57話
この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。
オリジナルの妖怪が登場することもあります。
素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。
志乃が雫と樹霧之介の家に着くと焔、茂蔵、風見が黒根と共に待っていた。
そして部屋の片隅に敷かれた布団が目に入る。
黒根「焔達から聞いておったがまた無茶しおって。ボロボロじゃないか。」
志乃「寝れば治る。」
志乃はスマホにそう打ち込んで黒根に見せる。
※志乃はまだ喋れないので志乃のセリフは何かに書いた内容になります。
黒根「代償の話も本当のようじゃの。全く、樹霧之介にはあんな事言っておいて一番甘いのはお主なんじゃないのか?」
志乃「自分が後悔しないように行動しただけだ。」
黒根「お主はいつもそうじゃ。まあ、詳しい話は樹霧之介と真琴が帰って来てからでも良い。布団は焔達が敷いてくれたから少しでも寝ておれ。」
志乃はもう一度スマホに文字を打ち込もうとするが、その腕を焔が引いて布団へ連れて行ったので志乃は仕方なく竹筒など寝るのに邪魔な物を外して布団に入ると、焔は満足そうな顔をする。
志乃「ありがとう。」
焔「おう。また何かあれば言ってくれよ。」
志乃は焔に頷いてから茂蔵に手招きをして呼び寄せる。
茂蔵「何だ?」
志乃「明日と明後日学校があるから明日の朝に私の声で休むと伝えてほしい。」
茂蔵「分かった。」
志乃「ありがとう。」
風見「ワイも出来る事ないか?」
志乃「なら風を送ってくれないか?」
風見「任せろ。」
志乃「涼しい、ありがとう。」
雫「樹霧之介と真琴が帰って来たら起こすから寝た方が良いわ。」
焔「寝れないなら添い寝しようか?」
その言葉に反応していつの間にか布団に入っていた12号が顔を出す。
焔「やるか?」
雫「静かにしなさい。」
志乃は雫達に心配させまいと目を瞑る。
周りでは話し声が聞こえ、静かとは言えないがそれでも志乃はいつの間にか寝ていたみたいで夢を見る。
その夢では志乃の目線は低く、子供になって開いた魚を網に並べて干物を作っているようだ。
一段落ついた頃、ふと視線を感じて近くにある道に目線をやると男女の2人がこちらを見ている。
志乃はその2人を知らないがその2人は志乃に気が付くと女性の方だけが志乃に近づいて志乃の顔を覗き込みながら頭を撫でて何かを話しているがその人の顔も声も分からず、何を話しているのかも分からない。
ただ何故か優しそうに微笑んでいる顔をしている事だけは分かり、その女性が立ち上がり名残惜しそうに男性の方に行くと振り返らずに2人でどこかへ行こうとする姿を見て「行かないで」と何度も言おうとするが声が出ない。
男女の姿が見えなくなったところで目を覚ますと樹霧之介が心配そうに志乃の顔を覗き込んでいた。
樹霧之介「志乃さん、大丈夫ですか?」
志乃は上半身を起こし、スマホに文字を打ち込む。
志乃「どうした?」
樹霧之介「何か言おうと口を動かしていました。何を伝えようとしていたんですか?」
志乃は少し考えてさっき見た夢の内容を思い出そうとしたがボヤっとしたことしか思い出せない。
志乃「子供の頃の夢を見ていた。内容はよく覚えていない。」
樹霧之介「そうだったんですね。」
雫「驚いたわよ。何かを一生懸命伝えようとしていたから何かあったんじゃないかって。」
志乃「心配かけたな。」
雫「本当よ、もう。」
樹霧之介「それで今から雪坊の事話そうと思うんですが本当に体調は大丈夫ですか?」
志乃「大丈夫だ。どこから話す?」
樹霧之介「先に僕達から雪爺さんの所での話をします。」
雫「雪坊がいないって事は上手く馴染んだの?」
