志乃(しの)はわしの事を黒丸(くろまる)と呼ぶからわしは術にかかる事はなかったんじゃが、、」

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さんが術にかかったんですか?」

黒根(くろね)「いや、志乃(しの)も掛からなかったんじゃ。」

樹霧之介(きりのすけ)「もしかして今回と同じ理由ですか?」

黒根(くろね)「そうじゃ。志乃(しの)は物心ついた時から両親がおらず育ての親に呼ばれていた名前を名乗っておる。」

真琴(まこと)「なら浜名瀬(はまなせ)さんには両親が付けた本当の名前があるって事?」

黒根(くろね)「その時に志乃(しの)も初めて知ったんじゃよな。」

志乃(しの)黒根(くろね)の質問に頷く。

樹霧之介(きりのすけ)「それなら志乃(しの)さんって呼んでいいんですか?」

黒根(くろね)「本人が名乗っとる名じゃ。気にせんと呼んでやれ。」

志乃(しの)「知ったとして何かが変わるわけでもないからな。」

樹霧之介(きりのすけ)「それで志乃(しの)さん。あの時常闇(とこやみ)が出てくる可能性を知っていて1人で行ったんですか?」

志乃(しの)「封印できただろ。」

樹霧之介(きりのすけ)「霊力足りなくて片腕無くなってるじゃないですか!」

志乃(しの)「間に合わなかったんだから仕方がない。」

黒根(くろね)「なってしまった事をグダグダ言っても仕方ないじゃろう。」

樹霧之介(きりのすけ)「そうですよね。ならせめて回復するまでは無理しないでください。」

志乃(しの)「分かった。」

黒根(くろね)「本当かの?」

志乃(しの)「それで真琴(まこと)はどのくらいの期間名を取られていたんだ?」

真琴(まこと)「多分3日間くらいだと思う。」

志乃(しの)「そうか。」

真琴(まこと)「ねえ、浜名瀬(はまなせ)さんの霊力が回復したら私に代償を移せない?」

志乃(しの)「手箱を壊したからもう無理だ。」

真琴(まこと)「そう。ねえ、1つ聞いていい?」

志乃(しの)「何だ?」

真琴(まこと)「私にもお(ふだ)って使えないの?」

志乃(しの)「いきなりどうした?」

真琴(まこと)「私、紙を操れるから使えたら出来る事増えると思って。ほら前に妖力でも霊力と同じように使えるって言っていたじゃない。それに実際に妖力で発動するお(ふだ)もあるのよね。」

志乃(しの)「できない事ではないがそれなら文字に力を持たせるのはどうだ?」

真琴(まこと)「文字に?」

志乃(しの)文車妖妃(ふみぐるまようひ)の本質は文字だろ。言霊の応用で教えることはできそうだ。」

真琴(まこと)「体調は大丈夫なの?」

志乃(しの)「文字を書くだけだろ。3日間暇になりそうだったからその方が良い。」

樹霧之介(きりのすけ)「無理しそうなら止めますよ。」

志乃(しの)「どちらにしろ長い間はできないと思う。」

真琴(まこと)「そうよね。熱も出てるんだから急がなくてもいいわよ。」

志乃(しの)「私じゃない。真琴(まこと)がだ。」

真琴(まこと)「え。」

志乃(しの)「やればわかる。明日、また来てくれ。」

真琴(まこと)「分かったわ。」

(しずく)「じゃあ、帰る前にもう一度熱吸い取るわね。」

志乃(しの)は頷いてスマホを置いて手を差し出す。

(しずく)は差し出された手に自分の手を重ねてそこから志乃(しの)の熱を水に吸い取らせていく。

それが終わると各自それぞれの家へ帰って行った。

志乃(しの)樹霧之介(きりのすけ)、お前も寝るなら外に行っていいんだぞ。」

樹霧之介(きりのすけ)「だけど志乃(しの)さん今声が出せないのに体調悪くなったらどうするんですか?」

志乃(しの)「助けが必要なら管狐(くだぎつね)を向かわせる。」

黒根(くろね)「早々、悪くなることもあるまい。わしらも休もう。」

樹霧之介(きりのすけ)「はい。」

志乃(しの)「おやすみ。」

樹霧之介(きりのすけ)「おやすみなさい。」

黒根(くろね)「おやすみ。」

それから朝になり、一度眠そうな茂蔵(もぞう)が電話を掛けるために志乃(しの)にスマホを借りに来て、今日と明日休むことを学校へ伝えて帰って行き、お昼ごろに(しずく)が熱を取りに来てくれてその後に真琴(まこと)が来たので新しい術を一緒に考える。

志乃(しの)「まず『止まれ』と書いて。」

真琴(まこと)「止まれね。」

志乃(しの)「ビー玉を転がすから止まれの意味を頭に浮かべながらその文字をビー玉に貼り付けてくれ。」

真琴(まこと)「いきなり難易度高くない?」

志乃(しの)「そうか?」

真琴(まこと)「まあ、やってみるわよ。」

真琴(まこと)は文字をビー玉に当てるが文字は消え、ビー玉が止まる事はない。

志乃(しの)「上手くいけば止まる。信じて何回かしてみろ。」

真琴(まこと)「分かったわ。」

それから諦めずに何度か挑戦すると文字を当ててビー玉を止めることに成功する。

真琴(まこと)「やった、、」

喜んだのも束の間、真琴(まこと)の力が抜けて床に倒れる。

樹霧之介(きりのすけ)真琴(まこと)!?」

真琴(まこと)「びっくりした。」

志乃(しの)「妖力切れだ。これは妖力の消費が激しいうえに初めての術だったからな。」

樹霧之介(きりのすけ)「昨日言っていた長い間はできないってこういう事だったんですね。」

志乃(しの)「そうだ。休めばまた動けるようになるが練習はまた明日だな。」

真琴(まこと)「こんなんじゃ使えないわよ。」

志乃(しの)「今のは名の無い無機物にしか利かない。今回はどんなものか見てほしかった。」

真琴(まこと)「ならどうすればいいの?」

志乃(しの)「慣れれば使う妖力も抑えられる。明日は実用的な使い方を教える。」

真琴(まこと)「そんな使い方あるの?」

志乃(しの)「明日教える。無駄にはならないはずだ。」

真琴(まこと)「私今動けないし何するかだけでも教えてくれない?」

志乃(しの)真琴(まこと)は戦闘時紙を使うからその紙に硬いや燃えないとかの文字を付ければ防御が上がるんじゃないかと思っている。」

真琴(まこと)「それなら少ない紙で防御できるわね。」

志乃(しの)「1枚1枚の防御が上がればより強固な盾もできるし、広い範囲を防御できるようになる。それに爆発の文字を付ければ攻撃にも使える。文字を物体に貼り付けるのではなく直接書くから妖力の消費も抑えられる。」