樹霧之介「はい。最初は多くの雪ん子達に驚いていましたが一緒に遊ぶうちに緊張も解けて楽しそうにしていました。」
真琴「最後には私からも離れて雪ん子達に馴染んでいたのは少し寂しかったけどね。」
雫「でも良かったじゃない沢山の友達ができたんでしょ?」
真琴「ええ。」
樹霧之介「それで真琴は雪坊とどうやって出会ったんですか?」
真琴「私は妖ノ郷の出入り口を設置できそうな場所を探してたらあの小屋を見つけて中に入ったら1人でいたあの子を見つけたの。最初は距離を取られていたから折り紙とかで距離を縮めようとしてたんだけどそれから片足しかないことが分かってあまり外に出れないと思ったから絵を描けるようにクレヨンとかも持って行ったの。それから色々描いていたけど私に興味を持ってくれたから名前とひらがなも教えたんだけど、それがあんなことに繋がるなんて思いもよらなかったわ。」
樹霧之介「それは誰も予想できませんよ。ですが何であんな箱がその小屋にあったんでしょう?」
真琴「それなのよね。」
志乃「名留の匣の中に初めから紙は入っていたか?」
真琴「そう言えばあの子が持って来た時に何枚か入っていてそれを出してから使っていたわ。」
志乃「前に使っていた奴は臆病な奴だったんだろうな。誰にも見つからないような場所に小屋を建ててそこでその箱を使っていたんだろう。」
真琴「箱の存在が明らかになると色々と不都合な事があったのね。」
志乃「あんな物分かって使ってる奴がまともなわけが無い。」
真琴「そうよね。だけど代償は怖くなかったのかしら。」
茂蔵「そうだ。名前を間違えただけであんな物が出てくるんだぞ。」
雫「常闇って私も名前だけで見た事ないのよね。どんなものだったの?」
風見「真っ暗だった。ただ暗くなっただけじゃない本当に光も何もない場所だったんだ。」
茂蔵「あの中に放り込まれたら精神がおかしくなるってよく分かるぜ。」
雫「そんなものよく封印できたわね。」
志乃「私が作った隠里にあるあの屋敷の時間を止めているのは常闇の力だぞ。」
雫「え。そうなの?」
志乃「だから扱いには慣れている。」
黒根「それはわしも初耳じゃ。」
志乃「黒丸はこういう事には無関心だからな。」
黒根「文字でもわしの名前は黒丸なのか。」
志乃「それで助かった事あるんだからいいだろ。」
黒丸「そうじゃが、納得はしとらん。そんな犬っころのような名前。」
樹霧之介「助かったって何があったんですか?」
志乃は雪坊の似顔絵を9号に持って来てもらう。
真琴「その絵。何か関係あるの?」
志乃は似顔絵の中から自分の似顔絵を全員に見せる。
樹霧之介「そう言えば志乃さんの似顔絵を入れて常闇が出てきたんでしたよね。」
真琴「だけどこの文字、しのって読めるわよ。」
黒根「そういう事か。志乃、あの事を話していいんじゃな。」
志乃「頼む。」
樹霧之介「何があったんですか?」
黒根「あれは志乃と出会ってからまだ時間が経っていない時の事件じゃ。言霊を使う術者が現れたんじゃ。」
焔「言霊ってなんだ?木霊と似たようなものか?」
黒根「言霊は言葉で相手の真名を縛り簡単な命令を聞かせる術じゃ。わしらとは関係ない。」
焔「なら名前を知られたらそいつの命令を聞かないといけないのか?」
黒根「少し違うな。その声を聞くと体が勝手にそう動くんじゃ。ちなみに志乃も使えるぞ。」
志乃「霊力を消費するし、あまり好きな術じゃないなから使わないけどな。」
樹霧之介「そんな術があるのなら僕達も名前呼び合うのは考えた方が良いんでしょうか?」
黒根「この術は修行を積んだ一部の術者しか使えん。それも戦闘に利用できるくらいの術者は今の時代志乃くらいしかおらんじゃろう。」
樹霧之介「そうなんですね。」
雫「だけど少し敵の前で名前呼ぶのは怖くなるわね。」
黒根「まあ、警戒する分はいいじゃろう。それでその時志乃はわしの事を黒丸と呼ぶからわしは術にかかる事はなかったんじゃが、、」
樹霧之介「志乃さんが術にかかったんですか?」
黒根「いや、志乃も掛からなかったんじゃ。」
樹霧之介「もしかして今回と同じ理由ですか?」
黒根「そうじゃ。志乃は物心ついた時から両親がおらず育ての親に呼ばれていた名前を名乗っておる。」
真琴「なら浜名瀬さんには両親が付けた本当の名前があるって事?」
黒根「その時に志乃も初めて知ったんじゃよな。」
志乃は黒根の質問に頷く。
樹霧之介「それなら志乃さんって呼んでいいんですか?」
黒根「本人が名乗っとる名じゃ。気にせんと呼んでやれ。」
志乃「知ったとして何かが変わるわけでもないからな。」
樹霧之介「それで志乃さん。あの時常闇が出てくる可能性を知っていて1人で行ったんですか?」
志乃「封印できただろ。」
樹霧之介「霊力足りなくて片腕無くなってるじゃないですか!」
志乃「間に合わなかったんだから仕方がない。」
黒根「なってしまった事をグダグダ言っても仕方ないじゃろう。」
樹霧之介「そうですよね。ならせめて回復するまでは無理しないでください。」
志乃「分かった。」
黒根「本当かの?」
志乃「それで真琴はどのくらいの期間名を取られていたんだ?」
真琴「多分3日間くらいだと思う。」
志乃「そうか。」
真琴「ねえ、浜名瀬さんの霊力が回復したら私に代償を移せない?」
志乃「手箱を壊したからもう無理だ。」
真琴「そう。ねえ、1つ聞いていい?」
志乃「何だ?」
真琴「私にもお札って使えないの?」
志乃「いきなりどうした?」
真琴「私、紙を操れるから使えたら出来る事増えると思って。ほら前に妖力でも霊力と同じように使えるって言っていたじゃない。それに実際に妖力で発動するお札もあるのよね。」
志乃「できない事ではないがそれなら文字に力を持たせるのはどうだ?」
真琴「文字に?」
志乃「文車妖妃の本質は文字だろ。言霊の応用で教えることはできそうだ。」
真琴「体調は大丈夫なの?」
志乃「文字を書くだけだろ。3日間暇になりそうだったからその方が良い。」
樹霧之介「無理しそうなら止めますよ。」
志乃「どちらにしろ長い間はできないと思う。」
真琴「そうよね。熱も出てるんだから急がなくてもいいわよ。」
志乃「私じゃない。真琴がだ。」
真琴「え。」
志乃「やればわかる。明日、また来てくれ。」
真琴「分かったわ。」
雫「じゃあ、帰る前にもう一度熱吸い取るわね。」
志乃は頷いてスマホを置いて手を差し出す。
雫は差し出された手に自分の手を重ねてそこから志乃の熱を水に吸い取らせていく。
それが終わると各自それぞれの家へ帰って行った。
志乃「樹霧之介、お前も寝るなら外に行っていいんだぞ。」
樹霧之介「だけど志乃さん今声が出せないのに体調悪くなったらどうするんですか?」
志乃「助けが必要なら管狐を向かわせる。」
黒根「早々、悪くなることもあるまい。わしらも休もう。」
樹霧之介「はい。」
志乃「おやすみ。」
樹霧之介「おやすみなさい。」
黒根「おやすみ。」
それから朝になり、一度眠そうな茂蔵が電話を掛けるために志乃にスマホを借りに来て、今日と明日休むことを学校へ伝えて帰って行き、お昼ごろに雫が熱を取りに来てくれてその後に真琴が来たので新しい術を一緒に考える。
志乃「まず『止まれ』と書いて。」
真琴「止まれね。」
志乃「ビー玉を転がすから止まれの意味を頭に浮かべながらその文字をビー玉に貼り付けてくれ。」
真琴「いきなり難易度高くない?」
志乃「そうか?」
真琴「まあ、やってみるわよ。」
真琴は文字をビー玉に当てるが文字は消え、ビー玉が止まる事はない。