真琴(まこと)「私にできるの?」

志乃(しの)「無理だと思っていれば教えていない。」

真琴(まこと)「そうね。明日も頑張るわ。」

真琴(まこと)はそう言って起き上がる。

樹霧之介(きりのすけ)「大丈夫なんですか?」

真琴(まこと)「動けるようにはなったわ。水もぬるくなってきたし汲んでこようかしら。」

志乃(しの)「無理はするなよ。」

真琴(まこと)「妖力使わなければ大丈夫よ。浜名瀬(はまなせ)さんは布団に入っていて。」

樹霧之介(きりのすけ)「せめて僕の妖力分けましょう。」

真琴(まこと)「それならお願いするわ。」

真琴(まこと)樹霧之介(きりのすけ)に妖力を分けて貰うと桶を持って家から出ていった。

それからしばらくして誰かがトントンと樹霧之介(きりのすけ)の家の戸をノックする。

樹霧之介(きりのすけ)「お客さんでしょうか?」

樹霧之介(きりのすけ)が扉を開けるとそこには雪坊(ゆきんぼ)雪爺(ゆきじじい)真琴(まこと)と共に立っていた。

真琴(まこと)「川に行こうとしたらこの2人がいたから連れてきたわ。」

樹霧之介(きりのすけ)「いらっしゃい。どうしました?」

雪爺(ゆきじじい)「この子が皆さんにお詫びとお礼をしたいと言っておってな。」

雪坊(ゆきんぼ)「あの、これ。」

雪坊(ゆきんぼ)は1つの枕を差し出してそれを樹霧之介(きりのすけ)が受け取る。

樹霧之介(きりのすけ)「これは?ひんやりしています。」

雪坊(ゆきんぼ)「...。」

雪坊(ゆきんぼ)は黙って雪爺(ゆきじじい)の後ろに隠れてしまった。

雪爺(ゆきじじい)「代わりにわしが説明しようかの。いいか?」

雪爺(ゆきじじい)に聞かれて雪坊(ゆきんぼ)は頷く。

雪爺(ゆきじじい)「これは雪女(ゆきおんな)に作ってもらった枕に雪を詰め込んで雪坊(ゆきんぼ)が妖力を注いだ氷枕じゃ。妖力が尽きるまで溶けないから長く使えるはずじゃ。」