志乃「上手くいけば止まる。信じて何回かしてみろ。」
真琴「分かったわ。」
それから諦めずに何度か挑戦すると文字を当ててビー玉を止めることに成功する。
真琴「やった、、」
喜んだのも束の間、真琴の力が抜けて床に倒れる。
樹霧之介「真琴!?」
真琴「びっくりした。」
志乃「妖力切れだ。これは妖力の消費が激しいうえに初めての術だったからな。」
樹霧之介「昨日言っていた長い間はできないってこういう事だったんですね。」
志乃「そうだ。休めばまた動けるようになるが練習はまた明日だな。」
真琴「こんなんじゃ使えないわよ。」
志乃「今のは名の無い無機物にしか利かない。今回はどんなものか見てほしかった。」
真琴「ならどうすればいいの?」
志乃「慣れれば使う妖力も抑えられる。明日は実用的な使い方を教える。」
真琴「そんな使い方あるの?」
志乃「明日教える。無駄にはならないはずだ。」
真琴「私今動けないし何するかだけでも教えてくれない?」
志乃「真琴は戦闘時紙を使うからその紙に硬いや燃えないとかの文字を付ければ防御が上がるんじゃないかと思っている。」
真琴「それなら少ない紙で防御できるわね。」
志乃「1枚1枚の防御が上がればより強固な盾もできるし、広い範囲を防御できるようになる。それに爆発の文字を付ければ攻撃にも使える。文字を物体に貼り付けるのではなく直接書くから妖力の消費も抑えられる。」
真琴「私にできるの?」
志乃「無理だと思っていれば教えていない。」
真琴「そうね。明日も頑張るわ。」
真琴はそう言って起き上がる。
樹霧之介「大丈夫なんですか?」
真琴「動けるようにはなったわ。水もぬるくなってきたし汲んでこようかしら。」
志乃「無理はするなよ。」
真琴「妖力使わなければ大丈夫よ。浜名瀬さんは布団に入っていて。」
樹霧之介「せめて僕の妖力分けましょう。」
真琴「それならお願いするわ。」
真琴は樹霧之介に妖力を分けて貰うと桶を持って家から出ていった。
それからしばらくして誰かがトントンと樹霧之介の家の戸をノックする。
樹霧之介「お客さんでしょうか?」
樹霧之介が扉を開けるとそこには雪坊と雪爺が真琴と共に立っていた。
真琴「川に行こうとしたらこの2人がいたから連れてきたわ。」
樹霧之介「いらっしゃい。どうしました?」
雪爺「この子が皆さんにお詫びとお礼をしたいと言っておってな。」
雪坊「あの、これ。」
雪坊は1つの枕を差し出してそれを樹霧之介が受け取る。
樹霧之介「これは?ひんやりしています。」
雪坊「...。」
雪坊は黙って雪爺の後ろに隠れてしまった。
雪爺「代わりにわしが説明しようかの。いいか?」
雪爺に聞かれて雪坊は頷く。
雪爺「これは雪女に作ってもらった枕に雪を詰め込んで雪坊が妖力を注いだ氷枕じゃ。妖力が尽きるまで溶けないから長く使えるはずじゃ。」
樹霧之介「これ、志乃さんに?」
樹霧之介が雪坊に優しく聞くと雪坊は頷く。
樹霧之介「ありがとうございます。」
雪坊「あの、志乃のお姉ちゃんは大丈夫ですか?」
樹霧之介「入って行きますか?」
雪坊は少し悩んでから頷いて部屋の中に入る。
樹霧之介は先に志乃の元に行き、雪坊の氷枕を志乃に渡す。
雪坊は樹霧之介の後ろから志乃を覗き込む。
雪坊「あの、私のせいでごめんなさい。」
志乃「だいじょうぶだ。こおりまくらありがとう。つめたくてきもちいい。」
雪爺「良かったな。」
雪坊「うん。」
雪爺「用事は終わったからわしらはこれでお暇させてもらうよ。」
樹霧之介「もうですか?」
雪爺「いてもすることはないからの。」
樹霧之介「そうですか。」
真琴「いつでも来ていいからね。」
雪坊「うん。」
雪坊と雪爺は帰って行って、少し静かになった。
真琴「浜名瀬さん、少し寝た方がいいんじゃない?」
志乃「そうさせてもらう。真琴も休めよ。」
真琴「ええ。」
樹霧之介「僕は少し父さんの様子を見に行きます。」
志乃「妖ノ郷の出入り口を増やしていて疲れているんだな。」
樹霧之介「はい。」
志乃「私の看病よりそっちの方が大事じゃないか?」
樹霧之介「父さんは志乃さんのおかげで動ける範囲も出来る事も増えて調子に乗っているだけです。」
志乃「あいつらしいな。」
樹霧之介「だから志乃さんはあまり心配しなくても良いですよ。」
志乃「なら何でお前らは私の心配をする?」
樹霧之介「軽い妖力切れと代償で熱出している人とは違います。」
志乃「だけど寝ていれば治る。」
樹霧之介「それでも巻き込んだのはこっちです。」
志乃「私が勝手にしたことだ。お前らが気に病むことはない。」
樹霧之介「そう思うならあまり無茶しないでください。」
志乃「善処する。」
樹霧之介「したことありますか?まあ、いいです。回復するまでは休んでいてくださいね。」
志乃「分かった。」
それら樹霧之介は家を出て行って部屋には志乃と真琴だけになった。
志乃は布団に入るが寝れなかったので疑問に思っていた事をスマホに打ち込んで真琴に見せる。
志乃「真琴は樹霧之介とどうやって出会ったんだ?」
真琴「え。急にどうしたの?」
志乃「樹霧之介が言った初めて会った時ですらあそこまで敵意を向けてきた事なんてないって言葉が気になってな。」
真琴「樹霧之介、そんな事言っていたの?」
志乃「お前が操られた時にな。」
真琴「ごめんなさい。」
志乃「それは私ではなく樹霧之介に言ってくれ。」
真琴「操られていたとは言っても浜名瀬さんにも攻撃、、したけどできなかったのよね。」
志乃「その事に関しては私は蹴り入れたから謝るなら私か?」
真琴「初めに会った時からもう敵対したくないって思ったのに、やっぱり遠慮ないのね。」
志乃「加減はしたぞ。」
真琴「そうね。最初の蹴りは紙で威力を落としてもすぐには起き上がれなかったもの。あれから姑獲鳥の能力で怪力になったあなたの本気の蹴りだったらと思うと怖いわ。」
志乃「言いたくないなら別にいいが樹霧之介との出会いはどうだったんだ?」
真琴「私は樹霧之介と出会う前は少し荒れてたのよね。」
志乃「恋はこじれやすいからな。」
真琴「そうなのよ。私は中学3年の時から長距離恋愛していた子の手紙から生まれたんだけど、高校までは良かったのに大学に入ってから女の子の方が男の子の近くに引っ越す事になって、女の子がサプライズで男の子の家に行ったら他の女性と付き合っていたの。その事を怒りのままに手紙に書いて男の子に送って、それ以来その女の子は手紙を書かなくなったわ。それから私は行く所が無くなって、だけど女の子の事見ていて誰かと繋がりを持つのも嫌だったから今よりも小さな樹霧之介が行く場所が無いならって差し伸べてくれた手を払ったの。それなのにそれからちょくちょく会いに来てくれて最後に私が折れたってわけ。」
志乃はその話を静かに聞いているので真琴は話を続ける。
真琴「その折れた理由はね、私が黒紙魚に出会ったからなの。生まれてからそこまで時間が経ってなくて力が無い私にはそんな妖怪でも脅威になったわ。知っているとは思うけど黒紙魚が泳いだ場所は黒い染みが付いて文字が読めなくなる。このまま私は塗りつぶされて消えるのかなって思ったら樹霧之介が黒くなりながらも捕まえて退治してくれたの。その時初めてここに来たんだけど樹霧之介のお父さんは樹霧之介だけじゃなく私も叱ってくれて、そこで初めてここにいて良いって思えたわ。しばらくは染みは取れなかったけどそれ以上に嬉しかったわ。」
志乃「黒紙魚の染みは墨抜の実が無いと本体が消えてもしばらく残るからな。」
真琴「樹霧之介のお父さんもそんな事言ってたけど生えている場所が分からなかったのよね。」