樹霧之介(きりのすけ)「これ、志乃(しの)さんに?」

樹霧之介(きりのすけ)雪坊(ゆきんぼ)に優しく聞くと雪坊(ゆきんぼ)は頷く。

樹霧之介(きりのすけ)「ありがとうございます。」

雪坊(ゆきんぼ)「あの、志乃(しの)のお姉ちゃんは大丈夫ですか?」

樹霧之介(きりのすけ)「入って行きますか?」

雪坊(ゆきんぼ)は少し悩んでから頷いて部屋の中に入る。

樹霧之介(きりのすけ)は先に志乃(しの)の元に行き、雪坊(ゆきんぼ)の氷枕を志乃(しの)に渡す。

雪坊(ゆきんぼ)樹霧之介(きりのすけ)の後ろから志乃(しの)を覗き込む。

雪坊(ゆきんぼ)「あの、私のせいでごめんなさい。」

志乃(しの)「だいじょうぶだ。こおりまくらありがとう。つめたくてきもちいい。」

雪爺(ゆきじじい)「良かったな。」

雪坊(ゆきんぼ)「うん。」

雪爺(ゆきじじい)「用事は終わったからわしらはこれでお暇させてもらうよ。」

樹霧之介(きりのすけ)「もうですか?」

雪爺(ゆきじじい)「いてもすることはないからの。」

樹霧之介(きりのすけ)「そうですか。」

真琴(まこと)「いつでも来ていいからね。」

雪坊(ゆきんぼ)「うん。」

雪坊(ゆきんぼ)雪爺(ゆきじじい)は帰って行って、少し静かになった。

真琴(まこと)浜名瀬(はまなせ)さん、少し寝た方がいいんじゃない?」

志乃(しの)「そうさせてもらう。真琴(まこと)も休めよ。」

真琴(まこと)「ええ。」

樹霧之介(きりのすけ)「僕は少し父さんの様子を見に行きます。」

志乃(しの)妖ノ郷(あやかしのさと)の出入り口を増やしていて疲れているんだな。」

樹霧之介(きりのすけ)「はい。」

志乃(しの)「私の看病よりそっちの方が大事じゃないか?」

樹霧之介(きりのすけ)「父さんは志乃(しの)さんのおかげで動ける範囲も出来る事も増えて調子に乗っているだけです。」

志乃(しの)「あいつらしいな。」

樹霧之介(きりのすけ)「だから志乃(しの)さんはあまり心配しなくても良いですよ。」

志乃(しの)「なら何でお前らは私の心配をする?」

樹霧之介(きりのすけ)「軽い妖力切れと代償で熱出している人とは違います。」

志乃(しの)「だけど寝ていれば治る。」

樹霧之介(きりのすけ)「それでも巻き込んだのはこっちです。」

志乃(しの)「私が勝手にしたことだ。お前らが気に病むことはない。」

樹霧之介(きりのすけ)「そう思うならあまり無茶しないでください。」

志乃(しの)「善処する。」

樹霧之介(きりのすけ)「したことありますか?まあ、いいです。回復するまでは休んでいてくださいね。」

志乃(しの)「分かった。」

それら樹霧之介(きりのすけ)は家を出て行って部屋には志乃(しの)真琴(まこと)だけになった。

志乃(しの)は布団に入るが寝れなかったので疑問に思っていた事をスマホに打ち込んで真琴(まこと)に見せる。

志乃(しの)真琴(まこと)樹霧之介(きりのすけ)とどうやって出会ったんだ?」

真琴(まこと)「え。急にどうしたの?」

志乃(しの)樹霧之介(きりのすけ)が言った初めて会った時ですらあそこまで敵意を向けてきた事なんてないって言葉が気になってな。」

真琴(まこと)樹霧之介(きりのすけ)、そんな事言っていたの?」

志乃(しの)「お前が操られた時にな。」

真琴(まこと)「ごめんなさい。」

志乃(しの)「それは私ではなく樹霧之介(きりのすけ)に言ってくれ。」

真琴(まこと)「操られていたとは言っても浜名瀬(はまなせ)さんにも攻撃、、したけどできなかったのよね。」

志乃(しの)「その事に関しては私は蹴り入れたから謝るなら私か?」

真琴(まこと)「初めに会った時からもう敵対したくないって思ったのに、やっぱり遠慮ないのね。」

志乃(しの)「加減はしたぞ。」

真琴(まこと)「そうね。最初の蹴りは紙で威力を落としてもすぐには起き上がれなかったもの。あれから姑獲鳥(うぶめ)の能力で怪力になったあなたの本気の蹴りだったらと思うと怖いわ。」

志乃(しの)「言いたくないなら別にいいが樹霧之介(きりのすけ)との出会いはどうだったんだ?」

真琴(まこと)「私は樹霧之介(きりのすけ)と出会う前は少し荒れてたのよね。」

志乃(しの)「恋はこじれやすいからな。」

真琴(まこと)「そうなのよ。私は中学3年の時から長距離恋愛していた子の手紙から生まれたんだけど、高校までは良かったのに大学に入ってから女の子の方が男の子の近くに引っ越す事になって、女の子がサプライズで男の子の家に行ったら他の女性と付き合っていたの。その事を怒りのままに手紙に書いて男の子に送って、それ以来その女の子は手紙を書かなくなったわ。それから私は行く所が無くなって、だけど女の子の事見ていて誰かと繋がりを持つのも嫌だったから今よりも小さな樹霧之介(きりのすけ)が行く場所が無いならって差し伸べてくれた手を払ったの。それなのにそれからちょくちょく会いに来てくれて最後に私が折れたってわけ。」

志乃(しの)はその話を静かに聞いているので真琴(まこと)は話を続ける。

真琴(まこと)「その折れた理由はね、私が黒紙魚(くろしみ)に出会ったからなの。生まれてからそこまで時間が経ってなくて力が無い私にはそんな妖怪でも脅威になったわ。知っているとは思うけど黒紙魚(くろしみ)が泳いだ場所は黒い染みが付いて文字が読めなくなる。このまま私は塗りつぶされて消えるのかなって思ったら樹霧之介(きりのすけ)が黒くなりながらも捕まえて退治してくれたの。その時初めてここに来たんだけど樹霧之介(きりのすけ)のお父さんは樹霧之介(きりのすけ)だけじゃなく私も叱ってくれて、そこで初めてここにいて良いって思えたわ。しばらくは染みは取れなかったけどそれ以上に嬉しかったわ。」