志乃「生えている場所への出入り口は無くなっていたからな。せっかくならどこかに植えるか?」
真琴「それで助けられる妖怪がいるかもしれないならそうしたいわね。」
志乃「普通の染みにも効くからあって損はない。」
真琴「へー。」
志乃は4号を呼んで墨抜の実の種を持って来てもらう。
志乃「真琴に任せても良いか?」
真琴「ええ、任せて。それで育て方ってあるの?」
志乃「特に難しい事は無い。鉢植えに植えて下の皿に墨を混ぜた水を張っておくんだ。そして無くなったら補充すればいい。」
真琴「墨の量とかある?」
志乃「張った水の中に5,6滴垂らせばいい。」
真琴「それでいいのね。」
志乃「あと、陽によく当ててくれ。」
真琴「日当たりのいいとこに置いておけばいいのね。」
志乃「ああ。育て方は黒丸も分かるだろうから分からないことが出てきたらそっちに聞いても良いだろう。」
真琴「分かったわ。」
そこに樹霧之介と黒根が入って来る。
黒根「なんじゃ、寝ておらんのか。」
志乃「眠くないんだよ。」
黒根「ん?その種は墨抜の実の種か?」
真琴「そうよ。浜名瀬さんに貰って育ててみようと思っているの。」
樹霧之介「もしかしてあの事話したんですか?」
真琴「勝手に話したら駄目だった?」
樹霧之介「いえ、僕も少し話ししてたのでその時の話をしたのなら僕が泣いていたことも話したのかなって思ったんです。」
真琴「そうなの?」
樹霧之介「もしかして聞いてなかったんですか?」
真琴「今初めて聞いたわ。そんなに追い詰めてたなんて。本当にごめんなさい。」
樹霧之介「真琴は悪くないです。ただ女の子を助けようとしただけなんですから。」
黒根「そうじゃ。こんな事もあると分かったんじゃから次から気を付ければいいんじゃ。」
真琴「うん。だけど他にも思っている事があれば言ってね。」
樹霧之介「はい。」
それからもたわいのない話をして過ごし、夜がきて雫が志乃の熱を吸い取ると志乃は眠りにつく。
氷枕もあり、この日はよく眠れたのか気付けばお昼になっていた。
霊力は回復していたので呪いを再封印すると腕は元に戻り、それからしばらくすると真琴と雫がやって来る。
真琴「腕、戻ったのね。よかったわ。」
志乃「霊力は回復したからな。」
雫「戻る事は分かっていても見ていて痛々しかったからよかったわ。」
志乃「すまなかったな。」
雫「戻ればいいわ。熱吸い取るから両手出して。」
志乃が手を出すと雫は熱を吸い取る。
雫「今回はあまり熱が上がってないわね。」
志乃「雪坊に貰った氷枕があったからかな。」
雫「雪坊が来たのね。」
真琴「すぐに帰ったけどね。」
それから樹霧之介と黒根も部屋に入って来る。
樹霧之介「志乃さん。腕戻って良かったです。」
志乃「心配かけたな。」
樹霧之介「だけど熱はまだ下がっていませんし声も出せないんですよね。」
志乃「氷枕のおかげでよく眠れた。調子はいい方だ。」
樹霧之介「それでも何もない時は寝ててください。」
志乃「分かってる。」
それから雫が帰ると志乃は真琴の術の練習を手伝う。
文字を書いた紙に直接効果を付与するのだが昨日の練習もあってすぐにできるようになった。
そして成功しても倒れるほどの妖力は使わず、それから妖力の量を調節できるように練習していると夕方になっていた。
真琴「そろそろ私の妖力は限界よ。」
志乃「ならあとは明日にしよう。」
そう打ち込んだ後、志乃は何かに気づき慌て始める。
真琴「浜名瀬さんどうしたの?」
志乃「すまない。忘れていた。」
それだけスマホに打ち込んで見せると志乃は2号の幻で姿を消す。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。