志乃(しの)黒紙魚(くろしみ)の染みは墨抜(すみぬき)()が無いと本体が消えてもしばらく残るからな。」

真琴(まこと)樹霧之介(きりのすけ)のお父さんもそんな事言ってたけど生えている場所が分からなかったのよね。」

志乃(しの)「生えている場所への出入り口は無くなっていたからな。せっかくならどこかに植えるか?」

真琴(まこと)「それで助けられる妖怪がいるかもしれないならそうしたいわね。」

志乃(しの)「普通の染みにも効くからあって損はない。」

真琴(まこと)「へー。」

志乃(しの)は4号を呼んで墨抜(すみぬき)()の種を持って来てもらう。

志乃(しの)真琴(まこと)に任せても良いか?」

真琴(まこと)「ええ、任せて。それで育て方ってあるの?」

志乃(しの)「特に難しい事は無い。鉢植えに植えて下の皿に墨を混ぜた水を張っておくんだ。そして無くなったら補充すればいい。」

真琴(まこと)「墨の量とかある?」

志乃(しの)「張った水の中に5,6滴垂らせばいい。」

真琴(まこと)「それでいいのね。」

志乃(しの)「あと、陽によく当ててくれ。」

真琴(まこと)「日当たりのいいとこに置いておけばいいのね。」

志乃(しの)「ああ。育て方は黒丸(くろまる)も分かるだろうから分からないことが出てきたらそっちに聞いても良いだろう。」

真琴(まこと)「分かったわ。」

そこに樹霧之介(きりのすけ)黒根(くろね)が入って来る。

黒根(くろね)「なんじゃ、寝ておらんのか。」

志乃(しの)「眠くないんだよ。」

黒根(くろね)「ん?その種は墨抜(すみぬき)()の種か?」

真琴(まこと)「そうよ。浜名瀬(はまなせ)さんに貰って育ててみようと思っているの。」

樹霧之介(きりのすけ)「もしかしてあの事話したんですか?」

真琴(まこと)「勝手に話したら駄目だった?」

樹霧之介(きりのすけ)「いえ、僕も少し話ししてたのでその時の話をしたのなら僕が泣いていたことも話したのかなって思ったんです。」

真琴(まこと)「そうなの?」

樹霧之介(きりのすけ)「もしかして聞いてなかったんですか?」

真琴(まこと)「今初めて聞いたわ。そんなに追い詰めてたなんて。本当にごめんなさい。」

樹霧之介(きりのすけ)真琴(まこと)は悪くないです。ただ女の子を助けようとしただけなんですから。」

黒根(くろね)「そうじゃ。こんな事もあると分かったんじゃから次から気を付ければいいんじゃ。」

真琴(まこと)「うん。だけど他にも思っている事があれば言ってね。」

樹霧之介(きりのすけ)「はい。」

それからもたわいのない話をして過ごし、夜がきて(しずく)志乃(しの)の熱を吸い取ると志乃(しの)は眠りにつく。

氷枕もあり、この日はよく眠れたのか気付けばお昼になっていた。

霊力は回復していたので呪いを再封印すると腕は元に戻り、それからしばらくすると真琴(まこと)(しずく)がやって来る。

真琴(まこと)「腕、戻ったのね。よかったわ。」

志乃(しの)「霊力は回復したからな。」

(しずく)「戻る事は分かっていても見ていて痛々しかったからよかったわ。」

志乃(しの)「すまなかったな。」

(しずく)「戻ればいいわ。熱吸い取るから両手出して。」

志乃(しの)が手を出すと(しずく)は熱を吸い取る。

(しずく)「今回はあまり熱が上がってないわね。」

志乃(しの)雪坊(ゆきんぼ)に貰った氷枕があったからかな。」

(しずく)雪坊(ゆきんぼ)が来たのね。」

真琴(まこと)「すぐに帰ったけどね。」

それから樹霧之介(きりのすけ)黒根(くろね)も部屋に入って来る。

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さん。腕戻って良かったです。」

志乃(しの)「心配かけたな。」

樹霧之介(きりのすけ)「だけど熱はまだ下がっていませんし声も出せないんですよね。」

志乃(しの)「氷枕のおかげでよく眠れた。調子はいい方だ。」

樹霧之介(きりのすけ)「それでも何もない時は寝ててください。」

志乃(しの)「分かってる。」

それから(しずく)が帰ると志乃(しの)真琴(まこと)の術の練習を手伝う。

文字を書いた紙に直接効果を付与するのだが昨日の練習もあってすぐにできるようになった。

そして成功しても倒れるほどの妖力は使わず、それから妖力の量を調節できるように練習していると夕方になっていた。

真琴(まこと)「そろそろ私の妖力は限界よ。」

志乃(しの)「ならあとは明日にしよう。」

そう打ち込んだ後、志乃(しの)は何かに気づき慌て始める。

真琴(まこと)浜名瀬(はまなせ)さんどうしたの?」

志乃(しの)「すまない。忘れていた。」

それだけスマホに打ち込んで見せると志乃(しの)は2号の幻で姿を消す。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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